W杯ブラジル大会で、日本がコロンビアに1-4で負け、グループ・リーグ敗退が決まったのは、かれこれ一ヶ月前の6月25日のことでした。蓋を開けてみれば実力通り・・・というのが、誰しも感じた偽らざる想いでしょう。
勿論、日本は善戦したと思いますが、実力の差は如何ともし難いものがありました。いくつかデータを見て見ると、グループ・リーグで試合を重ねるごとに、つまりコートジボワール戦、ギリシャ戦、コロンビア戦と、PA進入回数やシュート数は目に見えて増加しましたし、PA内シュート数は、ギリシャ戦からコロンビア戦にかけて倍増したのは、意識してPA内に進入した結果と見られます。ボール支配率は、コートジボワール戦の42%からギリシャ戦の68%、コロンビア戦では若干落ちたものの57%に達しました。コロンビア戦では、シュート数やアタッキングサードでのパス数で相手の倍を記録しましたが、結局、ゴール数では大きく後れをとったのは、決定力がなかった証拠と言わざるを得ません。
というわけで、ここまでの情報なら、何を今さら・・・といったところですが、優勝したドイツについて、面白い話がありました。
ドイツ・サッカーは、ベッケンバウアー(と、中学生の頃、サッカー好きの友人が連呼していたのを思い出します)を擁した1970年代に黄金時代を迎えましたが、その後、冷戦崩壊後の1990年代以降、「高い個人技を持つ移民系の選手が急激に台頭」し、「ドイツが誇る規律と組織の力が『個』の力で崩され、かつての格下相手に屈辱の敗戦が続いた」、そこで、「それまでの組織優先から、個人の技術にも重点を置く育成へと切り替えたことで、組織力と技術力の高さを融合させたバランスに優れたスタイルへと進化した」(湯浅健二氏)とされ、「基本となる戦術は変えず、多彩な人材を生かすことで変化に対応する、これは、自動車産業ではフォルクスワーゲンが先行したような、モジュール化戦略にも通じる」と評した人もいました(熊野信一郎氏)。
それはさておき、私が面白く思ったのは、スポーツの世界でもビッグ・データが活用されているという事実でした(ここから先はダイヤモンド・オンラインを参考)。
ドイツのW杯優勝への道は、8年前、2006年W杯開催国で3位に終わったときに始まるそうです。大会後に代表監督に就任したヨアヒム・レーヴ氏は、「選手がボールを保持している時間を最小化する」というシンプルな目標を掲げました。試合中、出来るだけ早く味方選手にパスをして、網の目を縫うようにボールを動かしながら、チャンスを作っていくパスサッカー、所謂「ポゼッション・サッカー」を目指したのです。
そこで、徹底したプレーの分析を行うため、世界的に有名なERPソフトを販売するSAPをパートナーに選びました。折しもSAPは、W杯ブラジル大会直前、ドイツ・サッカー連盟との共同開発による最新のサッカー分析システム「マッチ・インサイト」を発表しました。高精細なカメラ数台でフィールドを撮影し、1試合90分に取り込まれるデータは実に4千万件、過去の試合を含めれば数十億件という膨大なデータをリアルタイムに分析し、試合直後に監督や選手に意味のある情報を提供するだけでなく、次の試合に向けた選手連携の確認や戦術のシミュレーションも容易に行えるアプリケーション、なのだそうです。従来の分析で使われたゲーム・データはせいぜい1試合2千件だったと言いますから、まさにケタ違いです。
結果だけ見れば、2006年当時、1人の選手が平均2.8秒ボールを保持していたのに対し、2年後の2008年には約1.8秒、更に2年後の2010年南アフリカ大会では約1.1秒、今大会前には1秒を切るまでに短縮されたそうです。勿論、短ければ良いという、数字だけの話ではなく、どんなシステムの相手でも、パスを回されている内に陣形に隙間ができるものですので、高速でボールを動かすことで、相手に修正する時間を与えず、隙を突きながらボールをゴール前に運び、確実にシュートを決めることができる決定力のあるフォワードが複数いたことがドイツの勝因ではなかったかと解説されていました。こうした「超高速パスサッカー」を、8年間にわたり、クラブチームだけでなく下部組織も含めたドイツのサッカー界全体で取り組んだ研究と改善努力の賜物だった・・・というのが、やはり並ではありません(要約引用はここまで)。
