風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国の恫喝外交

2020-09-06 16:54:15 | 時事放談
 中国の恫喝が評判悪い。まあ、外交場裏で恫喝が評判悪くないはずはないのだが(笑)、最近、よく言われる「戦狼外交」は、多分に中国人民の目を意識した、つまりは政府のメンツを守るための内向きのもので、対外的には裏目に出る。そのせいか、王毅外相が、イタリア、ノルウェー、オランダ、フランス、ドイツの5カ国を歴訪したのに続いて、ほぼ時間をおかずに外交トップの楊潔篪氏も同地域(スペインとギリシャ)を訪問するのは異例で、中国外交の焦りを表していると言われる。
 チェコ議長団の台湾訪問の一件は、実に象徴的で、興味深かった。経緯を書き留めておきたい。
 台湾にとっての中国は、チェコにとってのソ連(現ロシア)に相当するというような共感があるようだ。チェコの大統領は親中らしいが、その反対を押し切って、ビストルチル上院議長ら89人(今年1月に台北と姉妹都市協定を結んだプラハの市長も含む)が台湾を公式訪問し、台湾立法院で演説を行った。「故ジョン・F・ケネディ元米大統領が1963年に共産主義体制による脅威の最前線にあった西ベルリン人民へ向かって『私はベルリン市民である』とドイツ語で励ました」演説になぞらえ、「我是台湾人(私は台湾人である)」と語りかけて拍手喝采を受けたという。この韻の踏み方は見事で、強烈な皮肉になる(笑)。近い将来、中国共産党政権が崩壊するとすれば、ペンス副大統領演説(2年前の10月)、ポンぺオ国務長官演説(今年7月23日)に続き、歴史上、特筆される演説になるかも知れない(笑)
 その前日に、「台湾問題で『一つの中国』に戦いを挑むことは、14億人の中国人民を敵に回すこと」だと、チェコ訪台にいつになく強い調子で反発し、「高い代償を払う」といつもの警告を発していた王毅外相は、チェコ議長演説の日にも、訪問中のドイツ・マース外相との共同記者会見で、台湾を国家として認めるのは「中国への侮辱で明白な挑戦」だと非難し、チェコは訪台で「一線を越えた」「必要な対応を取らざるを得ない」と報復を示唆した。これに対し、マース独外相は、「EUでは、国際的なパートナーとは敬意を持って接しており、脅しなどの方法は適切ではない」と反論した。同日、フランス外務省の報道官も、「EUと中国の関係は、対話と対等そして相互尊重の原則に基づいたものでなければならない。これは我々がパートナーシップを深めるための不可欠な基本的条件である」と釘を刺し、「この観点から、(中国による)加盟国へのいかなる脅威も容認できない。私たちはチェコを支持する」と表明した。
 これに先立って、G7で唯一、「一帯一路」構想に参加しているイタリア・ディマイオ外相は、王毅外相との会談で香港問題を取り上げ、市民の人権と自由が尊重されるべきだと、イタリアにしては珍しくまっとうな指摘をした。香港メディアによると、王毅外相が訪問した5カ国の内、このイタリアやドイツやフランスを含む4カ国までが香港問題について公式に懸念を表明したらしい。日本では、こうしたやりとりしか伝えられないが、大紀元によると、王毅外相の欧州訪問期間中、香港のデモ隊、法輪功学習者、民主化活動家および現地の支援抗議団体などが行く先々で待ち受け、抗議行動が絶えなかったという。こうした状況を、欧州の人々はどう見ているだろうか。
 習近平国家主席を頂点とする9000万人の中国共産党員が国家の隅々まで統制し、全てにおいて誤謬を許さない中国共産党の厳格でなんとも窮屈な統治のあり方は、諸外国との間で様々な軋轢を生む。なにしろ中国共産党の統治は、歴史上の王朝と同じで、選挙による負託を受けておらず、常に倒壊のリスクに晒されるのだ(だから正統性を、その根拠としての核心的利益を、主張し続けなければならない)。人民日報系の環球時報は社説で、今回の王毅外相の5カ国訪問について、「ポンペオが欧州でまいた毒を王毅が消毒する」意味があると解説していたが、欧州ではここ1~2年の間に明らかに風向きが変わり、とりわけ中国発とされるコロナ禍での情報隠蔽や、人権問題では世界で最も敏感な欧州にとって香港問題が決定打となって、対中感情が急速に悪化しており、米国の包囲網に対抗して欧州を取り込もうとする中国の試みは成功しているとは言えない。むしろ中国という厄介な存在について、日米および欧州の間の共通認識になりつつある(日本からすれば、ようやく欧州も追い付いて来たか、という感じだが 笑)。
 欧州だけではない。昨年9月に台湾と断交し、中国と国交を樹立したばかりの太平洋の島国ソロモン諸島で、人口最多のマライタ州が「中央政府が人々の声を聞かずに中国と国交を結んだ」として、独立の是非を問う住民投票を今月実施すると発表した(5日付、朝日新聞デジタル)のには驚いた。同州は、「中国との国交を選んだ国の一員であるべきなのかを問う」としており、中国との国交樹立を認めないのは、人権や自由を重視する立場からだと説明しているらしい(同)。多少なりとも米国に安全保障を依存し、中国に経済を依存する東南アジア諸国では、米中の間で踏み絵を迫られたくないのが本音だった。米国は最近(6~7月)、4人の政府高官(オブライエン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、レイFBI長官、バー米司法長官、ポンぺオ国務長官)の演説を通して、中国共産党との対決姿勢を鮮明にし、南シナ海における中国の権益の主張を違法と決めつけて、諸外国の動きを後押ししている。ソロモン諸島・マライタ州は、欧米のこうした潮流を敏感に受け止め、勇気づけられたものと思われる。
 中国に隣接する日本の立場は難しい。関係諸国との間で丹念に関係構築してきた安倍外交のレガシーを生かすも殺すも、これからである。
 余談ながら・・・は、長くなったので次回。
コメント
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