風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

韓国擾乱

2024-12-21 10:39:57 | 時事放談

 韓国国会は14日、非常戒厳を宣布した尹錫悦大統領の弾劾訴追案を可決した。尹氏は職務停止され、憲法裁判所が尹氏を罷免するか復職させるか審理することになるようだ。

 忙しない師走に入って、驚かされることが相次いだ。韓国では3日の夜に非常戒厳が宣布され、その僅か6時間後には解除された。まさか戦争か大災害でも起こったのかと訝ったら、さにあらず、尹氏が血迷って、国政を安定的に運用する能力を失ったことを自ら白状するのような(元検事総長にしては)軽挙妄動で、背後の政治闘争にもっと目を向けてあげた方がよさそうだ。韓国の民主主義が機能したと安堵する声が多いが、そもそも「法」の支配よりも「感情」が支配する国であり、反対デモは(報道によればKポップのコンサートのように)若者たちも多く参加して平和的に行われているようだが、国連貿易開発会議(UNCTAD)が韓国の地位を発展途上国から先進国のグループに変更することを可決してから既に3年が過ぎてなお、検事総長出身の尹氏を錯乱!?させてしまうほどの与野党の確執の異常さには、今更ながら驚かされるとともに、相変わらずやなあ・・・とつい溜息が漏れる。そしてシリアでは8日にアサド政権があっさり崩壊した。権威主義体制とは、こういうものかも知れない。習近平氏の中国や金正恩氏の北朝鮮も、ある日、ぷっつり息絶えるかもしれない。習氏も金氏もさぞビビったことだろう。そして、反体制派を徹底弾圧する強権政治と、不満の芽を徹底除去する監視社会に、益々傾くのだろう。

 韓国の話に戻る。

 非常戒厳を宣布した際、尹大統領は野党「共に民主党」が22件もの弾劾訴追案を発議し、行政府を麻痺させていると非難した。確かに弾劾訴追案は報道されているだけでも、省庁トップ、裁判官、検事、放送通信委員長など多岐にわたるそうだ。とりわけ「共に民主党」は党代表の李在明氏など同党の政治家に対する不正捜査や裁判を妨害し続け、自分たちの意に沿わない司法判断をするからといって裁判官や検事を弾劾までするに至るのは、三権分立を脅かすものだ。また、あらゆる議案に反対する一方、スパイ法(国家保安法)の廃止を含め、従北親中の「共に民主党」に有利な法律を多数通過させようともしているらしい。国家機能を麻痺させているのはむしろ「共に民主党」のように見える。

 おまけに李代表には、飲酒運転や検事詐称事件に始まり、対北朝鮮送金、市長時代の大長洞開発不正など複数の疑惑があり、現在5件の裁判を抱えているそうだ。先月には、公職選挙法違反事件の一審で懲役1年、執行猶予2年の有罪判決を受けており、最高裁判決が来年前半にも出るとみられ、憲法裁判所が尹大統領の罷免を決める前に李代表の有罪が確定すれば、10年間、被選挙権が剥奪され、次の大統領選挙に出馬できなくなるという。そのため李代表は、控訴審の弁護士を選任せず、訴訟に関する通知を受け取ろうともせず、訴訟を遅延させることを狙った行為ではないかと与党議員から批判されている。尹大統領の弾劾が決まって、李代表が「次は一日も早く罷免を」と訴えたのは、早く大統領選挙に持ち込みたい自己都合でもあるようだ。

 他方、大統領夫人(金建希)の株価操作や賄賂授受の疑惑を巡って野党の追及が加速し、国会での多数の力で特別検察官の任命を可決すると、尹大統領が拒否権を行使して止めるというサイクルが三度も繰り返されているそうだ。頑なに夫人を庇う尹大統領の姿勢には与党内からも苦言が呈されているようだが、もとより夫人のスキャンダルは国家を左右するほど大層なものではなく、「叩けば叩くほど政権支持率が下がる」類いの、政争カードの一つに過ぎない。その意味では、尹大統領が与党から辞職するよう働きかけられたのを拒み、弾劾訴追を受けて立つと表明したのも、その方が時間がかかり、その前に李代表の有罪が確定する公算が高まると判断した自己都合と見られる。与党・尹大統領と言い、野党「共に民主党」と言い、同じ穴の狢である。

 韓国内のこうしたドロドロの政争は、国内に閉じてやってもらう分には全く構わないが、外交に、とりわけわが国に影響があるとすれば問題である。実際に一回目の弾劾案の結論には次のような内容が含まれていた。「価値外交という美名のもとで地政学的バランスを度外視し、朝中露を敵対視し、日本中心の奇異な外交政策に固執し、東北アジアにおいて孤立を招き、戦争の危機を触発した」。今回の弾劾騒動は、韓国の民主主義が機能したからではなく、いつもの左右のイデオロギー闘争であった証拠でもある。

 こうして、尹大統領が進めて来た親日・親米路線は、当初懸念されていたように、挫折する。尹大統領自身も、歴代大統領と同様に収監か自殺かというような不幸な末路を辿るのだろうか。

 韓国社会の分断は米国のそれ以上であって、三韓時代に遡り、現代の北(朝鮮)、左、右に繋がる歴史的なものだとすれば、根深い。いや逆に、儒教における「正義」の考え方をバックボーンに、地政学的要衝ゆえの「恨」の文化をもつ国だからこそ、党派性から脱却できず、歴史的・構造的なものとなっているのではないだろうか。この「恨」について、呉善花さんがうまい説明をされていた。「韓国の『恨』は、韓国伝統の独特な情緒です。恨は単なるうらみの情ではなく、達成したいけれども達成できない、自分の内部に生まれるある種の『くやしさ』に発しています。それが具体的な対象をもたないときは、自分に対する『嘆き』として表われ、具体的な対象を持つとそれが『うらみ』として表われ、相手に激しく恨をぶつけることになっていきます」(文春新書『朴槿恵の真実』から)。

