風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

ラスト・クリスマス(続)

2016-12-29 21:42:31 | 日々の生活
 一年前にラスト・クリスマスとなった方がいる。先ごろ、過労自殺が労災認定された、電通の新入社員・高橋まつりさんだ。
 電通は、再発防止策に加え、仕事の心構えを示した「鬼十則」を社員手帳から削除することも発表した。「1.仕事は自ら『創る』べきで、与えられるべきでない」から始まり、「2.仕事とは、先手先手と『働き掛け』て行くことで、受け身でやるものではない」、「3.『大きな仕事』と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする」、「4.「難しい仕事」を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある」など、結構、過激ながら良いことも書いてある有名なものだが、「5.取り組んだら『放すな』、殺されても放すな、目的完遂までは…」とあるのが、さすがに今の状況に相応しくないと判断されたようだ。第4代社長・吉田秀雄氏が1951年に自らの心がけを明文化したもので、当時の日の出の勢いの日本経済、日本企業のモーレツ振りを彷彿とさせる。同社では、13年前にも入社2年目の男性社員の自殺が過労死と認定され、3年前にも30歳の男性社員の病死が過労死と認定されており、「鬼十則」に見られるような、やや行き過ぎた精神論を背景に、パワハラやセクハラが日常化していると言われる。しかし大企業と言われるところは多かれ少なかれ似たり寄ったりではないだろうか(だからこそ大企業になり得たとも言える)。しかし時代は変わった。
 今回の電通の事案では、広告業界のクライアントワークの在り方を問題視する人、更には高橋まつりさんが配属されたネット広告業界の、見た目の最先端のイメージとは裏腹に、運用受託やクライアントへの業務報告など、現場では人手がかかる単純作業が多いことを問題視する人もいる。しかし、電通だけの問題やネット広告業界だけの問題に留めて矮小化するのではなく、また形だけの残業時間削減に留めて記録には残らないだけでサービス残業が増えるようでは(あるいは仕事を自宅に持ち帰るようでは)元も子もないので、日本人全般の働き方や生き方の問題として考え直す機会にするのが、高橋まつりさんへのはなむけになると思う。
 実際、今回は労災認定に加え、厚生労働省による労働基準法違反容疑の強制捜査に発展したこともあって、多くの企業や官公庁が長時間労働の常態化を見直す取り組みを始めたようだ。小池都知事は都庁での「20時完全退庁」を目指しているし、日本電産の永守社長は「2020年までに社員の残業をゼロにする」ことを公言している。当社でも、以前から館内一斉消灯してもフロア毎、エリア毎に個別に点灯できるので意味がなかったが、館内放送で退社を促し、社員通用口の退場時間などを繰り上げるなど、物理的なプレッシャーを様々に加えられて徐々に意識も変わりつつあるように思う。
 電通はプレスリリースの中で、長時間労働の原因として、「過剰なクオリティ志向」、「過剰な現場主義」、「強すぎる上下関係」など、同社独自の企業風土が大きな影響を与えていると総括したが、そう言われれば自分の会社でもそうだと思い当たる人が多いのではないだろうか。「強すぎる上下関係」は各社それぞれだろうが、「品質」や「現場主義」は日本的経営の強みそのものだ。要は程度の問題、「過剰な」という形容がつくことの問題なのだろう。国連の調査によると、日本の労働者の質は世界最高と言われながら、先進国グループで最低レベルの生産性(一人あたりGDP)しか引き出せていない。トヨタに典型的に見られるように、生産現場では「ムリ」「ムラ」「ムダ」を省いて極めて高効率なオペレーションを実践出来ているのに、日本のホワイトカラーの生産性は低いと言われる。本来、機能的かつ合目的的で、ゲゼルシャフト的な組織であるべき一般の営利企業にあって、上司・部下の関係や幹部への対応、人の異動、組織への忠誠心の示し方や働き方などに、日本古来のムラ社会的(あるいは江戸時代の藩的)な非合理性や精神性が根強く残っているのが、良くも悪くも現代の日本企業の現実だろう。
 例えば、Googleのような会社はいかにも日本企業とは対照的だ。社員食堂で朝・昼・晩の三食とも無料、というのは有名な話で、おまけに専属のシェフがいて社員の健康への配慮も行き届いており、専用の牧場から養蜂場まであるほどだ。オフィス内にあるコンビニのようなスペースでは、飲料・弁当・お菓子・雑誌まで全て無料だし、シャワー室や仮眠室もあり、いつでも使える食堂と併せて、長時間労働でも働きやすい環境が整っている。さすがに創造性を大事にする世界の先端企業だけあって、人材は人財などと掛け声だけで実際にはSG&A削減や経費効率化の名のもとに徒に精神的に追い詰めるだけの日本の企業とは違って、人それぞれのワーク・スタイルに合わせて環境を整備するアメリカのプラグマティックな合理性には感心する。BREXITやトランプ氏の登場は行き過ぎたグローバル化を懸念する動きとも解説されるが、グローバルな競争環境の中で競合するのはこういう企業だということをあらためて肝に銘じる次第だ。
