風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

トランプ氏大勝

2024-11-07 23:45:15 | 時事放談

 政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の各種世論調査のまとめによると、投票前日の夜時点の全米平均支持率は、ハリス氏48.7%、トランプ氏48.6%とほぼ互角、激戦州でもそれぞれ僅差で競うという、史上稀にみる大接戦で、開票作業には数日かかると見られていたのに、実際に全てが判明したわけでもないのに、その日の内にトランプ氏の当選が決まったということは、トランプ氏「圧勝」の報道には違和感を覚えたが、「大勝」だったのは間違いない。大統領経験者が返り咲きを果たすのは19世紀のクリーブランド以来132年ぶりで、史上2人目だそうだから、快挙ではあろう。

 トランプ氏が来年1月20日に第47代大統領の就任式を迎えるとは・・・悪夢だ(笑)。いや、トランプ氏にしてもカマラ・ハリス女史にしても、どちらの候補が勝つのも現実問題として想像し辛く、受け止め辛いという、なんとも不思議な選挙だった。やはり選挙は蓋を開けてみなければ分からない。有権者にとっては何だかんだ言って目先の経済が重要で、バイデン政権下の物価高が民主党への不信任に繋がった可能性が高い。ハリス女史は、バイデン氏に代わる民主党候補として、トランプ氏よりも若く、トランプ氏のようなウソ・ハッタリや大言壮語はなく、女性で非白人のマイノリティとして、一時的に盛り上がったが、そもそも副大統領職は存在感が薄い上に、長期にわたる予備選挙を勝ち抜いたわけではないので、何を目指すのか、人となりはどうか、品定めする時間が乏しく、結局、期待感なるメッキが剥げ落ちるように後退し、ガラスの天井と言うよりも大統領としての実務能力に疑問符がつくという側面があったような気がする。他方の二期目のトランプ氏にとって勝手知ったる政権人事で、もはや猛獣使いはいなくなる可能性がないではないが、それでもトランプ氏個人の偏執的な関心の在処や独特の国益観念はともかくとして、周辺を固める要職にはもう少し常識も国益もあるだろうという一縷の望みは期待出来るし、トランプ氏お得意の舌禍はあっても大統領の暴走を止める制度的な仕組みがないわけではない。また、共和党員の不在者投票が増えたとの報道があったから、TVコマーシャルなどの所謂空中戦だけでなく、アメリカ流ドブ板選挙で共和党が健闘したということでもあっただろう。

 得票数を見ると、今のところトランプ氏の約7200万票に達しハリス氏の約6700万票と、「圧勝」と言ってよいのか分からないが、2004年の大統領選で子・ブッシュ氏が勝利して以来、20年ぶりに共和党候補が民主党候補の得票数を上回る見通しだという意味では、やはり快挙と言うべきだろう。日本の衆院選で、民意はなんと移ろい易く、しかし、民意は実によく出来たもので、侮れないものだとも思うと、ブログに書いた。此度は、これがアメリカの民意なのだと認めないわけには行かないし、諦めるしかない。

 かねてイスラエルを支持しウクライナ戦争を「24時間で終わらせる」と豪語するトランプ大統領について、イスラエルのネタニヤフ首相やプーチン大統領はほくそ笑む一方、ウクライナのゼレンスキー大統領や西側首脳は頭を抱えているだろう。バイデン大統領はトランプ氏が大統領に就任する前に既に予算確保された60億ドル以上のウクライナ支援を執行しようとしている。習近平国家主席は予測不能を嫌いつつもディール出来るのではないかと期待しているかもしれない。韓国では、前任の文在寅氏が信頼されていなかっただけに、警戒し、慎重になっているだろう。金正恩総書記は、図に乗ってしっぺ返しを受けたことから、もはや夢見ることはないだろうし、ロシアと蜜月なのでさして期待していないと思いたいが、先月、かつての米朝首脳会談に同行した人物やアメリカ通を少なくとも2人立て続けに外交、防衛の要職に起用したらしく、トランプ氏を抱き込む隙をうかがっている可能性があると見る向きもある(二匹目のドジョウはいないと思うが、でも何しろトランプだからなあ)。そして日本にはもはや安倍元総理はいない。軍事オタクでリベラルな、何より慶応高校時代に体育会ゴルフ部に所属していたという石破さんは、果たしてトランプ氏とゴルフが出来る(すなわち懐に入り込める)だろうか。

 台湾有事が懸念される2027年を含む今後の4年間は、初代NATO事務総長だったイギリスのヘイスティングス・イスメイ陸軍大将がNATOのミッションを“to keep the Soviet Union out, the Americans in, and the Germans down”と語ったように(もっとも昨今は”to keep America in, Russia Down, and China out”などと言う人がいる)、“to keep Nobody out, the Americans in, and the Chinese down”を守ることが出来るかどうかがポイントだと思うのだが・・・

