風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

物へのこだわり(2)一流品

2012-02-29 23:37:28 | 日々の生活
 前回のブログに関連して、ブランド少年の言い訳を許されるなら、美味しい料理を食べてこそ舌が肥えて違いが分かるようになるのと同様、世界の一流品質を体感したからこそ、目利きとまでは言わないまでも、安くて良い品と安くてそれなりの品の区別くらいはつくようになったような気がします。最近、「高くても良い品を大事に使うことこそエコ」(だったかな)といったテレビCMが流れていますが、若かりし頃の私は、もとよりエコロジー(地球に優しい)など思いもよらず、同じエコでもエコノミー(経済的)だと思って、高くても良いモノを長く大事に使って来て、現代的な意味づけがなされるようになったことにはむしろ戸惑いを覚えます。
 今も愛用するダッフル・コートは、かれこれ四半世紀前、あるファッション雑誌で見かけた一生モノという言葉にほだされて買ったMade in EnglandのGloverallというブランドで、何しろ第一次大戦の英国海軍御用達(だったと思う)で、昔ながらの素材でずしりと重みがあって風に強く防寒着としての安心感を与えてくれますし、水牛の角のトグル・ボタンも重さといい自然の手触りといい生地にしっとりと馴染みます。ここまで来れば、冗談ではなく本当に一生(もう着るのが恥ずかしいと思うおじいちゃんになるまで)着続けることになるかも知れません。
 カメラは、かれこれ30年前に買ったCanonの一眼レフ(AE-1)を使い続けて来ましたが、10年ほど前、ラスベガスでうっかり手を滑らせて道に落とした拍子にリールの軸を歪めてしまい、フィルムを半分以上巻き上げるとフィルムが切れるようになって、徐々に遠ざかるようになり、いつしかデジタル・カメラに切り替わりました。しかし、20年もの間、ずしりと手のひらに収まり、恐らく一万回を超えるキレの良いシャッター音を響かせ、一度たりとも修理(オーバーホール)に出したことがなく、クリアな映像を残してくれたという意味では、確かに資源の有効活用に寄与しているのは事実でしょう。
 数年前のシドニー滞在中、安くて美味しいオーストラリア・ワインを求めて、毎晩のようにハーフ・ボトルを開け、結局、40豪ドルくらいはしないと美味しくないという結論に至ったのは、以前、カリフォルニア滞在中に、ナパ・バレーのワイナリーのテイスティングに参加したり、安くて美味しいカリフォルニア・ワインを求めていろいろ飲み続けて舌を肥やしたお陰だと思います。因みに、カリフォルニア・ワインなら、10年ちょっと前の当時、25米ドル以上しないと美味しくないという結論に至りましたので、たまたまだと思いますがカリフォルニアでもオーストラリアでも日本円で3千円くらい、日本の酒屋に持ち込まれる頃にはその倍の値段になり、レストランで出される頃には更にその倍の値段になって、外食の時に楽しむワインは1万円以上しないと美味しいと自信をもってお勧めできない相場観になりますが、これは余談です。
 一流品と呼ばれるものは、やっぱり素晴らしい(当たり前ですね)。
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物へのこだわり(1)Fiorentina

2012-02-25 14:57:42 | 日々の生活
 モノへのこだわりがあるのは、多かれ少なかれ私の世代(とそれ以上)の特徴だろうと思います。モノがだんだん溢れて行くのを身近に感じながら、おいそれとは手が届かなかった世代です。それでも女性は現実的で、モノへの思い入れは余りなさそうに見受けられます。さらに私の場合、就職するまで日本を出たことがなくて、いきなり海外の仕事に放りこまれて出張が多くなって、自ら稼いだ金をチマチマと注ぎ込むDuty Freeマニアになるまで時間がかかりませんでした。折からのバブル経済とも相俟って、ネクタイはジバンシー、財布はダンヒル、時計はオメガ、万年筆はモンブラン・・・今、思うと、20歳過ぎの男が厭味ったらしいほどのはじけ振りです。さすがにバブルがはじける頃には、ブランド少年の心もあえなくはじけましたが・・・。
