下世話な話ですが、宮中晩餐会で出された白ワインのコルトン・シャルルマーニュ(1999年)は4万円、赤ワインのシャトー・マルゴー(1994年)に至っては10万円との専門家の見立てがあり、レストランで供するとすればその倍の値段になるでしょうし、それを168人に供するので、相当な数にのぼります。メインディッシュは、TPPで話題の牛や豚ではなく、羊だったそうです。これは多民族国家マレーシアでケンタッキー・フライドチキンのような鳥肉が多いのと同じ発想で、ヒンズーやイスラムなどの宗教で口にすることが禁じられるものを避ける趣旨で、宮内庁御料牧場で丁寧に育てられた羊が供されるのだそうです。
国賓と言いながら、しかし、オバマ大統領は元赤坂の迎賓館ではなく都内の老舗ホテルに宿泊し、皇居訪問の際も、宮内庁が差し回す御料車ではなく自前で用意した大統領専用車を使用し、国会演説も行ないませんでした。もともと国賓扱いを辞退し一泊を希望した事情があり、プラグマティックなアメリカにあっても更にビジネスライクな(そのせいか政界にはお友達がいないと言われるほどの)オバマ大統領の本領発揮といったところでしょうが、今回はとりわけ、ある程度の「距離感」を演出したかった、演出せざるを得なかったのではないかと思われます。
それは、共同記者会見で、安倍首相が頻りに「バラク」と笑顔で呼びかけても、オバマ大統領は「Prime Minister Abe」と応えていたところにも表れています。不自然な、と言えるほどの「距離感」で、先月の日米韓首脳会談で、安倍首相が韓国語で話しかけても、朴槿恵大統領は無視するような素振りで俯いたまま目を合わせようとせず挨拶を返さなかったことを彷彿とさせます。ファースト・ネームで応えないのは、アメリカにあっては失礼なことであり、オバマ大統領はTPP問題で妥協しない日本に対して怒っているに違いないと報道するメディアもありましたが、もっと根本的な「距離感」の演出、すなわちメディアを通して伝わる先にある、中国の視線を意識してのことだろうと思われます。
今回の訪日でも、到着した夜、オバマ大統領は、銀座の高級寿司店の前で出迎える安倍首相に向かって「シンゾウ!」と呼びかけ、握手しながら挨拶したとされます。先月の日米韓首脳会談でも、記者会見であれだけ不機嫌を装った朴槿恵大統領は、会見が終わってテレビ・カメラがいなくなってからは様子が変わり、三人だけで会談した時には安倍首相と視線を合わせたり、会談が終わり退出する際には握手を交わしたと伝えられます。両者に共通するのは、テレビ・カメラを通して伝わる先に、中国の視線がないときの、ごく自然な首脳間の親密さであり、それとは対照的に、テレビ・カメラがある時の頑なさです。勿論、朴槿恵大統領は、テレビ・カメラを通して、直接的には国民と対峙しているわけですが、更にその先に中国の目線を意識しているのは間違いありません。
その意味でも、今回の共同記者会見でのメッセージは、極めてアンビバレントな印象を抱かせました。オバマ大統領のアジア歴訪は、昨年、政府機関が閉鎖される事態でAPEC首脳会談を不義理し、アジアへのリバランス政策を疑われたオバマ大統領が、日本、マレーシア、フィリピンといった国々をはじめとして、アメリカのプレゼンスを再認識させることが目的でしたので、中国を牽制して見せると同時に、同盟国との親密さをアピールする一定のメッセージ性があったのは確かです。その一方で、共同記者会見での発言は、明らかに中国を意識し、努めて過剰に刺激しないように目配りしたものでもありました。ニューヨークタイムズ電子版は、26日付News Analysisで、”On a Trip That Avoids Beijing, Obama Keeps His Eye on China”と題し、それぞれの国において、オバマ大統領は、アメリカの同盟国と中国という、二つの異なる聴衆に向かって語りかけるものだった、と端的に伝えました。このようにバランスをとろうとする対応は、ロシアとの関係が急激に悪化する中で、ますますトリッキーでもあるとも伝えています。そして、欧米諸国によるロシア制裁は、そもそも資源に頼るロシア経済の脆さをますます弱めるものであることを強調することによって、中国に対して、勝ち馬に乗ることを迫るもの、つまりロシアのやり方を真似しかねない中国を強く牽制するものだと、NSCで中国担当だった元高官の解説を紹介しています。
