宮崎正弘さんによると、中国の野党・中国民主連盟が10月25日に「受付業務」で一名の募集(野党職員として大卒、2年以上の社会経験要)をかけたところ、9837名もの応募があったという。なにしろこの中国民主連盟なるもの、「野党ということになっているが、実態は共産党のダミーで、党の綱領には『共産党の指導の下で』と書かれており、アリバイ的に野党が存在することになっている建前上の組織」(同氏)だそうで、来客も少なく、やることも特になく(デモも集会も禁止されているから)、景気の良いときであれば誰も顧みなさそうなポストだが、「閑職でも安定した収入が望める」「なんたって(準)公務員だから」とばかりに殺到したらしい。中国の低迷する経済風景の一端を示している。
その中国で27日に発表された6中総会(第18期中央委員会第6回総会)の公式文書に「習近平同志を核心とする党中央」といった表現が盛り込まれた。「共産党関係者によれば、『核心』に位置付けられることは、肩書や役職を超える高い権威を持つことを意味する」(産経Web)のだそうで、100年近い中国共産党の歴史の中で、習近平国家主席以前の「核心」は、毛沢東、鄧小平、江沢民の三氏しかいない。錚々たる顔ぶれである。「核心」に昇格した習氏について、産経Webは「建国を主導した毛沢東、改革開放を進めた鄧小平、高度経済成長を実現した江沢民の3氏と比べると、『反腐敗キャンペーン』しか実績がなく、政治的権威にはまだ大きな差がある。また、集団指導体制をやめることで責任を首相などに押しつけにくくなる。習氏は核心に昇格したとはいえ、権力基盤が安定したといえない」と、専ら権力闘争の文脈に位置づけて解説するが、逆説的な意味で、今の中国は権力を集中しなければやって行けなくなった、安穏としておれない厳しい状況の方に目を向けるべきではないかと思う。経済が順調に成長し社会が比較的安定していれば集団指導体制でも権力を回して行けるだろうが、それではやって行けない「有事」に追い込まれているのだろうと思う。
それはここ数年来、厳しくなるばかりの中国の言論統制を見れば明らかだろう。ここ一年の動きを、(どうしてもフリーで記事検索できる産経Webを重宝せざるを得ず)拾って以下(補足)に示してみたが、これらは恐らくごく一部であって、中国で知識人やメディア・出版関係者が突如、音信不通となり、連絡が取れなくなることが余りに頻繁に発生し、もはやニュースにならなくなったと言われて久しい。このあたりは右寄りの産経に限らず、中央公論の対談(川島真東大教授x遠藤乾北大教授)でも懸念されている。9月末に中国政府は「国家人権行動計画(2016~20年)」を発表し、「ネット上の言論の自由の保障」を初めて盛り込んだというが、虚ろに響く。表に向ける顔とは裏腹に、世界で最も厳格と言われる検閲システム「グレート・ファイアウオール」を駆使して「中国共産党政権の一党支配に異を唱えるサイトや、反政府活動の情報交換の場になりそうだと中国当局が判断した情報サービスは、ことごとく遮断する」(産経Web)と言われる。
中国の仮想敵国は、公式には日本とされているが、実は中国人民である(笑)などという良く出来たジョークがあるが、案外、真実を衝いている。そうでなければ、人民解放軍などと、国家のためではなく党のために尽くす軍隊をそのままの形で置いておくはずがない。中国共産党は、人民を信用していないのである。他方で、中国4000年の歴史を振り返れば分かる通り、中原を舞台に天下取りをめざし、やがて人民が蜂起して統治が崩壊するある種のパターンが繰り返されて来て、中国共産党は人民を恐れてもいる。その歴史に学び、人民が反乱・蜂起しないよう、周到に「あまねく事実を知らしめない」ようにしているわけだが、ネット社会のご時勢にご苦労なことである。
