南シナ海問題に関し、マレーシアで開かれていた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、発表した議長声明で、これまでにない強い調子で中国を牽制したそうです。地域・国際問題の筆頭に南シナ海問題を挙げ、岩礁埋め立てへの「深刻な懸念を共有した」と指摘、中国への名指しを避けつつも、埋め立てが「平和と安全、安定を脅かす恐れがある」と警告し、「信頼を損なう」と非難したといいます(産経Web)。
踏み込んだ発言には、二重の驚きがありました。
振り返れば、2012年7月のASEAN外相会議では、中国にすっかり取り込まれている議長国・カンボジアは、中国と領有権争いを演じているフィリピンやベトナムと対立し、ASEAN設立以来初めて共同声明が採択されない事態となりましたし、さらに11月のASEAN関連会合で、議長国・カンボジアが「ASEANと中国とは、領有権問題を国際問題化しないことで合意した」と発表すると、やはりフィリピンやベトナムなど他のASEAN 加盟国に「そのような合意はない」と否定されるなど、議長国として失態を演じる事態となりました。今回は、抜け駆けとでも言えるような、中国との関係強化に動いていると見られていた議長国マレーシアが、こうした声明に応じたことがそもそもの驚きでした。
また、このカンボジアの例に典型的に見られるように、そしてマレーシアの例が意外性を以て見られるように、そもそもASEANという、EUとの比較で、多様性に満ち(というのは、EUにはギリシャ起源の民主主義、ローマ起源の実定法、宗派の違いはあっても欧州全土に広がるキリスト教といった共通の歴史的経験なり基盤がありますが、ASEANには見られません)、国家主権を地域機構に委ねることは飽くまで拒否し、地域機構への帰属意識が乏しい、そんな関係各国をそれでも脱落させることなく繋ぎ留める「柔らかな地域主義」を謳いつつも、共同歩調をとって対処することにはしばしば困難を来し、中国による分断工作など、付け入るスキを与える「弱者の連合体」と揶揄されてきただけに、結束を一歩前に進める出来事とちょっと驚きをもって受け止めました。政治安全保障・経済・社会文化の三分野の共同体を柱とする「ASEAN共同体」を構築する今年12月31日がいよいよ近づく中で、これも夢物語ではないと、仄かに確信に変えさせてくれる出来事でもありました(ちょっと大袈裟かな)。
産経Webが伝えるところによると、会議筋によると・・・として、議長声明の草案では、マレーシアが中国に配慮し、南シナ海問題に言及しなかったが、フィリピンを筆頭に、石油掘削を強行した中国と衝突したベトナム、中国の海洋進出が自国の海域に及ぶことを警戒するインドネシアなどから異議が出て、「大幅に修正された」といいます。マレーシアのナジブ首相は、首脳会議の会場だったランカウイ島で記者会見し、南シナ海問題で「ASEANの結束は乱れていない」と強調したそうですが、そのように強がらなければならないほど、相変わらず脆弱さと隣り合わせのきわどい実態を垣間見せます。
EUは、ロシアという安全保障上の脅威と、日本という経済上の脅威に対抗するべく、過去の戦争の歴史を繰り返さない強い決意のもとに結束しました。ASEANにも、中国という安全保障上の脅威があるのは同じですが、ASEAN自身に共同市場を創設するほどの経済的な実態が乏しく、むしろ域外依存的で、日・米のほか、安全保障上の脅威である中国からの投資にも期待せざるを得ないという、構造上の欠陥を抱えるのが、良くも悪くもASEANであると言えます。楽観主義か悲観主義かを判断するたとえ話がASEANにも使われます。「水が半ばまで入ったグラス」は、リベラリストの如く「半分満たされている」と見るか、いや、現実主義者の如く「半分は空っぽ」だと批判的に見るか。
広い意味でのアジア・太平洋地域におけるASEANという(やや限定的な)地域機構の立ち位置を再確認するならば、「アメリカを抱え込み、中国をチェックし、ASEANが担当する」(Tan See Seng氏)という意味で、しっかりしたASEANの存在は、この地の(日本やアメリカや中国さらにはロシアも含めて)平和と安定に寄与するところ大であり、今はまだちょっと弱々しく映るASEANの目を、しっかりと育てて行って欲しいと思います。