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自民党惨敗

2024-10-30 01:00:58 | 時事放談

 此度の衆議院議員選挙は、下馬評通り、「政治とカネ」の問題で与党に逆風が吹き、2009年以来15年振りに過半数を割る結果となった。自民党支持層や無党派層が自民党に入れるのを躊躇う(つまりお灸を据える)という自民党の一人負けだった。小選挙区では立憲民主が票を拾ったが、政党支持という観点から比例代表の得票数を2021年の前回衆院選と比べると、自民党は実に533万票減らして1458万票に、維新が295万票減らして510万票に落ち込み、これら800万票の受け皿となったのは国民民主とれいわと新参者(参政と日本保守)で、それぞれ358万票増の617万票、159万票増の380万票、そして新参者が301万票獲得と圧倒的だった。他方、立憲民主は7万票増の1156万票にとどまっている。

 こうした状況は投票率からも裏付けられる。民主党が政権交代を実現した2009年には(小泉郵政解散67.51%を上回る)69.28%まで盛り上がったが、安倍政権下では50%台前半を低空飛行し、今回は前回55.93%を下回る53.85%と、戦後三番目に低調だった。野田佳彦氏は立憲民主代表に就任した時、「本来は自民支持だが(裏金事件に)失望した保守層の心をつかむことだ」と述べ、実際に小選挙区では政権批判票の受け皿になることに成功したが、前回の衆院選で日本共産党と(政権交代の暁には)「限定的な閣外からの協力」で合意した立憲民主という政党が期待されるはずもなく、投票率は盛り上がらなかったと言うべきだろう。

こうしてみると、民意は移ろい易いものだと思う。多くのメディアが「政治とカネの問題」ではなく「裏金問題」などとレッテルを貼り、立憲民主は「裏金隠し解散」だと攻撃して、政治不信が深まった。正確には政治資金の収支報告書不記載は透明性の問題であって裏金とは違うように思うが、見事に印象操作された。それにしても、そのような移ろい易い民意を自民党は汲み取ることなく、石破茂氏が言う通り自民党には「緩み」や「驕り」があった。投票直前に、非公認候補が代表を務める政党支部に2000万円が支給されたことが「しんぶん赤旗」にすっぱ抜かれると、野党から「また裏金か」とダメ押しのように批判され、石破氏は「法的には全く問題はない」と弁解したが、この期に及んで法律云々はない。もっと別の言い方があっただろう。1993年に政権交代が起こってから次の政権交代が起こった2009年まで16年、更に今年まで15年と、15年前後でタガが緩む、懲りない自民党である。

 同時に、民意は実によく出来たもので、侮れないものだとも思う。与党に過半数を許さなかったが、政権交代までは求めなかった。石破氏は、安倍元首相が好んで使ったフレーズを引用して、「『悪夢のような民主党政権』と言うが、あのときほど野党で申し訳ないと思ったことはない」、「『あんな人たち』にこの国を任せるわけにはいかない」などと街頭演説で野党批判したのは、単に危機感のあらわれであって、印象操作の効果があったかどうか・・・。

 国民民主の躍進が際立つが、所詮はどこかに入れなければならないときに消去法で残っただけという冷めた見方がある。その通りだろう。しかし国民民主は、自公と立憲民主との間で、キャスティング・ボートを握る立場に至った。玉木雄一郎代表は、自公連立政権への参画を否定し、部分連合の可能性に言及するが、連立参画だろうが部分連合だろうが、慶應の土居丈朗教授が言われるように「(連立政権で加わる政党が増えると)歳出増圧力が高まり、財政赤字が増えるとの先進国に関する経済学の先行研究がある」そうで、どの党も有権者の歓心を買うためにバラマキを公約するご時世に財政規律が緩むこと、決められない政治に陥りかねないこと、が気がかりだ。

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北朝鮮の不穏な動き

2024-10-26 07:01:28 | 時事放談

 北朝鮮がロシアへの派兵を始めたのが話題になっている。当初、ウクライナ政府と韓国の情報機関が公表し、つい最近、アメリカの政府高官も認めた。ロシアは「偽情報」として否定してきたが、つい最近、プーチンは、北朝鮮とのパートナーシップ条約をどう履行するかはロシアの問題だと述べて、北朝鮮兵士がロシアに駐留していることを肯定も否定もしなかった。

 これを初めて聞いたとき、いやな時代になったものだと溜息をつくとともに、北朝鮮はロシアから対価として何を手に入れるのか、まさかロシアの虎の子の軍事技術(衛星打上げとか核開発とか)が供与されはしないかと懸念した。かつて中国は、ハンガリー動乱を巡る旧・ソ連内部の政治的混乱に乗じて、ソ連から原爆製造技術の供与を受けることに成功したことがあった。今回、ロシアの弱みは明らかだ。ウクライナ戦争でロシア兵の損耗が著しく、ウクライナによる想定外のロシア・クルスク州侵攻をロシア側には食い止めるだけの余力がどうやらなさそうだという驚くべき惨状が示されているからだ。その意味で、金正恩はプーチンに迫った(おねだりした)のではないかと思った。