 そして、尹大統領が懸念するように、北は南の党派対立を陰で煽っていることだろう。ロシア、中国、イラン、北朝鮮の枢軸が形成されつつあるややこしい時代に、朝鮮半島の南ではコップの中の争いが西側の足並みを乱す、困った国だ。これは韓国人の民度を示すというよりは、他国の影響を受けやすい半島という土地柄のもたらす不幸と言えるのかもしれない。尹大統領が無理をして来ただけに、その反動は如何ほどのものになるのか、私たちには想像もつかないが覚悟しなければならないのだろう。

 朝鮮半島は、日清・日露戦争当時も、朝鮮戦争当時(と言っても現在まで続いているが)も、今も、日本にとって頭痛のタネであり続ける。

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あるリアリストのグランド・ストラテジー

2024-11-19 00:41:30 | 時事放談

 トランプ氏の政権人事が話題だ。2017年に始まる一期目では政界に不慣れだったため、プロフェッショナルで信頼できる人物が閣僚に選ばれて、多少なりともトランプ氏が暴走する歯止めになったし、その分、気に入らないからと首のすげ替えも頻繁に行われたのだが、2025年に始まる二期目ともなるとそうは行きそうにない。誰がどんな人物か、どこにどんな人物がいるか、トランプ氏にも見当がつくので、どうやらトランプ氏のお眼鏡にかなう「忠誠心ファースト」を軸に選考が進んでいるように見受けられる。そのため、早くも人選を危ぶむ声が漏れ伝わる。

 女性初の大統領首席補佐官に起用されるスーザン・ワイルズ氏は、フロリダ州の政治コンサルタントで、ワシントンの政界に必ずしも明るいわけではない。しかし、トランプ氏に対して批判的な言葉遣いをせず、感情を表に出さず、トランプ氏の怒りをそのままに受け入れることができる寛容な人物だと言われており、そのあたりがトランプ氏にとっては居心地良い存在なのかもしれない。

 型破りとされるのは、国防長官に指名されたピート・ヘグセス氏、司法長官に指名されたマット・ゲーツ氏、保健福祉長官に指名されたロバート・ケネディ・ジュニア氏の三人であろう。新・国防長官候補は、元軍人でイラクやアフガニスタンへの従軍経験こそあるが、その後はテレビ司会者やコメンテーターとして活動し、軍や国防の上級職の経験がないため、関係者からは「そもそも誰だ?」との声まであがっているらしい。新・司法長官候補は、共和党選出の下院議員で、未成年との性的関係、薬物使用、収賄疑惑で下院倫理委員会の調査を受けるという、トランプ氏同様の「お尋ね者」である。新・保健福祉長官候補は環境弁護士で、医学や公衆衛生の専門家ではない上に、反ワクチン論者として積極的に発言してきた陰謀論者である。

 と、前置きはさておき、トランプ政権一期目の国防次官補代理で、「国防戦略」を纏める過程で主導的役割を果たしたとされるエルブリッジ・コルビー氏の著作『拒否戦略』(日経新聞出版)を(インタビュアーであり訳者の奥山真司氏によれば)一般読者向けに分かりやすく説明したという『アジア・ファースト』(文春新書)を読んだ。奥山氏は、コルビー氏が戦略論の世界においてバーナード・ブローディやジョージ・ケナンやアンドリュー・クレピネヴィッチやアンドリュー・マーシャルやロバート・ワークと並び歴史に名を残すことになる人物などと最大級の賛辞を寄せ、共和党政権で政権入りし、「拒否戦略」が実行されたり大きな影響を与えることはほぼ確実と予想されている。今のところまだ名前が挙がっていないが、既にトランプ氏の思想に大きく影響を与えているようなので、概要を見てみよう。

 「拒否戦略(Strategy of Denial)」とは、「中国の地域覇権」を拒否することにあり、具体的には、中国政府の覇権拡大の野望を完全に封じ込めるために、アメリカとそのアジアの同盟国は積極的に軍備を拡大し、それによって地域のパワー・バランスを安定させ、結果として中国側の意図を挫くことに集中すべき、というものだ。ちょっと長くなるが、以下に抜粋する。

 

 基本的な理解として、代表的なパワーとはマクロ的に見た経済的な生産性を指し、それは軍事力に転換可能である。そして、人間の意志を強制的に変えさせることが出来る手段は顔に銃を突きつけたときだけであるという意味で、最も効果的な影響力は軍事力である。

 世界をパワーという観点で見たときに経済的生産性が強い場所は、かつては圧倒的にヨーロッパを中心とする北大西洋地域だったが、今は東アジアの沿岸部から東南アジアにかけて下ってインドの周辺部であり、しかも益々その集中度を高めている。

 そこで台頭する大国・中国は当然のように覇権を求める。アジアで地域覇権を確立することは、彼らの安全と繁栄に大きくプラスをもたらすものだからである。端的な例は「マラッカ・ジレンマ」で、中国が経済発展するほどに石油などの原料を輸入する海路としてのマラッカ海峡や南シナ海の重要性が増し、自らのコントロール下に置きたくなる。

 こうして、世界には「主要な戦域」が存在することが分かる。元・外交官であり学者でもあったジョージ・ケナンや、国際政治学者ニコラス・スパイクマンが唱えたように、アメリカの戦略の基盤は、第二次世界大戦のみならず戦後の冷戦期から今日に至るまで「主要な戦域」をベースにしている。そして、冷戦期の「主要な戦域」はヨーロッパであり、そこでソ連や共産主義国による統一を「拒否」することや「コントロールすること」に主眼を置いた。現在はこれと全く同じロジックを中国に対して適用する必要がある。

 ところが、アメリカ政府は既に複数の戦域で軍事的な戦闘を維持することは不可能であることを認めており、潜在的に中国に後れを取り始めている。

 そこで我々には「反覇権連合(anti-hegemonic coalition)」なる同盟関係が必要になる。これは必ずしも「反中連合」である必要はなく、飽くまで「中国の覇権に反対する」意味である。同盟に参加するのは、自由主義の日本であれ、共産主義のベトナムであれ、東南アジアの中のイスラム教政権であれ、政権の性質に関係がなく、とにかく中国の支配下で生きたくないのであれば、中国が意志を押し付けるのを阻止するべく、協力する。アメリカはこのような同盟があれば、自分たちだけでその重荷を背負う必要はない。「反覇権連合」を運営していくということだ。

