英紙タイムズ(25日)は、ブリュッセル同時テロの犯行グループが、原子力関連施設から放射性物質を盗み、放射性物質が含まれた「ダーティー・ボム(汚い爆弾)」を人口密集地域にばらまく計画を立てていた可能性があると報じた。日本でも無縁ではなく、ISに加わろうとしたとして、24歳の日本人が、トルコ国内で治安当局に拘束された。
ISの前身は「イラクのアルカイダ」だったが、今はアルカイダと関係がない。アルカイダにあっては、欧米をイスラム世界に対する敵と位置付け、テロを政治的なメッセージとして半ば目的化し、地域を問わずグローバルに展開している。しかし、ISにあっては、地域の支配が目的のため、敵は欧米だけではなく、イラクではアサド政権を、また同じスンニー派でもクルド人を、反対勢力であれば誰でも敵と位置づけ、必ずしもイスラム対欧米といったグローバルな視点はなく、テロも単なる手段でしかないとされてきた(このあたりは川上高司氏の所説による)。ところが・・・。
ISが支配地域を広げるシリアやイラクの政情が悪化するのに伴い、安住の地・ヨーロッパ大陸を目指す難民は昨年だけで100万人に達し(UNHCR:国連高等難民弁務官事務所)、今年に入ってからも増える一方で、既に13万人(同、3月初旬)を超えているらしい。難民の増加に伴い、地元民とのトラブルも増え、極右勢力や主権主義者が掲げる反難民・反EUの主張に対して支持が広がっているのは周知の通りである。
パリで同時テロが起きた後は、パリに向かう航空便やホテルの予約が急減したほか、周辺の観光地への客足も減ったので、今回も、ベルギーを中心に再び観光ビジネスに影響が出る可能性が高い。また、難民問題で揺れる欧州にあって、このブリュッセル同時テロの実行犯が移民や難民によるものか不明ではあるものの、移民・難民排斥を訴える欧州各国の極右政党にとっては「今回のテロで明らかになったのは、(人の移動の自由を保障する)シェンゲン協定と寛容な国境管理がいかに危ういかということだ」(英国独立党(UKIP)のスポークスマン)などとコメントするなど、格好の材料になっている。UKIPはEU離脱も訴えており、6月23日に予定される英国のEU離脱を巡る国民投票に向けて勢いづきそうである。フランスの極右政党「国民戦線(FN)」は公然と「難民の中にテロリストが紛れ込んでいる」と主張し、難民受け入れを即時停止すべきだと訴えている。第二次大戦中のナチスの蛮行への贖罪と反省から難民受け入れに最も積極的なメルケル首相の足元でも、反難民・反EUを標榜する極右政党「AfD(ドイツのための選択肢)」が3月の州議会選挙で躍進し、メルケル首相への風当たりが強まっている。既に、EU加盟国の中で、スウェーデン、デンマーク、オーストリア、ノルウエー、ベルギー、フランスも国境審査を再開している(三月中旬時点)。「一致団結してテロに立ち向かう」という言葉とは裏腹に、EU加盟国同士の壁はさらに高くなっている。移動の自由を保障したEUの理念は今や、風前の灯だ。まさにテロ組織の思うつぼであろう。
折しもニューズウィーク日本版(4月5日)は、「欧州テロの時代」とタイトルし、「統合の夢から覚めつつある欧州を待ち受けていたのは、自国がテロとの戦争の最前線になるという悪夢のような現実だった」と書きたてた。AP通信によると、ISは欧州攻撃用に400~600人の戦闘員を訓練しているという。ISは、2014年夏のピーク時と比べ、イラクでは支配地域の40%、シリアでは20%を失ったと言われ、支配地域の大幅縮小で「イスラム国家」再興のスローガンが説得力を失ったISは、支持者を繋ぎ留めるために実行力をアピールする必要があるだろうとも言われる。ISにとって、欧米社会へのテロは目的化しつつある。
日本の税関ホームページには次のようなメッセージが出ている。「本年4月以降、伊勢志摩サミット及び関係閣僚会合がそれぞれ開催される予定です。税関におきましては、伊勢志摩サミット等を標的としたテロ行為を未然に防止するため、テロ関連物資等が不正輸入されることがないよう、輸入貨物の検査及び船舶・航空機の取締り等の水際対策を強化しております。税関検査に対するご理解とご協力をお願いします」。欧米そして日本とテロとの長く重苦しく憂鬱な戦いが再び始まろうとしている。
