BSテレビで歌番組を聴いていて、この歳になって歌詞の凄さに気が付いた。寺尾聡の『ルビーの指環』とジュディオングの『魅せられて』である。2曲がヒットしていた頃もテレビで見ていたはずなのに歌詞は素通りしていた。
『ルビーの指環』の出だしは、「曇りガラスの向こうは風の街」という情景描写から始まる。「あなたを失ってから」2年も過ぎようとしているのに、木枯らしが吹く街角を眺めている男は「切ないね」と呟いている。
8月の「目映い陽の中で誓った愛」は幻だった。「そうね誕生石ならルビーかな」と言われて、男はきっと奮発したのだろう。それでも女は去っていった。「気にしないで行っていいよ」と告げる男は、「孤独が好きな俺さ」と自分に言い聞かせる。けれど、「街でベージュのコートを見かけると 指にルビーのリンクを探すのさ 貴女を失ってから」と真に未練に満ちている。
『魅せられて』は「女は海」といい、「好きな男の腕の中でも違う男の夢を見る」「優しい人に抱かれながらも強い男に魅かれていく」とある。この曲は版画家の池田満寿夫氏の小説『エーゲ海に捧ぐ』を映画化した時に歌われたものだが、ジュディオングさんが白いドレスで登場し、両手を羽のように広げて歌う姿の印象が強い。後半も「女は海」に続いてもう一度、「好きな男の腕の中でも違う男の夢を見る」とある。まるでダメ押しである。
海は万物の母というが、女の強さが際立っている。男は女を可憐なものと思い込もうとしているが、それは男の身勝手なのだろうか。『ルビーの指環』は松本隆さんの、『魅せられて』は阿木燿子さんの作詞である。男と女の感性の違いが対極的だ。決して元に戻ることはないのに愛した女を追い求める男、身体を重ねた翌朝にレースのカーテンを裸の身体に巻き付けてみせる女、違いがあるから惹かれ合うのだろうか。私は「切ないね」と呟いてしまった。
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