新宿線・池袋線の101系初期車置き換えは20000系により進められましたが、高運転台で正面形状を変更した通称新101系と301系は引き続き多数が残存し運用を継続していました。これらを完全に置き換えるべく2005年には30000系の開発計画が動き出しますが、当時の西武鉄道は堤家による同族経営時代だった2004年に発生した総会屋利益供与事件・証券取引法違反事件による株式上場廃止を受け、グループ再編と経営再建の最中であった為に生まれ変わった西武のシンボルと位置付けられ「Smile Train〜人にやさしく、みんなの笑顔をつくり出す車両〜」として今まで保守的で合理性重視だった西武通勤車のイメージから一転、極めて斬新な意匠の車両になりました。
新宿線で運用中の38110F。「生みたてのたまご」をモチーフに曲線を多用したデザインで、地下鉄直通を想定しない地上専用車として設計されている為、正面は非貫通の異形ガラスによる1枚窓構成で西武鉄道では初めて2930ミリの幅広で裾を絞った車体になりました。スマイルトレインの愛称通り、丸型の前照灯や連結器周りの切り欠きと相俟って笑顔のような独特のスタイルが印象的です。全車両が日立製作所製で、標準車両A-trainの一員でもあります。
池袋線急行で運用される38114F。同線の急行は10両編成での運転の為、飯能寄りに2両編成を増結しています。1〜6次車までは8両編成と池袋線のみに配置される増結用2両編成で増備されましたが、一部機器の見直しを行なった7次車からは10両固定編成も加わり、3種類の編成が存在します。
横幅が広がり従来車よりも余裕のある空間になった車内。30000系の車内デザインは鉄道車両では珍しく女性社員のみで担当しており、東京メトロ10000系や東葉高速鉄道2000系、JR東日本E233系を参考にしている事が公式で明かされており、強化ガラス製妻面貫通扉や天井周り、スタンションポールに各形式の要素が見受けられます。吊り手も卵をモチーフにした専用品で、本形式の為に新規開発されました。
ドア上に配置される車内案内表示は、これまた西武初の液晶画面で15インチサイズを2台配置しました。現在は1〜6次車を対象に写真の左右一体型ワイド液晶画面への換装が進行しています。
今までは西武鉄道=黄色い電車のイメージでしたが、6000系・20000系で無彩色に青帯を経て30000系で「都市と自然あふれる街並みを結ぶ車両」を表現した青と緑のグラデーションになり現在も増備中の地下鉄対応40000系にも踏襲されました。今後開発される新形式もこの流れを汲むと思いますが、今後も西武の新しいイメージを作り上げた画期的車両として長く親しまれて行くでしょう。