風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

国賓・オバマ大統領

2014-04-30 01:34:15 | 時事放談
 下世話な話ですが、宮中晩餐会で出された白ワインのコルトン・シャルルマーニュ(1999年)は4万円、赤ワインのシャトー・マルゴー(1994年)に至っては10万円との専門家の見立てがあり、レストランで供するとすればその倍の値段になるでしょうし、それを168人に供するので、相当な数にのぼります。メインディッシュは、TPPで話題の牛や豚ではなく、羊だったそうです。これは多民族国家マレーシアでケンタッキー・フライドチキンのような鳥肉が多いのと同じ発想で、ヒンズーやイスラムなどの宗教で口にすることが禁じられるものを避ける趣旨で、宮内庁御料牧場で丁寧に育てられた羊が供されるのだそうです。
 国賓と言いながら、しかし、オバマ大統領は元赤坂の迎賓館ではなく都内の老舗ホテルに宿泊し、皇居訪問の際も、宮内庁が差し回す御料車ではなく自前で用意した大統領専用車を使用し、国会演説も行ないませんでした。もともと国賓扱いを辞退し一泊を希望した事情があり、プラグマティックなアメリカにあっても更にビジネスライクな(そのせいか政界にはお友達がいないと言われるほどの)オバマ大統領の本領発揮といったところでしょうが、今回はとりわけ、ある程度の「距離感」を演出したかった、演出せざるを得なかったのではないかと思われます。
 それは、共同記者会見で、安倍首相が頻りに「バラク」と笑顔で呼びかけても、オバマ大統領は「Prime Minister Abe」と応えていたところにも表れています。不自然な、と言えるほどの「距離感」で、先月の日米韓首脳会談で、安倍首相が韓国語で話しかけても、朴槿恵大統領は無視するような素振りで俯いたまま目を合わせようとせず挨拶を返さなかったことを彷彿とさせます。ファースト・ネームで応えないのは、アメリカにあっては失礼なことであり、オバマ大統領はTPP問題で妥協しない日本に対して怒っているに違いないと報道するメディアもありましたが、もっと根本的な「距離感」の演出、すなわちメディアを通して伝わる先にある、中国の視線を意識してのことだろうと思われます。
 今回の訪日でも、到着した夜、オバマ大統領は、銀座の高級寿司店の前で出迎える安倍首相に向かって「シンゾウ!」と呼びかけ、握手しながら挨拶したとされます。先月の日米韓首脳会談でも、記者会見であれだけ不機嫌を装った朴槿恵大統領は、会見が終わってテレビ・カメラがいなくなってからは様子が変わり、三人だけで会談した時には安倍首相と視線を合わせたり、会談が終わり退出する際には握手を交わしたと伝えられます。両者に共通するのは、テレビ・カメラを通して伝わる先に、中国の視線がないときの、ごく自然な首脳間の親密さであり、それとは対照的に、テレビ・カメラがある時の頑なさです。勿論、朴槿恵大統領は、テレビ・カメラを通して、直接的には国民と対峙しているわけですが、更にその先に中国の目線を意識しているのは間違いありません。
 その意味でも、今回の共同記者会見でのメッセージは、極めてアンビバレントな印象を抱かせました。オバマ大統領のアジア歴訪は、昨年、政府機関が閉鎖される事態でAPEC首脳会談を不義理し、アジアへのリバランス政策を疑われたオバマ大統領が、日本、マレーシア、フィリピンといった国々をはじめとして、アメリカのプレゼンスを再認識させることが目的でしたので、中国を牽制して見せると同時に、同盟国との親密さをアピールする一定のメッセージ性があったのは確かです。その一方で、共同記者会見での発言は、明らかに中国を意識し、努めて過剰に刺激しないように目配りしたものでもありました。ニューヨークタイムズ電子版は、26日付News Analysisで、”On a Trip That Avoids Beijing, Obama Keeps His Eye on China”と題し、それぞれの国において、オバマ大統領は、アメリカの同盟国と中国という、二つの異なる聴衆に向かって語りかけるものだった、と端的に伝えました。このようにバランスをとろうとする対応は、ロシアとの関係が急激に悪化する中で、ますますトリッキーでもあるとも伝えています。そして、欧米諸国によるロシア制裁は、そもそも資源に頼るロシア経済の脆さをますます弱めるものであることを強調することによって、中国に対して、勝ち馬に乗ることを迫るもの、つまりロシアのやり方を真似しかねない中国を強く牽制するものだと、NSCで中国担当だった元高官の解説を紹介しています。
