今、ノートの上に眼を、上の空で落としつつ、 吐息を、ほっと、漏らさずには、いられない。 その万千子の耳に ―― ふと響いて来る ―― レコードの音 ・・・・・ (嫌だ、まだあれかけたりして・・・) 万千子は、怨むように、美しく微笑んだ。 ショパン作曲の「黒鍵」は、 万千子の好きなピアノの練習曲だった。 そのレコードを、恵之助が鳴らす時は ―― (夕方散歩で会いましょう) という合図だったので・・・。 【吉屋信子著 「女の教室」】 |
こちらは又々、冬に逆戻りです。
昨日の日中は良いお天気で、本当に春を感じていましたのに、
夕方、パラッと来てから急に。
そのせいか、休む前に眺めたお月様の美しかったこと!
つい3日前(8日)が満月だったのですね。
さて、吉屋信子著 「女の教室」 読了。昭和14年の作品です。
彼女の作品は、これで4作目になりました。
引き続き 「花鳥」 に入ったのですが、
こんな本ですと、どうしてもセピア色の雰囲気に浸りたくなります。
おまけに今日は寒いので仮想暖炉を・・。~なんて。
この本も相変わらずの音読なのですが、
流れ出る泉のような美しい言の葉に、読みながら癒やされます。
心地良いのですね。
声に出して読む事で自分がこの時代の良家の子女にでもなった気分。
それにしてもアン気分になったり・・今度は戦前の子女・・
~なんて忙しいですこと!
ところで、こちらの小説は美しい藤穂と親友の有為子を中心に、
女子医専(現東京女子医大)に学ぶ、7人のグルッぺ(一群)の物語。
「学校の巻」、「人生の巻」、「戦争の巻」 と3部作になっています。
この時代に女子医専に学ぼうとする位ですから、
皆さん裕福で・・と思いがちですが、そうとばかりは限りません。
多かれ少なかれ、それぞれに事情を抱えながら向学心に燃え・・。
と言っても、やはり医者の子女が多いのでしょうね。
(この小説では7人中、2人)
そんな中で、お洒落したり恋愛したり。
時代が時代ですので、新婚の夫に召集令状が来たり、満州に赴任・・
~なんて事も普通に描かれていますけれど。
そうそう、「癩(らい)」 という病気も出て来ます。
この病気を眼にしたのは、松本清張の 「砂の器」 以来。
今日の引用文(場所は軽井沢の別荘)の万千子のお相手が、
その血筋・・というだけで、親族から反対され、婚約解消するのです。
(万千子の父親は医者)
医者ですから当然病気は、遺伝ではない事は分かっているのですが、
それでも当時、偏見と差別は相当のものだったようです。
伯林(ベルリン)という漢字にも驚きますが、却って新鮮で。
7人の女性たちの人生行路、今より遥かにダイナミックに生きた
彼女たちの姿が、繊細なタッチで描かれています。