 しかし、バーター取引として考えたときに、喉から手が出るほど欲しい軍事技術以前に、金正恩が望むものは他にもあって、プーチンがぶら下げた餌に金正恩が食いついた可能性もありそうだ。巷で言われるのは、先ずは外貨であり、次いで実戦経験だ。アメリカのように、定期的に紛争に首を突っ込んで旧式兵器の在庫を費消したり、軍人に給与を支払いながら実践経験を積ませたりするだけの余裕があればよいが、たとえ休戦中(ということは戦時)であっても、北朝鮮のような貧乏国家が主体的に出来ることは限られている。そうだとすれば、兵器在庫を売却して外貨を稼ぎながら(実際には新型兵器に置き換えるのだろうが)売却し実践投入された弾薬や兵器システムの機能・性能を分析し、軍人を派遣して給与相当を貰いながら(ロシア兵の月給2千ドル、入隊時の一時金1~2万ドルとされるのが本当だとすれば、その二分の一でも三分の一でも北朝鮮にとっては大金だろう)実践経験を積ませることが出来るという、ロシアと対等の契約も、北朝鮮にとってまたとない機会だろう。私の願望でしかないのかもしれないが。

 同じく休戦中の韓国は、NATO型兵器を供給できても、ウクライナ戦域への殺傷兵器の供与を自粛してきただけに、反発した。国際社会、とりわけプーチンが気にするグローバル・サウスの目も光る(欧米の目は今さら気にしても仕方ない)。プーチン流レトリックとすれば、北朝鮮の傭兵を、あくまで自国防衛のためと称してロシア領クルスク州に差し向けるだけかもしれないし(勿論、ドンバスも自国防衛だと主張するだろうが)、特別身分証かパスポートを発給したとの報道もあるから、北朝鮮人をロシア人だと強弁するかもしれない。

 北朝鮮にはリスクもある。かつて毛沢東は、「核戦争になっても別に構わない。(略)中国の人口は6億だが半分が消えてもなお3億がいる。我々は一体何を恐れるのだろうか」と、平和共存を説く当時のソ連共産党フルシチョフ第一書記に豪語したとされる。日頃、人民のことを第一に思う元首様と宣伝するが、人民をコマのように使って痛みを感じないのは、金正恩も独裁者として変わらなくて、戦時のプロパガンダの常として戦争被害があっても徹底的に情報統制するだろうが、遺族の慟哭を完全に抑え切れるものではない。他国の豊かな文化に触れさせないよう、実質的に鎖国政策を執る北朝鮮にとって、兵士の外国への派遣は、労働者の外国への派遣と同様、管理が難しく、ウクライナに寝返る兵士が出て来ないとも限らないし、海外生活に触れれば体制不満に繋がりかねない。それでも兵士を派遣するのは、南朝鮮(韓国)を統一対象ではなく敵対国に認定した金正恩は、南やアメリカとの対決を煽り危機を過剰演出することで社会的な困窮を覆い隠すしか能がなく、案外、切羽詰まっているのかもしれない。

 不安定な時代・・・というのは、言うまでもなく米中間の緊張の高まりや、ロシア対NATOの代理戦争、中東での絶えることのないイスラエル・パレスチナ紛争、さらに中・露・朝・イランの権威主義国(またはBRICSやSCO)に対する自由・民主主義連合(またはOECD)の分断が表面化した時代だからではあるが、そればかりではない。

 杞憂という言葉がある。古代中国の杞の国の人が、天地が崩れ落ちるのではないかと心配して、夜も眠れず食事も喉を通らなかったという「列子」天瑞の故事から、心配する必要のないことをあれこれ心配することを言う。最近の中国や北朝鮮を見ていると、このネット時代に権威主義体制を維持するのは相当キツイだろうし、崩壊するんじゃないかと、つい取り越し苦労をしてしまう(笑)。南海トラフのような大地震と同様、早晩起こることは間違いなく、いつ起こってもおかしくないが、いつ起こるとは言えない感覚である。

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祝・ノーベル平和賞

2024-10-12 18:54:49 | 時事放談

 今年のノーベル平和賞は日本原水爆被害者団体協議会(被団協、東京)に授与されることが発表された。ノーベル賞委員会は「核使用がもたらす人道面の破局的結果」を知らしめる上で被団協が大きな役割を果たしたと称賛し、その活動を通じて「核の使用は道徳的に許されない」との「強力な国際標準」が形成されたと、授賞理由で説明した(産経新聞より)。結成以来68年を経ての快挙だが、ようやく、とか、今さらの感がある、などと嘆くより、かねてノーベル平和賞や文学賞には政治性があると言われてきたように、授賞理由で「現在進行中の戦争で核兵器が使用される脅威もある」と述べられていること(現実の危機)に衝き動かされた状況であることににも留意すべきだろう。

 ロシアはウクライナ戦争で核使用をチラつかせて米国をはじめとするNATO諸国を牽制し、東アジアでは、北朝鮮がとうとう同胞の南朝鮮(韓国)を統一の対象ではなく敵国呼ばわりして核開発をギア・アップし、中国は核保有国として核軍縮のために「誠実に核軍縮交渉を行う義務」(NPT第6条)が求められるにも関わらず(米軍の報道によれば)保有する約500発の核弾頭を2030年までに約1千発に増強する見通しが強まっている。冷戦時代には「恐怖の均衡」と呼ばれ、その危機をコントロールするために大量報復戦略、柔軟対応戦略、相互確証破壊などの抑止論を展開し、いわば「感情」を抑えるための「理性」を働かせる努力をして来たが、戦後79年を経て、その「理性」のタガが外れてしまったかのようだ。