 ここで重要なのは、「反覇権連合」の目標は中国打倒、すなわち「中国を弱体化させる」、あるいは「中国の体制(レジーム)を転換させる」「中国を国際社会から追い落とす」ことではないということだ。他国を侵略しなければ、中国は「中華民族の偉大な復興」を達成しても構わない。

 アメリカの国益は、中国共産党と生きるか死ぬかのデスマッチをやることではない。共産主義は嫌いだが、アメリカはわざわざ中国と生存競争する必要はない。これは日本にも台湾にも当てはまる。我々は中国から「我々の境界線」や「勢力均衡(balance of power)」を尊重してもらえさえすればいい。

 アメリカという国家の根本的な目的は、他者の利益に配慮しながら、自国の利益を守り、前進させることにある。言い換えると、国家の物理的な面での安全と、自由な政治体制を守り、アメリカの経済面での安全と繁栄を促進すること、それがアメリカの「国益」である。こうした利益追求を行うには、アメリカに有利なバランス・オブ・パワーの状態を維持することが必要であり、その根本には他国が彼らの意志をメリカに押し付けることが出来るほど強大になることは望まない、という考えがある。

 こうして中国を相手にしたゲームのゴールは、彼らの侵略を不可能にするパワー・バランスの構築であり、最終的には「デタント(緊張緩和)」である。但し、「デタント」は軍事的な強さを通じてしか実現できない。「力によるデタント」こそが私が提唱するモデルである。レーガン元・大統領は、経済力や軍事力を強くすることによって、冷戦終結についてゴルバチョフと対話することを可能にした。我々は、中国がソ連のように崩壊することを期待できないし、期待するべきでもなく、また期待する必要もない。しかし「デタント」は可能だ。中国と向き合うときに重要なのは、「中国への優越」ではなく「中国とのバランス」なのだ。

 

 どうだろうか。トランプ氏が、ウクライナ戦争を24時間で終わらせると豪語するのは、ひとえに「アジア・ファースト」(究極は「アメリカ・ファースト」なのだが)、すなわち中国にフォーカスするために他ならないのではないだろうか。

 バイデン大統領の民主主義サミットのように、「理念」を振りかざし、権威主義国とまでは言えない国々をわざわざ分断し置き去りにする必要はない。国家の体制如何に関わらず、ただ中国の覇権に反対し、中国が意志を押し付けてくるのを阻止したい国と地域とで纏まればよいというのは、リアリストの本領であろう。「理念」を掲げて権威主義国のレジーム・チェンジを目指すのは僭越であって、飽くまでパワー・バランスを求めるというのもまたリアリストたる所以である。

 だからと言って、パワーの源をひとえに軍事力ひいては経済力という、いずれにしてもハード・パワーと見なすのは、行き過ぎであろう。パワーが重要であるのは論を俟たないし、日本が、相対的にパワーが低下するアメリカをアジアに引き留め、「反覇権連合」を組むためには、パワーを強化する覚悟が必要だが(余計なお世話だがコルビー氏はGDP比3%必要だと主張)、同時に、理想主義的な「理念」もまた重要、すなわち「ハード・パワー」と「ソフト・パワー」あるいは「理念」のバランスが重要なのであって、ピュアなリアリストを補ってやる必要があるように思う。

 ここに見えるのは、一つのグランド・ストラテジーであって、日本はどのように覚悟し対応するべきか、一つの思考実験として書いてみた。

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またトラ

2024-11-12 23:41:52 | 時事放談

 今週発売のNewsweek日本版の表紙タイトルはたった四文字「またトラ」。背景には、いつになく笑顔がなく神妙な、しかし自信に満ちて右手を高く掲げるトランプ氏の写真を配した。受け入れたくないけれども受け入れざるを得ない現実をまざまざと見せつける秀逸な表紙である。

 ジョージタウン大学教授のサム・ポトリッキオ氏による「トランプの地滑り的勝利には理由がある」と題するコラムがまた秀逸だった。理由として五点挙げられた内の三点を紹介しよう。先ず、世界的にも「現職」が不利、ということだ。今年は選挙イヤーと言われ、イギリスでもフランスでもオーストリアでも日本でも、与党は見事に惨敗した。トランプが復活に成功したのは、「彼の特別な資質というより、彼に強力な追い風を与えた外的条件のおかげ」というわけだ。そして、「ハリスの運命は彼女が現職のバイデンから距離を置き損ねたときに決定づけられたように思える」として、10月8日にABCテレビの情報番組「ザ・ビュー」に招かれて、過去4年間でバイデンと違うことが出来たとすれば何かと問われて、「何一つ思い当たらない」と答えてしまった場面を挙げている。続いて、主流メディアの影響力が低下した、ということだ。お騒がせコメディアン兼コメンテーターのジョー・ローガンが主催するポッドキャストや起業家イーロン・マスクのXへの投稿に触れる人たちは、ニューヨーク・タイムズの購読者の30~40倍もいるのだ、と。そして三つ目に、投票行動は変わりやすいとして、「アメリカのように細かく分断されてしまった国では、物事がどちらへ転ぶかは、マスメディアに背を向け政府にも政治にも無関心な有権者が考えを変え、雨の日に投票所へ足を運んでくれるかどうかに懸かっている」との皮肉で結んでいる。