 以上のことは、とりもなおさず中国の存在感の大きさを否応なしに見せつけるものでもありました。かつての冷戦時代には東西で経済交流がなかったために対立を先鋭化させることが出来ましたが、いまや中国経済抜きにアメリカの経済も欧州の経済も成り立たないほどグローバルに緊密化した経済環境の下で、経済力を背景に軍拡と海洋進出を着々と進める中国を、かつてのソ連に対するように「封じ込め」ることなど出来ない、現代の国際関係の難しさを思い知らせるものでもありました。
 かたや日本は、尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象と大統領自身に言わせたのは満額回答だと、浮かれて報じるメディアが後を絶たないのが、なんともオメデタイと思わざるを得ませんでした。既に国務長官や国防長官は明言していたことですし、そもそもアメリカとして、同盟国・日本を守れなければ、他の同盟国に示しがつきませんし他の同盟国の信頼を得られなくなるのは理の当然です。それ以上でもそれ以下でもない。
 かつてジャック・ウェルチ氏に「GE革命」という著作があって、原書タイトルは、今でも忘れられない「Control Your Destiny or Someone Else Will」というものでした。直訳すると、「自分の運命は自分でコントロールしないことには、他人がコントロールしちゃうぞ」というもので、ジャック・ウェルチ氏の覚悟と生き様を述べたものですが、自戒を込めて、この国のありようが他人任せであるだけに、ずっと引っかかって来ました。外務省が、先月、東南アジア7ヶ国で実施した世論調査によると、将来、重要になるパートナー国は、複数回答で尋ねたところ、1位・日本(60%)、2位・中国(43%)、3位・米国(40%)の順だったそうです。日本が一番というのも驚きなら、中国が、恐らく台頭する経済力と軍事力による圧力を背景に、日本と米国との間に割り込んでいるのが、なんとも不気味です。日本は、このような現実の重みを恐らく意識していないことでしょう。これをどう受け止め、自らの運命をどうコントロールしていくのか。月並みですが、集団的自衛権や原発再稼働への反対が賛成を上回るような、余りに平和ボケしてしまった日本がもどかしくてなりません。
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韓国の品質

2014-04-23 01:26:34 | 時事放談
 かれこれ15~20年前、アメリカに住んでいた頃、車の選択肢は実質的に日本車かアメ車しかなく、韓国車は見かけることすらなく想像の外にありました。テレビも、選択肢は日本メーカーに限られたもので、私はマレーシア製のソニー・トリニトロンを購入しました。ところが5~10年前、マレーシアやオーストラリアに住んでいた頃、車は日本車でしたが、選択肢として、韓国車が、国産マレーシア車より値段は高い(日本車よりは安い)けれども、国産マレーシア車より品質が良い(日本車よりは悪い)ので、射程に入りつつありました。現にシドニーでは、日本車を購入するまで、経費削減のためではありましたが、レンタカーはHyundaiにしたものでした。それが家電製品になると、品質的には既に日本製とそれほどの遜色はなく、現実的な選択肢として、テレビはサムスン、洗濯機はLGを購入しました。まさに2000年を境に、韓国の製造業が躍進し、日本の製造業が相対的に地盤沈下したのを象徴するエピソードです。
 6日前に韓国・珍島沖で転覆した旅客船「セウォル号」沈没事故のお陰で、南シナ海上空で消息を絶ったマレーシア航空(MH370便)の失踪事件は、すっかり霞んでしまいました。そして、この韓国の旅客船沈没事故によって、折角、イメージ・アップして来た韓国の品質が、いろいろな意味で疑問符が付きつけられているように思います。
 これまで報道されたところでは、沈没原因は、まず第一に、「高速航行中の急な針路変更」にあるとされ、しかも「現場は韓国でも有数の潮流の速い海域で、その難所を経験1年余りという3等航海士が操船」するという「未熟な操船技術が急旋回に至った可能性が高い」ということであり、さらに船は「日本から購入後、収容人員を増やすために5階部分を追加する形で改造」され、「貨物や旅客が高層階に収容されることで航行中の船体の重心が変わり、航行が不安定になった可能性」があり、「過積載だった」との情報や「操舵装置に異常があった」との報道もあって、こうした「複合的な要因によって韓国史上最悪の沈没事故が引き起こされた可能性が高まっている」ということです(いずれも産経Web 21日)。そして、被害が拡大しているのは、いわば人災の要素が強く、客船の運航会社が「乗組員に定期的に義務付けている避難訓練などをほとんどしていなかった実態」が浮上し、「ずさんな安全管理態勢」のためと見て、捜査が本格化されるようです(同22日)。