 今では年相応に色気もへったくれもありゃしません。ところが、モノへのこだわりの思いだけは相変わらずで、最近は、納得のいく三色ボールペンがないかと探しています。かつて「三色ボールペン情報活用術」(斎藤孝著)なる本を知人に勧められるまま斜め読みして利口になったわけではないのは、単に部内と部外と社外とで赤と青と黒を使い分けるだけの単純なところからも明らかです。齢を重ねたからこそ、モンブランではなくて、実用的だけれども洗練された三色ボールペンが欲しい、そう思い続けて久しいのですが、あのペンの頭のボタンだけは頂けない。如何にも一本で三色や四色、さらにプラス1(シャーペン)という、40年来変わらない高度成長期そのままの便利さ丸出しデザインが気に入らなくて、それならいっそのこと、会社で支給される一本50円?のボールペン三本を持ち歩いています。
 先日、虎の門に外出したついでに、ぶらりと文房具屋に立ち寄った時のことでした。やっぱり三色ボールペンはどこも同じかと諦めて帰りかけたところ、ふと目に留まったボールペンは、三色ではない、手のひらに収まる短めのサイズのごく普通のボールペンですが、艶のある木目調で木の温かみを感じさせるデザインがスタイリッシュで、手に持つとずしりと適度に重いのも好感が持てます(カメラに手振れしない重さが必要なように、ボールペンにも書きやすい重さがあります)。中でも、押すのではなく引っ張ると芯が飛び出す細工が秀逸で、ポケットに入れても安心です。定価2310円。なんだかこのまま別れるのが名残り惜しくて、手のひらでこねくり回していると、ニコニコとおばさん店員が近づいてきて、なかなか素敵でしょ、イタリア製だけど、ゼブラの替え芯と互換性があるから安心、今なら二割引き、などと甘い誘いの言葉を繰り出され、私の足は、モノを手にしたまま自然にレジの方に向かっていました。
 Fiorentinaと言うブランドです。サッカー・クラブのACFフィオレンティーナと関係があるのかないのか分かりませんが、本拠地フィレンツェとは縁があるようで、Googleで探すと、メーカーのサイトは見つかりませんが、楽天などのネット販売サイトがひっかかり、「イタリア・フィレンツエのドゥオモの外壁の色をモチーフにした、自然な温かみある木軸筆記具。他の筆記具と差をつける、今までにない色合いに一目惚れ。高度な染色技術と合板技術の融合が、この新感覚の筆記具を生み出します」とか、「イタリア北部コモ湖地方の世界に誇る染色技術のもとに、メープル材を染色し、スライスして合板するという手法で生み出された特殊素材を使用しています。染色木材の色の組み合わせと、それらをいろいろの角度・形状に掘り出すという手法で、フィンレンツェのシンボルでもある「花の聖母教会」の壁面のモザイク模様をモチーフにして美しい幾何学模様を実現しています」などといった宣伝文句が踊っています。さる愛用者のブログには、普通サイズのボールペンの方は、伊藤屋の「ROMEO easyFLOW」と言う替え芯がそのまま使えるという情報も出ていました。
 まるでオモチャを買ってもらったばかりの子供のように、時々、ポケットに手を突っ込んでは、もてあそんでいます。そうか、形而上学的なものへの志向は青年の証拠であるように、モノへのこだわりは子供の心のままということかも知れません。
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神の手・天野教授

2012-02-20 23:37:37 | ビジネスパーソンとして
 前回、健康ネタを書いたばかりだったので、この週末に行われた天皇陛下の心臓の冠動脈バイパス手術のことが気に掛かりました。東日本大震災の被災者を気遣われて七週連続で被災地をご訪問されたことの記憶が新しいですし、更に、一周年の記念式典への参加を強く希望されているといった話も漏れ伝わって、国民に寄り添われる皇室の姿勢がこれまで以上に多くの日本人の心を捉えました。ご無事を祈る記帳者は5万人を越えたそうです。こうした思いも伝わったか、術後の経過は順調のようです。