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ラスト・クリスマス

2016-12-26 23:03:26 | 日々の生活
 暮れの慌ただしいときに、国際情勢は何かと騒々しくて、米中の鞘当て(特に中国空母「遼寧」の航行が初めて確認されたこと)でも書こうと思いながら、一日遅れると、別のニュースが飛び込んできて釘付けになってしまった。ワム!のジョージ・マイケルが死亡したという。同世代であること、そして若かりし頃によく聞いた音楽に絡むだけに、ショックは大きい。
 当時、レコード・レンタル屋でワム!のアルバムを借りたとき、たまたま会った近所のおばさんに「それ何?」と聞かれて、若作りして(!)ジャズ・ダンスにいそしむおばさんでも知らないのかと不思議に思ったのが妙に記憶に残っている。中学から大学まで、ラジオの「ながら族」で、勉強しながら、ぼんやりしながら、酒飲みながら、ウトウトしながら、なんとなく耳に入れて、1970年代後半から1980年代前半に流行った曲のメロディーはなんとなく覚えている程度で、いまだに洋楽のベストはイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」と言って憚らない洋楽オンチの私にしては、ワム!の名前と曲名のいくつかは覚えている。「Careless Whisper」はそれだけ衝撃的だった。クリスマス・ソングの定番と言えば、私の世代にとっては今なお、山下達郎「クリスマス・イブ」(1983年)とユーミン「恋人がサンタクロース」(1980年)とワム!「Last Christmans」(1984年)がベスト3だ。
 本名ヨルゴス・キリアコス・パナイオトゥーとは知らなかった。ギリシャ系キプロス人の父と、ユダヤ人の血を引くイングランド人の母との間の子で、「子供の頃から内気」で、「自分の中で『ジョージ・マイケル』という架空のヒーローを想像し続け、後に自分がデビューしてから、もう一人の架空の自分であるとして、『ジョージ・マイケル』を名乗る」ようになったという(Wikipedia)。その後、薬物に溺れ、同性愛者であることを公表したのも、なんとなく頷けるような、やや複雑な生い立ちを感じさせる。
 調べてみると彼には、ワム!時代を含めて「ソロシンガーとして80年代における全米No.1シングル数8曲」という記録があり、マイケル・ジャクソンの9曲に次いで2位だという(フィル・コリンズと並ぶ)。ソロになってからの彼のことは(私も就職してそれどころではなくなって)疎くて知らなかったが、私が思っている以上にスゴいシンガーソングライターだったようだ。
 広報担当者は「自宅で安らかに息を引き取った」と発表したのが、せめてもの慰めだと思うのだが、死因について何かと取り沙汰されている。折しもクリスマスの25日である。因縁めいたものを感じるのは私だけではないだろう。彼にとって本当の意味での「Last Christmans」になってしまった。ご冥福をお祈りしたい。合掌。
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出生数 100万人割れ

2016-12-23 16:13:48 | 日々の生活
 昨日の日経夕刊によると、2016年生まれの子供の数は、1899年の統計開始以降で初めて、100万人の大台を割り込み、98万~99万人程度になる見通しだという。子を産む若い世代の人口が減っていることに加え、晩婚化や経済的な理由で二人目を産む夫婦が減って、これらがダブルやトリプルで効いているであろうことは容易に想像がつく。私が生まれた頃は約160万人だから、この50年で実に4割近く減ったことになる。TVゲームや携帯のない昔は公園で遊ぶ子供はここでいう減少率どころではなくさぞ多くて賑やかだったことだろう。他方、死亡数は130万人で、いくら平均寿命が延びても出生数が減るために、死亡数が出生数を上回る「自然減」は31万人に達し(過去最多)、10年連続となるそうだ。
 もっとも、私たちはせいぜい数十年単位でしかものごとを見ないので、今でこそ先進国ヅラをして新興国や発展途上国に対し多少なりとも優越感を持って接しているかも知れないが、実は日本だって明治維新以降に高成長を遂げた、新興国の先輩格にすぎない。調べてみると、明治5年に僅か3500万人だった日本の人口は、その後60年かけて太平洋戦争前に2倍の7000万人になり、更に30年かけて大阪万博の頃に3倍の1億500万人になった。ピークは2008年の1億2800万人で、現在、そこから100万人減っているのはともかくとして、これだけ短期間に急激に人口が増え、経済的に豊かになって、平均寿命が延びるとともに少子化が進行し、これから(とりわけ若い)人口が減って行く世界最先端の高齢社会になるというヒズミは、数百年先行して緩やかに成長(停滞)を続けるヨーロッパとは比べものにならないほど大きいだろう。