中国通のヘンリー・ポールソン氏(前米財務長官)は中国経済の現状を分析し「短期的には国有企業の過剰投資と在庫であるが、中期的には地方政府ならびに国有企業の債務の膨張問題があり、長期的には経済成長の新しい鍵となるイノベーションを中国自身がやり遂げなければならない」と簡潔に総括しているが、このあたりは今年三月に発表された五カ年計画を読み込めば、中国指導部も正確に認識していることが分かる。あとは実行あるのみ。ところが、今の一党支配体制を前提にする限り、内部矛盾を抱えてニッチもサッチも行かず、解決不能なのである。そのあたりを衝いて、ジョージ・ソロス氏は1月のダボス会議で「中国経済のハードランディングは不可避的」と予言した。習氏本人が「核心」になろうが何になろうが構わないので、どうか周囲に迷惑をかけないようにしてもらいたいものだと、小市民の私は心から願うのだが・・・。
(補足)
(1)国営通信・新華社が3月13日に配信した記事の中で、習近平国家主席の肩書を「中国最高指導者」とすべきところ「中国最後の指導者」と間違え(午後4時5分)、訂正する(午後5時15分)ミスがあったという。実に味わい深いミスで、意図的だとすれば傑作だと思うが(笑)、残念ながら関わった記者1人と編集者2人は停職処分になったらしい。このミスを巡っては、習近平国家主席がその前月に党機関紙・人民日報、国営通信・新華社、国営中央テレビを視察した際、「メディアは党の宣伝の陣地であり、党を代弁しなければならない」と指示したことに反発したためではないかと憶測された。
(2)同じ3月、全人代(全国人民代表大会、上記五カ年計画を発表)開幕を控えた4日夜、中国新疆ウイグル自治区政府系ニュースサイト「無界新聞」に、「忠誠なる共産党員」を名乗る投稿者名で、習近平国家主席の外交や経済面などの「失策」を指摘し、辞任を求める公開書簡が掲載されたという。習氏が権力を集中させ、国家機関の独立性を弱体化させたと政治面の問題を指摘、言論締め付けは文化大革命の再発を懸念させると批判、外交面でも故鄧小平氏の「韜光養晦」路線を捨て、日本や米国との関係を悪化させたなどと非難、「あなたは党や国家の指導力に欠ける」と辞任を求めるという、内容としては極めて真っ当なものだが、すぐに削除され、「無界新聞」は閉鎖されることが決まり、関係者が拘束されたという(が、その後は不明)。
(3)同じ月の29日、「171人の中国共産党員」を名乗る投稿者名で、同じように習近平国家主席の辞任を求める公開書簡が、今度は米国の中国語サイト「明鏡新聞網」系のブログに掲載され、自らすぐに削除したが、ネット上で一気に拡散したという。強まる言論統制への反発と見られている。
(4)7月に改革派の雑誌「炎黄春秋」が当局の人事介入で事実上の廃刊に追い込まれたのに続き、10月に入ると中国の知識人階層に幅広い影響力を持っていた言論サイト「共識網」がアクセス不能になり、習指導部による“聖域なき言論統制”の強化に懸念の声が高まっていると報じられた。2009年創設の「共識網」は「大変革時代における共通認識の探求」をモットーに掲げ、政治や経済、歴史、思想などの分野で、左派から右派まで幅広い立場の専門家が意見を発表し、人気を博していたという。「炎黄春秋」にしても「共識網」にしても、改革派の古参幹部など強力な政治的後ろ盾が存在すると見られていたが、それすらも許さない習指導部の強硬な姿勢が懸念される。
(5)経済政策を巡っては、5月に、党機関紙・人民日報のインタビュー記事で「権威人士」を名乗る匿名の人物が李克強首相を批判し、それが実は習近平国家主席の側近・劉鶴・党財経済指導小組事務局長だったとされて、習氏と李氏の内輪の対立が浮き彫りになったが、他方、昨年ごろから「蛮族勇士」を名乗る投稿者が、習近平指導部の経済運営を痛烈に批判、景気減速の深刻な実態を暴露し、中国は「不況の道」を歩んでいると主張して反響を呼んでいる。多様なデータを駆使していることから体制内部の人物、一部メディアは政府系シンクタンクの中国社会科学院の研究者ではないかと推測するが、当局側はアカウントを次々に停止し(しかし投稿された文章は拡散し続けている)、官製メディアを使って反論に出るなど対応に追われているという。