 なにしろ天皇陛下の手術ですから、日本で最高の医師団が組織されるわけですが、医学部の頂点として言わずと知れた東大医学部で固めずに、順天堂学医学部との混成チームだったことが話題を呼びました。執刀医を務めたのは、請われて参加した順天堂大医学部の天野篤教授という、三浪して日大医学部に入り、パチンコ三昧の日々もあったという変わりダネで、心臓のバイパス手術を4千件以上手がけて、「神の手」を持つと崇められる心臓外科のエキスパートだそうです。
 そもそも外科医や歯科医は、頭の良し悪しよりも先ず手先が器用な職人でなければならないと思っていたので、天野教授のことを聞いて、失礼な話かも知れませんが、日本の現場の良識を心強く思いました。
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タニタの鼻息

2012-02-18 15:03:21 | ビジネスパーソンとして
 今朝のTVで、タニタの特集をやっていました。話題になったレシピ本「体脂肪計タニタの社員食堂」発売から既に2年になるそうですが、「『社員以外でも食べられる場所を提供してほしい』という声にお応えして」(ホームページ)、とうとう東京・丸の内に「丸の内タニタ食堂」をオープンしたそうです(先月11日)。メニューは日替わり定食800円と週替わり定食900円の2つだけなのは、いろいろ選べると食べ過ぎるという配慮から。いずれも500kカロリー未満で、レシピ本のサブ・タイトル「500kcalのまんぷく定食」そのままです。レシピ本を読んで実際にどんな味なのか試しに来たという人がインタビューに答えて「意外に味がしっかりしている」と褒めていましたが、「全体的に薄味&固いが、あれはあれで良い・・・(中略)・・・味が薄いだ、高いだとの酷評はあるも、コンセプトを理解すれば当然の味」など、食べログの口コミでは、むしろ薄味と思う人が大勢を占めるようです。ヘルシーを標榜するのですから当然ですね。業務用体組成計を備えたカウンセリング・ルームもあって、相談に乗ってもらえるそうです。
 更に。ここぞとばかりに、他業界とのコラボもやっています。「タニタ食堂の100kcalデザート」なる名前のカスタード・プリンが森永から120円で販売されています。宣伝文句は、「タニタ社員食堂の栄養士さん監修の100kcalながら満足感のあるカスタードプリンです。卵の味がしっかりと味わえます。カラメルソースの隠し味の黒みりんを増量して『うまみとコク』をアップしました」と、今やタニタの栄養士さんの権威は絶大です。また、タニタ監修の「快眠ルーム」なるものがNTT都市開発によって企画され、さいたま市大宮区の分譲マンション「ウェリス大宮」のモデル・ルームで常設展示されているそうです。カーテンはタイマーで自動開閉して朝陽を適切に取り入れて目覚めを良くし、壁はマイナスイオン・クロスで温度調節するとともにリラックス効果を狙い、ベッドは高反発マットレス、床のクロスはコルクを使って湿度を適切に保つなど、至れり尽くせり。入居後はタニタから生活習慣改善プログラムを受けられるのだそうです。そのほか、フィットネス・クラブを運営する子会社タニタフィッツミーは既に5年前に設立されていて、フランチャイズ募集中で、後発故の「女性向け小型フィットネス・クラブ」というコンセプトがなかなかユニークです。
 いずれも、タニタの企業理念「我々は、『はかる』を通して世界の人々の健康づくりに貢献します」(同社HP)からすれば、ややはみ出していますが、それに続くトップ・メッセージには「タニタは新しい健康習慣を提案します。『健康をはかる』から『健康をつくる』へ。タニタは、食事・運動・休養のベストバランスのご提案を通して、24時間皆様の健康づくりをサポートしていきます。”日本をもっと健康に!” タニタの新しい挑戦にご期待ください」(同社HP)と鼻息が荒い。来年、創業90年を迎える老舗は、自己革新を図らないと成長しませんからね。「健康」という永遠のテーマは、ただでさえ安定した根強い需要がありそうですが、これからの世の中は、益々「健康オタク」が増えて、ブームに乗って暫くは笑いが止まらない状況が続きそうです。そう考えると、あのレシピ本のタイトルになった社員食堂こそ同社にとって最大のヒット商品だったのかも。