 核廃絶を願う気持ちは尊い。私は、そんな道徳的な活動に寄り添うよりも、どちらかと言うと、歴史においていわゆる暴力が幅を利かせ、現代においてなお市井の声がなかなか届かない、人類の歴史の歪んだメカニズムに反発するがゆえに、その謎解きに惹かれて政治学や法哲学に興味を示すひねくれ者だからこそ、余計にそう思う。なぜなぜ分析をすると、結局、ロシアや中国の統治の脆弱性、ひいては国家(海洋国家と対比した大陸国家)とは何か、権力とは何か・・・という根源的な問いに繋がる(ような気がする)。

 アメリカン大学核問題研究所長のピーター・カズニック教授は時事通信の取材に、「被団協は『世界の良心』であり続けている」と称賛し、平和賞に被団協を推薦してきたと明かした上で、「被爆者が生きているうちにこの賞を授与する緊急性があった」と強調した。ただ、既に被爆者の多くが他界したのは「ほろ苦い」と語ったそうだ(時事通信より)。広島出身の政治家として岸田さんは広島サミットを成功させたように、人類の歴史で唯一の被爆国として、現実主義の政治の中にも、理想主義の炎を絶やすべきではないとつくづく思う。

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石破政権の前途多難な船出

2024-10-05 10:44:17 | 時事放談

 石破茂氏が自民党総裁選を勝ち抜くや、俄かに円高・株安に見舞われ「石破ショック」と呼ばれた。アベノミクスに否定的で財政規律を重視する立場のせいだが、実はMMT論者の高市氏勝利を織り込んで円安・株高に触れていた市場が高市ラリー前に戻っただけで、必ずしも石破さんのせいとは言い切れない。しかし、利上げに肯定的と見られていた石破氏が突如、日銀の追加利上げに否定的な発言をして、再び市場にショックを与えた。かつては、安倍さんなどの後ろから撃つことも厭わない党内野党として、防衛・安保のような得意領域で、あるいは興味のおもむくままに言いたいことが言えたのとは勝手が違い、首相はprimeな閣僚であって、様々な方面に影響が及ぶ発言の重さを踏まえ、不得手なことを含めて全てに責任を負わなければならない立場であることを痛感されているのではないだろうか。

 また、国民に判断材料を与えるのは新・首相の責任だとして、国会(予算委員会)論戦に前向きだったのに、1日夜の記者会見では、9日解散、27日投開票を表明し、主張がブレたことを批判された。党内基盤が弱いだけに、党内調整、組織人事に腐心し、前途多難である。私は石破さんのことが嫌いなわけではなく、むしろ不器用なほどに群れない孤高の一言居士を好ましく思う一方、およそ(数を頼む)政治家らしくないところに危うさを感じ、状況がなさしめたとしか言いようがないこのような事態に置かれた石破さんを歓迎するどころか、気の毒に思う。

 実際に、ご祝儀相場で、新内閣発足直後は高い支持率が期待出来るとは言っても、共同通信社が1、2両日に実施した全国緊急電話世論調査によれば、内閣支持率は50.7%(日経51%)、不支持率は28.9%(同37%)だったようだ。調査手法が異なるため単純比較はできないが、岸田内閣55.7%(同59%)、菅内閣66.4%(同74%)、2012年12月の第2次安倍内閣62.0%(同62%)と比べて高くないのは、自民党ひいては政治への不信が広がって冷ややかに見られているからであって、石破さんのせいばかりとは言えない。それは、石破内閣を支持する理由が「ほかに適当な人がいない」が35.4%(日経では「人柄が信頼出来る」が49%)で最多だったことからも分かる。

 欧米メディアの中には、自民党「独裁」が続く日本は果たして民主的かと疑問視する声があがっているようだが(もしかしたら欧米メディアのリベラル日本人エディターあたりの声かもしれない 笑)、それは自民党という政党の特殊性にある。右の翼から左の翼まで射程が広く、安倍さんのように政治信条は保守でも野党が推進しようとした子育て支援策を横取りするような融通無碍なところがあり、付け入るスキを与えない。ひいてはこれは、アメリカのように考え方が分かれて公開討論で決する国民性とは対照的に、さしたる分断がなく(それを単一民族だからと言ってよいのかどうかは別にして)舞台裏の調整で決するのを好む国民性を反映しているように思う。

 反・自民のリベラル進歩派からは、これでようやく安倍政治を払拭出来たと喜ぶ声が聞こえるが、負け犬の遠吠えのように空しく響く。それを野党が成し遂げられなかったこと、また、安倍さんの後継と目される高市さんは僅差で敗れただけで、状況が違えば総理・総裁への道が開かれていたであろうことに留意すべきだろう。「政治とカネ」の問題は軽視すべきではないが、それを争点化するばかりに本来なすべき政策論議が疎かになるとすれば、その方が問題で、信頼を失った自民党の足を引っ張るばかりで政権担当能力を示し得ない野党に支持が集まらない不幸が続く。アメリカでは議論になることが、日本では左翼的な糾弾になってしまい、噛み合わない。これは野党だけでなく自民党の受け答えにも問題があって、節度ある「議論」が望まれるところだ。

