タイトルにある「間接戦略」なる言葉はリデルハートを意識したもので、ここでは「間接侵略」と置き換えても構わない。孫子の「戦わずして勝つ」戦略よろしく、中国は平時から世界中で「三戦」(世論戦、心理戦、法律戦)を仕掛けている。2003年、中国共産党中央委員会および中央軍事委員会において採択されたもので、中国人民解放軍政治工作条例に「輿論戦、心理戦、法律戦を実施し、瓦解工作、反心理・反策反工作、軍事司法および法律服務工作を展開する」と記載されている。
今週、香港で区議会選挙が行われ、民主派が全18区・計452議席の8割超を獲得する地滑り的勝利を収めたと報道されて、快哉を叫んだ人が多かったことだろう。勿論、私もその内の一人だった。投票率も71%超と、過去最高だった前回2015年の47%を20ポイント以上も上回り、関心の高さを窺わせた。
この選挙前に、変哲もない四つの報道が目をひいた。一つ目は、少数民族ウイグル人に対する弾圧についての新たな事実が、米NYタイムズ紙にリークされた大量の内部文書によって明らかになったもので、16日のことだった。二つ目は、オーストラリア保安情報機構(ASIO)の元トップが豪シドニー・モーニング・ヘラルド紙のインタビューで、「中国が水面下で狡猾に組織的なスパイ活動と利益誘導を駆使して豪政治体制の『乗っ取り』を企てている」と警告したもので、22日のことだった。三つ目は、香港・台湾・豪で中国のスパイ活動に関わっていたとされる男性(王立強氏)がオーストラリアへの亡命を希望し、中国の政治干渉活動に関する膨大な情報を豪当局に提供していたと、23日に豪メディアが伝えた。彼の告白によって、中国の情報ネットワークが、豪ばかりでなく香港や台湾でも、情報収集、攪乱情報流布、メディアの買収、世論工作などの特殊任務を展開していることが暴露された。最後に中国系の男性を5月の豪総選挙に擁立しようと、中国情報機関の関係者が資金提供を申し出ていたと、翌24日に豪メディアが伝えた。
これら全ての報道が香港の選挙前に意図的に流されたと言うつもりはない。さりとて全て無関係だったとも思えない。だからと言って、これらが全く報道されなかったとしても香港の選挙結果はさほど大きく変わらなかっただろうと思う。王立強氏のケースは台湾では一面トップ扱いだったそうで、こうした中国の動きに対する彼らの関心は高い。
オーストラリアでの中国の諜報活動が立て続けに報じられているが、別に珍しいわけではない。古くは2005年、駐シドニー中国領事館の一等秘書官が、実に千人以上の中国政府スパイがオーストラリアで活動し、数回の拉致を実行していることを明らかにした(人口比で5倍の日本では、単純計算で5千人のスパイが活動していることになる)。私が駐在していた2008年頃、オーストラリア軍施設傍に通信機器を設置する入札で、中国企業が排除されたという報道を見かけた。そして最近も、2016年、野党の国会議員が中国人実業家から多額の資金援助を受けていたことが明らかになり、翌2017年、この議員が南シナ海情勢で中国寄りの発言をしていたことが判明すると、豪政府は立法措置で外国人や外国団体からの政治献金を禁止した(同様の立法措置がヨーロッパでも検討されていると、Foreign Affairsは報じている)。中国人留学生が騒ぎ立て、あるいは出版社に働きかけて、中国に不利となるような講義や出版物を妨害する事案も報告され、その年の暮れには、アメリカのシンクタンクが、「ハードパワー」でも「ソフトパワー」でもない、中国のそんな水面下の策略を「シャープ・パワー」と名づけ、報告書を提出した(この言葉は、その後、揉み消されたかのように後景に引いてしまったが・・・)。最近、アメリカが、華為やZTEの5G通信機器を排除する動きを見せる発端となった情報搾取事件は、どうやらオーストラリア発だったと知った。ファイブ・アイズという大英帝国圏5ヶ国(英・米・加・豪・NZ)の諜報ネットワークの中で、資源大国のため経済的に中国に依存し、移民一世が流れ込んで人の動きが激しく、従って最も弱い鎖部分だと見做され得るオーストラリアが狙われているのではないかと疑う。1年半ほど前、Clive Hamiltonというオーストラリア人の学者は“Silent Invasion”なる著書をものし、オーストラリアの市民社会と政治に対する中国共産党の影響力増大を告発した。
他国のことはもとより、問題は日本である。一応、経済大国かつ技術大国であり、それなのに脇が甘く、戦後に牙を抜かれてすっかりナイーブな発想に堕してしまった日本人は、恰好のターゲットだろう。日本的な意味でのリベラルなマスコミや護憲派の主張は、そのまま中国やロシアや韓国を利するものであって、息がかかっていないと思う方がオカシイのではないだろうか。香港情勢に対して何か支援できるわけではないが関心を寄せ、台湾の来年の総統選挙を案じるのは大いに結構だが、足元の私たち日本と日本人は大丈夫か・・・これまで中国やロシアや北朝鮮によるスパイ天国と散々揶揄されながら、「特定秘密保護法」ごときでも難産で、「防諜組織」や「スパイ防止法」に至っては今なお設立・成立のメドが立たず、公安から数々の工作事案が明らかにされ、実際に私だって某シンポジウムに参加して名刺交換したロシア大使館付駐在武官から何度か電話を貰って、気になって無視していたら、公安の知人から、そりゃ公安がマークする要注意人物だと聞かされて、ちょっとビビッてしまったことがある(まあどの国の大使館員も駐在武官も程度の差こそあれそんなものだろうが)・・・という具合いに、きっと大丈夫ではないに決まっているのだ(苦笑)。「桜を見る会」の参加者リストを裁断したとかいうシュレッダーを見に行くなどアホか!?と言うつもりは毛頭ないが、政治家のセンセイには他にもっとやることがあるだろうと思ってしまう・・・
