風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

大晦日とNHK

2013-12-31 10:39:04 | 日々の生活
 今年も残すところあと一日になりました。だいたい大晦日になるとNHK・・・と思うのは、余り若い世代の発想ではありません。私の親の世代はNHKばかり、私の世代はせいぜい国技である大相撲と紅白歌合戦くらいはNHKと決まっていたものですが、私の子供の世代はNHKもクソもないのでしょう。しかし、年齢のせいか、NHKに触れる機会が多くなったような気がします。帰宅して、民放のバラエティ番組を見るよりはニュースウォッチ9をよく見るようになりましたし、時差のある海外出張は避けつつ(若い人に譲るようにしています、苦笑)アジアを中心に海外出張し、アジアの町でNHKのTV放送を見るたびに、ホットしたものです。
 そう、海外にいると、海外=外国語環境ですので、平板なNHKのニュースであっても、日本語=祖国に触れて懐かしさにも似た親近感を覚えますし、帰国子女でもないし、ましてや日系何世でもない私は、当然、根っから日本語で発想しますから、英語であれば意識を集中しなければ聞き漏らしてしまうところ、日本語が流れて来ると全身(つまりは皮膚感覚)で受けることができて安心するわけです。最近は、緊迫する東アジア情勢と相俟って、かつて海外駐在していたときとは違った感覚を持つようになりました。NHKは日本語放送だけではなく、NHK衛星で英語放送も行っていますが、圧倒的に少ない。勿論、日本語放送を見るとホッとしますが、他方で、私たち日本人という狭い社会向けだけではなく、広く世界に向けて世界のニュースを日本の立場で英語で、つまりは日本の視点なり発想を世界に向けて発信すべきではないかと思うのです。
 そんな思いを抱いていたところ、かつて緒方竹虎さんが、似たような発言をして物議を醸し、結局、断念するに至ったことがあると聞きました。緒方竹虎さんと言えば、戦前はジャーナリストとして活躍し、戦時中(と言っても終戦前の一年)、小磯内閣に国務大臣兼情報局総裁として入閣し、A級戦犯に指名されて後に解除され、戦後は自由党総裁、さらに民主党との合同(今の民主党とは違います、保守合同で、自由民主党結党)を推進し、最後は副総理にもなった人物です。日本版CIA構想をもっていたため、当時の冷戦の文脈で「反ソ・反鳩山」の旗頭として、CIAが緒方政権擁立のために積極的な工作を行っていたことも明らかになっており、戦前の情報局総裁の経験から政府直属の情報機関設置構想は、当時の左派色の強いジャーナリズム主流派から「特高的言論統制復活」と批判され、内閣総理大臣官房に「調査室」(現在の内閣情報調査室の源流)という小さな情報機関を設立するにとどまりました・・・などと、私自身も、Wikipediaでおさらいしてみましたが、NHKに触れた箇所は見つかりませんでした。
 どうもCIAを連想させられるとキナ臭ささが漂いますし、国家による情報操作との境界は難しい問題ですが、日本を取り巻く安全保障環境は、この10年ですっかり変わり、中国が中国的文脈で仕掛ける情報戦・宣伝戦に対抗する必要を感じます。
 あるドイツ在住の作家によれば、the Senkaku Islands (also known as the Diaoyu Islands)ではなく、the Diaoyu Islands (also known as the Senkaku Islands)と表記するマスコミがとうとう現れたと言い、中国の情報戦・宣伝戦はとどまるところを知りません。最近のアメリカなどの大手メディア報道でも、中国の息がかかっているのではないかと疑われるものが増えているのを感じるのは、私の気のせいではないでしょう。「右傾化」なる悪意ある形容もそうで、確かに従来の左寄りとも言える政策から右に針を戻しつつあるのは事実ですが、それはまともな普通の国になりつつあるだけのことで、軍国主義の道を歩んでいるなどと日本人の誰も夢にも思わない。しかし世界の人々は、日本が専守防衛に徹し、攻撃兵器を持たないという意味で、軍に関して大いに欠陥を抱えた、いびつな、しかしこれほど平和志向の国であるとは想像できないのではないか。尖閣問題では、出るところに出れば、中国の身勝手な言い分は通らず、日本の主張は揺るぎないと、日本人の誰もが疑いませんが、世界ではそれを知らない人が圧倒的なのです。そもそもNY Timesなどは、the Senkaku Islands (also known as the Diaoyu Islands)の名前を出すときには、必ずちっぽけな無人島であると説明し、さも、こんなちっぽけな岩礁で日・中が軍事衝突しアメリカが巻き込まれたらかなわん・・・と言わんばかりの問題でしかありません。しかし、領土問題は主権にかかわり、当事者である日・中双方にとっては譲るわけには行きません。
 日本の立場を伝えるには、ただ単に日本で報道されるままをそのまま英語にして世界に向けて流すだけでいいのです。受信料をとりたてるのですから、日本という国に対してこの程度の貢献があって然るべきだと思います。折しもNHKでは、元商社マンの籾井勝人氏(日本ユニシス特別顧問)が次期会長に就任することが決まりました。国際社会の現実を知る人の打ち手に期待したいと思います。
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首相の靖国神社参拝