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追悼ホイットニー・ヒューストン

2012-02-14 01:47:01 | スポーツ・芸能好き
 歌手のホイットニー・ヒューストンさんが現地時間11日(土)午後3時55分に亡くなりました。享年48歳。昨日から今日にかけて、早過ぎる死を悼む声がネットに溢れています。
 報道によると、遺体はホテルの浴槽で発見され、溺死したものと見られます。室内に違法薬物は見つかりませんでしたが、処方薬の瓶が発見され、死亡当時、ザナックスという向精神薬を服用していたらしいので、前の晩、友人たちと泥酔するまで飲んで騒いで、アルコールとザナックスの組合せで、浴槽の中で眠ってしまった可能性があると言われます。グラミー賞授賞式を翌12日に控えて、ホテルで開かれるクライヴ・デイヴィス主催のプレ・パーティに出演する直前のことでした。
 ホイットニー・ヒューストンと言えば、私たち日本人には、1992年、ケビン・コスナーと共演した初主演映画「ボディガード」がお馴染みです。この時のサントラ盤は全世界で4,200万枚を売り上げ、日本でも、当時、洋楽史上最高の280万枚を売り上げる驚異的なヒットとなりました(Wikipedia)。その前の年の1991年、湾岸戦争のさなかに開催された第25回スーパーボウルでは、アメリカ国歌を斉唱し、後に語り継がれる名演となりました(Wikipedia)。更にその前の年の1990年、私の結婚式のキャンドル・サービスで、知人のお勧めの中から彼女の「Saving All My Love for You」をBGMに選んだのは偶然でしたが、以来、私にとっては思い出深い曲になりました。
 彼女は、結婚し一児をもうけながら離婚し、またアルコールや薬物依存に悩まされ、破産寸前とも報じられました。短い波乱の一生です。否、他人様の人生をどうこう言うことほど傲慢なことはありません。ただ、同じ世代の者として、我が身に照らしてショックは大きく、ご冥福を祈るばかりです。合掌。
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フェイスブック指数

2012-02-10 23:25:51 | 時事放談
 前回、購買力平価を測る指標として、ビッグマック指数やトール・ラテ(スタバ)指数を引用しました。最近はiPod指数やiPad指数なるものもあるそうです。調査を行っているのはオーストラリアの四大銀行の一つであるコモンウェルス銀行傘下の証券会社コムセックで、ビッグマックと同様に、世界の多くの国で買えるモノであるという観点で選ばれているようですが、私としては、ビッグマックと同様に、調達コストが世界の多くの国で変わらないことがミソだという気がします(iPodやiPadは中国の工場で製造されているので当たり前ですが)。
 さて、タイトルのフェイスブック指数は、私の造語です。
 フェイスブックと言えば、最近、上場申請したことで話題になりました。米メディアによると、4~6月期には上場を果たす見込みであり、資金調達額50億ドル(約4000億円)は、米インターネット関連企業で、2004年に上場したグーグル(当時の調達額は約19億ドル)を抜いて過去最大、株式時価総額750億~1000億ドルは、今年最大のIPOとなるのはもとより、アメリカ企業ではマクドナルド、日本企業と比較するとトヨタに次ぐ2位のNTTドコモ並みの規模という、破格の案件です。しかし、驚かされたのは、規模の話よりも、創業者でCEOのマーク・ザッカーバーグ氏が金に執着しないところでした。