ISの前身は「イラクのアルカイダ」だったが、今はアルカイダと関係がない。アルカイダにあっては、欧米をイスラム世界に対する敵と位置付け、テロを政治的なメッセージとして半ば目的化し、地域を問わずグローバルに展開している。しかし、ISにあっては、地域の支配が目的のため、敵は欧米だけではなく、イラクではアサド政権を、また同じスンニー派でもクルド人を、反対勢力であれば誰でも敵と位置づけ、必ずしもイスラム対欧米といったグローバルな視点はなく、テロも単なる手段でしかないとされてきた(このあたりは川上高司氏の所説による)。ところが・・・。
ISが支配地域を広げるシリアやイラクの政情が悪化するのに伴い、安住の地・ヨーロッパ大陸を目指す難民は昨年だけで100万人に達し(UNHCR:国連高等難民弁務官事務所)、今年に入ってからも増える一方で、既に13万人(同、3月初旬)を超えているらしい。難民の増加に伴い、地元民とのトラブルも増え、極右勢力や主権主義者が掲げる反難民・反EUの主張に対して支持が広がっているのは周知の通りである。
パリで同時テロが起きた後は、パリに向かう航空便やホテルの予約が急減したほか、周辺の観光地への客足も減ったので、今回も、ベルギーを中心に再び観光ビジネスに影響が出る可能性が高い。また、難民問題で揺れる欧州にあって、このブリュッセル同時テロの実行犯が移民や難民によるものか不明ではあるものの、移民・難民排斥を訴える欧州各国の極右政党にとっては「今回のテロで明らかになったのは、(人の移動の自由を保障する)シェンゲン協定と寛容な国境管理がいかに危ういかということだ」(英国独立党(UKIP)のスポークスマン)などとコメントするなど、格好の材料になっている。UKIPはEU離脱も訴えており、6月23日に予定される英国のEU離脱を巡る国民投票に向けて勢いづきそうである。フランスの極右政党「国民戦線(FN)」は公然と「難民の中にテロリストが紛れ込んでいる」と主張し、難民受け入れを即時停止すべきだと訴えている。第二次大戦中のナチスの蛮行への贖罪と反省から難民受け入れに最も積極的なメルケル首相の足元でも、反難民・反EUを標榜する極右政党「AfD(ドイツのための選択肢)」が3月の州議会選挙で躍進し、メルケル首相への風当たりが強まっている。既に、EU加盟国の中で、スウェーデン、デンマーク、オーストリア、ノルウエー、ベルギー、フランスも国境審査を再開している(三月中旬時点)。「一致団結してテロに立ち向かう」という言葉とは裏腹に、EU加盟国同士の壁はさらに高くなっている。移動の自由を保障したEUの理念は今や、風前の灯だ。まさにテロ組織の思うつぼであろう。
折しもニューズウィーク日本版(4月5日)は、「欧州テロの時代」とタイトルし、「統合の夢から覚めつつある欧州を待ち受けていたのは、自国がテロとの戦争の最前線になるという悪夢のような現実だった」と書きたてた。AP通信によると、ISは欧州攻撃用に400~600人の戦闘員を訓練しているという。ISは、2014年夏のピーク時と比べ、イラクでは支配地域の40%、シリアでは20%を失ったと言われ、支配地域の大幅縮小で「イスラム国家」再興のスローガンが説得力を失ったISは、支持者を繋ぎ留めるために実行力をアピールする必要があるだろうとも言われる。ISにとって、欧米社会へのテロは目的化しつつある。
日本の税関ホームページには次のようなメッセージが出ている。「本年4月以降、伊勢志摩サミット及び関係閣僚会合がそれぞれ開催される予定です。税関におきましては、伊勢志摩サミット等を標的としたテロ行為を未然に防止するため、テロ関連物資等が不正輸入されることがないよう、輸入貨物の検査及び船舶・航空機の取締り等の水際対策を強化しております。税関検査に対するご理解とご協力をお願いします」。欧米そして日本とテロとの長く重苦しく憂鬱な戦いが再び始まろうとしている。