 それだけではありません。被害者の家族が怒鳴り散らす様は、韓国では夫婦喧嘩でも通りに出て相手のことを大声で詰り自己の正当性を主張するものと聞きますので、さして驚きませんが、重大事故にも係らず、重大事故であるが故に、大統領のパフォーマンスはやや異様に映ります。国民の激しい怒りの矛先が政府に向かうことを避けたい大統領は、船長らが乗客を救助せずに退避したことは殺人と同様の行為だと厳しく非難し、最高刑が無期懲役の特定犯罪加重処罰法(船舶事故逃走罪)という厳罰で臨むほか、官僚の不作為も非難するなど、政治の非は何ら認めることなく周囲に責任を押し付けるばかりの対応には、やや違和感を覚えます。
 しかし、何かと法律論より国民感情が優先されるかの国では、かつて金泳三大統領の時代に、500人以上が死亡したソウル市内の百貨店崩壊事故で、在任期間中の大事故の記憶と結びつけられ、金泳三大統領人気は韓国民の間で今も低いままだそうで、朴槿恵政権にとっても今回の事故は命とりになりかねませんし、よりによって25日からオバマ米大統領訪韓を控え、神経を尖らせるのは分からないではありません。
 こうして見ると、韓国では、百貨店崩落だけでなく、橋が突然崩落するといった、日本では俄かに信じられないような事故が起こるものです。折しもWEDGE最新号では、「英知25人が示す『日本の針路』」というメイン・テーマの陰で、「世界で悪評 『韓国クオリティ』」という記事が掲載されています。インドネシアに、韓国鉄鋼大手ポスコが韓国外に初めて設置したという一貫製鉄所の高炉で、稼働直後の昨年12月に爆発事故が発生し、業界関係者によると被害額は最大5000億ウォン(500億円弱)にのぼるとの見方が出ているそうですし、李明博大統領がセールスをリードし、60年保証が話題をさらった、アラブ初の原子力発電所としてアラブ首長国連邦に設置される原発4基では、仕事の粗さが目立ち、基礎工事で打設したコンクリートが所謂「シャブコン」状態で強度不足であり、UAE側が工事のやり直しを命じたほか、韓国製機器の品質保証に改竄が発覚したそうで、韓国国内の原発でも、性能確認試験の成績書が偽造された機器が使われたことが発覚して大問題になっているのと、同根の内容だろうと報じています。デモやストが制限されて勤労意欲が比較的高いと言われるベトナムで、韓国サムスン電子が建設を進める新工場では大規模な暴動が発生し、重傷者が出る事態となっているそうですし、トルコが次期主力戦車「アルタイ」を、外国戦車をベースに国内開発することにして、パートナー企業として韓国現代ロテムを選んだところ、開発が遅れに遅れ、しびれを切らせたトルコ政府は今後の提携先として三菱重工業に関心を示していると報じています。
 再び旅客船沈没事故に戻りますと、朝鮮日報などが、平成21年11月13日に三重県・熊野灘で起きたフェリー「ありあけ」の転覆事故で、運航会社が「セウォル号」を24年まで日本の国内定期船フェリー「なみのうえ」として使用していたマルエーフェリー(鹿児島県)で、造船所も同じでありながら、救出劇の手際が良かったことを取り上げ、「セウォル号」の安全管理態勢のお粗末さを批判しています。過剰品質とまで言われかねない日本ですが、社会の隅々まで行き届いている品質の良さは、私たちが気が付かないところで、私たちの生活の安全・安心を担保していることに気付かされます。以下に産経Webの記事を引用します。

(引用)
 23年2月に公表された日本の運輸安全委員会の調査報告書によると、「ありあけ」は積み荷約2400トンを積んで航行中、左後方から高さ約6・9メートルの波を受けて左に急旋回。船体は右に傾き、積み荷を固定していた鎖も連鎖的に破断し積み荷全体が右に寄った。その直後、左後方から再度、高波を受けて右に傾き座礁した。
 2つの事故について、朝鮮日報は「最初に傾いた原因は異なっても、その後の経過は『セウォル号』の事故とよく似ている」との専門家の見方を紹介。ただ、決定的に違うのは「ありあけ」事故では、死者を出さなかったことだ。
 旅客定員は426人だが、閑散期のため事故当日の乗客は7人だけだった。船長は船体が傾くとマニュアルに従って海上保安庁に救助を要請、乗務員には人命救助に向け早く客室に行くよう指示した。