 子供が減っているとは言え、1人の女性が生涯に産む子どもの数を推計した合計特殊出生率は、昨年1.45で、2005年の1.26を底に持ち直している。それでも単純に2.00(正確には2.07)ないと基本的には人口を維持出来ないから、深刻であることには違いない。この合計特殊出生率は、世界の半分近い国で2.07を下回っている。とりわけ東アジア諸国で顕著で、世銀の昨年のデータによると、韓国1.29(196位)、香港1.26(199位)、シンガポール1.24(203位)、台湾1.12(204位)と、かつて1980年代にNIEs(昇龍)と呼ばれた国と地域が日本より下に位置しているのが興味深い。ここで思い出されるのは、OECDが実施する国際学力テスト(PISA)で、上位は、三科目平均に意味があるかどうか別にして、シンガポール、香港、日本、マカオ、台湾(さらにエストニアやカナダやフィンランドに次いで韓国)と続く。子供の数が減って、学校で先生の目が行き届きやすくなっているのか、塾や家庭教師など教育にカネを注ぎ込めるようになっているのか、あるいはそのような環境を求める移民が成績を引き上げているのか、なんとなくまだ成熟と言うには程遠くて飽くまで成長を追い続ける貪欲で不安定な印象を裏付けるようなデータである。
 孫引きになるが、ある新聞の投書欄に次のような話が載ったらしい。登山をして来た元気な高齢者が優先席に座っている若者に聞こえよがしに「近頃の若者は年寄りに対する敬意が足りない」と呟いたのに対し、若者が疲れた顔で「あなたたちの年金は我々の残業代から出ているのだ」と反論したのだとか。大いにあり得る話で、確かに私も通勤帰りの電車で、どこかで遊んで来られたのかリフレッシュされて元気そうなお年寄りが乗り込まれるのを見かけて、一日疲れて(最近は齢のせいか疲れが激しい 笑)せっかく始発駅で並んで確保した席を譲るのが億劫になることがある。
 そんなこんなで、出生数減少のニュースを受けて、国家間の不均衡や、世代間の不均衡(とりわけシルバー民主主義)についても考えさせられるのであった。
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プーチン大統領訪日・続

2016-12-21 00:22:22 | 時事放談
 前回ブログの続報になるが、安倍首相は、翌17日、日テレのインタビューにも応じたようだ。やはり外交失点と受け取られかねないことを懸念して、国民の前で、意図的に火消しに躍起になっていると見るべきだろう。
 確かに今回の日露首脳会談に関して、専門家の見方は真二つに割れる。一つは、端的に安倍外交の完敗と見るもので、反安倍や反ロシアといったそれぞれに厳しい見方をする専門家に見られる考え方で、今回はここに欧米も含まれる(Financial Timesもそう報じた)。と言うのも、ロシアによるクリミア併合によって今なお対ロシア制裁が続く緊張する時期での日露首脳会談であり、実際に、プーチン訪日のタイミングにぶつけて、欧州はロシア制裁継続を発表し、米国は大統領選でのロシアによるハッキングを公然と非難したのは、日本の国益は理解しないわけでもないが日露接近は面白くないというサインなのだろう。もう一つは、領土問題では確かに成果がなかったが、主に対中関係の文脈において、ロシアを中立化する(つまり日米VS中露、もっと言うと、日VS中+露という構図を作らない)という中長期の目的に照らして先ずは合格点と見なすものだ。私も、どちらかと言うと後者に近い。
 何故、安倍首相は頑張ったと言えるのか?と言うと、ひとえに中国メディアの反応による。国営・新華社通信は15日配信の論評で「ロシアを対中包囲網に取り込もうとするのは独り善がりの妄想に過ぎない」と、日中露のバランスが変容することに強い警戒感を示したという。こうした神経質と見える論評を引き出しただけでも、今回の首脳会談は成功だったように思う。
 なお、プーチン大統領が3時間近くも遅刻したことに関しても、前者は、過去にローマ法王はじめ要人と会ったときと同様、遅刻することによって、どちらが会いたがっているのか、格の違いを見せつけようとしているのだと論じるが、後者は、単にシリア問題で忙殺されていたからやむを得ないのだと好意的に見る。
 あらためてロシアをはじめ諸外国との関係を見てみたい。
 トランプ氏がプーチン大統領に、IS掃討の連携のために秋波を送るのは、ロシアの孤立に手を差し伸べることに繋がり、日本の立場を弱くすると見る向きが多いが、そもそもロシアが期待するシベリア開発に米国は興味がないこと、また米露接近がホンモノなら、対中牽制に資するため、必ずしも日本にとって悪い話ではないことは言えると思う。他方、中国は、クリミア併合によって国際的に孤立したロシアに救いの手を差し伸べ、対米牽制で共闘しているとされる。そもそも中ソ(現ロシア)対立の頃からウマが合わなかった両国は、安全保障上も相互に警戒してきた歴史があり(さしずめ、テーブルの上で握手しながら、テーブルの下で脚を蹴り合う戯画のように)、その後、GDPが逆転し、さらに原油価格暴落でロシア経済の落ち込みに拍車がかかる昨今、中国にとってロシアは、敵の敵は味方、程度の重みしかないように思える。ロシアにとっての中国も同様で、国民レベルではむしろ親日と言われる。ロシアにとって対日カードは、ただでさえ極東ロシアで増え続ける中国人の流入に依らないという意味合いがあり、中国に対して有効だ。