女子バレーの真鍋監督も、試合中、タブレット端末を手にしていた姿が目撃されていましたが、バレーボールの最高峰イタリア・セリエAがデータ分析を導入したのは1980年代のことで、日本も2003年に本格導入し、今では世界中のチームが「データバレー」というゲーム分析ソフトを活用して作戦を立てているのだそうです。SAPジャパン社長は「膨大なリアルタイムデータをバックヤードで細密かつ高速に分析し、簡単に扱えるようになれば、戦略はシンプルにできる。これは、これからのスポーツにも、そしてビジネスにも共通して求められることだ」と語っています。データ分析は、サッカーやバレー以外にも、NBA、プロテニス、F1など、世界のメジャースポーツ分野で既に導入され、選手個々人のプレイスタイルまでもデータ化されて、チームを移籍する場合、移籍先でチームとマッチするかどうかの分析まで出来るようなシステム開発も進んでいるそうです。
繋がりやすくなったソフトバンクは、顧客がどこから電話しているのかという膨大なデータを分析して繋がりにくさを潰して行ったといいますし、日立がJR東日本から提供を受けた、乗降駅、利用日時、利用額、年齢、性別などの情報を「ビッグデータ」として分析し、出店計画や広告宣伝などマーケティング支援サービスとして別の企業に提供開始したのは1年前のことでした(名前や住所は匿名化されていたため、違法ではなかったものの、プライバシー面で事前の説明が足りなかった等の批判を受け、消費者に不安を与えたとして、後にJR東日本は謝罪)。因みに、10ヶ所の駅データ提供を1年間契約した場合の最低構成価格は500万円だそうです。膨大なデータから新しいビジネスが生まれる・・・と言ってしまえば簡単ですが、膨大なデータをもとに様々な予測や判断を行い、ビジネスに生きる知見を引き出す専門家としてのデータサイエンティストの力量、要はデータを活かすも殺すも知恵次第と言えそうです。
勿論、日本は善戦したと思いますが、実力の差は如何ともし難いものがありました。いくつかデータを見て見ると、グループ・リーグで試合を重ねるごとに、つまりコートジボワール戦、ギリシャ戦、コロンビア戦と、PA進入回数やシュート数は目に見えて増加しましたし、PA内シュート数は、ギリシャ戦からコロンビア戦にかけて倍増したのは、意識してPA内に進入した結果と見られます。ボール支配率は、コートジボワール戦の42%からギリシャ戦の68%、コロンビア戦では若干落ちたものの57%に達しました。コロンビア戦では、シュート数やアタッキングサードでのパス数で相手の倍を記録しましたが、結局、ゴール数では大きく後れをとったのは、決定力がなかった証拠と言わざるを得ません。
というわけで、ここまでの情報なら、何を今さら・・・といったところですが、優勝したドイツについて、面白い話がありました。
ドイツ・サッカーは、ベッケンバウアー(と、中学生の頃、サッカー好きの友人が連呼していたのを思い出します)を擁した1970年代に黄金時代を迎えましたが、その後、冷戦崩壊後の1990年代以降、「高い個人技を持つ移民系の選手が急激に台頭」し、「ドイツが誇る規律と組織の力が『個』の力で崩され、かつての格下相手に屈辱の敗戦が続いた」、そこで、「それまでの組織優先から、個人の技術にも重点を置く育成へと切り替えたことで、組織力と技術力の高さを融合させたバランスに優れたスタイルへと進化した」(湯浅健二氏)とされ、「基本となる戦術は変えず、多彩な人材を生かすことで変化に対応する、これは、自動車産業ではフォルクスワーゲンが先行したような、モジュール化戦略にも通じる」と評した人もいました(熊野信一郎氏)。
それはさておき、私が面白く思ったのは、スポーツの世界でもビッグ・データが活用されているという事実でした(ここから先はダイヤモンド・オンラインを参考)。