2013-12-28 12:55:33 | 時事放談
 年末になって、ちょっとしたサプライズがありました。私は日経新聞しか見ていませんが、久々に一面記事に巨大文字を見ました。「首相、・・・」とあって、安倍さんが亡くなったのかと不謹慎なことを思いつきましたが、違いました。「首相、靖国参拝」
 日経としては、主要な読者である大企業や経済団体を慮ってか、最近の保守的な傾向にも係らず批判的です。中国や韓国が激烈な口調で反発を強めるのは想定のうちですが、他の国・民族はどうか、産経Webでいくつか反応を拾ってみると・・・

ロシア外務省のルカシェビッチ情報局長は26日、安倍晋三首相の靖国神社参拝について「遺憾の意」を表明するコメントを出した。参拝は第二次世界大戦下で日本の「侵略」の犠牲になった人々を苦しめる行為だと指摘した。日本と北方領土問題を抱えるロシアは「第二次大戦の結果の見直しは認められない」との立場を取り、戦時の日本の「軍国主義」を批判している。

ユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(本部・米ロサンゼルス)のエーブラハム・クーパー副所長は26日、安倍晋三首相の靖国神社参拝を「倫理に反している」と非難する声明を発表した。副所長は「戦没者を含め、亡くなった人を悼む権利は万人のものだが、戦争犯罪や人道に対する罪を実行するよう命じたり、行ったりした人々を一緒にしてはならない」と指摘した。さらに副所長は、北朝鮮をめぐる情勢が緊迫した中で安倍首相が参拝したことに懸念を表明。「安倍首相が目指してきた日米関係の強化や、アジア諸国と連携して地域を安定化させようという構想に打撃を与える」と批判した。(共同)

欧州連合(EU)のアシュトン外交安全保障上級代表の報道官は26日、安倍晋三首相の靖国神社参拝に関し声明を発表、「地域の緊張緩和や中韓両国との関係改善の助けにならない」と批判した。報道官は、日中韓各国に対し「EUは、緊張を高める行動を避け、外交で争いを解決する必要性を常に強調してきた」と訴え、地域の長期的な安定に向け、建設的な関係を築くよう促した。(共同)

 それぞれに微妙な立場の違いというものを感じさせて、面白い。ロシアは、北方領土という懸案を抱えて、中・韓に近い立場です。ユダヤ系団体は、広く人道的な立場からの非難であり、EUは、地域的な緊張を高める行為に対する批判です。アメリカの在日大使館がdisappointedという強い調子で懸念を表明したのも、EUと同じ立場からでしょう。ニューヨーク・タイムズ(電子版26日)が、首相の靖国参拝は中・韓との緊張をさらに高める「危険なナショナリズム」だと批判する社説を掲載しているのが、それに当たります。更にウォールストリート・ジャーナル(電子版26日)は、「日本の軍国主義復活の恐怖を、自国の権益拡大の口実に使いたい中国への贈り物」だとして、日本外交の重荷となり、日米関係にも打撃を与える恐れがあると皮肉に伝えているように、地域的な緊張の実態は、経済的な攪乱要因でもあり、また軍事的にも暴走しつつあって、国際的なルールからはみ出しがちな中国に関与しどうコントロールするか、それなのに中国に軍拡の口実を与えるばかりか、西側の同盟国であったはずの韓国をも反発させ、反日を言い訳にして離米・従中に走らせかねない・・・といった事態を懸念するわけです。
 こうした批判は、今の国際情勢をみる限りにおいてはその通りですが、そもそもこの問題は、中国が肥大化したために国際的な関心を呼ぶようになりましたが、過去20年もの間、連綿と繰り返されて来た極東におけるローカルな話題です。とりわけ改革開放に舵を切った中国が体制固めのための愛国教育を強化する代償として反日を煽るようになってから、ということは、キッカケは中国の国内問題であるため、日本が自重しても事態は変わるどころか、ますます図に乗ったり、国内問題によって悪化したりして来ました。韓国でも事情は似たり寄ったりで、国内問題にビルトインされ、密接不可分であるばかりか、従軍慰安婦問題のように、日本が譲歩すればもはや蒸し返さないとの約束を簡単に反故にし、ますます図に乗って、平気で仇で恩を返す国柄です。朴大統領が、第三国で日本の歴史認識を糺すなど、破廉恥なことだと本人が気づかないほど血迷った強気な姿勢は、国内支持基盤が弱く、国としても社会的・経済的に不安定であることの裏返しです。
 しかし、以前のブログで「戯画的」と形容した中・韓の表面上の反応はともかく、よくよく見ると興味深い記事も見られます。再び、産経Webから拾います。