申請書類の中にある投資家向けレターによると、「フェイスブックはもともと会社にするために立ち上げられたものではない。世界をより開かれたつながりのある場所にするという社会的使命を達成するために作られた」「金儲けのためにサービスを創造しているのではなく、よりよりサービスを作るために収益をあげている」とあります。天晴れというほかありません。更に、英フィナンシャル・タイムズによると、手元資金が潤沢で資金調達の必要性がない上に、ザッカーバーグ氏は上場後も支配権(議決権)を望み、要は一般株主に経営に立ち入って欲しくないと思っていることから、上場の意味が乏しいと批判的です。かつては上場と言えば、起業者にとっては夢でしたが、最近は敢えて上場に踏み切らない新興企業があることを思うと、上場の意味をあらためて考えさせられます。
 さて本題に戻ります。フェイスブックは今や世界で8億4500万人(昨年末)もの登録者を抱えるSNS大手で、世界中と繋がるという意味で、フェイスブックにアクセス出来るかどうか、何人の人がアクセスしているか、といったところは、国家の自由度や国民の開放度を測る指標たり得るのではないかと、ふと思った次第です。最近、民主化に舵を切ったミャンマーでフェイスブックが解禁されるというニュースは記憶に新しいですが、その結果、フェイスブックを解禁していない国は、中国、北朝鮮、キューバ、イランのみです。中国以外は、アメリカがテロ支援国として非難し、何がしかの経済制裁を発動している国なので、アメリカ企業たるフェイスブックも国の方針に従って当然なのですが、普及率トップ3は、カナダ、アメリカ、英国というアングロサクソンの国だと聞くと、なるほどと納得してしまいます。中でもカナダでは普及率が50%に達し、他方、日本は、ミクシィなどの国産SNSがあるとは言え、普及率は十分の一の5%強で、実名でキャリアや顔写真まで公開するフェイスブックにはまだ抵抗を感じる人が多いと見えます。5%のレベルは、ロシアやインドと同レベルです。今のところ相対的な評価でしか語れないのが玉に瑕ですが、それなりに意味が読み取れると思いませんか?
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貿易赤字転落(後編)

2012-02-06 23:35:01 | ビジネスパーソンとして
 前回の続きで、超円高について徒然なるままに書き綴ります。
 果たして今の円高はどれくらい異常なのか、逆に言うと、どのレベルが妥当なのかを探るのは、簡単ではありません。1990年代後半、アメリカで生活していた頃は、生活実感としてアメリカの物価を知っていたので、1ドル=180~200円くらいだったことはある程度確信をもって言えました。所謂購買力平価と呼ばれるものです。しかし、最近は、アメリカに行くのは年一回、しかもホテルの高い食事や空港の高いスタバの珈琲を楽しむのが関の山で、生活実感から程遠く、よく分かりません。
 そこで、英・経済誌エコノミストが発表しているビッグマック指数を調べてみると(1月14日付)、アメリカのUS$4.20に対して日本では1月11日の実勢レート換算でUS$4.16と、ほぼ実勢レート並み(80円弱)の値付けです。しかし、アメリカでマクドナルドと言えば、国民食と言ってもよい、食文化そのもので、当たり前のファーストフード(もっと安売りの店もあるし高級店もある)であるのに対し、日本では、日本食と比較して劣位にあり、牛丼屋などとの競合が激しく、安めの値付けになっているものと想像されます。
 もう一つ、トール・ラテ指数(スタバ指数)を調べてみましたが、なかなか最近の価格を見つけられず、ようやく辿り着いたのは2年前のデータで、アメリカの$2.55に対し、日本は370円でした。ただ、スタバでもファーストフードのコカ・コーラでも、飲み物の容器がワン・サイズ違う日・米を比べるなら、アメリカのトール・サイズに対して日本はショート・サイズ320円が妥当であり、その場合、換算レートは125円になります。しかし、マクドナルドと違って、日本でスタバはプレミアム価格で販売されていますので、125円は過大評価されていると考えるべきです。