以上のことは、とりもなおさず中国の存在感の大きさを否応なしに見せつけるものでもありました。かつての冷戦時代には東西で経済交流がなかったために対立を先鋭化させることが出来ましたが、いまや中国経済抜きにアメリカの経済も欧州の経済も成り立たないほどグローバルに緊密化した経済環境の下で、経済力を背景に軍拡と海洋進出を着々と進める中国を、かつてのソ連に対するように「封じ込め」ることなど出来ない、現代の国際関係の難しさを思い知らせるものでもありました。
かたや日本は、尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象と大統領自身に言わせたのは満額回答だと、浮かれて報じるメディアが後を絶たないのが、なんともオメデタイと思わざるを得ませんでした。既に国務長官や国防長官は明言していたことですし、そもそもアメリカとして、同盟国・日本を守れなければ、他の同盟国に示しがつきませんし他の同盟国の信頼を得られなくなるのは理の当然です。それ以上でもそれ以下でもない。
かつてジャック・ウェルチ氏に「GE革命」という著作があって、原書タイトルは、今でも忘れられない「Control Your Destiny or Someone Else Will」というものでした。直訳すると、「自分の運命は自分でコントロールしないことには、他人がコントロールしちゃうぞ」というもので、ジャック・ウェルチ氏の覚悟と生き様を述べたものですが、自戒を込めて、この国のありようが他人任せであるだけに、ずっと引っかかって来ました。外務省が、先月、東南アジア7ヶ国で実施した世論調査によると、将来、重要になるパートナー国は、複数回答で尋ねたところ、1位・日本(60%)、2位・中国(43%)、3位・米国(40%)の順だったそうです。日本が一番というのも驚きなら、中国が、恐らく台頭する経済力と軍事力による圧力を背景に、日本と米国との間に割り込んでいるのが、なんとも不気味です。日本は、このような現実の重みを恐らく意識していないことでしょう。これをどう受け止め、自らの運命をどうコントロールしていくのか。月並みですが、集団的自衛権や原発再稼働への反対が賛成を上回るような、余りに平和ボケしてしまった日本がもどかしくてなりません。
国賓と言いながら、しかし、オバマ大統領は元赤坂の迎賓館ではなく都内の老舗ホテルに宿泊し、皇居訪問の際も、宮内庁が差し回す御料車ではなく自前で用意した大統領専用車を使用し、国会演説も行ないませんでした。もともと国賓扱いを辞退し一泊を希望した事情があり、プラグマティックなアメリカにあっても更にビジネスライクな(そのせいか政界にはお友達がいないと言われるほどの)オバマ大統領の本領発揮といったところでしょうが、今回はとりわけ、ある程度の「距離感」を演出したかった、演出せざるを得なかったのではないかと思われます。
それは、共同記者会見で、安倍首相が頻りに「バラク」と笑顔で呼びかけても、オバマ大統領は「Prime Minister Abe」と応えていたところにも表れています。不自然な、と言えるほどの「距離感」で、先月の日米韓首脳会談で、安倍首相が韓国語で話しかけても、朴槿恵大統領は無視するような素振りで俯いたまま目を合わせようとせず挨拶を返さなかったことを彷彿とさせます。ファースト・ネームで応えないのは、アメリカにあっては失礼なことであり、オバマ大統領はTPP問題で妥協しない日本に対して怒っているに違いないと報道するメディアもありましたが、もっと根本的な「距離感」の演出、すなわちメディアを通して伝わる先にある、中国の視線を意識してのことだろうと思われます。