ソウルの日本大使館前では27日夕、市民団体が「安倍、即刻、割腹せよ!」と書かれた横断幕を掲げて謝罪を求め、安倍首相の人形や写真を燃やし、日本製品の不買も訴えたが、わずか約30分で終了した。一方、韓国各紙は1面トップで、参拝する安倍首相の同じ写真を掲載。テレビのニュースも同様で、韓国では“メディア主導”の「反日」が目立っている。

中国ではインターネットで、27日午前に北京の日本大使館前で抗議デモを行う予告が出回り、公安車両が配置されるなど、厳しい警戒態勢が敷かれた。ただ、午後になっても大使館周辺でデモ参加者の姿を確認できず、北京が拠点の反日団体関係者は産経新聞の取材に「公安当局にデモの申請を提出したが、許可はまだ下りていない」と説明した。

 明らかに、風向きは微妙に変わっているようです。最近、中・韓において、行き過ぎた反日(韓国に至っては侮日)への反省が見られつつあることが、背景にあるように思われます。日本の対中投資が減らないのは、私自身は不満ですが、しかし最近の好景気によって増える投資は中国ではなく東南アジアに向かっています。レアアースの最大の需要者だった日本を、輸出制限で脅した中国は、日本に代替技術開発で対抗され、却ってレアアース業界の不況を招き倒産の憂き目にあっています。そしてなにより製造装置やキー・コンポーネントでは日本に大きく依存する経済の実態は、中国でも韓国でも同じであり、今では日・中・韓の経済は相互依存的であって、政治・外交関係の悪化を望まない声が根強い。そしてそれぞれの国民の意識です。中国や韓国においても、異常と映る事態を冷静に見つめる目は養われつつあります。
 何よりも日本人の意識の変化です。よく中国の報道官が決めゼリフにする「日本の行動によって引き起こされる重大な政治的結果は、日本側がすべての責任を負うべきだ」というのは、そのまま熨斗を付けてお返ししたい。中・韓の理不尽なまでの反日姿勢によって、日本人の中・韓を見る目線も厳しくなりました。週刊文春や週刊新潮に至っては、反中・反韓の記事を競っているかのようで、さすがの私も気後れするほどですが、それは極端にしても、今回、朝日をはじめとするマスコミは、相変わらず安倍首相の靖国参拝を痛烈に批判しますが、国民は意外に冷静に受け止めているのではないか。勿論、朝日をはじめとするマスコミ報道にすっかり毒された、おばさん、おじさんが大勢いるのも事実です。島の一つや二つを取られようが、子供を戦争に行かせたくないという庶民感覚だけで、また民主主義がここまで成熟した日本において、今だに「いつか来た道」を想起させられて、憲法9条を死守し、集団的自衛権や特定秘密保護法に嫌悪感を示す人たちです。勿論、それぞれに問題がないとは言いませんが、生理的に嫌悪感を示されると議論にもなりません。若い人の間にも保守化した傾向が広がっているように見えるのは、ネトウヨばかりではなく、今となっては十分に権力をもち一つの体制を構成すると言ってもよいマスコミのサヨク的な言動に、若者らしい素朴な反発を感じているせいかも知れません。
 首相周辺の証言によると、首相が靖国参拝を決断する「ダメ押し」となったのが、小銃の銃弾提供を巡る韓国の反応だったようです。当初、韓国は、南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に参加する韓国軍への銃弾1万発の「日本からの提供」を「非公表」とするよう求めていたようですが、どうせ銃弾の口径が同じなのは日本だけなのだからすぐに分かるとして、韓国の意向を伝える事務方の説明に対して、安倍首相は「ノー」を突きつけたそうです。産経Webの報道を引用すると、「『積極的平和主義』を掲げる首相にとって、国連の要請に基づく緊急かつ人道上の必要性が高い銃弾の無償提供は、理念を行動に移す絶好の機会でもあった」「だが、韓国国防省の報道官は24日、銃弾が『不足していない』と強弁。在京の韓国大使館が正式に要請し、現地の韓国軍は謝意を述べたのに、韓国から外交ルートでの感謝は表明されていない」という事情は、ご存じの通りです。安倍さんは、参拝すると公言して総裁になり首相にもなったのであって、そこに期待する保守層への配慮もありますし、第一次安倍政権の頃からの思い入れも伝えれられますが、この一年、よく我慢されてきたと思います。さすがにもはや配慮は無用と思うに至ったのでしょう。日本人の多くも、その思いを共有します。中国にしても韓国にしても「その行動によって引き起こされる重大な政治的結果は、中国側、韓国側がすべての責任を負うべき」です。ことほど左様に、国際環境にあっては、双務的であるのは当たり前のことであるのを、中・韓はそろそろ知るべきです。
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青梅マラソンへの道(3)

