米国の元・国務長官のヘンリー・キッシンジャー氏が中国を訪問し、18日に国防相の李尚福・国務委員と、19日に外交トップの王毅政治局員と、20日にはなんと習近平国家主席と面会したそうだ。何という厚遇であろう。バイデン政権との間は冷え切って、国防相同士の危機管理メカニズムの対話もままならない中、キッシンジャー氏へのおもてなしは、悪いのはバイデン政権だと言わんばかりの、当てつけ以外の何物でもない。
それにしても、御年100歳のキッシンジャー氏は、50年前にニクソン政権で国家安全保障問題担当大統領補佐官として米中和解に道筋をつけた伝説の人物であり、50年経ってなお、中国には、その後の改革開放路線とWTO加盟に繋がったことからすれば、現在の繁栄があるのもキッシンジャー氏のお陰、大恩人とも言え、中国寄りと見られることもあって、中国から頼られる、もはや妖怪のような人物だ。当然、バイデン政権も分かって、様子を見守っていることだろう。何等かのミッションを帯びているかも知れない。
外交の世界は奇々怪々で興味深い。
Wikipediaによると、かつて、強いドイツ訛り(氏は第二次大戦の前年にアメリカに亡命したユダヤ系ドイツ人)の英語について聞かれたキッシンジャー氏は、「私は外国語を流暢に話す人間を信用しない」と切り返したそうだ。お見事。
今朝の日経によると、米国大統領として史上最高齢のバイデン氏は、4月の演説で自身の年齢を逆手にとって、「あなたが私を年寄りと呼ぶなら、私は経験豊富と呼ぶ」と言ったらしい。キッシンジャー氏ほどの捻りも切れもない。これは、民主党関係者によると、「相手の若さと経験のなさを政治利用するつもりはない」という、共和党のレーガン元・大統領の発言からヒントを得たそうだ。73歳で二期目の大統領就任は高齢過ぎないかと問われて、レーガン氏はこう切り返し、討論会後に支持率が回復したそうだ。当時は元・映画俳優に何が出来ると言わんばかりの批判と好奇の目に晒されたものだが、今、振り返ると、なかなかどうして、バイデン氏よりよほど捻りが効いてスマートだ。当時の73歳と言えば、今の80歳と変わらないように思う。
50年前の人物がもてはやされるのは、現在の米中関係がそれだけ異常なのか、単に人がいないだけなのか・・・。40年前の大統領ほどの機知もないように見えるのは、現在の世相が優しさに溢れて言葉の攻撃性を鈍らせるあらわれなのか、単に人がいないだけなのか・・・。