ドイツのW杯優勝への道は、8年前、2006年W杯開催国で3位に終わったときに始まるそうです。大会後に代表監督に就任したヨアヒム・レーヴ氏は、「選手がボールを保持している時間を最小化する」というシンプルな目標を掲げました。試合中、出来るだけ早く味方選手にパスをして、網の目を縫うようにボールを動かしながら、チャンスを作っていくパスサッカー、所謂「ポゼッション・サッカー」を目指したのです。
そこで、徹底したプレーの分析を行うため、世界的に有名なERPソフトを販売するSAPをパートナーに選びました。折しもSAPは、W杯ブラジル大会直前、ドイツ・サッカー連盟との共同開発による最新のサッカー分析システム「マッチ・インサイト」を発表しました。高精細なカメラ数台でフィールドを撮影し、1試合90分に取り込まれるデータは実に4千万件、過去の試合を含めれば数十億件という膨大なデータをリアルタイムに分析し、試合直後に監督や選手に意味のある情報を提供するだけでなく、次の試合に向けた選手連携の確認や戦術のシミュレーションも容易に行えるアプリケーション、なのだそうです。従来の分析で使われたゲーム・データはせいぜい1試合2千件だったと言いますから、まさにケタ違いです。
結果だけ見れば、2006年当時、1人の選手が平均2.8秒ボールを保持していたのに対し、2年後の2008年には約1.8秒、更に2年後の2010年南アフリカ大会では約1.1秒、今大会前には1秒を切るまでに短縮されたそうです。勿論、短ければ良いという、数字だけの話ではなく、どんなシステムの相手でも、パスを回されている内に陣形に隙間ができるものですので、高速でボールを動かすことで、相手に修正する時間を与えず、隙を突きながらボールをゴール前に運び、確実にシュートを決めることができる決定力のあるフォワードが複数いたことがドイツの勝因ではなかったかと解説されていました。こうした「超高速パスサッカー」を、8年間にわたり、クラブチームだけでなく下部組織も含めたドイツのサッカー界全体で取り組んだ研究と改善努力の賜物だった・・・というのが、やはり並ではありません(要約引用はここまで)。
女子バレーの真鍋監督も、試合中、タブレット端末を手にしていた姿が目撃されていましたが、バレーボールの最高峰イタリア・セリエAがデータ分析を導入したのは1980年代のことで、日本も2003年に本格導入し、今では世界中のチームが「データバレー」というゲーム分析ソフトを活用して作戦を立てているのだそうです。SAPジャパン社長は「膨大なリアルタイムデータをバックヤードで細密かつ高速に分析し、簡単に扱えるようになれば、戦略はシンプルにできる。これは、これからのスポーツにも、そしてビジネスにも共通して求められることだ」と語っています。データ分析は、サッカーやバレー以外にも、NBA、プロテニス、F1など、世界のメジャースポーツ分野で既に導入され、選手個々人のプレイスタイルまでもデータ化されて、チームを移籍する場合、移籍先でチームとマッチするかどうかの分析まで出来るようなシステム開発も進んでいるそうです。
繋がりやすくなったソフトバンクは、顧客がどこから電話しているのかという膨大なデータを分析して繋がりにくさを潰して行ったといいますし、日立がJR東日本から提供を受けた、乗降駅、利用日時、利用額、年齢、性別などの情報を「ビッグデータ」として分析し、出店計画や広告宣伝などマーケティング支援サービスとして別の企業に提供開始したのは1年前のことでした(名前や住所は匿名化されていたため、違法ではなかったものの、プライバシー面で事前の説明が足りなかった等の批判を受け、消費者に不安を与えたとして、後にJR東日本は謝罪)。因みに、10ヶ所の駅データ提供を1年間契約した場合の最低構成価格は500万円だそうです。膨大なデータから新しいビジネスが生まれる・・・と言ってしまえば簡単ですが、膨大なデータをもとに様々な予測や判断を行い、ビジネスに生きる知見を引き出す専門家としてのデータサイエンティストの力量、要はデータを活かすも殺すも知恵次第と言えそうです。