 トランプ再選について、20世紀における理念と知性に基づく所謂「アメリカン・デモクラシー」が衰亡した証しだとか、為政者と大衆の欲望が共鳴して民主制の名の下に成立する古典的な「暴民(衆愚)政治」が装い新たに21世紀の「アメリカン・デモクラシー」として降臨した、などとまことしやかに大袈裟に悲観する声がある。しかし「デモクラシー」は所詮は政治制度の一つに過ぎなくて、統治者が選挙によって選ばれることと、言論の自由がある程度保障されて政府批判できることの二つが条件だと一般に解されるようなものだとすれば、アメリカで「デモクラシー」は立派に機能しており、問題があるとは思えない(因みに中国では二つのいずれもが欠けており、中国共産党が宣伝するようには「デモクラシー」と呼べる代物ではないのは明らか)。かのアリストテレスも、政治制度を統治者の数で分け、それが一人の時には(良い政治としての)君主政にもなれば(悪い政治としての)僭主政にもなり、数人の時には(良い政治としての)貴族政にもなれば(悪い政治としての)寡頭政にもなり、多数の時(所謂デモクラシー)には(良い政治としての)ポリスの政治にもなれば(悪い政治としての)暴民(衆愚)政(民衆のことを愚かと呼んでは怒られるので、現代風に言えばポピュリズム)にもなる、と達観している。どの政治制度も、上手く行くこともあれば上手く行かないこともある、というに過ぎず、政治制度そのものは価値中立的である。問題は統治者(の候補者の適格性)であり、つまりは(なぜなぜ分析風に突き詰めれば、それを選ぶ)被治者(人民または国民)に帰すべきものであって、だからと言ってアメリカ人の民度が落ちたとは思えないから、結局、社会の分断のありようが政治に反映されているに過ぎないと言わざるを得ない。実際のところ、国民は目先の経済・社会的なこと(物価高や、雇用や治安に関わる移民問題)に多くの関心を寄せ、アメリカの国益とは何か、国際社会において安全保障をどのように確保するか、なんてことを(私たち日本人が期待するように)考える人は稀だろう。こうした国民と言うより社会の状況が、良からぬ(と、部外者の私たちがつい考えてしまう)候補者に利用されていると言えなくはない。

 いずれにしても、よく言われるように、トランプが原因なのではなく、トランプ現象は結果に過ぎない。その潮流が与える影響に、私たちは備えなければならない。

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プーチンの戦い

2024-11-10 01:24:31 | 時事放談

 プーチンは、一昨日、ロシア南部ソチで開かれた国際有識者会議(バルダイ・クラブ)で、「我々は危険な領域に達している」(We have come to a dangerous line.)、「世界最多の核兵器を持つロシアに戦略的敗北をもたらそうという西側諸国の動きは、西側の政治家による無謀な冒険だ」(The calls of the West to inflict a strategic defeat on Russia, a country with the largest arsenal of nuclear weapons, demonstrates the exorbitant adventurism of Western politicians.)と述べたそうだ(ロイターによる)。その上で、1991年のソ連崩壊後、西側諸国はロシアを敗北国として扱おうとしたとし、米国主導の北大西洋条約機構(NATO)は時代遅れだと指摘し(The West had arrogantly sought to cast Russia as a defeated power after the 1991 fall of the Soviet Union, he said, describing the U.S.-led NATO military alliance as an anachronism.)、米国とその同盟国によるロシアを孤立させようとする試みにもかかわらず、ロシアは西側を敵とは見なしていないと述べた(Russia, he said, did not consider Western civilisation to be the enemy despite attempts by the United States and its allies to isolate Moscow.)という。

 トランプ氏が勝利したことを知って、浮かれてつい口が滑ったのだろうか。被害妄想に囚われてウクライナを侵略し、ウクライナを支援する西側を非難しつつも、戦争の長いトンネルから抜け出るために淡い期待を捨てきれない、屈折した心情をはしなくも吐露している。

 プーチンが戦っているのはウクライナだけではない。旧ソ連の勢力圏で戦い続けている。

 先月末のジョージア議会選挙で、ロシアに融和的で欧米との関係を悪化させてきた与党「ジョージアの夢」の得票率が54%に達したのは、選挙不正があったためだとして大規模デモが続き、騒然となった。今月初めのモルドバ大統領選挙では、親欧米の現職大統領が勝利し、ロシア外務省が「最も非民主的な選挙キャンペーンだった」と非難する始末で、ここでもロシア対EUの代理戦争の様相である。

 ヨーロッパでもなければアジアでもない、あの広大な領土を包囲されていると思い込み、もはやモンゴルのような勢力に攻め込まれることはないにしても、カラー革命のように西側の策動によって周辺諸国が(ヨーロッパ寄りに)体制転覆させられるのではないかと怯え、疑心暗鬼の塊になっている大陸国家ロシアの「宿痾」であろう。台頭する中国と(表面上は)仲良くしつつ、冷戦時代とはまるで立場が逆転するのが、プーチンやロシア人にとっては屈辱のようだ。大国意識だけは依然強くても国力は明らかに凋落するばかりのロシアに対して、西側諸国をはじめとする世界はどう折り合いをつけて行けばよいのだろうか。

 私が敬愛してやまない故・高坂正堯氏は、再刊された最晩年の著作の中で次のように達観されている。「自分の基準で割り切るのではなく、その国、その土地の事情を認識して、自分たちが重要と思う『価値』が少しでも充足される方向に行くように見守る、という態度が必要なのだ」と。これは30年前、台頭する中国について述べられたものだが、「こうした態度はより困難な問題である台湾問題について一層必要だ」とも述べられる。(台湾独立のように)「黒白をつけようとすると状況が悪化するなら、その奇妙な状況を続け、中国人自身がなんらかの新しいフォーミュラ(方式)を作るまで待つしかないように思われる」とも。もちろん「見守る」という態度は、拱手傍観の意味ではなく、何等かの関与を求めるものだろう。しかし、ロシアにしても中国にしても、外から何を言われても聞く耳をもつわけではなく、結局、決めるのは彼ら自身なのである、というような割り切りは、穏健な保守主義の真骨頂であろう。その上で、何をするべきかが重要なのだが、答えを求めようにも、高坂先生はもうこの世にいない・・・。

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トランプ氏大勝

2024-11-07 23:45:15 | 時事放談

 政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の各種世論調査のまとめによると、投票前日の夜時点の全米平均支持率は、ハリス氏48.7%、トランプ氏48.6%とほぼ互角、激戦州でもそれぞれ僅差で競うという、史上稀にみる大接戦で、開票作業には数日かかると見られていたのに、実際に全てが判明したわけでもないのに、その日の内にトランプ氏の当選が決まったということは、トランプ氏「圧勝」の報道には違和感を覚えたが、「大勝」だったのは間違いない。大統領経験者が返り咲きを果たすのは19世紀のクリーブランド以来132年ぶりで、史上2人目だそうだから、快挙ではあろう。