その中国で27日に発表された6中総会(第18期中央委員会第6回総会)の公式文書に「習近平同志を核心とする党中央」といった表現が盛り込まれた。「共産党関係者によれば、『核心』に位置付けられることは、肩書や役職を超える高い権威を持つことを意味する」(産経Web)のだそうで、100年近い中国共産党の歴史の中で、習近平国家主席以前の「核心」は、毛沢東、鄧小平、江沢民の三氏しかいない。錚々たる顔ぶれである。「核心」に昇格した習氏について、産経Webは「建国を主導した毛沢東、改革開放を進めた鄧小平、高度経済成長を実現した江沢民の3氏と比べると、『反腐敗キャンペーン』しか実績がなく、政治的権威にはまだ大きな差がある。また、集団指導体制をやめることで責任を首相などに押しつけにくくなる。習氏は核心に昇格したとはいえ、権力基盤が安定したといえない」と、専ら権力闘争の文脈に位置づけて解説するが、逆説的な意味で、今の中国は権力を集中しなければやって行けなくなった、安穏としておれない厳しい状況の方に目を向けるべきではないかと思う。経済が順調に成長し社会が比較的安定していれば集団指導体制でも権力を回して行けるだろうが、それではやって行けない「有事」に追い込まれているのだろうと思う。
それはここ数年来、厳しくなるばかりの中国の言論統制を見れば明らかだろう。ここ一年の動きを、(どうしてもフリーで記事検索できる産経Webを重宝せざるを得ず)拾って以下(補足)に示してみたが、これらは恐らくごく一部であって、中国で知識人やメディア・出版関係者が突如、音信不通となり、連絡が取れなくなることが余りに頻繁に発生し、もはやニュースにならなくなったと言われて久しい。このあたりは右寄りの産経に限らず、中央公論の対談(川島真東大教授x遠藤乾北大教授)でも懸念されている。9月末に中国政府は「国家人権行動計画(2016~20年)」を発表し、「ネット上の言論の自由の保障」を初めて盛り込んだというが、虚ろに響く。表に向ける顔とは裏腹に、世界で最も厳格と言われる検閲システム「グレート・ファイアウオール」を駆使して「中国共産党政権の一党支配に異を唱えるサイトや、反政府活動の情報交換の場になりそうだと中国当局が判断した情報サービスは、ことごとく遮断する」(産経Web)と言われる。
中国の仮想敵国は、公式には日本とされているが、実は中国人民である(笑)などという良く出来たジョークがあるが、案外、真実を衝いている。そうでなければ、人民解放軍などと、国家のためではなく党のために尽くす軍隊をそのままの形で置いておくはずがない。中国共産党は、人民を信用していないのである。他方で、中国4000年の歴史を振り返れば分かる通り、中原を舞台に天下取りをめざし、やがて人民が蜂起して統治が崩壊するある種のパターンが繰り返されて来て、中国共産党は人民を恐れてもいる。その歴史に学び、人民が反乱・蜂起しないよう、周到に「あまねく事実を知らしめない」ようにしているわけだが、ネット社会のご時勢にご苦労なことである。