2013-12-23 14:40:13 | スポーツ・芸能好き
 昨日、「富士マラソンフェスタ2013」のハーフの部を走って来ました。
 2008年にF1日本グランプリが開催された富士スピードウェイ(一周4.4キロ)を5周弱走るもので、ハーフ・マラソンとは言え、何度も同じところを走るのは退屈しはしないかと、マラソンはメンタルなスポーツですから、ややモチベーションに不安を覚えましたが、車が猛スピードで走り抜けるコース設計は、さまざまなカーブとともに、何度かアップダウンがあり、とりわけ2.7キロ地点から3.7キロ地点にかけて36メートルの上り坂もあって、その先に雄大な富士山を望めるとあって、飽きることはありませんでした。むしろ、練習の一環で参加している私にとって、どのように坂道攻略すべきか、何度かトライできたと言う意味では、却ってチャレンジングで面白いほどでした。
 記録は2時間6分と振るいませんでしたが、体力を消耗するアップダウンのきついコースの割には、また、昨シーズンのピークだった2月の東京マラソンのハーフ(2時間8分)レベルに二ヶ月近く早く到達出来て、2月の青梅マラソンに向けて順調にマラソン足が出来つつあるのを実感します。むしろ、走り終えた後も、まだ1~2周走るだけの余裕があって、燃え尽きなかったことは、却って問題で、普段、ちんたら走ってスピードが出せていない証拠です。今のところ、週一回17キロの練習では、安定して走ることにフォーカスし、スピードを変えないで走っていますが、そろそろ緩急をつけたスピード練習を取り入れないと、ハーフで2時間、30キロで3時間を切る目標達成は難しいかも知れません。
 大会運営については、レース場とあって、駐車場やトイレは十分な数がありますし、暖房がきいた更衣室・休憩室まであって、快適でした。難を言えば、「ハーフマラソン」のほかに「サーキット2周」「サーキット1周」「小学生3キロ」と種目が多く、遠方から来るランナーにも配慮して、結局、ハーフマラソンのスタートが11時と、走っている途中で昼食の時間帯が訪れるのが悩ましいですが、走り終わった後は、無料で豚汁が振舞われ、有り余るほどの量を準備して頂いて、私は三杯もご馳走になりました。ご当地グルメの露店がいくつも軒を連ねて、無料の豚汁のあおりを食っていたところもありますが、応援の知人・家族も楽しめたことでしょう。何より大会の目玉は富士山の絶景でしょう。今年は「富士山世界遺産登録記念大会」と堂々と銘打てるのも強みです。そんなこんなで「全国ランニング大会100撰」に、今年も選ばれただけのことはあります。
 なお、特別ゲストは、千葉真子さんで、解説などでは素っ頓狂な声で、なんじゃこりゃ・・・などと絶句することがしばしばで、今日も、いでたちこそ茶髪にサンタクロースの恰好で、なんじゃこりゃ・・・と目を見張りましたが、スターターとして「皆さ~ん、メリー・クリスマス!」「2013年、ありがとう~」「上り坂は腹筋にめいっぱい力を入れて、頑張って下さ~い」などと叫ばれ、気分を大いに盛り上げてくれました。解説をやっているより、全国津々浦々の大会でスターターをやる方がお似合いです(←これ、褒め言葉のつもり)
 大会会場から仰ぎ見る富士山は、上の写真のような迫力です。
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ある古書のはなし