 中国では、石破・新総裁誕生よりも、上野のパンダ帰還の方がメディアでの扱いが大きかったようだ。中国事情通によれば、中国は石破政権を歓迎しないのではなく単に様子見をしていただけということだが、軽くあしらうことに込められたメッセージを読み取るべきだろう。安倍さんとの初の会見で仏頂面を隠さなかった習近平氏を今でもありありと思い出す。中国は、過去200年の屈辱的な歴史のトラウマを抱えながら、大国の威信にかける思いがことのほか強く、俗な言い方をするとチヤホヤされることが大好きでメンツを重んじる、厄介な国である。

 今月末の衆議院選挙に続き、来年7月には参議院選挙が予定される。それまでは不安定ながらも、選挙の顔として選んだ石破氏を多少なりとも支える展開が予想されるが、何と言っても政権基盤が絶望的に脆弱なだけに、短命に終わりかねない。国際情勢は混沌とし、日本が置かれた立場は微妙で、今こそ強力なリーダーシップが必要なときに、コップの中(与野党間だけでなく、自民党内も)の争いに構っている内に埋没しかねないことを危惧しないわけには行かない。このような危機意識と世界の中の日本という視野をもって臨む閣僚、ひいては政治家のセンセイ方はいらっしゃるのだろうか・・・だからこそ、石破さんには是非頑張ってもらいたいと思う。

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自民党総裁選

2024-09-28 13:15:05 | 時事放談

 昨日の自民党総裁選で、石破茂さんが、五度目の正直で新・総裁に選出された。統一教会との癒着や裏金問題などで、自民党への信頼が大きく揺らぐ中、解散・総選挙を視野に、自民党再生を期する今回のような総裁選で勝利されたのは、石破さんのようなお立場の方にはとても象徴的だったように思う。かつて「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉純一郎さんに通じるものがあるからだ。もっとも、党内では人気がないと噂される石破さんに支持が集まったことには選挙目当ての自民党議員のあざとさを感じないではないが、そんな政治力学とは言え、私のような庶民には言わば自浄作用が働いたようにも見え、こうしたバランス感覚もまた自民党の強さの表れのように思う。総裁選は党員・党友の間での話だが、石破さんの政治家としての信念は、国民一般の中にも信じる人が多いわけで、期待したいと思う。

 それにしても、異例の選挙選だった。表向き派閥解消されていたとはいえ信じる人はいないのに、その重しが外れて九人も立候補に名乗りをあげる乱戦となり、派閥解消を象徴するものとなった。今回は無理でも次かその次に繋がるようにという、将来の総裁候補に名乗りをあげる意味合いがあったのだろう。案の定、時の経過とともに、本命・石破さん、対抗・小泉進次郎さん、大穴・高市早苗さんという三つ巴に絞られ、候補者が九人も出れば議員票が割れるので過半数獲得は難しく、党員・党友の支持を集める石破さんが一回目の投票ではトップ通過するにしても、二位通過の候補が決選投票で勝つと見られていた。ところが蓋を開けたら、終盤での追い上げを報道されていた高市氏が小泉氏を抑えて二位通過するどころか、議員票でも党員票でもトップという異例の展開である。これで決選投票では高市さんが圧勝すると思っていたら、どんでん返しがあった。裏金議員からの推薦が多く、問題に甘いと見られていることと、立民の代表が、共産党から距離を置く野田佳彦さんに決まったことで、右に寄り過ぎる高市さんでは解散・総選挙で中道票を取りこぼすことが懸念されたのだろう。また、岸田首相は周辺に「高市さんだけは応援できない」と話していたとされ、一回目の投票で他候補に流れていた議員票をより多く拾ったのは石破さんで、僅差ながらも逆転勝利した。決選投票前に各5分、計10分の演説の時間が設けられ、石破さんはここで自身について「私は至らぬ者だ」とし「議員生活38年になる。多くの足らざるところがあり、多くの人々の気持ちを傷つけ、いろいろ嫌な思いをした人が多かったかと思う。自らの至らぬ点を心からおわび申し上げる」と率直に頭を下げる場面があり、党内の不人気を多少は払拭する効果があったかもしれない。

 奇しくも二年前のこの日は安倍晋三元首相の国葬が執り行われた日で、高市さんにとっては、岸田首相誕生に繋がった総裁選で高市さんを推薦してくれた安倍さんに向けた弔合戦のようなところがあった。日本初の女性首相に、ゴール直前、鼻の差で届かなかったが、勉強家で、岸田さんと違って自らの声で主張できる高市さんにも期待している。

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中東の混沌

2024-09-27 02:44:42 | 時事放談

 イスラエルとハマス、さらにはレバノンのヒズボラとの争いが激化してきた。イエメンのフーシ派も身構えるし、これらの胴元としてイランが控える。イスラエルにとっては3000年来の生存を賭けた戦いであり、理解できなくもないが、ウクライナ戦争とはまた一味違う相の19世紀的(あるいはそれ以前の)戦争はちょっとやり過ぎで、現実の戦争とは種々の事情によりそういうものかもしれないが、戦線拡大が憂慮される。

 ところで、日本で暗躍するロシア人スパイは、今でも決してスイカやパスモは使わないそうだ。香港民主化運動の学生たちも面倒でも切符を買って移動した。交通系電子マネーでは足がつくからだ。中国で電子マネーが普及するのは、紙幣が汚くて偽造が簡単だからという実用的な理由ばかりでなく、電子化すると監視可能だという国家の意志が働いている(と思う)。そしてハマスも、イスラエルの諜報を掻い潜るためにアナログな手法に頼り、イスラエルをまんまと出し抜いた。スマホは使わずに、時代遅れのポケベルやトランシーバーを使った。