 こうした環境を踏まえつつ、ロシアに対する見方については、東西冷戦期にそもそもの淵源があると言われる。東西冷戦の頃からソ連を批判的に見て来た人は、当然ながら今のロシアに対する見方も厳しいのが一般的のようだ。これはアメリカでも同様で、世代で言うと60代以上が該当するようだ。他方、40代や50代の出発点はもう少しニュートラルで、地政学的にロシアを捉える傾向にあるようだ。日露関係については、もう少し時間をかけて状況を追ってから判断してもよいように思う。
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プーチン大統領来日

2016-12-17 02:03:40 | 時事放談
 今宵、安倍首相が、NHK(ニュースウォッチ9)、テレビ朝日(報道ステーション)、TBS(News23)と、生出演のハシゴをされるという珍しいシーンが見られた。プーチン露大統領との二日間にわたる会談をこなしたその日に登場されたのだから、よほどのことと受け留めるべきだろう。プーチン大統領来日に当たっては、ある時期まで北方領土問題で何等かの進展があるものと、日本人の間で期待が高まっていただけに、結果として成果が乏しく現実的な展開に落ち着いたことについて、テレビ局側の発意かどうか知らないが首相の出演と説明を希望し、官邸側も生出演して釈明したかったであろう(言わば火消しとして)という意味では、双方の思惑が一致したのだろうか。
 これより前、今月7日に、読売新聞と日本テレビがモスクワでプーチン大統領にインタビューを行った際に、既に期待値を下げるようなコメントが報じられていた(このインタビュー自体も、官邸筋から読売への要請によるものではないかと睨んでいるが、穿ち過ぎだろうか)。その読売新聞のインタビューで、今年は1956年の日ソ共同宣言以来60周年という歴史の節目で日本国民は非常に大きな期待をしているがと問われたプーチン大統領は、「安倍首相と私の交渉について予測するのは時期尚早だ。もちろん、前進を期待している」と、水を差していた。さらに踏み込んで、「共同宣言には2島について書かれている。だが、(あなたは)4島の問題について言及した。つまり、共同宣言の枠を超えた。これはまったく別の話で、別の問題提起だ」と、クギを刺していた。
 北方領土について、日本人は四島返還に拘り、返還を条件として平和条約に至る交渉を渋って来たし、その際、四島の来歴、つまり日本の「固有の領土」という歴史的正当性ばかりに目を向けて、北方領土がロシアにとって戦略的に重要な場所であることは閑却している。地図を見れば分かるが、ロシア海軍太平洋艦隊の母港が置かれている不凍港ウラジオストクから太平洋に抜けるためには、国後・択捉両水道(海峡)は不可欠である。逆に、北方四島を、従い両水道(海峡)を日本に返還し、自らコントロールできなくなると、自らの内海としておきたいオホーツク海への米・攻撃原潜の侵入もあり得ないわけではなくなるし、かつて真珠湾攻撃にあたって大日本帝国海軍機動部隊(第一航空艦隊)が出撃(出港)した択捉島の単冠(ヒトカップ)湾(ここもまた真冬でも流氷の影響を受けない天然の良港)に米・海軍基地が置かれるようなことになれば、ロシアにとって大変な脅威になる。その意味でロシアは、1956年の日ソ共同宣言に沿って歯舞・色丹二島返還に応じることは可能でも、国後・択捉を含む四島返還は、国家安全保障上、そもそも当面は無理筋ではないかと思ったりもする。
 領土問題はやはり簡単ではないということには別の意味合いもある。ロシアは、中国やカザフスタンやノルウェーなどとの領土紛争は「引き分け(面積折半)」の原則で政治決着したが、第二次大戦の結果が絡むバルト諸国との領土紛争では一切譲歩しなかったと言われる。北方領土もまた、第二次大戦の結果と、ロシアは主張する。その意味で、2013年2月、森元首相との会談で北方領土に関して「引き分け」という言葉を使い、「勝ち負けなしの解決だ。つまり双方受け入れ可能な解決だ」と解説した意味が問われるが、その時々の環境によって、例えばトランプ氏がプーチン大統領に秋波を送っても変わってしまう。今回の共同記者会見の映像を見ていて、プーチン大統領がなんとも浮かない顔をしていたのが印象的だったが、独裁者プーチンと言えども、また安倍首相との個人的関係を以てしても、ロシア国民感情を無視して妥協するわけには恐らく行かないのであろう。
 安倍首相がロシアとの平和条約締結に拘る背景には、命を削ってまで日露(当時ソ連)関係改善に拘った父上・安倍晋太郎氏(元外相)の存在があると言われる。そんな情念は分からないでもないが、語るべきは安倍首相の「地球儀を俯瞰する外交」が遠交近攻の兵法によって兵法の本家・中国を包囲しヘッジするものであり、ロシアはその重要な構成要素となることだ。その意味では、私も日本人として領土問題に拘りたい気持ちはやまやまだが、そこは100年のスパンで取り組むとして(それくらい時間が経てば戦略環境も変わるかも?)、依然、ロシアのクリミア併合の傷跡は癒えず、欧米によるロシア経済制裁は続く中、先ずは平和条約締結に向けてじっくり環境整備に取り組むとする方向性もやむを得ないかも知れない。くれぐれも「良いとこ取り」されないように・・・これはタフな交渉となりそうだ。