2013-12-22 01:14:09 | 日々の生活
 ブックオフという業態はすっかり定着し、最近は扱われる本は中古でありながら新品同様で、びっくりします。供給が増えて品質があがっているのでしょうが、なるべく綺麗なままで売ろうとする人々の配慮も感じられます。「もったいない」と資源を粗末にしない日本人の心情にもマッチして、本を手にする機会(売れる本の数)は確実に広がり(多分)、消費者の利便性は高まっています(多分)。でも出版業界全体の売上金額が増えているかどうかは知りません(消費者の財布は限られていますから・・・かつてより通信費やネットに使う金が増えているでしょうね)。
 そんなブックオフの中には、(廃業した?)古本屋さんから引き取ったと思しき本を「古書」と表示して、店の片隅で扱っているところがあります。最近の本は言わば「古典」の応用編に過ぎませんから、原典に当たった方が文脈が分かって理解が深まりますし、オリジナルの解釈が大事なこともあります。「古書」は、一種の生き物のように、出版された当時の空気を纏っているかのような独特の雰囲気があり、古本屋にせよ、「古書」コーナーにせよ、眺めているだけでも幸せな気分になります。
 先日、そんなブックオフの「古書」の書棚で、ピエール・ルヴェルディの詩集(1969年刊 思潮社)を見つけて衝動買いしました。Wikipediaでは「キュビスムの理論家として特に散文詩に優れ、イメージの自由な構成によって、夢幻的・超現実的な詩的宇宙を創り出し、シュールレアリスムの先駆者となる」と紹介されているフランスの詩人です。しかし、今日、言いたいのはこの本のことではなく、栞のように挟まっていた一枚のハガキのことです。
 7円ハガキですから相当古い。シミはありませんが全体が黄ばんで、昭和45年1月30日付の消印がありました。文京区「せりか書房」宛で、差出人は大和市「唐木順三」とあります(因みに住所は番地まできっちり書き込まれていました)。文面は「此度は貴社発行の『言語と沈黙』上巻をご恵与下され、ありがたく御礼申します。小生の関心のあるテーマですので、後日拝読するつもりでゐます。」と簡単なもの。内容から判断しても、評論家の唐木順三氏でしょうか。
 調べて見ると、「せりか書房」(1967年設立)は住所を移していますが、「とりわけ哲学・宗教・思想といった人文系の専門書を数多く出版」(Wikipedia)する会社で、文芸批評家ジョージ・スタイナーの記念碑的著作「言語と沈黙」の復刻版が2001年に出版されており、アマゾンでも、同社1969年刊が「古書」として検索されました。この「言語と沈黙」の出版時期、唐木順三氏からの礼状の日付、そしてこの礼状が挟まっていた本(詩集)の出版時期、のタイミングはいずれも符合します。あとは唐木順三氏が「せりか書房」から本を出しているとか同社の雑誌(があるとすれば)に寄稿している等の何らかの関係が見つかれば決定的なのですが、そこまでには至りませんでした。唐木順三氏の書籍の出版はほぼ全て筑摩書房が独占していると言ってもよい状態で、「せりか書房」が執筆を依頼していたのかも・・・ただの憶測です。いずれにしても、私が買った「古書」の詩集は、もともと「せりか書房」の編集者(あるいはその関係者)が購入し、礼状を挟んだまま、いつか古本屋に流れ、40数年の時を経て、偶然、私の手元に来た・・・たった一枚のハガキからこんな物語を想像するのもまた「古書」の楽しみの一つであり、縁を感じます。
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アジア点描