 トランプ氏が来年1月20日に第47代大統領の就任式を迎えるとは・・・悪夢だ(笑)。いや、トランプ氏にしてもカマラ・ハリス女史にしても、どちらの候補が勝つのも現実問題として想像し辛く、受け止め辛いという、なんとも不思議な選挙だった。やはり選挙は蓋を開けてみなければ分からない。有権者にとっては何だかんだ言って目先の経済が重要で、バイデン政権下の物価高が民主党への不信任に繋がった可能性が高い。ハリス女史は、バイデン氏に代わる民主党候補として、トランプ氏よりも若く、トランプ氏のようなウソ・ハッタリや大言壮語はなく、女性で非白人のマイノリティとして、一時的に盛り上がったが、そもそも副大統領職は存在感が薄い上に、長期にわたる予備選挙を勝ち抜いたわけではないので、何を目指すのか、人となりはどうか、品定めする時間が乏しく、結局、期待感なるメッキが剥げ落ちるように後退し、ガラスの天井と言うよりも大統領としての実務能力に疑問符がつくという側面があったような気がする。他方の二期目のトランプ氏にとって勝手知ったる政権人事で、もはや猛獣使いはいなくなる可能性がないではないが、それでもトランプ氏個人の偏執的な関心の在処や独特の国益観念はともかくとして、周辺を固める要職にはもう少し常識も国益もあるだろうという一縷の望みは期待出来るし、トランプ氏お得意の舌禍はあっても大統領の暴走を止める制度的な仕組みがないわけではない。また、共和党員の不在者投票が増えたとの報道があったから、TVコマーシャルなどの所謂空中戦だけでなく、アメリカ流ドブ板選挙で共和党が健闘したということでもあっただろう。

 得票数を見ると、今のところトランプ氏の約7200万票に達しハリス氏の約6700万票と、「圧勝」と言ってよいのか分からないが、2004年の大統領選で子・ブッシュ氏が勝利して以来、20年ぶりに共和党候補が民主党候補の得票数を上回る見通しだという意味では、やはり快挙と言うべきだろう。日本の衆院選で、民意はなんと移ろい易く、しかし、民意は実によく出来たもので、侮れないものだとも思うと、ブログに書いた。此度は、これがアメリカの民意なのだと認めないわけには行かないし、諦めるしかない。

 かねてイスラエルを支持しウクライナ戦争を「24時間で終わらせる」と豪語するトランプ大統領について、イスラエルのネタニヤフ首相やプーチン大統領はほくそ笑む一方、ウクライナのゼレンスキー大統領や西側首脳は頭を抱えているだろう。バイデン大統領はトランプ氏が大統領に就任する前に既に予算確保された60億ドル以上のウクライナ支援を執行しようとしている。習近平国家主席は予測不能を嫌いつつもディール出来るのではないかと期待しているかもしれない。韓国では、前任の文在寅氏が信頼されていなかっただけに、警戒し、慎重になっているだろう。金正恩総書記は、図に乗ってしっぺ返しを受けたことから、もはや夢見ることはないだろうし、ロシアと蜜月なのでさして期待していないと思いたいが、先月、かつての米朝首脳会談に同行した人物やアメリカ通を少なくとも2人立て続けに外交、防衛の要職に起用したらしく、トランプ氏を抱き込む隙をうかがっている可能性があると見る向きもある(二匹目のドジョウはいないと思うが、でも何しろトランプだからなあ)。そして日本にはもはや安倍元総理はいない。軍事オタクでリベラルな、何より慶応高校時代に体育会ゴルフ部に所属していたという石破さんは、果たしてトランプ氏とゴルフが出来る(すなわち懐に入り込める)だろうか。

 台湾有事が懸念される2027年を含む今後の4年間は、初代NATO事務総長だったイギリスのヘイスティングス・イスメイ陸軍大将がNATOのミッションを“to keep the Soviet Union out, the Americans in, and the Germans down”と語ったように(もっとも昨今は”to keep America in, Russia Down, and China out”などと言う人がいる)、東アジアにおいて“to keep the Russians(あるいはNobody) out, the Americans in, and the Chinese down”を守ることが出来るかどうかがポイントだと思うのだが・・・

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自民党惨敗

2024-10-30 01:00:58 | 時事放談

 此度の衆議院議員選挙は、下馬評通り、「政治とカネ」の問題で与党に逆風が吹き、2009年以来15年振りに過半数を割る結果となった。自民党支持層や無党派層が自民党に入れるのを躊躇う(つまりお灸を据える)という自民党の一人負けだった。小選挙区では立憲民主が票を拾ったが、政党支持という観点から比例代表の得票数を2021年の前回衆院選と比べると、自民党は実に533万票減らして1458万票に、維新が295万票減らして510万票に落ち込み、これら800万票の受け皿となったのは国民民主とれいわと新参者(参政と日本保守)で、それぞれ358万票増の617万票、159万票増の380万票、そして新参者が301万票獲得と圧倒的だった。他方、立憲民主は7万票増の1156万票にとどまっている。

 こうした状況は投票率からも裏付けられる。民主党が政権交代を実現した2009年には(小泉郵政解散67.51%を上回る)69.28%まで盛り上がったが、安倍政権下では50%台前半を低空飛行し、今回は前回55.93%を下回る53.85%と、戦後三番目に低調だった。野田佳彦氏は立憲民主代表に就任した時、「本来は自民支持だが(裏金事件に)失望した保守層の心をつかむことだ」と述べ、実際に小選挙区では政権批判票の受け皿になることに成功したが、前回の衆院選で日本共産党と(政権交代の暁には)「限定的な閣外からの協力」で合意した立憲民主という政党が期待されるはずもなく、投票率は盛り上がらなかったと言うべきだろう。