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トランプ・ゲーム

2016-12-13 00:03:34 | 時事放談
 ブログ・タイトルは、カードゲームのトランプと、相変わらず過激発言でゲーム感覚のトランプ氏を掛けている(もっとも外交は外交カードなどと言ってゲームの要素が多分にあるものだが、彼の場合、外交のセオリーをやや逸脱したかのようなゲーム感覚で、危なっかしい)。
 2日に台湾の蔡英文総統と電話で協議し「米国と台湾の経済、政治、安全保障面での緊密な結びつき」を確認したことを公表したことも驚きだったが(何しろ米国大統領や次期大統領が台湾トップと言葉を交わすのは1979年以来のこととされる)、昨日のFOXニュースでのインタビューで、「中国と台湾は不可分の領土とする“一つの中国”原則について『貿易などで(中国と)合意できなければ、なぜ“一つの中国”に縛られる必要があるのか』と述べた上で、中国の人民元政策や南シナ海での軍事拠点建設を批判した」(産経Web)らしい。どうやら台湾総統との電話協議について「私が電話してはいけないと、なぜ他国が言うことができるのか。中国には指図してほしくない」と不快感を示したというから、一種の報復的な発言だったようだ。さすがの橋下徹前大阪市長も脱帽したのだろう、「トランプのおっちゃん、やるなー。…アメリカファーストを地で行ってるな」とツイッターで呟き、驚きを隠せなかったようだ。
 外交や安全保障を理解するまで黙っていればいいのに・・・と小心者の私なんぞは思うのだが、トランプ氏は何でもカネ(経済的)に換算すると、一部で批判されてきたが、外交や安全保障を理解していないだけなのか、関心がないせいなのか、確かにビジネスのディールを有利に進めようとするかのように破天荒に単純に策を弄するようだ。元外交官の宮家氏は「バランス感覚のある経験豊かな共和党系の外交安保専門家の多くが選挙中にトランプ候補を忌避する書簡に署名した」と言って警戒されるが、そうは言っても、トランプ政権のスタッフは、所詮、外交安保専門家コミュニティの中から選ばれるだろうから大きく踏み外すことはなかろうとの楽観論も聞こえてはいた。アメリカは民主主義大国であって、一人のリーダーでは如何ともし難い、システムで動いているのだ、と。しかし、トランプ氏の自己顕示欲なのか、自己宣伝好きなのか、選挙戦の最中ならまだしも、アメリカ大統領という重職について、果たして抑制的になれるものなのか疑わしい。
 実のところ、トランプ氏は次期大統領を約束されているが、今のところ大統領就任式を経ていない私人に過ぎない。その発言を真に受けるとすれば中国も大人げない。実際、アーネスト米大統領報道官は、トランプ氏と台湾総統の電話協議を受けて、オバマ政権が中国政府に対して“一つの中国”原則を守る方針を伝えたことを明らかにしていた。しかし、昨日のトランプ氏の発言を受けて、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は黙っていられなかったのだろう、社説で、トランプ氏は外交面において「子供のように無知だ」と非難し、「“一つの中国”政策は売買することができない」と主張し、「トランプ氏が“一つの中国”政策を放棄した場合は『どうして台湾の平和統一を武力による回復に優先させる必要があるだろうか』として武力統一を選択肢とすることもにおわせた」(産経Web)らしい。中国としても気が気ではないだろう。
 いやはや、お騒がせトランプ劇場はまだまだ続く。
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漂流する韓国

2016-12-11 00:49:52 | 時事放談
 韓国が揺れている。朴槿恵大統領は29日に事実上の辞意表明をしたが、昨日、国会は弾劾訴追案を可決した。これに伴って、大統領の職務権限が停止され、憲法裁判所が最長180日間、罷免が妥当かを審理することになる。本人は既に4月辞任の意向を明らかにしており、失意の中、青瓦台を去らざるを得ないようだと報じられている。
 ニューズウィーク11・29号の特集は、デモ参加者について、一体何に対して怒っているのか、彼ら自身よく分かっていない節があり、呆気にとられるほど緊張感が見られないのは、国民の多くが怒りを通り越し、政治に諦めを感じ始めているからかも知れないと伝えた。他方、この特集の別の記事は、大韓航空、現代グループ、サムスンなど最近の韓国の不祥事も含めて、全てに共通する要因、つまり「情」があることを指摘する。「韓国企業の経営陣は自分の身内や友人を部下として採用する。こうして上から下までがっちりと情で結ばれた構造が出来上がる。政府機関も往々にしてこうした構造になっている」「そこでは目下の者は目上の者に命懸けで忠誠を尽くす」「部下の命懸けの忠誠には、上司も報いなければならない。政財界の有力者はその力にものいわせて身内や友人の便宜を図ることを期待される」そして、「つながり重視が問題なのは、競争力を低下させかねないからだ」と。