今回の訪日でも、到着した夜、オバマ大統領は、銀座の高級寿司店の前で出迎える安倍首相に向かって「シンゾウ!」と呼びかけ、握手しながら挨拶したとされます。先月の日米韓首脳会談でも、記者会見であれだけ不機嫌を装った朴槿恵大統領は、会見が終わってテレビ・カメラがいなくなってからは様子が変わり、三人だけで会談した時には安倍首相と視線を合わせたり、会談が終わり退出する際には握手を交わしたと伝えられます。両者に共通するのは、テレビ・カメラを通して伝わる先に、中国の視線がないときの、ごく自然な首脳間の親密さであり、それとは対照的に、テレビ・カメラがある時の頑なさです。勿論、朴槿恵大統領は、テレビ・カメラを通して、直接的には国民と対峙しているわけですが、更にその先に中国の目線を意識しているのは間違いありません。
その意味でも、今回の共同記者会見でのメッセージは、極めてアンビバレントな印象を抱かせました。オバマ大統領のアジア歴訪は、昨年、政府機関が閉鎖される事態でAPEC首脳会談を不義理し、アジアへのリバランス政策を疑われたオバマ大統領が、日本、マレーシア、フィリピンといった国々をはじめとして、アメリカのプレゼンスを再認識させることが目的でしたので、中国を牽制して見せると同時に、同盟国との親密さをアピールする一定のメッセージ性があったのは確かです。その一方で、共同記者会見での発言は、明らかに中国を意識し、努めて過剰に刺激しないように目配りしたものでもありました。ニューヨークタイムズ電子版は、26日付News Analysisで、”On a Trip That Avoids Beijing, Obama Keeps His Eye on China”と題し、それぞれの国において、オバマ大統領は、アメリカの同盟国と中国という、二つの異なる聴衆に向かって語りかけるものだった、と端的に伝えました。このようにバランスをとろうとする対応は、ロシアとの関係が急激に悪化する中で、ますますトリッキーでもあるとも伝えています。そして、欧米諸国によるロシア制裁は、そもそも資源に頼るロシア経済の脆さをますます弱めるものであることを強調することによって、中国に対して、勝ち馬に乗ることを迫るもの、つまりロシアのやり方を真似しかねない中国を強く牽制するものだと、NSCで中国担当だった元高官の解説を紹介しています。
以上のことは、とりもなおさず中国の存在感の大きさを否応なしに見せつけるものでもありました。かつての冷戦時代には東西で経済交流がなかったために対立を先鋭化させることが出来ましたが、いまや中国経済抜きにアメリカの経済も欧州の経済も成り立たないほどグローバルに緊密化した経済環境の下で、経済力を背景に軍拡と海洋進出を着々と進める中国を、かつてのソ連に対するように「封じ込め」ることなど出来ない、現代の国際関係の難しさを思い知らせるものでもありました。
かたや日本は、尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象と大統領自身に言わせたのは満額回答だと、浮かれて報じるメディアが後を絶たないのが、なんともオメデタイと思わざるを得ませんでした。既に国務長官や国防長官は明言していたことですし、そもそもアメリカとして、同盟国・日本を守れなければ、他の同盟国に示しがつきませんし他の同盟国の信頼を得られなくなるのは理の当然です。それ以上でもそれ以下でもない。
かつてジャック・ウェルチ氏に「GE革命」という著作があって、原書タイトルは、今でも忘れられない「Control Your Destiny or Someone Else Will」というものでした。直訳すると、「自分の運命は自分でコントロールしないことには、他人がコントロールしちゃうぞ」というもので、ジャック・ウェルチ氏の覚悟と生き様を述べたものですが、自戒を込めて、この国のありようが他人任せであるだけに、ずっと引っかかって来ました。外務省が、先月、東南アジア7ヶ国で実施した世論調査によると、将来、重要になるパートナー国は、複数回答で尋ねたところ、1位・日本(60%)、2位・中国(43%)、3位・米国(40%)の順だったそうです。日本が一番というのも驚きなら、中国が、恐らく台頭する経済力と軍事力による圧力を背景に、日本と米国との間に割り込んでいるのが、なんとも不気味です。日本は、このような現実の重みを恐らく意識していないことでしょう。これをどう受け止め、自らの運命をどうコントロールしていくのか。月並みですが、集団的自衛権や原発再稼働への反対が賛成を上回るような、余りに平和ボケしてしまった日本がもどかしくてなりません。