こうしてみると、民意は移ろい易いものだと思う。多くのメディアが「政治とカネの問題」ではなく「裏金問題」などとレッテルを貼り、立憲民主は「裏金隠し解散」だと攻撃して、政治不信が深まった。正確には政治資金の収支報告書不記載は透明性の問題であって裏金とは違うように思うが、見事に印象操作された。それにしても、そのような移ろい易い民意を自民党は汲み取ることなく、石破茂氏が言う通り自民党には「緩み」や「驕り」があった。投票直前に、非公認候補が代表を務める政党支部に2000万円が支給されたことが「しんぶん赤旗」にすっぱ抜かれると、野党から「また裏金か」とダメ押しのように批判され、石破氏は「法的には全く問題はない」と弁解したが、この期に及んで法律云々はない。もっと別の言い方があっただろう。1993年に政権交代が起こってから次の政権交代が起こった2009年まで16年、更に今年まで15年と、15年前後でタガが緩む、懲りない自民党である。

 同時に、民意は実によく出来たもので、侮れないものだとも思う。与党に過半数を許さなかったが、政権交代までは求めなかった。石破氏は、安倍元首相が好んで使ったフレーズを引用して、「『悪夢のような民主党政権』と言うが、あのときほど野党で申し訳ないと思ったことはない」、「『あんな人たち』にこの国を任せるわけにはいかない」などと街頭演説で野党批判したのは、単に危機感のあらわれであって、印象操作の効果があったかどうか・・・。

 国民民主の躍進が際立つが、所詮はどこかに入れなければならないときに消去法で残っただけという冷めた見方がある。その通りだろう。しかし国民民主は、自公と立憲民主との間で、キャスティング・ボートを握る立場に至った。玉木雄一郎代表は、自公連立政権への参画を否定し、部分連合の可能性に言及するが、連立参画だろうが部分連合だろうが、慶應の土居丈朗教授が言われるように「(連立政権で加わる政党が増えると)歳出増圧力が高まり、財政赤字が増えるとの先進国に関する経済学の先行研究がある」そうで、どの党も有権者の歓心を買うためにバラマキを公約するご時世に財政規律が緩むこと、決められない政治に陥りかねないこと、が気がかりだ。

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北朝鮮の不穏な動き

2024-10-26 07:01:28 | 時事放談

 北朝鮮がロシアへの派兵を始めたのが話題になっている。当初、ウクライナ政府と韓国の情報機関が公表し、つい最近、アメリカの政府高官も認めた。ロシアは「偽情報」として否定してきたが、つい最近、プーチンは、北朝鮮とのパートナーシップ条約をどう履行するかはロシアの問題だと述べて、北朝鮮兵士がロシアに駐留していることを肯定も否定もしなかった。

 これを初めて聞いたとき、いやな時代になったものだと溜息をつくとともに、北朝鮮はロシアから対価として何を手に入れるのか、まさかロシアの虎の子の軍事技術(衛星打上げとか核開発とか)が供与されはしないかと懸念した。かつて中国は、ハンガリー動乱を巡る旧・ソ連内部の政治的混乱に乗じて、ソ連から原爆製造技術の供与を受けることに成功したことがあった。今回、ロシアの弱みは明らかだ。ウクライナ戦争でロシア兵の損耗が著しく、ウクライナによる想定外のロシア・クルスク州侵攻をロシア側には食い止めるだけの余力がどうやらなさそうだという驚くべき惨状が示されているからだ。その意味で、金正恩はプーチンに迫った(おねだりした)のではないかと思った。

 しかし、バーター取引として考えたときに、喉から手が出るほど欲しい軍事技術以前に、金正恩が望むものは他にもあって、プーチンがぶら下げた餌に金正恩が食いついた可能性もありそうだ。巷で言われるのは、先ずは外貨であり、次いで実戦経験だ。アメリカのように、定期的に紛争に首を突っ込んで旧式兵器の在庫を費消したり、軍人に給与を支払いながら実践経験を積ませたりするだけの余裕があればよいが、たとえ休戦中(ということは戦時)であっても、北朝鮮のような貧乏国家が主体的に出来ることは限られている。そうだとすれば、兵器在庫を売却して外貨を稼ぎながら(実際には新型兵器に置き換えるのだろうが)売却し実践投入された弾薬や兵器システムの機能・性能を分析し、軍人を派遣して給与相当を貰いながら(ロシア兵の月給2千ドル、入隊時の一時金1~2万ドルとされるのが本当だとすれば、その二分の一でも三分の一でも北朝鮮にとっては大金だろう)実践経験を積ませることが出来るという、ロシアと対等の契約も、北朝鮮にとってまたとない機会だろう。私の願望でしかないのかもしれないが。

 同じく休戦中の韓国は、NATO型兵器を供給できても、ウクライナ戦域への殺傷兵器の供与を自粛してきただけに、反発した。国際社会、とりわけプーチンが気にするグローバル・サウスの目も光る(欧米の目は今さら気にしても仕方ない)。プーチン流レトリックとすれば、北朝鮮の傭兵を、あくまで自国防衛のためと称してロシア領クルスク州に差し向けるだけかもしれないし(勿論、ドンバスも自国防衛だと主張するだろうが)、特別身分証かパスポートを発給したとの報道もあるから、北朝鮮人をロシア人だと強弁するかもしれない。

 北朝鮮にはリスクもある。かつて毛沢東は、「核戦争になっても別に構わない。(略)中国の人口は6億だが半分が消えてもなお3億がいる。我々は一体何を恐れるのだろうか」と、平和共存を説く当時のソ連共産党フルシチョフ第一書記に豪語したとされる。日頃、人民のことを第一に思う元首様と宣伝するが、人民をコマのように使って痛みを感じないのは、金正恩も独裁者として変わらなくて、戦時のプロパガンダの常として戦争被害があっても徹底的に情報統制するだろうが、遺族の慟哭を完全に抑え切れるものではない。他国の豊かな文化に触れさせないよう、実質的に鎖国政策を執る北朝鮮にとって、兵士の外国への派遣は、労働者の外国への派遣と同様、管理が難しく、ウクライナに寝返る兵士が出て来ないとも限らないし、海外生活に触れれば体制不満に繋がりかねない。それでも兵士を派遣するのは、南朝鮮(韓国)を統一対象ではなく敵対国に認定した金正恩は、南やアメリカとの対決を煽り危機を過剰演出することで社会的な困窮を覆い隠すしか能がなく、案外、切羽詰まっているのかもしれない。