 消防用のホースで甲板に引っ張り上げられた乗客はヘリで救助。最後まで船に残った船長と1等航海士らは、浸水が続いたため救命ボートを降ろして海に飛び込み、全員救助された。
 韓国メディアでは「ありあけ」の船長がとった非常時の行動と対比させることで、真っ先に脱出した「セウォル号」の船長の無責任さを際立たせている。
(引用おわり)
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台湾の学生運動

2014-04-08 01:35:15 | 時事放談
 私には、1960~70年代に吹き荒れた学生運動の記憶はありません。私が大学生だった1980年代前半でも、大学の壁に貼り散らかしたポスターやタテカン(立て看板)に独特の字体で日帝や米帝などといったおどろおどろしい文字が躍っていたり、赤ヘル(核マル)や白ヘル(中核)や黒ヘル(寮の自治闘争)を被ってタオルで顔を覆った大学院生と思しき活動家がハンドマイク片手にがなりたてて、機動隊が学外に待機するといった、今ではおよそ想像もつかない、やや物騒な光景が見られたものですが、しかし、当時、学生運動としては完全に下火で、私たち学部生には縁のない、通り過ぎるだけの見慣れた長閑な学園風景の一コマに過ぎませんでした。大学の地下構内にはかつての大物活動家が潜伏していると噂されたり、某予備校の社会化教師は本名を明かすと逮捕されるような元・活動家だと噂されたりもしましたが、もはやかつての残影でしかありませんでした。
 実感はないけれども一種の歴史として話に聞く、かつての騒然とした日本の学生運動に比べれば、台湾で立法院を占拠している学生たちの、なんとお行儀の良いことでしょう。ウクライナ情勢やタイのデモのことは、それなりに報道されても、なかなか台湾の様子が伝わって来ないのは、まさか東日本大震災で200億円を越える義援金を送ってくれた台湾人のことを、日本のメディアが忘れているわけではないでしょう。ただ、中・韓に媚びて、日本を貶めることには夢中になるメディアにとって、中・台統一(第三次国共合作)に水を差すといった、メディアが決して喜ばないテーマ性によるものなのでしょうか。
 福島香織さんによると、「太陽花学運」(ひまわり学生運動)と呼ぶそうです。実際に台湾に渡りナマの現場を見た彼女は、政党色をほとんど出さず、政治運動ではなく公民運動のスタイルをとった、実に洗練された占拠の様子を、次のように伝えています(長くなりますがなかなか面白いので引用します)。

(引用)
 まず、その命令系統とロジスティック管理のものすごさである。占拠されている立法院内に入って驚いた。一瞬被災地の災害対策指揮所かと思うような指揮系統ができている。総指揮部の下に渉外部門、物資管理部門、メディア対応部門、ボランティア医師による医療部門、学生らによるネット・動画サイト・フェイスブックなどを使った世界への広報・情報発信部門、果ては、35か国語対応の通訳部門まである。すぐにでも政党が作れそうな人材の充実ぶりだ。
 議場は八つの入り口に、警官らが入ってこられないように、内側から椅子などを積み上げたバリケードでふさがれていたが、その様子がまるで議場内のいたるところに張られたポスターやスローガンと相まって前衛アートのようだった。バリケードの隙間から議場内に入るのだが、そのとき、手を消毒され、体温を測られる。感染症対策がしっかりしている。議場内はメディアを含め数百人が出入りしているが、それなりに整理整頓が行き届き、ゴミは分別収集され、トイレも清潔だ。王金平立法院長が学生の占拠を黙認したため、電気、水は通常どおりで、空調もまずまず効いている。弁当は支援者から差し入れられ、食事、水自体は問題がない。4月に期末試験があるためか、後ろの方で勉強している学生たちもいた。民進党の立法委員ら、警備の警官、支援者らが出入りしている。立法委員が議場にいる以上、立法院の独立性は尊重され、警察が干渉できないのだという。清華大学や台湾大学の教授たちも、応援に毎日のように通っている。台湾教授協会の呂忠津会長は「これほど素晴らしい学生運動を行うとは、この子たちは私たちの誇りです」と目を細めていた。教育部、教授組織、大学学長らはほぼ全面的に学生支持である。