2013-12-19 23:44:11 | 永遠の旅人
 先週は、日替わりで、マニラ、ホーチミン、ハノイ、バンコク、ジャカルタに出張しました。夕方のフライトで移動し、ホテルは寝るだけで、朝、チェックアウトし、昼間、打合せの後、再び夕方のフライトで移動するという強行軍で、何が辛いと言って、晩飯を機内食で済ませることほど空しいことはありませんでした(苦笑)。
 初日のマニラでは、日曜の昼下がりに到着してから夕食までの時間を、マカティ中心部にあるホテル横のショッピング・モールを散策して過ごしました。シンガポールやマレーシアと比べても遜色がないほど巨大なものでしたが、シンガポールやマレーシアと違って、出入り口で金属探知機による持ち物検査があり、また、モール内は人通りが少なくないのに、個々の店内はガラガラというアンバランスなのは、どうやら買い物もせず通路でぼんやり佇んでいる人が多くて、穿った見方をするならば、一流のブランド店で買い物が出来るのは一部のお金持ちに限られ、大多数の人々にとっては、まだまだ憧れのファッショナブルな場所なのではないか・・・と思いました。
 次の訪問地ベトナムでは、やけに街中にバイクが一杯・・・と思ったら、バイク普及率は世界トップだそうです。昔、中国が自転車天国で、いつの間にかバイク、さらに車社会になったのになぞらえれば、その発展段階が想像されます。3000万台といいますから、人口8800万人のベトナムの三人に一人が保有している計算で、そんな喧騒の中を、会社専属ドライバーは、急な発進や急な車線変更を避けながら、阿吽の呼吸で流れるように運転します。混沌の中に見る秩序ありげな動きは、日本人にはなかなかマネ出来そうにない芸当です(因みに会社の規定によれば駐在員の運転は禁止)。それから、ネット・ユーザーも同レベルの3300万人、普及率は38%と言われます。中国と同じ共産党独裁の国ではあるものの、中国が外資系のGoogleなどのサービスを制限しているのに対し、ベトナムでは原則自由で、検索エンジン市場ではGoogleが95%を占める、といったところは明らかに中国と異なりますが、いざGoogle.comを見ようにも繋がらず、Google.com.vnにre-directされてしまうということは、やはり何らかの監視が行われているということなのでしょうか???
 続くタイ・バンコクは、ご存じの通り、混乱冷めやらぬ中での訪問でした。かつて反政府デモ隊が空港を占拠した記憶が蘇り、ちょっと心配(ある意味で期待?)されましたが、バンコク行きフライトは外国人で一杯でしたし、街も普段と変わる様子は見られませんでした。この国はクーデターに慣れているだけあって、反政府暴動などモノともしないと見えます。こうして見ると、日本は、どの政党が政権を担当しようが、誰が総理大臣になろうが、反政府デモやら暴動が起こることはまず考えられない・・・ということは、民主主義の歴史が長く政治的に安定している証左か、はたまた国民が政治に期待せず倦んでいることの表れか・・・。
 最後のインドネシアにしても、いずれ劣らぬアジアの成長市場で、街のど真ん中に工事現場やら工事途中の残骸が放ったらかしになっており、社会的な安定・清潔・高品質・高齢と言うより、変化に満ち、お世辞にも清潔と言えず安普請なところもありますが、若さ溢れる活気を感じさせます。一人当たりGDP3,000ドルは、ようやく個人消費が盛り上がり、コンビニ出店が検討される発展段階にあります。人口も2億4千万と、ポテンシャルを感じさせます。
 因みに、タイの一人当たりGDPは5,000ドル(人口6千9百万)、フィリピン2,000ドル(人口9千3百万)、ベトナム1,200ドル(人口8千8百万)と、人口がそれなりに多いだけに、規模の経済も期待されます。他方、都市国家のシンガポール43,000ドル(人口5百万)は別にして、既にアジアの優等生のマレーシア8,400ドル(人口2千8百万)はそこそこ豊かでも人口が少なく、タイ周辺で期待されるミャンマー700ドル(人口4千8百万)はそこそこ人口があっても貧しく、カンボジア800ドル(人口1千4百万)、ラオス1,000ドル(人口6百万)など、成長期待はあっても経済規模は知れています。そしてこれらの国全てに(都市国家シンガポールを除いて)共通して言える課題は、10,000ドルを越えらるかどうかという、中所得の罠が待ち構えていることでしょう。ごちゃごちゃ数字を挙げましたが、要は、失われた20年を経てなお、1億3千万近い人口を抱えながら平均43,000ドルもの高水準を維持する日本は、日本を離れてアジアから眺めてみると、社会的な自由と洗練さとを含めて、その底力を否応なしに感じさせられ、大いに誇って良い、逆に自信を無くす必要など毛頭ない、とつくづく感じさせられます。
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本気度・続