 不安定な時代・・・というのは、言うまでもなく米中間の緊張の高まりや、ロシア対NATOの代理戦争、中東での絶えることのないイスラエル・パレスチナ紛争、さらに中・露・朝・イランの権威主義国(またはBRICSやSCO)に対する自由・民主主義連合(またはOECD)の分断が表面化した時代だからではあるが、そればかりではない。

 杞憂という言葉がある。古代中国の杞の国の人が、天地が崩れ落ちるのではないかと心配して、夜も眠れず食事も喉を通らなかったという「列子」天瑞の故事から、心配する必要のないことをあれこれ心配することを言う。最近の中国や北朝鮮を見ていると、このネット時代に権威主義体制を維持するのは相当キツイだろうし、崩壊するんじゃないかと、つい取り越し苦労をしてしまう(笑)。南海トラフのような大地震と同様、早晩起こることは間違いなく、いつ起こってもおかしくないが、いつ起こるとは言えない感覚である。

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祝・ノーベル平和賞

2024-10-12 18:54:49 | 時事放談

 今年のノーベル平和賞は日本原水爆被害者団体協議会(被団協、東京)に授与されることが発表された。ノーベル賞委員会は「核使用がもたらす人道面の破局的結果」を知らしめる上で被団協が大きな役割を果たしたと称賛し、その活動を通じて「核の使用は道徳的に許されない」との「強力な国際標準」が形成されたと、授賞理由で説明した(産経新聞より)。結成以来68年を経ての快挙だが、ようやく、とか、今さらの感がある、などと嘆くより、かねてノーベル平和賞や文学賞には政治性があると言われてきたように、授賞理由で「現在進行中の戦争で核兵器が使用される脅威もある」と述べられていること(現実の危機)に衝き動かされた状況であることににも留意すべきだろう。

 ロシアはウクライナ戦争で核使用をチラつかせて米国をはじめとするNATO諸国を牽制し、東アジアでは、北朝鮮がとうとう同胞の南朝鮮(韓国)を統一の対象ではなく敵国呼ばわりして核開発をギア・アップし、中国は核保有国として核軍縮のために「誠実に核軍縮交渉を行う義務」(NPT第6条)が求められるにも関わらず(米軍の報道によれば)保有する約500発の核弾頭を2030年までに約1千発に増強する見通しが強まっている。冷戦時代には「恐怖の均衡」と呼ばれ、その危機をコントロールするために大量報復戦略、柔軟対応戦略、相互確証破壊などの抑止論を展開し、いわば「感情」を抑えるための「理性」を働かせる努力をして来たが、戦後79年を経て、その「理性」のタガが外れてしまったかのようだ。

 核廃絶を願う気持ちは尊い。私は、そんな道徳的な活動に寄り添うよりも、どちらかと言うと、歴史においていわゆる暴力が幅を利かせ、現代においてなお市井の声がなかなか届かない、人類の歴史の歪んだメカニズムに反発するがゆえに、その謎解きに惹かれて政治学や法哲学に興味を示すひねくれ者だからこそ、余計にそう思う。なぜなぜ分析をすると、結局、ロシアや中国の統治の脆弱性、ひいては国家(海洋国家と対比した大陸国家)とは何か、権力とは何か・・・という根源的な問いに繋がる(ような気がする)。

 アメリカン大学核問題研究所長のピーター・カズニック教授は時事通信の取材に、「被団協は『世界の良心』であり続けている」と称賛し、平和賞に被団協を推薦してきたと明かした上で、「被爆者が生きているうちにこの賞を授与する緊急性があった」と強調した。ただ、既に被爆者の多くが他界したのは「ほろ苦い」と語ったそうだ(時事通信より)。広島出身の政治家として岸田さんは広島サミットを成功させたように、人類の歴史で唯一の被爆国として、現実主義の政治の中にも、理想主義の炎を絶やすべきではないとつくづく思う。

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石破政権の前途多難な船出

2024-10-05 10:44:17 | 時事放談

 石破茂氏が自民党総裁選を勝ち抜くや、俄かに円高・株安に見舞われ「石破ショック」と呼ばれた。アベノミクスに否定的で財政規律を重視する立場のせいだが、実はMMT論者の高市氏勝利を織り込んで円安・株高に触れていた市場が高市ラリー前に戻っただけで、必ずしも石破さんのせいとは言い切れない。しかし、利上げに肯定的と見られていた石破氏が突如、日銀の追加利上げに否定的な発言をして、再び市場にショックを与えた。かつては、安倍さんなどの後ろから撃つことも厭わない党内野党として、防衛・安保のような得意領域で、あるいは興味のおもむくままに言いたいことが言えたのとは勝手が違い、首相はprimeな閣僚であって、様々な方面に影響が及ぶ発言の重さを踏まえ、不得手なことを含めて全てに責任を負わなければならない立場であることを痛感されているのではないだろうか。

 また、国民に判断材料を与えるのは新・首相の責任だとして、国会(予算委員会)論戦に前向きだったのに、1日夜の記者会見では、9日解散、27日投開票を表明し、主張がブレたことを批判された。党内基盤が弱いだけに、党内調整、組織人事に腐心し、前途多難である。私は石破さんのことが嫌いなわけではなく、むしろ不器用なほどに群れない孤高の一言居士を好ましく思う一方、およそ(数を頼む)政治家らしくないところに危うさを感じ、状況がなさしめたとしか言いようがないこのような事態に置かれた石破さんを歓迎するどころか、気の毒に思う。

 実際に、ご祝儀相場で、新内閣発足直後は高い支持率が期待出来るとは言っても、共同通信社が1、2両日に実施した全国緊急電話世論調査によれば、内閣支持率は50.7%(日経51%)、不支持率は28.9%(同37%)だったようだ。調査手法が異なるため単純比較はできないが、岸田内閣55.7%(同59%)、菅内閣66.4%(同74%)、2012年12月の第2次安倍内閣62.0%(同62%)と比べて高くないのは、自民党ひいては政治への不信が広がって冷ややかに見られているからであって、石破さんのせいばかりとは言えない。それは、石破内閣を支持する理由が「ほかに適当な人がいない」が35.4%(日経では「人柄が信頼出来る」が49%)で最多だったことからも分かる。