 イスラエルはその上を行った(と、断定は出来ないが)。17日のポケベル一斉爆発では12人が死亡、約2300人が負傷し、翌日のトランシーバー爆発では25人が死亡、600人以上が負傷したと報道された。ポケベルは、台湾メーカーとブランド使用契約を結んだハンガリー企業が製造する過程で高性能爆薬が仕込まれたとされる。トランシーバーは、日本メーカー製と見られるが、正規品とは確認されていない。劇画のような安易なストーリーだが、実際に実現するのは容易ではない。イスラエルの諜報力があってのことだろう。

 このような仕掛けは、油断した兵士(booby:まぬけ)が触れると爆発し殺傷するので、booby trapと呼ばれ、自陣営に侵攻する敵勢力に対し、撤退するに当たって、食料品や兵器など兵士にとっての必需品や貴重品など戦利品になりそうなものの残留物に仕掛けるのが通常らしい。だが、国際法(特定通常兵器使用禁止制限条約)違反で明確なテロ行為になる(山崎文明氏による)。但し、イスラエルも、中国やロシアや北朝鮮も、そしてアメリカも批准していない。毎度、安全保障上のフリーハンドを手放したがらない、協調性のない我が儘な国々だ。

 中東で、イスラエルを巡る角逐はヨーロッパが埋め込んだようなところがあるが、伝統的なイスラム教の宗派を巡る争いもあり、アラブとペルシャという人種を巡る争いもあり、さらにアラブの春が挫折したように、部族社会で国民国家としてなかなか纏まることも出来ず、地域情勢は不安定である。歴史的に西と東と北と南の文明が交差する十字路と呼ばれ、繁栄と混乱を繰り返してきた。

 ヨーロッパはいい。同じ宗教を信じ、陸の国境線を接して人が行き来し、王室や貴族は入り混じった。山や川や半島で分断され、巨大な権力が台頭するのが阻まれてきた(それだけにローマのような帝国を志向するカール大帝やナポレオンのような情念も生んだ)が、歴史的経験を共有し、ほぼ自由・民主主義的で資本主義を奉じる同質的な基盤がある。互いに憎しみ合うことがあっても、それは宗教的・人種的な近親憎悪のようなところがあって、米ソという超大国の冷戦構造下で埋没しないで外部の脅威に対して結束することが出来た。国際連合は、ウェストファリア体制を起源とするヨーロッパの秩序観に立つ世界組織であって、そこでは間違いなく数は力なのである。

 海洋アジアは、その中間的な存在で、EUと対比されるASEANにその性格がよく表れている。EUは、イギリスがいっ時の気の迷いで離脱するほどの超国家的組織であり、加盟国は主権の一部を放棄(譲渡)しているが、ASEANはあくまでも国際組織であって、それぞれの国家は独立し、協力することはあっても互いに干渉することはない。人の流れはあるが、宗教的にも人種的にも分断され、植民地支配を受けた歴史も異なっている。

 石破さんのアジア版NATO構想は、自民党の中で総スカンを喰らっているらしいが、気持ちはよく分かる。しかし残念ながら14億人を擁する中国が巨大過ぎて、束になっても太刀打ちできず、それをよく知る中国は個別交渉・逐次撃破を好み、この地を言わば分断して統治している。

 人の経験はせいぜい50年で、その時々の特殊事情の影響を受ける。私たちは、冷戦という核の恐怖に晒されただけに、その終焉に伴う解放感は一種のユーフォリアを産み、グローバリゼーションが当たり前だという幻想を信じてしまった。地理的・歴史的に育まれた国家行動はそれほど変わることはないということか。

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中国の心掛けの悪さ

2024-09-23 07:18:31 | 時事放談

 大谷選手の快挙に浮かれているが、忘れてはならないことがある。深圳にある日本人学校近くで、同校に通う男の子(10歳)が男(44歳)に腹部を刺された事件だ。男の子は病院で手術を受けていたが、19日未明に亡くなった。お母さん(中国人)も一緒だったのに、子供を狙うとは卑劣であり、痛ましい。

 事件があった9月18日は満州事変の戦端が開かれた柳条湖事件が起こった日で、反日感情が高まりやすいが、今回の事件との関連は不明のようだ。当局は容疑者の男の身柄を確保し、取り調べを行っているが、動機など詳細な情報は日本側に伝えていない。中国外務省は「これは個別事案で、このような案件はいかなる国でも発生する。中国はこのような不幸な事件が起きたことについて遺憾と心の痛みを表明する」と述べた。遺憾と言いながら「いかなる国でも発生する」とは余計だ。詮索され、あるいは関連づけられるのを鬱陶しがっている様子がよく分かる。つまりは、前科者の偶発的な事件としてお茶を濁そうという魂胆だ。中国共産党の統治に不都合な情報の開示など期待できない。