今週、香港で区議会選挙が行われ、民主派が全18区・計452議席の8割超を獲得する地滑り的勝利を収めたと報道されて、快哉を叫んだ人が多かったことだろう。勿論、私もその内の一人だった。投票率も71%超と、過去最高だった前回2015年の47%を20ポイント以上も上回り、関心の高さを窺わせた。
この選挙前に、変哲もない四つの報道が目をひいた。一つ目は、少数民族ウイグル人に対する弾圧についての新たな事実が、米NYタイムズ紙にリークされた大量の内部文書によって明らかになったもので、16日のことだった。二つ目は、オーストラリア保安情報機構(ASIO)の元トップが豪シドニー・モーニング・ヘラルド紙のインタビューで、「中国が水面下で狡猾に組織的なスパイ活動と利益誘導を駆使して豪政治体制の『乗っ取り』を企てている」と警告したもので、22日のことだった。三つ目は、香港・台湾・豪で中国のスパイ活動に関わっていたとされる男性(王立強氏)がオーストラリアへの亡命を希望し、中国の政治干渉活動に関する膨大な情報を豪当局に提供していたと、23日に豪メディアが伝えた。彼の告白によって、中国の情報ネットワークが、豪ばかりでなく香港や台湾でも、情報収集、攪乱情報流布、メディアの買収、世論工作などの特殊任務を展開していることが暴露された。最後に中国系の男性を5月の豪総選挙に擁立しようと、中国情報機関の関係者が資金提供を申し出ていたと、翌24日に豪メディアが伝えた。
これら全ての報道が香港の選挙前に意図的に流されたと言うつもりはない。さりとて全て無関係だったとも思えない。だからと言って、これらが全く報道されなかったとしても香港の選挙結果はさほど大きく変わらなかっただろうと思う。王立強氏のケースは台湾では一面トップ扱いだったそうで、こうした中国の動きに対する彼らの関心は高い。
オーストラリアでの中国の諜報活動が立て続けに報じられているが、別に珍しいわけではない。古くは2005年、駐シドニー中国領事館の一等秘書官が、実に千人以上の中国政府スパイがオーストラリアで活動し、数回の拉致を実行していることを明らかにした(人口比で5倍の日本では、単純計算で5千人のスパイが活動していることになる)。私が駐在していた2008年頃、オーストラリア軍施設傍に通信機器を設置する入札で、中国企業が排除されたという報道を見かけた。そして最近も、2016年、野党の国会議員が中国人実業家から多額の資金援助を受けていたことが明らかになり、翌2017年、この議員が南シナ海情勢で中国寄りの発言をしていたことが判明すると、豪政府は立法措置で外国人や外国団体からの政治献金を禁止した(同様の立法措置がヨーロッパでも検討されていると、Foreign Affairsは報じている)。中国人留学生が騒ぎ立て、あるいは出版社に働きかけて、中国に不利となるような講義や出版物を妨害する事案も報告され、その年の暮れには、アメリカのシンクタンクが、「ハードパワー」でも「ソフトパワー」でもない、中国のそんな水面下の策略を「シャープ・パワー」と名づけ、報告書を提出した(この言葉は、その後、揉み消されたかのように後景に引いてしまったが・・・)。最近、アメリカが、華為やZTEの5G通信機器を排除する動きを見せる発端となった情報搾取事件は、どうやらオーストラリア発だったと知った。ファイブ・アイズという大英帝国圏5ヶ国(英・米・加・豪・NZ)の諜報ネットワークの中で、資源大国のため経済的に中国に依存し、移民一世が流れ込んで人の動きが激しく、従って最も弱い鎖部分だと見做され得るオーストラリアが狙われているのではないかと疑う。1年半ほど前、Clive Hamiltonというオーストラリア人の学者は“Silent Invasion”なる著書をものし、オーストラリアの市民社会と政治に対する中国共産党の影響力増大を告発した。
他国のことはもとより、問題は日本である。一応、経済大国かつ技術大国であり、それなのに脇が甘く、戦後に牙を抜かれてすっかりナイーブな発想に堕してしまった日本人は、恰好のターゲットだろう。日本的な意味でのリベラルなマスコミや護憲派の主張は、そのまま中国やロシアや韓国を利するものであって、息がかかっていないと思う方がオカシイのではないだろうか。香港情勢に対して何か支援できるわけではないが関心を寄せ、台湾の来年の総統選挙を案じるのは大いに結構だが、足元の私たち日本と日本人は大丈夫か・・・これまで中国やロシアや北朝鮮によるスパイ天国と散々揶揄されながら、「特定秘密保護法」ごときでも難産で、「防諜組織」や「スパイ防止法」に至っては今なお設立・成立のメドが立たず、公安から数々の工作事案が明らかにされ、実際に私だって某シンポジウムに参加して名刺交換したロシア大使館付駐在武官から何度か電話を貰って、気になって無視していたら、公安の知人から、そりゃ公安がマークする要注意人物だと聞かされて、ちょっとビビッてしまったことがある(まあどの国の大使館員も駐在武官も程度の差こそあれそんなものだろうが)・・・という具合いに、きっと大丈夫ではないに決まっているのだ(苦笑)。「桜を見る会」の参加者リストを裁断したとかいうシュレッダーを見に行くなどアホか!?と言うつもりは毛頭ないが、政治家のセンセイには他にもっとやることがあるだろうと思ってしまう・・・