風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

キッシンジャー氏の訪中

2023-07-21 23:04:22 | 時事放談

 米国の元・国務長官のヘンリー・キッシンジャー氏が中国を訪問し、18日に国防相の李尚福・国務委員と、19日に外交トップの王毅政治局員と、20日にはなんと習近平国家主席と面会したそうだ。何という厚遇であろう。バイデン政権との間は冷え切って、国防相同士の危機管理メカニズムの対話もままならない中、キッシンジャー氏へのおもてなしは、悪いのはバイデン政権だと言わんばかりの、当てつけ以外の何物でもない。

 それにしても、御年100歳のキッシンジャー氏は、50年前にニクソン政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官として米中和解に道筋をつけた伝説の人物であり、50年経ってなお、中国には、その後の改革開放路線とWTO加盟に繋がったことからすれば、現在の繁栄があるのもキッシンジャー氏のお陰、大恩人とも言え、中国寄りと見られることもあって、中国から頼られる、もはや妖怪のような人物だ。当然、バイデン政権も分かって、様子を見守っていることだろう。何等かのミッションを帯びているかも知れない。

 外交の世界は奇々怪々で興味深い。

 Wikipediaによると、かつて、強いドイツ訛り(氏は第二次大戦の前年にアメリカに亡命したユダヤ系ドイツ人)の英語について聞かれたキッシンジャー氏は、「私は外国語を流暢に話す人間を信用しない」と切り返したそうだ。お見事。

 今朝の日経によると、米国大統領として史上最高齢のバイデン氏は、4月の演説で自身の年齢を逆手にとって、「あなたが私を年寄りと呼ぶなら、私は経験豊富と呼ぶ」と言ったらしい。キッシンジャー氏ほどの捻りも切れもない。これは、民主党関係者によると、「相手の若さと経験のなさを政治利用するつもりはない」という、共和党のレーガン元・大統領の発言からヒントを得たそうだ。73歳で二期目の大統領就任は高齢過ぎないかと問われて、レーガン氏はこう切り返し、討論会後に支持率が回復したそうだ。当時は元・映画俳優に何が出来ると言わんばかりの批判と好奇の目に晒されたものだが、今、振り返ると、なかなかどうして、バイデン氏よりよほど捻りが効いてスマートだ。当時の73歳と言えば、今の80歳と変わらないように思う。

 50年前の人物がもてはやされるのは、現在の米中関係がそれだけ異常なのか、単に人がいないだけなのか・・・。40年前の大統領ほどの機知もないように見えるのは、現在の世相が優しさに溢れて言葉の攻撃性を鈍らせるあらわれなのか、単に人がいないだけなのか・・・。

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皇室の魚外交

2023-07-02 10:56:48 | 時事放談

 外交と題して、印象深く思い出すのは、間もなく一周忌を迎える故・安倍さんの外交である。かねて安倍外交には敬意を払ったものだが、それは政治家としての確固たる信念に裏打ちされていたからだった。今さら日本をどこまで強くすることが出来るかはさておき、今や一国で出来ることが限られているのはアメリカでさえもそうであり、与えられた諸条件のもとで、日本に好ましい安全保障環境を形成するために、インド太平洋構想を打ち出し、アメリカやオーストラリアやインドまで巻き込み、あの習近平氏をして一目置かしめ、帝国然とする中国と対等に渡り合ったのだった。ともすれば一国平和主義に陥りがちな島国・日本が、「点」ではなく、地域との共生という「面」の外交を推し進めるという画期でもあった。それに引き換え、岸田さんの言動には、申し訳ないが政治家の本懐といったものが感じられず、心許なさが漂う。勿体付けた喋りには、如何にも自分の言葉で喋っていない、端的に心が籠っていない、と思わせて、損をしている。聞くところによると、かつて首相になったら人事をやりたいと、のたもうたそうな。事実かどうか知らないし、どのような文脈の語りの部分を切り取ったものか知らないが、さもありなんと思わせるところが彼らしさを表しているように思えて、残念でならない。いや、人事は、例えば企業社会にあっては与えられた陣容を総とっかえすることは難しいが、内閣人事であれば可能であり、面白いには違いない。しかし、内閣の仕事としてやりたいことが先にあってこそ、それを実現するための手段としての組織・人事であろう。そう言えば、バイデン大統領は2019年春に大統領選に立候補表明した際に、「私は組合員だ」と言及したそうだ。こちらは明らかに選挙対策のポジション・トークだが、彼にも強烈な個性を感じさせないのは、あちらの国では社会の分断が激しく、なかなか政治家の本懐を語るのは難しい政治状況のせいでもあろう。

 そんな中で、こういう外交もあるのかと思わせたのが、天皇・皇后両陛下のインドネシア訪問だった。

 6月29日の日経新聞によると、かつて上皇さまは1962年の皇太子時代に初代大統領スカルノとの会見のため訪れたボゴールの大統領宮殿で、池の見事なコイに感銘を受けられ、スカルノ氏からコイを贈られたそうだ。そして上皇さまが天皇即位後の1991年に同国を再訪したときには、自らの発案で国産とインドネシア産のコイを掛け合わせて生まれたヒレナガニシキゴイ50匹を贈られたそうだ。それから再び30年が経ち、ジョコ大統領は天皇・皇后両陛下を招待した大統領宮殿内の水槽で泳ぐ高級魚「スーパーレッドアロワナ」を紹介し、プレゼントする意向を伝えたそうだ。今、体長60センチのアロワナの日本への輸送手続きを巡って両政府間で調整が続いているというが、事務方は大変だなあと、また、30年後に掛け合わせの魚を返礼で贈るのは大変だなあと、気遣うのは小心者の庶民の余計なお世話だろう。

 もとより皇室外交は政治とは距離を置く。そして30年もの歳月を一区切りにして、その間、政治情勢は変転することがあっても、国と国との間の息の長い友好を続ける。今回、両陛下がとりわけ若い人たちとの交流を深められたのは、30年後には彼らが次の友好を担ってくれることを期待してのことだろう。細い絆ではあるが、強くて長い絆である。欧州の王室や、以前にも触れたアラブの王室との外交を持ち出すまでもなく、政治から一歩離れた皇室外交を持ち得るのは、日本の誇りであり強みであろう。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72313760Z20C23A6EA1000/

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