つい先週まで、帰宅してエアコンをつけて部屋を冷やしてから眠りについていたのがウソのように、一気に秋になった。9月後半なのだから、遅過ぎたと言うべきかもしれない。近年、春と秋が短くなり、この一年を振り返っても、寒い冬が明けると暖かいのを通り越して暑くなり、昨日の今日で、窓を開け放ってタオル一枚で大の字になって寝ていた次の日には窓を閉めて毛布を引っ張り出して包まって寝る始末だ。
だから実態は秋の気配と言うより本格的な秋の訪れなのだが、夏の祭りのような熱気が冷める微妙な季節に忘れられない楽曲がある。オフコースの『秋の気配』だ。1977年8月5日のリリースで、その時はこのバンドのことをまだよく知らなかった。2年後に『さよなら』が大ヒットし、切ないメロディと伸びのある歌声に惹かれた。大学時代に腰掛け程度に在籍した軽音サークルに、オフコースのコピーバンドがいて、ボーカルは小田和正さんばりに高音の伸びがあって誰をも驚かせたが、私はそれよりもおとなし目の女の子がドラムスをダイナミックに叩く姿に惹かれて、オフコースを聴くようになった。それでもその頃はまだ『秋の気配』に辿り着いていない。
その後、就職で東京に出て、高校の同窓会があるというので帰省して久しぶりに再会したある女の子が、好きな曲だと言って『秋の気配』を挙げて、歌詞に出てくる「港が見下ろせる小高い公園」をわざわざ訪れたことがあると笑った。なんだ、近くまで来ていたんだ、水くさい。私も行ったことがある港の見える丘公園からは、名前の通りに、貨物船がゆっくりと行き交う、なんでもない港が見えるのだが、彼女は違う風景を見ていたのだろうか。地味な曲だが、ハーモニーとアコースティック・ギターの音色の美しさを極限まで引き出し、移ろいゆく恋心を切なく唄うこの曲に、何故、今まで気がつかなかったのだろう。そのときの彼女の照れ笑いと結びついて、リリースから随分と時を経て、忘れられない曲になった。
音の記憶は、今もなお鮮明に胸をざわつかせるのだから、不思議だ。