 こうして見ると、80~125円の間に正解がありそうです。ここ10年くらいの間に、デフレが続く日本では、特にインフレ高進するアメリカとの間で、内外価格差が縮小したものと考えられます。長期的には購買力平価が正しいとして、昨今の超円高は、「円高の正体」(安達誠司著、光文社新書)によると、米国の量的緩和により、ドルと円とでマネタリー・ベースに差が出てしまっていることが原因のようです。
 今以上の円高を予想するエコノミストもいますが、私としては中期的に円安を期待して、もう暫くガマンでしょうか。
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貿易赤字転落(前編)

2012-02-04 01:24:49 | ビジネスパーソンとして
 先週、財務省が発表した昨年度の貿易収支が31年ぶりの赤字に転落したことが注目を集めました。国内でモノづくりをし、輸出をして外貨を稼ぐという、戦後の日本を支えてきた経済モデルが転機を迎えているという視点での報道が多かったように思います。まるで貿易赤字基調が続くかのようなもののいいで、海外で投資して得た金利や配当を国内に還流させて再投資に回すといった良い循環をつくることが必要になるとか、モノだけでなく所得も合わせた経常収支で黒字を維持できるかどうかが今後の日本の成長のカギを握る、などといったテーマが論じられていました。
 しかしマクロに見ていてもよく分かりません。神は細部に宿る。財務省の「貿易統計」では1~11月までの国(地域)別輸出・輸入・貿易収支を見ることが出来ますので、リーマン・ショック前の2007年と比較してみました。すると11ヶ月間のデータですが、この円高にも関わらず輸出は1000億ドル増え、同時に輸入が2000億ドル増えたため、収支は1000億ドルの悪化で赤字転落という状況です。地域別にみると、アジアとの間ではこの4年間で輸出も輸入も1000億ドル増えて収支上はチャラ、中東と大洋州との間では輸入が増えて(輸出はさほど変わらず)赤字幅が拡大、北米との間では輸出が減って(輸入は変わらず)黒字幅が縮小、欧州との間では輸入が増えて(輸出は変わらず)黒字幅が縮小していました。これだけでは偉そうに“細部”とは言えなくて、更に品目別に見ていく必要がありますが、恐らく、報道されている通り、停止する原発が増えたために火力発電用燃料の輸入が急増していること、東日本大震災やタイの洪水による予想以上のサプライチェーンの分断で輸出が落ち込んだこと、円高の影響で輸入が増えていることが想像されます。今のような超円高が永続するのかどうかという問題はさておくとして、このたびの貿易赤字は、原発問題や自然災害問題といった一過性の特殊要因によると言うのが正しいのではないかと思います。
 問題は超円高です。私は製造業に身を置く性(サガ)で、つい円高=輸出にとってマイナス、とばかり見がちで、輸入が増えて国内産業が痛手を被るなどというところにまで、これまで思いが至りませんでした。あらためて、輸出企業であれば生産を海外に移転してでも生き残りを図ることが出来るのに対し、地場産業は逃げも隠れも出来ず、安い輸入品との競争に晒されることを思うと、日本の産業に対する影響という意味では地場産業により深刻であるように思います。いずれにしても(つまり輸出企業の海外生産移転拡大や地場産業の弱体化により)日本の雇用は、円高によって相当のダメージを負っているに違いないと思います。日本以上に加工貿易立国の中国がアメリカの圧力をものともせず人民元安に拘り続け、韓国もまた通貨安を演出しているのは、まさにこの理由に他なりません。それに引き換え日本は、プラザ合意による急激な円高を易々と受け入れ、最近の超円高に対してもよくも無策でじっとガマンの子でいられるものだと思います。為政者は、このあたりをもっと真剣に考えないと。
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