 欧米メディアの中には、自民党「独裁」が続く日本は果たして民主的かと疑問視する声があがっているようだが(もしかしたら欧米メディアのリベラル日本人エディターあたりの声かもしれない 笑)、それは自民党という政党の特殊性にある。右の翼から左の翼まで射程が広く、安倍さんのように政治信条は保守でも野党が推進しようとした子育て支援策を横取りするような融通無碍なところがあり、付け入るスキを与えない。ひいてはこれは、アメリカのように考え方が分かれて公開討論で決する国民性とは対照的に、さしたる分断がなく(それを単一民族だからと言ってよいのかどうかは別にして)舞台裏の調整で決するのを好む国民性を反映しているように思う。

 反・自民のリベラル進歩派からは、これでようやく安倍政治を払拭出来たと喜ぶ声が聞こえるが、負け犬の遠吠えのように空しく響く。それを野党が成し遂げられなかったこと、また、安倍さんの後継と目される高市さんは僅差で敗れただけで、状況が違えば総理・総裁への道が開かれていたであろうことに留意すべきだろう。「政治とカネ」の問題は軽視すべきではないが、それを争点化するばかりに本来なすべき政策論議が疎かになるとすれば、その方が問題で、信頼を失った自民党の足を引っ張るばかりで政権担当能力を示し得ない野党に支持が集まらない不幸が続く。アメリカでは議論になることが、日本では左翼的な糾弾になってしまい、噛み合わない。これは野党だけでなく自民党の受け答えにも問題があって、節度ある「議論」が望まれるところだ。

 中国では、石破・新総裁誕生よりも、上野のパンダ帰還の方がメディアでの扱いが大きかったようだ。中国事情通によれば、中国は石破政権を歓迎しないのではなく単に様子見をしていただけということだが、軽くあしらうことに込められたメッセージを読み取るべきだろう。安倍さんとの初の会見で仏頂面を隠さなかった習近平氏を今でもありありと思い出す。中国は、過去200年の屈辱的な歴史のトラウマを抱えながら、大国の威信にかける思いがことのほか強く、俗な言い方をするとチヤホヤされることが大好きでメンツを重んじる、厄介な国である。

 今月末の衆議院選挙に続き、来年7月には参議院選挙が予定される。それまでは不安定ながらも、選挙の顔として選んだ石破氏を多少なりとも支える展開が予想されるが、何と言っても政権基盤が絶望的に脆弱なだけに、短命に終わりかねない。国際情勢は混沌とし、日本が置かれた立場は微妙で、今こそ強力なリーダーシップが必要なときに、コップの中(与野党間だけでなく、自民党内も)の争いに構っている内に埋没しかねないことを危惧しないわけには行かない。このような危機意識と世界の中の日本という視野をもって臨む閣僚、ひいては政治家のセンセイ方はいらっしゃるのだろうか・・・だからこそ、石破さんには是非頑張ってもらいたいと思う。

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自民党総裁選

2024-09-28 13:15:05 | 時事放談

 昨日の自民党総裁選で、石破茂さんが、五度目の正直で新・総裁に選出された。統一教会との癒着や裏金問題などで、自民党への信頼が大きく揺らぐ中、解散・総選挙を視野に、自民党再生を期する今回のような総裁選で勝利されたのは、石破さんのようなお立場の方にはとても象徴的だったように思う。かつて「自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉純一郎さんに通じるものがあるからだ。もっとも、党内では人気がないと噂される石破さんに支持が集まったことには選挙目当ての自民党議員のあざとさを感じないではないが、そんな政治力学とは言え、私のような庶民には言わば自浄作用が働いたようにも見え、こうしたバランス感覚もまた自民党の強さの表れのように思う。総裁選は党員・党友の間での話だが、石破さんの政治家としての信念は、国民一般の中にも信じる人が多いわけで、期待したいと思う。

 それにしても、異例の選挙選だった。表向き派閥解消されていたとはいえ信じる人はいないのに、その重しが外れて九人も立候補に名乗りをあげる乱戦となり、派閥解消を象徴するものとなった。今回は無理でも次かその次に繋がるようにという、将来の総裁候補に名乗りをあげる意味合いがあったのだろう。案の定、時の経過とともに、本命・石破さん、対抗・小泉進次郎さん、大穴・高市早苗さんという三つ巴に絞られ、候補者が九人も出れば議員票が割れるので過半数獲得は難しく、党員・党友の支持を集める石破さんが一回目の投票ではトップ通過するにしても、二位通過の候補が決選投票で勝つと見られていた。ところが蓋を開けたら、終盤での追い上げを報道されていた高市氏が小泉氏を抑えて二位通過するどころか、議員票でも党員票でもトップという異例の展開である。これで決選投票では高市さんが圧勝すると思っていたら、どんでん返しがあった。裏金議員からの推薦が多く、問題に甘いと見られていることと、立民の代表が、共産党から距離を置く野田佳彦さんに決まったことで、右に寄り過ぎる高市さんでは解散・総選挙で中道票を取りこぼすことが懸念されたのだろう。また、岸田首相は周辺に「高市さんだけは応援できない」と話していたとされ、一回目の投票で他候補に流れていた議員票をより多く拾ったのは石破さんで、僅差ながらも逆転勝利した。決選投票前に各5分、計10分の演説の時間が設けられ、石破さんはここで自身について「私は至らぬ者だ」とし「議員生活38年になる。多くの足らざるところがあり、多くの人々の気持ちを傷つけ、いろいろ嫌な思いをした人が多かったかと思う。自らの至らぬ点を心からおわび申し上げる」と率直に頭を下げる場面があり、党内の不人気を多少は払拭する効果があったかもしれない。

 奇しくも二年前のこの日は安倍晋三元首相の国葬が執り行われた日で、高市さんにとっては、岸田首相誕生に繋がった総裁選で高市さんを推薦してくれた安倍さんに向けた弔合戦のようなところがあった。日本初の女性首相に、ゴール直前、鼻の差で届かなかったが、勉強家で、岸田さんと違って自らの声で主張できる高市さんにも期待している。

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