2013-12-16 01:19:22 | 日々の生活
 先週一週間は海外出張で、途中でブログをアップ出来るかと高をくくっていたら、会社のセキュリティが一段と厳しくなったせいか、あるいは訪問地の通信事情が悪いせいか、ホテルからネットにアクセス出来ず、ちょっと間が空いて、間抜けになってしまいますが、「本気度」で書きたかったことを書いてしまいます。
 中国が尖閣諸島上空を含む「防空識別圏」を一方的に設定したことが波紋を呼びました。11月23日のことです。英語では「ADIZ」(Air Defense Identification Zone)と言い、各国が領空の外側に設ける緩衝帯で、英語名から想像されるように、自国領空に接近する外国の航空機を識別し、領空侵犯を防止するために自主的に設定するものです。他国も設定している「防空識別圏」を、中国が設定して何が悪い、という開き直りを、そのまま受け止め、何故、今頃?と詮索する向きもありますが、そもそも中国の言う「防空識別圏」は「もどき」であること、似て非なるもので「防空識別圏」と呼ぶに値しないものであることをあらためて確認する必要があるように思います。
 中国は、この空域を飛行する航空機が中国に通告すること、双方向の無線通信を維持すること、機体に国籍を明示することを求めました。そして航空機が識別に協力しなかったり指示に従わなかったりした場合、中国は防御的な緊急措置を取るとしています。つまり、中国は、資源などについてのみ権利が及ぶだけの排他的経済水域(EEZ)において中国が支配する海であるかのように振舞っているのと同様、「防空識別圏」を領空の延長のように見做しているようです。設定された空域は、日本、韓国、台湾の防空識別圏の一部を含むほか、国際法上の一般規則である公海上空の飛行の自由をも不当に侵害するものであり、認められるものではありません。
 そのため、アメリカは、25日、爆撃機2機を、中国が設定した「防衛識別圏」に進入させました(が、中国機の緊急発進(スクランブル)も電波妨害も迎撃機もなかったようです)。一説には、中国にはまだ「防空識別圏」を守るだけの監視能力がないと言われますが、その当否は分かりません。いずれにせよ、アメリカは、巡航ミサイルを搭載できる爆撃機B52に何も搭載せず、かつ護衛の戦闘機もつけない裸の航行という配慮を見せたにせよ、中国の主張を意に介さないという意思表示を、すかさず見せた、しかも実力行使した、という意味で、レイムダックと言われ、軍事には生温いオバマ政権にしては、久しぶりの本気度を見た思いがしました。だからと言って、中国が「防空識別圏」を引っ込めることはありません。緊張が高まる東アジア情勢において、現状(status in quo)を破るのは常に中国であり、世界の主要国は非難を浴びせ、NY Timesは「中国の明確な誤算」と書きたてましたが、結局、中国が既成事実をまた一つ積み上げただけに終わり、日本を含め世界は中国の無法な振る舞いを抑止出来ませんでした。鬱屈した気持ちを一瞬でも晴らしてくれた米軍機の航行は、もしかしたら、昭和16年12月8日、真珠湾攻撃に沸いた民衆の思いに通じるのかも知れないと、ふと思いました。
 こうした中国の暴挙の背景には、習近平国家主席の新政権が成果を見せなければ、との焦りがあり、更には深刻化する国内矛盾が彼を突き上げていることは想像に難くありません。軍に対する統制がどうなっているのかも気になるところです。中国の際どい内政がどう推移するのか、そんな中国に寄り添う姿勢を見せた韓国が、言わば裏切りにあって、これからどう対応するのか、注目されるところですが、先ずは日本です。民主党政権でなくて良かったと思った人は多かったと思います。平和を望むのはやまやまで、お隣の中国に対して、これまで随分遠慮してきましたが、矛盾する内政に反比例するように対外的な圧力を強める中国に対しては、毅然とした「本気度」を見せつけることは重要であり、その備えが必要であるという現実を、またしても突きつけられた一幕でした。
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本気度