 木村幹教授(神戸大学)によると、韓国ギャラップの調査では、大統領が支持されない理由に、内政や外交に対する朴政権の政策が挙げられていないという。つまり、経済政策の失敗でも、対中国外交の頓挫でも、日韓慰安婦合意でも、さらに北朝鮮政策の行き詰まりへの不満でもなく、むしろ既存の政治システムに対する信頼は改善しつつあったという。では何が起きているかというと、1987年の民主化から来年で30年を迎える韓国で、政治システムへの評価が高まっているからこそ、また経済的にも豊かになって、様々な問題を抱えつつも古い先進国に肩を並べつつあると、韓国人としてのプライドを持つようになってきたからこそ、いまだに半世紀前と同様の旧態依然たる癒着構造が存在することへの失望が、巨大な怒りに駆り立てているのではないかという。
 さらに、西岡力教授(東京基督教大学)は、反朴デモの首謀者は親北極左勢力で、崔順実スキャンダルを問題にしているのではなく、韓国の自由民主主義体制を否定する「革命」を目指しており、野党もその勢力に便乗していると主張される。確かに週末毎に繰り広げられるデモには、普通の学生や主婦も勿論参加しているが、その中心にいるのは労働者団体や親北極左NGOの核心的な勢力だと言う別の声がある。デモを誘導している親北団体は実に1500に上り、「朴槿恵政権退陣罷業国民運動」と仮面をかぶりながら、急進的な労働団体から北朝鮮の代弁機能を果たしてきた団体、さらに慰安婦運動をしてきた挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)まで入っていると言われる。それはともかくとして、西岡教授は「特権腐敗勢力、親日勢力、朴大統領背信勢力(もともと朴大統領支持だったが世論を見て裏切った非朴系与党議員や保守新聞などを指す)、セヌリ党(与党)、政経癒着勢力をいっぺんに清算しようと集まったのではないか」と言われる。確かに平和安全法制の整備を巡る混乱では、学生団体SEALDsをはじめ、首謀者と呼ぶかどうかは別にして左翼団体が暗躍した。
 ソウル駐在・産経新聞客員論説委員の黒田勝弘氏は、朴槿恵が「大統領になれたのは、韓国の近代化と経済発展を実現した父の業績とそれへの国民の郷愁があったからだ」が「その父の時代に対しては、政治的に弾圧された進歩派知識人や野党・左翼など反対勢力には強い“恨(ハン)”が残った」と指摘される。その背景に、「父が日本の陸軍士官学校で学んだ旧満州国軍将校出身で、韓国では今もタブーになっている“親日派”と非難されながら国家建設に成功し、さらに北朝鮮を凌駕する国を作ったことに対する、自尊心を破壊されたような恨みがある」というのは確かに聞いたことがある。つまり、「今回の弾劾に至った韓国政治の激動の核心は、そうした伝統的な反政府勢力による父および父の時代への報復の戦いであり、父子2代への『復讐戦』だ」というわけである。それに加え、「大規模な街頭デモで“朴槿恵たたき”に懸命な群集の中心は“盧武鉉世代”」で、「2002年に庶民派で左翼・革新系の盧武鉉を大統領に当選させたのは、同じ年開催のワールドカップ日韓大会の際、超愛国的な100万人街頭応援で人生を謳歌した若者世代だといわれた。その街頭パワーが今回は朴槿恵追放で結集しているようにみえる」という。つまり、「盧武鉉は在任中に保守勢力(当時は野党)によって弾劾決議に追い込まれ(罷免は免れたが)、退任後は検察当局による家族への金銭疑惑捜査に苦悩し自殺してしまった。盧武鉉世代にとって今回はその“弔い合戦”でもある」という。
 まあ盧武鉉世代のことはともかくとして、左右対立に絡む北朝鮮ファクターや、急速な近代化を遂げる歴史過程で絡む日本ファクターが、古い儒教社会の体質を色濃く引き摺る韓国に重層的にかぶさって、日本人の私にはなかなか理解し辛い。毎週末の大規模デモについても、平和的に行われ、暴力や略奪などは報告されず、「アラブの春」の際に中東各国で見られたような社会的混乱は起きていないことから、民主主義が根付いている証しと見る報道があるが、それは程度の問題であって、今日の世界での大規模デモ同様、80年代から90年代に民主化を遂げた、いわゆる新興民主主義国に広く見られる現象だとする見立て(木村幹教授)に同意する。その背景には、一つには、アメリカにおいて、既存の政治システムに対する不満が大規模デモではなく大統領選でのトランプ氏への支持に繋がったように、制度的民主主義の枠組みの中にきちんと回収されるのと対照的に、新興民主主義国では依然として腐敗し非効率な存在し、頻発するスキャンダルが期待を失望へと変えるという、民主化により導入された「選挙による政治」への失望があり、もう一つには、こうした失望の中で、欧米諸国にも見られるようなポピュリスティックなリーダーが登場し、支持基盤獲得のために大衆動員を活用することで、デモが日常化する事情があるという。デモという形は、日本人の私には、やや異質ながら、特殊に見える韓国の状況は大きな世界の流れの一つに位置付けられるという指摘(木村幹教授)には、考えさせられる。
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日米の和解