 この事件について、一部の中国メディアは報じたが、国営や大手メディアはだんまりを決め込んでいる。その記事の最後には「理性的な愛国心とは、歴史と現実の尊重に基づき、客観的かつ冷静な態度で自国を愛し、支持する表現だ。日中関係における個別の事件については、冷静さを保ち、合法的なルートを通じて懸念を表明し、政府の外交努力を支援し、文化交流と市民友好を促進し、両国関係の平和的発展に貢献するべきだ」との一文が添えられているらしい。これ以上の混乱を望まない当局の意志を感じるばかりで、この程度の扱いかと思うとなんだかやり切れない。

 6月にも蘇州で、日本人学校のスクールバスを待っていた日本人の母子が刃物で切り付けられ、かばった中国人女性が亡くなるという痛ましい事件が起きた。ここでも中国外務省は「偶発的な事件」との見解を示しながら、動機や背景など詳細は警察が捜査中として、主管部門に問い合わせるよう促すだけだった。最近の中国の景気低迷は治安の悪化に繋がっているようで、無差別に刃物で切り付ける事件が相次ぐという。それにしても、こうも情報開示が不透明では、現地で生活する駐在員家族はさぞ不安だろう。

 そもそも中国という国は心掛けがよろしくない。中国共産党は抗日戦争(これは単なる二国間の戦争であるばかりではなく、民族革命戦争として中国革命の過程に位置づけられる)を勝利に導いたことに存在意義を置くが、二重の誤りがある。先ず、日本と前線で戦ったのは国民党であって共産党ではない(共産党は背後に隠れて戦力を温存し、後の国共内戦に勝利することになる)。次に、それでもついぞ中国は大日本帝国に勝てず、日本がアメリカに破れて自滅しただけだった。然るに、抗日戦争勝利のプロパガンダにより、憲法上も、歴史教育(=ヘイト教育)上も、抗日抜きには語れず、日中関係を政治問題化している。そのような情報統制下で育った若者たちは、実際に日本を訪れて生の日本人や日本の社会に触れて修正しない限り、「小日本」「日本鬼子」のような差別用語を引き摺り、「愛国無罪」を受け入れ続けることになる。日本人学校を「スパイ養成機関」「現代の租界」などと非難する声も放置されているそうだ。

 こうして、靖国神社のように日本人が神聖だと思う神社仏閣の石柱に「厠所」「軍国主義」などと落書きしSNSに投稿して恥じない中国人が出てくるし、この落書き事件を伝えたNHKのラジオ国際放送で原稿にない「尖閣諸島は中国の領土である」などと不適切な発言をする中国籍スタッフが出てきたりもする。

 昨今の日中関係で懸案とされて、喉に小骨(とは言い切れないほどの骨もある)が刺さったようにぎくしゃくするのは、福島原発の処理水を汚染水と呼んだり、日本の水産物を輸入禁止にしたり、理由を明かすことなく駐在員を拘束したり、査証(ビザ)免除措置を停止したままだったり、尖閣海域に侵入を繰り返したり、挙句は領空侵犯したりと、全て中国共産党側が仕掛けているものだ。これも一種のサラミスライス戦術であって、先に一歩踏み出しておきながら、一歩退くことで和解か譲歩を演出して有り難がられる仕儀にもなりかねない。

 それもこれも、関係性の中で、日本が自重してきたからだろう。靖国参拝問題や従軍慰安婦問題を焚き付けたのは日本のリベラルを自称する左派メディアで、今、それ自体を批判するつもりはないが、そこで図に乗る中国や韓国への対応は弱腰だった。ここまで言ってもやっても日本は遺憾と称するだけで実害はないと、足下を見られているに違いない。かつて米中和解に漕ぎつけて中国を懐柔したニクソン元大統領は後に、フランケンシュタインをつくってしまったのではないかと自省した。日本も、是々非々の対応をせずに不幸な関係を構造化し、中国をのさばらせてしまったことを反省すべきかもしれない。煮ても焼いても食えない相手と付き合うには、故・安倍元総理のような忍耐と多少の人の悪さが必要だろう。日本人には(とりわけ良い顔をしたがるリベラル・メディアには)耐えられないかもしれないが。

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トレードマークはweird

2024-09-12 01:10:30 | 時事放談

 米大統領選の討論会があったが、上智大の前嶋和弘教授は、二人の話は「終始全くかみ合わず」、今回の討論会は「大統領選の行方を変えることはなく」、今後の展望については「大接戦になるだろう」と総括された。

 昼のNHKニュースは、ハリス氏から歩み寄って握手し、トランプ氏は討論会中、ハリス氏の顔を見ることがなかったと伝えた。CNNは「トランプ氏のチームと共和党員が司会者を非難し始めている」と伝えた。「司会者はトランプ氏の発言について事実確認をしている一方でハリス氏についてはしておらず、ハリス氏にはより柔らかい質問をしていると主張している」のだそうで、これは「トランプ氏の支持者らが、トランプ氏がこの討論会で『勝利』したと考えていないことの表れ」だと指摘した。確かにいつもの根拠のないハチャメチャな自信満々さが感じられない。

 先週には、トランプ氏とバンス副大統領候補は、民主党候補側から「weird(変な人)」呼ばわりされて、予想以上に感情的に苛立っているとの観測記事もあった。

 そもそも相手にレッテルを貼って喜んでいたのはトランプの方だった。

  • Crooked Hillary(邪悪なヒラリー)
  • Low energy Jeb(低エネルギー・ジェブ)
  • Lying Ted(嘘つきテッド)
  • Sleepy Joe(寝ぼけジョー)
  • Crazy Kamala(クレイジー・カマラ)
  • Laughing Kamala(爆笑カマラ)