中国通のヘンリー・ポールソン氏(前米財務長官)は中国経済の現状を分析し「短期的には国有企業の過剰投資と在庫であるが、中期的には地方政府ならびに国有企業の債務の膨張問題があり、長期的には経済成長の新しい鍵となるイノベーションを中国自身がやり遂げなければならない」と簡潔に総括しているが、このあたりは今年三月に発表された五カ年計画を読み込めば、中国指導部も正確に認識していることが分かる。あとは実行あるのみ。ところが、今の一党支配体制を前提にする限り、内部矛盾を抱えてニッチもサッチも行かず、解決不能なのである。そのあたりを衝いて、ジョージ・ソロス氏は1月のダボス会議で「中国経済のハードランディングは不可避的」と予言した。習氏本人が「核心」になろうが何になろうが構わないので、どうか周囲に迷惑をかけないようにしてもらいたいものだと、小市民の私は心から願うのだが・・・。
(補足)
(1)国営通信・新華社が3月13日に配信した記事の中で、習近平国家主席の肩書を「中国最高指導者」とすべきところ「中国最後の指導者」と間違え(午後4時5分)、訂正する(午後5時15分)ミスがあったという。実に味わい深いミスで、意図的だとすれば傑作だと思うが(笑)、残念ながら関わった記者1人と編集者2人は停職処分になったらしい。このミスを巡っては、習近平国家主席がその前月に党機関紙・人民日報、国営通信・新華社、国営中央テレビを視察した際、「メディアは党の宣伝の陣地であり、党を代弁しなければならない」と指示したことに反発したためではないかと憶測された。
(2)同じ3月、全人代(全国人民代表大会、上記五カ年計画を発表)開幕を控えた4日夜、中国新疆ウイグル自治区政府系ニュースサイト「無界新聞」に、「忠誠なる共産党員」を名乗る投稿者名で、習近平国家主席の外交や経済面などの「失策」を指摘し、辞任を求める公開書簡が掲載されたという。習氏が権力を集中させ、国家機関の独立性を弱体化させたと政治面の問題を指摘、言論締め付けは文化大革命の再発を懸念させると批判、外交面でも故鄧小平氏の「韜光養晦」路線を捨て、日本や米国との関係を悪化させたなどと非難、「あなたは党や国家の指導力に欠ける」と辞任を求めるという、内容としては極めて真っ当なものだが、すぐに削除され、「無界新聞」は閉鎖されることが決まり、関係者が拘束されたという(が、その後は不明)。
(3)同じ月の29日、「171人の中国共産党員」を名乗る投稿者名で、同じように習近平国家主席の辞任を求める公開書簡が、今度は米国の中国語サイト「明鏡新聞網」系のブログに掲載され、自らすぐに削除したが、ネット上で一気に拡散したという。強まる言論統制への反発と見られている。
(4)7月に改革派の雑誌「炎黄春秋」が当局の人事介入で事実上の廃刊に追い込まれたのに続き、10月に入ると中国の知識人階層に幅広い影響力を持っていた言論サイト「共識網」がアクセス不能になり、習指導部による“聖域なき言論統制”の強化に懸念の声が高まっていると報じられた。2009年創設の「共識網」は「大変革時代における共通認識の探求」をモットーに掲げ、政治や経済、歴史、思想などの分野で、左派から右派まで幅広い立場の専門家が意見を発表し、人気を博していたという。「炎黄春秋」にしても「共識網」にしても、改革派の古参幹部など強力な政治的後ろ盾が存在すると見られていたが、それすらも許さない習指導部の強硬な姿勢が懸念される。
(5)経済政策を巡っては、5月に、党機関紙・人民日報のインタビュー記事で「権威人士」を名乗る匿名の人物が李克強首相を批判し、それが実は習近平国家主席の側近・劉鶴・党財経済指導小組事務局長だったとされて、習氏と李氏の内輪の対立が浮き彫りになったが、他方、昨年ごろから「蛮族勇士」を名乗る投稿者が、習近平指導部の経済運営を痛烈に批判、景気減速の深刻な実態を暴露し、中国は「不況の道」を歩んでいると主張して反響を呼んでいる。多様なデータを駆使していることから体制内部の人物、一部メディアは政府系シンクタンクの中国社会科学院の研究者ではないかと推測するが、当局側はアカウントを次々に停止し(しかし投稿された文章は拡散し続けている)、官製メディアを使って反論に出るなど対応に追われているという。