2016-12-08 00:57:03 | 時事放談
 安倍首相は、今月26・27両日にオバマ大統領とともに真珠湾を訪問し、旧日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者を慰霊することを発表した。この手があったかと、盲点を突く手際の良さに、正直なところ驚かされた。
 第二次世界大戦当時、戦争と距離を置いて冷めていた米国・世論を一気に沸騰させ、ヒトラーとの戦いへと駆り立てるきっかけとなった真珠湾攻撃が、「卑怯な騙し討ち」との批判を浴びることになったのは、最後通牒の手交が遅れた外務省(在米大使館)のミスだったとか、いやそもそも戦後の戦争では宣戦布告などなされた試しがないなど、議論はあるが、今もなお、9・11の時にも真珠湾攻撃以来の米国中枢への攻撃などと枕詞に使われるなど、米国人にとって建国以来の衝撃だったことは間違いない。昨年のオバマ大統領の広島訪問に続き、安倍首相の真珠湾訪問で、日米双方の喉元に突き刺さった棘のようなものが溶け落ちる安堵感があり、戦後71年にしてようやく日米の和解が完結する。
 巷間、戦略的意味合いを探るよりも、下衆の勘繰りが喧しい。現職米大統領として初の広島訪問への返礼という日米密約があったのではないかと詮索するならまだしも、ロシアへの傾斜を薄めてバランスをとるためだとか、いや逆に日露会談の成果が見通せなくなった保険だとか、大統領就任前のトランプ氏を厚遇してオバマ大統領を切り捨てたかのような印象を払拭するためだとか、カジノ法案で妥協させた公明党との関係修復の思惑があるとか、点数を稼いでやっぱり年明けに解散・総選挙に対応できるようにしたとか、どれもそれなりに根拠がないわけではないが、私は素直にこの「歴史的な決断」を歓迎したい。
 実際に米国民は概ね好意的に受け止めるだろう。とりわけオバマ大統領にとってはレガシー(政治的遺産)としての意味をもつし、オバマ大統領の広島訪問の際に「大統領は日本いる間に真珠湾の奇襲について議論したのか。多くの米国人の命が失われた」と批判したトランプ氏への牽制にもなる。また、諸外国とりわけ近隣諸国へのメッセージ性も強い。軍近代化や海洋進出で周囲への脅威を増すばかりの中国や核実験などを繰り返す北朝鮮に対して、日米の緊密な関係を示すことは当然ながら大いなる牽制になる。歴史カードを使って日本より優位に立とうとする中国や韓国に対して、また北方領土は戦争の成果と公言するロシアに対しても、かつては日本の敵だった米国との和解を示し、昨年4月の米議会・上下両院合同会議での安倍首相演説でも伝えたように、いつまでも過去に拘るのではなく未来志向の関係を迫る契機になり得る。結果として、「戦後」に終止符を打つという安倍首相自らの目標に近づき、中韓だけでなく欧米からも警戒されたリビジョニスト(歴史修正主義者)イメージ払拭に繋がる。
 案の定、中国・人民日報系の環球時報は、安倍首相の真珠湾訪問は歴史への反省を示す目的ではなく、「第二次大戦を巡る日本の反省は相手国によって違う」として「米国には深く反省してみせるが、中国や東南アジアの国々に対する犯罪行為への責任からは逃れようとしている」と分析し、日米同盟の強化を狙った「政治的な判断」、「米国に取り入り、忠誠を示す狙い」などと批判的に伝えたらしいし、国営通信・新華社(英語版)も「真珠湾訪問でも日本の戦争犯罪は消すことができない」とあくまで言い張ったらしい。さらに中国外務省の報道官は、「日本側が深く反省して誠実に謝罪しようと思うのならば、南京大虐殺記念館であれ九一八事変(満州事変)記念館であれ731部隊の遺跡であれ、中国側には慰霊のために提供できる多くの場所がある」と皮肉たっぷりに牽制したらしい。
 凡そ「和解」は、双方が赦しあう気持ちがあってこそ成り立ち得る概念だ。通州事件など、自らの虐殺の痕跡はそそくさと消し、南京では捏造写真まで掲示して日本の虐殺を1桁膨らましたのをもっともらしく見せつけるだけでは足らず、世界に向けて誇大広告し、国内にあっては愛国・歴史教育の一環で今もなお日帝を目の敵にしてTV映画やドラマを流し続けるような中国との「和解」は容易ではない。他国との間で歴史観が異なるのは独・仏を見るまでもないが、そもそも中国社会にあっては、歴史は自らの立場・統治を正当化するためのプロパガンダでしかない。そんな国と「和解」もへったくれもない。誰かが言ったように「信頼なき安定」を目指すしかない。
 こうして見ると、オバマ大統領は、周辺にお友達がいないと言われながら、個人的には米大統領にしては「いい人」だったのだろうと思う。最初にノーベル平和賞を受賞して、その後8年間の政権運営で十字架を背負ったようなところがあって、現実とのギャップに苦労が多かったと思うが、慎重に見極めながらも広島訪問を実現したのは、やはりリベラルな彼の信念あってのことだろうし、そんなオバマ氏の心意気を感じたのだろう安倍首相も、かつて戦後レジームからの脱却を声高に主張し、靖国参拝を敢行した当時からすれば、随分、勉強して進歩したものだと褒めてあげたい気がする。
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低所得者4500万人!?