2013-12-06 01:23:03 | 日々の生活
 先週末は外出していて、ロクにテレビを見ることが出来ませんでしたが、ことのほかスポーツが面白かったようです。
 先ず、福岡国際マラソンで、埼玉県庁の公務員ランナー・川内優輝さんが、2時間9分5秒で、日本勢最高の3位に入りました。ご本人は、目標の2時間7分30秒台はおろか、自己ベスト(2時間8分14秒)にも届かず、不本意だったようですが、ペースメーカーが外れた中間点から抜け出してレースを引っ張り、29キロ手前で後続集団に吸収されるも、その後も驚異的な粘りを見せて日本人トップを確保し、日本陸連・専務理事の尾県貢氏は「心技体の心の部分が卓越している」「立場を忘れて感動した。日本のマラソンランナーの範となる心持だ」と褒めちぎり、中長距離マラソン部長・宗猛氏に至っては「彼が本当のプロ。それに比べると実業団の選手はアマチュア」とまで言い放ちました。
 また、ゴルフでは男・女ともに今年の賞金王が決まりました。男子は、松山英樹が今季4勝目を挙げ、1試合を残して、ツアー史上初めてプロ・デビュー1年目で、文句なしの結果を残しました。しかも獲得額が2億円を超えるのは、1994年&96年の尾崎将司と2001年の伊沢利光に次いで3人目(4度目)というオマケ付きで、破格のルーキーと言えます。女子は、最終戦でこそ横峯さくらに逆転され、賞金総額で130万円差まで追い上げられましたが、プロ6年目の森田理香子が、23歳327日と史上4位の若さで、初の賞金女王に輝きました。こちらも今季4勝を挙げる活躍で、ここ数年韓国勢の強さが目立った国内ツアーでは、4年ぶりの日本人・賞金女王なのだそうです。
 以前、ブログにも書いたように、今年はプロ野球界でもルーキーが活躍し、若さがはちきれんばかりの田中まー君は大記録を打ち立て、楽天イーグルスを初の日本一に導く大車輪の活躍を見せました。相撲界でも、アマ横綱と国体横綱のビッグ・タイトルをひっさげ、史上2人目となる幕下10枚目格付出の資格を得て今年3月にデビューした遠藤は、二場所で通過し、新十両で迎えた7月場所では14勝1敗で優勝して史上4人目となる十両1場所通過を果たしました。ケガのため新入幕後の二場所はぱっとしませんでしたが、曲げを結えるほど髪が伸びておらずザンバラ髪のままというのが、スピード出世を物語ります。
 こうした若者たちは、これからのマラソン界、プロゴルフ界、プロ野球界、相撲界をそれぞれ背負って立つ、いずれ劣らぬ逸材であり、先ずはこうした若手の台頭を喜ぶべきなのでしょう。しかし素直に喜んでいいものか、まさに宗猛さんが指摘されたように、実業団の選手たちは何をやっているのか、若い選手にいいように引っ掻き回されて、ベテラン勢は何をやっているのか、不甲斐なさを感じた人は少なくなかったことでしょう。
 先週のNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」に、独創的な発想センスで、エルメス、ルイヴィトンなど世界の一流ブランドからも依頼が殺到するデザイナーの佐藤オオキさんが登場しました。ファッション・ブランドや、パン屋やコーヒーチェーンの店舗デザインから、家具、全く新しい鞄、老舗の酒蔵が出すビールのパッケージ・デザインまで、あらゆるジャンルの会社から仕事が舞い込み、1年の半分近くも海外を飛び回り、常に250もの案件が同時進行していながら、それでも時間が許すかぎりギリギリまで依頼を引き受けることを信条にしていると言いますから、その馬力たるや半端ではありません。しかも、その全てにおいて全力投球し、「頑張ってジャンプして、10センチしか跳べないっていうクライアントがいて、なんとしても11センチ跳ぼうとしているという姿を目の当たりにすると、なんとか15センチとか20センチ、場合によっては30センチくらい跳ばせてあげることが出来ないかなって思うのが自分の原動力」と言い切り、良い意味で顧客の期待を裏切り、顧客の期待を大幅に上回る成果を残す技量もまた半端ではありません。
 そんな彼が大事なのは「情熱」だと呟いていました。とあるコンクールに入選して、デザイナーを養成することでは世界的に有名なイタリアの某プロデューサーの目に留まり、声をかけられたのをきっかけに、新しい椅子のデザインを彼に認められたくて、毎月、イタリアの彼のもとを訪ねたといいます。隣駅とか、東京から大阪とかとはレベルが違います、地球の裏側に、毎月!です。並みの目線ではありませんね。恐らく彼に近い技術レベルのデザイナーは少なくないことでしょう。そんな中から彼が抜きんでるのは、こうした精神的なものによると言わざるを得ません。紙一重のところで成功を手繰り寄せるのは、そんな「本気度」の差ではないかと思うのです。
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師走

2013-12-02 00:45:03 | 日々の生活
 一年が経つのは早いもので、師走に入りました。つい最近まで台風が来ていましたし、フィリピンの被害も記憶に新しいですが、確実に季節は移ろいます。
 週末、思い立って神宮外苑を訪れた時の写真をアップします。一週間か二週間早ければもっときれいだったろうにと思いますが、それでもまだまだ見栄えがします。初詣のときのように人の後について歩くのに驚かされました。日本人はいつの世も季節を愛でるのが好きですね。
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