 立法院の周辺は1~2万人の座り込みが常時行われ、その座り込み学生、市民らの生活を支えるためのあらゆる支援がボランティアで賄われている。炊き出し、簡易トイレ、簡易シャワー、ゴミ収集、理容やマッサージ、メンタルケアのブース、教授・講師たちによる出張講義まである。反サービス貿易協定の学生運動に賛同する全国の小売・サービス業者が持ち出しで支援している。だが、全国から集まる支援物資やボランティアをうまく配置し機能させているのが、学生たちの総指揮部であるとしたら、これも大したものである。ロジについては、プロが学生たちのアドバイザーについているという話もあり、世界の被災地で素晴らしいボランティア活動を見せている組織がいくつも台湾にあることを思えば、このくらいお手の物なのかもしれない。
(引用おわり)

 台湾人の性格によるのか、台湾の過去の学生運動に学んだのか、実に用意周到で大人の対応をしているのが新鮮です。だからと言って、テーマそのものは軽いものではありません。
 産経新聞によると、「中国と台湾が相互に市場開放を促進する『サービス貿易協定』の撤回を求める大規模デモが台湾の総統府前で行われた3月30日、世界各国の台湾人留学生らが呼応し、日本でも東京、京都、福岡で抗議集会が開かれた。東京・代々木公園には300人超が集まり、協定が台湾に及ぼす影響について議論し合った」ということでしたが、どうも日本人の反応は芳しくなく、なかなか大きなうねりにはなりそうもないのが残念ではあります。その場では、こんなこともあったと、産経新聞は続けます。「発言を希望する中国人の男子留学生が登場。大きな拍手で迎えられた。この中国人学生は、協定撤回を求める台湾の学生たちの運動について、『これは台湾だけの問題ではなく、世界中の華人が注目すべき問題だ』と提起し、台湾人の学生たちにこんな願いを託した。『われわれ(中国人)のように、民主政治に参加できない人のためにも、台湾が華人にとっての“最後の民主”を守ってほしい!』」と。
 この学生運動は、単にサービス貿易協定に反対するだけではなく、「本質は台湾の中国化への反感、馬政権の親中政策への抵抗であるとみるべきもの」(福島香織さん)のようです。再び、産経新聞からの引用になりますが、「台湾の最大野党、民進党寄りとされる有力紙、自由時報は3月28日付社説でサービス貿易協定を『中国が経済をもって(台湾)統一を推し進めるための重要な手段』だと批判的に断じた。社説は『中国は政治、経済、武力などの手段で必ず台湾を併呑しようとする』『(協定で中国の)大小企業や金融業が押し寄せ、(台湾の)資金は流出し、リスクは激増する』と予測した」と。
 勿論、与党・国民党の主張は真っ向から反対します。「国民党寄りの有力紙、聯合報は23日付社説で『台湾の弱小産業が市場開放の影響を受けやすいのは事実』と一定のマイナスの影響を認めつつ、『協定は単に中国大陸に市場を開放するだけではない』と台湾側にもメリットがあることを台湾当局は住民に伝えるべきだと強調した。同社説は『台湾の活路は中国との政治経済関係の改善にある』とし、台湾は必ず『(関係良好な)中国を経由して世界と向き合う』のであり、『中国を無視して世界に向き合う』ことは不可能と主張。その上で、この協定こそが『ECFAを完全なものにし、TPPや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)への懸け橋』だと強調した。そして、協定なしに台湾が『国際社会でさらに大きな経済貿易協定を結ぶことはできない』とし、『反協定ビラ』には『中国資本が台湾をむしばむ』と書いてあるかもしれないが、台湾はこの協定の先に『さらに多くのパートナー国と交易するチャンスがあり、中国依存も減じてゆける』と主張している」(産経新聞)そうです。
 今日の産経新聞によると、立法院長(国会議長)が「対中協議を監視する新法を制定するまでサービス貿易協定承認の審議を再開しないと宣言」し、学生らは「一定の成果が得られたとして10日に議場を退去すると発表」、「占拠から21日目で事態は収拾に向かう見通しとなった」ということです。学生も学生なら、当局も当局で、中国の天安門事件とは対照的に、「非暴力」が徹底されて、成熟した学生運動ぶりには驚かされ、却って今後の進展が心配なほどですが、米紙ウォールストリート・ジャーナル(アジア版 3月28日付)の論評は、実に興味深く思いました。「台湾の学生らによる立法院の占拠は、中台間のサービス貿易協定の問題にとどまらない」「今回の政治的危機は中台間の緊張緩和(デタント)がまもなく終焉するシグナルかもしれない」と。日本にとって、中・台統一は、中国の海洋進出を加速し、沖縄の米軍基地が無力化されかねず、安全保障上、大いに気になるところであり、台湾の今後の動向を注視したいと思います。
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