2016-12-05 23:18:50 | 時事放談
 このタイトルは、今朝の日経の「列島追跡」というコーナーの記事タイトルそのままである。
 かつて東京都副知事として東京の水道システムの海外進出を主導していた猪瀬直樹氏は、東京水道は世界に冠たるシステムであり、蛇口までの間に水が漏れる漏水率は僅か3%で(対して、ロンドンやパリですら20%程度)、加えて料金徴収率は99.9%に上ると豪語されていた(ある統計によれば、日本やパリの漏水率は5%、ロンドンは26.5%)。発展途上国では水道事情は深刻で、設備が未整備なことから「漏水」や「盗水」は日常茶飯事であり、料金徴収体制も全く不十分で、事業化調査(フィージビリティ調査)したマレーシアは、経済では東南アジアの優等生ではあるものの、「無収水率40%」すなわち漏水や盗水による物理的なロスと料金不払いによる商業的なロスは併せて40%もあって、水道供給量の60%しか売上として立っていないということだった。
 しかし、日本の水道はともかく、日本の税金はダダ漏れで取りっぱぐれているのではないかという疑念を抱かせるような数字が、この日経の記事に出ていた。
 総務省の「市町村税課税状況等の調」によると、2015年度に住民税の納税義務があったのは6,034万人で、昨年1月の成人人口から差し引くと4,535万人が非課税となる「低所得者」だったというのである。もっとも、ここから配偶者控除や扶養控除などの対象者を差し引いて2,908万人、更に生活保護受給者217万人(205年1月現在)を差し引いても、実に2,691万人が年100万円以下で暮らしていることになると言う。信じられない人数だ。最近、所得格差だの貧困化だのと言われるのは、このあたりの数字から出ている話だろうか。
 最近、とんと聞かなくなったが、その昔、所得捕捉率の業種間格差に対する不公平を表す言葉として、「クロヨン」(9・6・4)なる言葉があった。実際に存在する所得を10として、そのうち税務署が把握しているのは、サラリーマンなどの給与所得は9割、自営業者などの事業所得は6割、農林水産業を営む事業者の所得は4割と言うわけである。また、「トーゴーサンピン」(10・5・3・1)なる言葉もあった。ここでは、サラリーマンなどの給与所得は10割、自営業者などの事業所得は5割、農林水産業を営む事業者の所得は3割、政治家の所得は1割という訳である。源泉徴収によりガラス張りの私たちサラリーマンにとっては、なんともやり切れない数字である。
 税理士の知人によると、「マイナンバー」通知の受け取りを拒否している人が少なくないらしい。どうも総資産がバレてしまうのを嫌がっているようだ。まさに「マイナンバー」制度は、預金口座との紐付けなどにより、脱税や社会保障の不正受給を防止し、公正な徴税を目的とするものだったはずで、さて数年内に、この2,691万人という数字がどう動くのか、甚だ興味深いところではある。
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トランプ氏ってどんな人

2016-12-01 01:16:29 | 時事放談
 前回ブログでキューバを取り上げたついでに・・・・・・トランプ次期米大統領は、オバマ大統領がキューバと合意した国交回復について、「キューバが国民やキューバ系米国人、米国全体に対してより良い取引をする」ことを交渉条件に、逆に、より良い条件で再交渉に応じなければ「合意を打ち切る」考えであることを、ツイッターに投稿したらしい。いまひとつ具体的ではないが、この人は何ごとも(国家間の関係ですら)カネに換算して、個人であればともかく、米国の大統領になろうかという人の品格ある発言とは凡そかけ離れていて、毎度のことながら呆れさせられる。
 ちょっと前のニューズウィーク日本版は、トランプ嫌いのマスコミの典型として、「世界中にトランプ・ブランドを売って大金を稼ぐ男が次に売り出すのは米国の国益かも知れない」などと、実業家のトランプ氏をこき下ろしていた。一般の目には成功した不動産開発業者と映っているかも知れないが、開発投資に再三失敗して大勢の投資家に迷惑をかけているだけでなく、教育団体の運営では詐欺罪に問われて集団訴訟を起こされており、ここ10年近くは、自らホテルやオフィスタワーを建設するのではなく、TVでの知名度を活かして開発業者に「トランプ」名義を貸してライセンス料を徴収する、言わば濡れ手に粟のビジネス・モデルに変わっているらしいし、提携先企業が贈収賄や密輸などの犯罪容疑をかけられて怪しげな関係が疑われるほか、こうして世界中の米国の同盟国や敵国とも多くの金銭的関係があるために、大統領となった暁には政策判断が深刻な利益相反と倫理問題に直面することが懸念される、などと解説していた。一般市民が知っていたらトランプ大統領は誕生しないだろうと思われるほどの、げんなりする話ばかりである。
 そんなトランプ氏を、一言で(英語の形容詞で)表現するなら、meanという言葉がぴったりではないかと思っている。ランダムハウス英和辞典を引くと「〈人・行為が〉いやな,卑劣な;下品な,さもしい;((主に米話)) 意地の悪い,利己的な」とある。
 このあたりは、実は個人的経験に基づいている。随分前の話になるが、かつて米国に駐在していたとき、ボストンの同僚が、西海岸にいるある同僚となかなかウマが合わなそうに見えたので、様子を尋ねたところ、彼はmeanだからとポツリと答えたものである。その西海岸の同僚は実は日本人で、頭はいいのだがちょっと虚栄心があって抜け目がなく、そのくせケチで鼻持ちならないところがあるのを、私は同じ日本人として極めて微妙な肌合いで感じていたのだが、そのボストンの米人同僚もまた見事に嗅ぎ分けて、一言でずばり表現したのだった。ボストンをはじめ米国・北東部のニューイングランド地方と言えば、エスタブリッシュメントの町であり、ボストン・グローブやNYタイムズなどリベラル(=民主党支持)の牙城である。アメリカのこうした代表的なメディアがトランプ(共和党)候補を毛嫌いし不支持を表明したのは、一般市民が知らない実業家としてのトランプ氏の実像を知っていて、ボストンの同僚が西海岸の同僚に対して感じていたのと同じように、トランプ氏に対してmeanな感情を抱いていたのではないかと勝手な想像をするわけだ。
 トランプ氏の勝利は、反知性主義だの、政治的公正(political correctness)なる建前の偽善性のためだのと論う声が聞こえて来るが、その当否はともかく、アメリカのメディアが偏向していると批判されるまでにトランプ氏不支持を訴えたのは、別に米人に聞いたわけではなく私が勝手に想像するだけだが、案外、meanといった感情的なわだかまりによるのではないかと思うのだが、どうだろう。私はこの思いつきを、結構、気に入っている。
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