 まるで小学生である(微笑)。不動産ビジネスあがりで、価値よりディールを好み、「アプレンティス」なるリアリティ番組で、型破りで独善的で過激で詰めが甘く論理に飛躍があり予測不可能な言動で名を売って、大阪弁で言うところの「いきり」そのものである。「いきってる」というのは「粋がる」「調子にのる」「格好つける」というほどの意味で、ヤンキーのお兄ちゃんが使う以外には主にそのような小学生に与えられる称号で、だいたい周囲から浮いている(微笑)。

 これまで言論空間ではトランプ氏に関してもっともらしく複雑な人格分析が競われて来た。複雑な形容詞なら、本人は褒め言葉と受け止めるかもしれない(そこが「いきり」の本領)が、それに比べて、「weird」は素朴な庶民感覚そのままに、小難しい論理や子供じみた感情は抜きに、何の誤解もなくストレートで、それだけに威力があるのかも知れない。まあ、本人は攻撃好きだが逆に攻撃されることに慣れていないだけかも知れない。

 国取り合戦で言えば、ブルー・ステイト(民主党優位)とレッド・ステイト(共和党優位)を除くスウィング・ステイト(接戦)7州が帰趨を握ると言われる。同様に政策論争で言えば、それぞれの岩盤支持層の間にある無党派層の取込みが焦点だと言われる。ハリス氏個人は、移民政策では急進左派サンダース氏より左寄りの寛容な姿勢を示し、気候変動対策案「グリーン・ディール」の起案者の一人だったが、バイデン政権が推進して来たような、より穏健な政策を主張するのだろう。民主党内では、必ずしもハリス氏を支持していなかったが、トランプ氏に大統領の座を渡すくらいなら、一致団結した方がよい、というような流れが出来たが、この感覚を無党派層にまで広げられるかどうかが鍵になるのだろう。

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経済安全保障の罠

2024-09-07 09:26:00 | 時事放談

 日本製鉄によるUSスチール買収が難航しており、ワシントン・ポストなどはバイデン大統領が中止命令を出す方向で最終調整に入ったと伝えたらしい。悪手だ。

 かつて「鉄は国家なり」と言われたもので、これは日本製鉄の前身・官営八幡製鉄所の火入れ式(1901年)で伊藤博文が述べたものとされる。鉄は、18世紀後半の産業革命以来、船や大砲を造り、海洋国家イギリスの繁栄を支えた。19世紀後半には鉄道を造り、帝国主義全盛の時代の国力の源泉として、大陸国家ドイツの躍進を支えた。昨今、中国による一帯一路がそうだとまでは言わないが、鉄道網は軍の迅速な動員を容易ならしめ、イギリス人で地政学の祖とされるハルフォード・マッキンダーをして、ドイツの台頭を警戒させ、その抑止を唱えさせたほどだった。伊藤博文の50年前に、鉄血宰相の異名を持つビスマルクが議会演説で「国家は血なり、鉄なり」と発言した故事を、伊藤博文も知っていたのだろう。

 そんな鉄だから、アメリカでもUSスチールは名門企業の一つに数えられ、20世紀のアメリカの台頭を支えた。それだけに、昨年末、日本製鉄がUSスチール買収を発表したときには、否応なく時代の流れを感じないわけには行かなかったし、むしろ中国の台頭のもとで遅きに失したと言うべきかもしれない。最近と言わず日経新聞を飾るバズワードは(些か加熱気味ではあるが)AIや半導体であり、国力の源泉も、次の産業革命を牽引するのも、鉄ではなくてデータである。

 アメリカにはそんな郷愁もあり、日鉄によるUSスチール買収は一筋縄では行かないのではないかと、むしろこれが成功すれば快挙だと思っていた。経済合理性からは買収を是とするが、非とする理由は経済安全保障だと言う。これまで大統領令によって取引差止めの判断が下されたのは、実質的に全て中国がらみだったのに、よりによって今回は同盟国・日本が相手である。

 巷間、言われる通り、民主・共和の支持率が拮抗する大統領選を前に政治問題化されてしまったのだろう。労働組合が反対の声を上げると、ポピュリストのトランプ大統領候補も反対の声を上げて、労働者に寄り添う姿勢を見せた。USスチール本社があるのはスウィング・ステート7州の内の一つ、ラストベルトのペンシルベニアである。労組を基盤にする民主党のバイデン大統領も反対しないわけには行かない。

 昨日の日経によれば、選挙期間中より後に交渉した方が有利になるから、中止命令が出る前にCFIUS(対米外国投資委員会)の審査を取り下げる選択肢があるのではないかという識者の声を伝えた。他方で、申請を取り下げた場合、買収の破談に伴う違約金(5億6500万ドル)を日鉄が支払わなければならないという(敵対的ではない交渉事だから何とかなるだろうと思うが)。ジレンマである。が、同盟国相手の経済安全保障問題の先例は将来に禍根を残す。これでは安全保障概念が曖昧だと批判される中国に寄ってしまって、中国から、ほら見たことかと嗤われてしまうではないか。

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