上の写真は、かつて泊まったランカウィ島のリゾートホテルから。ASEAN首脳会議がこの島のどこで開催されたかは分かりません。
踏み込んだ発言には、二重の驚きがありました。
振り返れば、2012年7月のASEAN外相会議では、中国にすっかり取り込まれている議長国・カンボジアは、中国と領有権争いを演じているフィリピンやベトナムと対立し、ASEAN設立以来初めて共同声明が採択されない事態となりましたし、さらに11月のASEAN関連会合で、議長国・カンボジアが「ASEANと中国とは、領有権問題を国際問題化しないことで合意した」と発表すると、やはりフィリピンやベトナムなど他のASEAN 加盟国に「そのような合意はない」と否定されるなど、議長国として失態を演じる事態となりました。今回は、抜け駆けとでも言えるような、中国との関係強化に動いていると見られていた議長国マレーシアが、こうした声明に応じたことがそもそもの驚きでした。
また、このカンボジアの例に典型的に見られるように、そしてマレーシアの例が意外性を以て見られるように、そもそもASEANという、EUとの比較で、多様性に満ち(というのは、EUにはギリシャ起源の民主主義、ローマ起源の実定法、宗派の違いはあっても欧州全土に広がるキリスト教といった共通の歴史的経験なり基盤がありますが、ASEANには見られません)、国家主権を地域機構に委ねることは飽くまで拒否し、地域機構への帰属意識が乏しい、そんな関係各国をそれでも脱落させることなく繋ぎ留める「柔らかな地域主義」を謳いつつも、共同歩調をとって対処することにはしばしば困難を来し、中国による分断工作など、付け入るスキを与える「弱者の連合体」と揶揄されてきただけに、結束を一歩前に進める出来事とちょっと驚きをもって受け止めました。政治安全保障・経済・社会文化の三分野の共同体を柱とする「ASEAN共同体」を構築する今年12月31日がいよいよ近づく中で、これも夢物語ではないと、仄かに確信に変えさせてくれる出来事でもありました(ちょっと大袈裟かな)。
産経Webが伝えるところによると、会議筋によると・・・として、議長声明の草案では、マレーシアが中国に配慮し、南シナ海問題に言及しなかったが、フィリピンを筆頭に、石油掘削を強行した中国と衝突したベトナム、中国の海洋進出が自国の海域に及ぶことを警戒するインドネシアなどから異議が出て、「大幅に修正された」といいます。マレーシアのナジブ首相は、首脳会議の会場だったランカウイ島で記者会見し、南シナ海問題で「ASEANの結束は乱れていない」と強調したそうですが、そのように強がらなければならないほど、相変わらず脆弱さと隣り合わせのきわどい実態を垣間見せます。
EUは、ロシアという安全保障上の脅威と、日本という経済上の脅威に対抗するべく、過去の戦争の歴史を繰り返さない強い決意のもとに結束しました。ASEANにも、中国という安全保障上の脅威があるのは同じですが、ASEAN自身に共同市場を創設するほどの経済的な実態が乏しく、むしろ域外依存的で、日・米のほか、安全保障上の脅威である中国からの投資にも期待せざるを得ないという、構造上の欠陥を抱えるのが、良くも悪くもASEANであると言えます。楽観主義か悲観主義かを判断するたとえ話がASEANにも使われます。「水が半ばまで入ったグラス」は、リベラリストの如く「半分満たされている」と見るか、いや、現実主義者の如く「半分は空っぽ」だと批判的に見るか。
広い意味でのアジア・太平洋地域におけるASEANという(やや限定的な)地域機構の立ち位置を再確認するならば、「アメリカを抱え込み、中国をチェックし、ASEANが担当する」(Tan See Seng氏)という意味で、しっかりしたASEANの存在は、この地の(日本やアメリカや中国さらにはロシアも含めて)平和と安定に寄与するところ大であり、今はまだちょっと弱々しく映るASEANの目を、しっかりと育てて行って欲しいと思います。
上の写真は、かつて泊まったランカウィ島のリゾートホテルから。ASEAN首脳会議がこの島のどこで開催されたかは分かりません。