安城へ行くために金山でJRに乗り換えた。ホームはかなり混んでいて、安城や岡崎へ行く人たちなのか浴衣姿が目立った。豊橋行きの快速急行が到着し、人々は争うように列車に乗り込んでいった。丁度、私の隣にベビーカーに赤子を乗せ、まだ3歳にならないくらいの男の子を連れた若い女性が、ベビーカーごと乗り込もうとしていた。列車が出発しそうで、私は気になってしかたがない。この親子が乗り込めるように隙間を作って先に行かせ、ベビーカーに続いて親子と私とそれにもう一人乗り込む。すると待っていたようにドアは閉まった。
ヤレヤレである。車内は混み合っていたけれど、ベビーカーが迷惑になるほどではなかった。「よかったね」という顔でベビーカーの赤子を見る。赤子ではあるがしっかりした顔つきをしている。隣の男の子が「混んでいて座れない」と文句を言い出した。「窓の外でも眺めていればいいよ」と思うけれど、口に出して言うことでもないかと思っていると、若いお母さんが「この列車は岐阜へ行きますよね」と私に声をかけてきた。私は非常に冷淡な声で「行きません。豊橋行きです」と素っ気なく答えた。
あんなに急いで乗り込んでおきながら、行き先も確認せずに乗ってしまったことになぜか腹が立った。それでも次の瞬間には、何も自分が怒ることはないかと思い直して、「岐阜行きはホームの反対側でした。こちら側の方が混んでいましたからね」と付け加えた。「次の駅で乗り換えます」と言うから、「これは急行ですから、次の駅まで12・3分かかりますよ」と話す。男の子は「混んでいて、座れない」とまだぐずっている。若い母親は「ママね、電車間違えちゃった。ごめんね」と子どもに話しかける。男の子は「いいよ、気にしないで」と言う。「絵本、読もうか」と母親はベビーカーの袋から絵本を取り出す。
この車中で絵本をどうやって読むのかと思ったが、男の子はベビーカーに寄りかかって眠ってしまっていた。すると母親は、今度は手提げの袋から赤子を自分の前で抱っこする物を取り出してセットし始める。狭い場所だからなかなかうまくできない。だからといって私が手を出すのも気が止めたので、孫娘に「手伝ってあげたら」と声をかけるが、母親は「大丈夫です」と言いながら、身体をひねって仕上げていく。それからベビーカーの赤子を抱っこし、眠ってしまった男の子をベビーカーに乗せる。大体準備ができたところで大府駅近くになった。
「降りたホームで反対側に乗ればいいですか」と母親は言う。「金山はそうでしたが、大府がそういう駅かは分かりません」と答える。どうも冷たい言い方になってしまう。駅が近づく。残念ながら線路を跨がなくてはならない。「どうやらダメですね」と母親に言うが、もう彼女は降りることに精一杯だ。ホームには降りられたけれど、反対側のホームへ行くには橋を渡らなくてはならない。エレベーターがあればいいがと心配になる。カミさんは「いまどき、ああいうたくましいお母さんを見るとつい応援したくなるわね」と言う。
いまどきというのは、大阪で起きた育児放棄事件のことだ。やはり周りの支援が必要なのだろうけれど、どこまで手を差し出してよいものか迷うところでもある。「おせっかいでもいいじゃないか」ではダメかなあー。
ヤレヤレである。車内は混み合っていたけれど、ベビーカーが迷惑になるほどではなかった。「よかったね」という顔でベビーカーの赤子を見る。赤子ではあるがしっかりした顔つきをしている。隣の男の子が「混んでいて座れない」と文句を言い出した。「窓の外でも眺めていればいいよ」と思うけれど、口に出して言うことでもないかと思っていると、若いお母さんが「この列車は岐阜へ行きますよね」と私に声をかけてきた。私は非常に冷淡な声で「行きません。豊橋行きです」と素っ気なく答えた。
あんなに急いで乗り込んでおきながら、行き先も確認せずに乗ってしまったことになぜか腹が立った。それでも次の瞬間には、何も自分が怒ることはないかと思い直して、「岐阜行きはホームの反対側でした。こちら側の方が混んでいましたからね」と付け加えた。「次の駅で乗り換えます」と言うから、「これは急行ですから、次の駅まで12・3分かかりますよ」と話す。男の子は「混んでいて、座れない」とまだぐずっている。若い母親は「ママね、電車間違えちゃった。ごめんね」と子どもに話しかける。男の子は「いいよ、気にしないで」と言う。「絵本、読もうか」と母親はベビーカーの袋から絵本を取り出す。
この車中で絵本をどうやって読むのかと思ったが、男の子はベビーカーに寄りかかって眠ってしまっていた。すると母親は、今度は手提げの袋から赤子を自分の前で抱っこする物を取り出してセットし始める。狭い場所だからなかなかうまくできない。だからといって私が手を出すのも気が止めたので、孫娘に「手伝ってあげたら」と声をかけるが、母親は「大丈夫です」と言いながら、身体をひねって仕上げていく。それからベビーカーの赤子を抱っこし、眠ってしまった男の子をベビーカーに乗せる。大体準備ができたところで大府駅近くになった。
「降りたホームで反対側に乗ればいいですか」と母親は言う。「金山はそうでしたが、大府がそういう駅かは分かりません」と答える。どうも冷たい言い方になってしまう。駅が近づく。残念ながら線路を跨がなくてはならない。「どうやらダメですね」と母親に言うが、もう彼女は降りることに精一杯だ。ホームには降りられたけれど、反対側のホームへ行くには橋を渡らなくてはならない。エレベーターがあればいいがと心配になる。カミさんは「いまどき、ああいうたくましいお母さんを見るとつい応援したくなるわね」と言う。
いまどきというのは、大阪で起きた育児放棄事件のことだ。やはり周りの支援が必要なのだろうけれど、どこまで手を差し出してよいものか迷うところでもある。「おせっかいでもいいじゃないか」ではダメかなあー。