旧聞に属しますが、やはりブログに書き留めておきたい、なんとも不自然な投票結果でした。そのため、この1票は誰が投じたものか、話題になったようです。かつてのライバル、盧展工・政協副主席という説もあれば、昨年11月以来、かつて推進してきた諸政策が新・総書記に否定されて不満が募っているであろう前任者・胡錦濤氏という説、はたまた謙虚さを示すために選挙で自身への反対票を投じたという毛沢東氏の逸話にならった習近平氏本人という説もあるそうです。そう、言わずと知れた、中国・全人代(全国人民代表大会)で習近平氏が国家主席に選ばれたときの賛否の票です。折しもバチカンで新法王フランシスコ1世が三分の二超の票を得るまで五度の投票を繰り返さざるを得なかった枢機卿たちも羨む(呆れる)「圧勝」と報じたメディアもありました。しかし、投票行動を、西欧諸国の遅れた制度と公言して憚らない彼らにとって、この程度のイヤミは痛くも痒くもありません。
しかし、そんな中国で、今、トクビルの「旧体制と大革命」(1856年)が広く読まれているそうです。アレクシス・ド・トクビル(1805―59。フランスの政治社会思想家、政治家、歴史家)と言えば1831年にアメリカを旅行してものした「アメリカのデモクラシー」が有名で、「旧体制と大革命」のことは知りませんでしたが、亡くなる三年前に書いたフランス革命分析の書だそうです。石平氏によると、中国で読まれるきっかけを作ったのは、共産党政治局常務委員の王岐山氏で、昨年11月末、ある会議の席上で購読を薦めて以来、俄かに脚光を浴び、新聞・雑誌は盛んにその内容を取り上げて紹介し、書店では売り切れが続出するほどの人気だそうです。1月18日付の人民日報(海外版)によると、中国国内の現状が大革命前夜のフランスのそれと類似しているため、大きな注目を集めたということです。大革命前のフランスでは、貴族たちが憎むべき特権にしがみつき、人民の苦しみには全く無関心で、自分たちの独占的な利益の維持に汲々としており、それが「旧体制」につきものの「社会的不平等」を深刻化させ、大革命の発生を招いたというわけです。今の中国でも、貧富の格差が拡大し、社会的不公平が広がり、階層間の対立が激化しており、このような状況下では「民衆の不平・不満が増大して社会が動乱の境地に陥る危険が十分にある」というわけです(以上、2月14日付産経新聞より抜粋)。
また、相馬勝氏がSAPIO4月号に寄稿した「習近平の権力闘争」によると、習近平氏が党総書記就任直後の昨年12月に広東省を視察した際、地元の党幹部に対し、ソ連崩壊の原因について語ったそうです。曰く、「ソ連は何故崩壊したのか。ソ連共産党は何故下野してしまったのか。重要な原因の一つは、理想、信念の動揺だ。最後には、一夜の間に、城に掲げている大王の旗を変えてしまった。この教訓は我々にとって深刻だ。」「ソ連の歴史や党の歴史を全面否定し、レーニンもスターリンも否定し、全てを否定し尽くし、歴史の虚無主義に陥り、思想も混乱し、(中央や地方の)各レベルの党組織は何もしなかった。」ちょっと長くなりますが、更に引用します。「我々(中国共産党)はどのようにして『党が軍を指導する』(という大原則)を少しの動揺もなく堅持していくのか。それこそが、ソ連崩壊から汲み取る教訓だ。ソ連軍は非政治化して党から離れ、国家の軍隊となり、ソ連共産党は武装解除せざるを得なくなった。ゴルバチョフは党の危機の渦中にあって、一党独裁体制維持のために必要な武力装置を用いることが出来ず、最後に一言『ソ連共産党を解散する』と宣言した。ソ連共産党は中国共産党よりも(全人口に対する)党員の比率が高いのに、解党に抵抗する者は一人もいなかった。」
習近平氏は、ソ連崩壊の原因が現在の中国にも通じると強調したようです。そして党幹部に対し思想的な堅固さを要求するとともに、軍に対して党への忠誠を求めるなど、共産党一党独裁体制に対する強い危機感を滲ませていたと言います。
果たしてこうした状況がどこまで切迫しているのでしょうか。中国が内部に多くの矛盾を抱え崩壊の危機にあることは、いろいろなところでいろいろな人が語って来ましたし、私も四半世紀にわたって期待し続けて来ましたが、中国共産党は意外にしぶとく、期待は悉く裏切られて来ました。しかし、今回の全人代であらためて驚かされたのは、国防費が25年連続で二桁増(当初予算比)を記録したのはともかくとして、国内の治安維持に充てる公共安全予算が二年連続で国防費を上回ったという事実です。勿論、国防費に開発費や装備購入費が含まれず、実態は公表額の二倍から三倍あるとされますが、純粋に人にかける費用で比べてみれば、国防と同じくらい国内治安に手がかかり、政権に対する国内の脅威が大きいかを物語ります。そんな国が長くもつとは思えません。現に中国共産党の幹部は、子弟をアメリカをはじめとする外国に留学させ、財産を海外に逃がし始めているようです(それは、どうやら北朝鮮の党幹部も同様らしい)。
少なくとも、こうした内部のアキレス腱を抱える限り、弱腰と言われないよう、外に対して強硬に出て来ることは避けられません。こうした相手だからこそ、コミュニケーションを密に、うまく危機管理して欲しいものです。
しかし、そんな中国で、今、トクビルの「旧体制と大革命」(1856年)が広く読まれているそうです。アレクシス・ド・トクビル(1805―59。フランスの政治社会思想家、政治家、歴史家)と言えば1831年にアメリカを旅行してものした「アメリカのデモクラシー」が有名で、「旧体制と大革命」のことは知りませんでしたが、亡くなる三年前に書いたフランス革命分析の書だそうです。石平氏によると、中国で読まれるきっかけを作ったのは、共産党政治局常務委員の王岐山氏で、昨年11月末、ある会議の席上で購読を薦めて以来、俄かに脚光を浴び、新聞・雑誌は盛んにその内容を取り上げて紹介し、書店では売り切れが続出するほどの人気だそうです。1月18日付の人民日報(海外版)によると、中国国内の現状が大革命前夜のフランスのそれと類似しているため、大きな注目を集めたということです。大革命前のフランスでは、貴族たちが憎むべき特権にしがみつき、人民の苦しみには全く無関心で、自分たちの独占的な利益の維持に汲々としており、それが「旧体制」につきものの「社会的不平等」を深刻化させ、大革命の発生を招いたというわけです。今の中国でも、貧富の格差が拡大し、社会的不公平が広がり、階層間の対立が激化しており、このような状況下では「民衆の不平・不満が増大して社会が動乱の境地に陥る危険が十分にある」というわけです(以上、2月14日付産経新聞より抜粋)。
また、相馬勝氏がSAPIO4月号に寄稿した「習近平の権力闘争」によると、習近平氏が党総書記就任直後の昨年12月に広東省を視察した際、地元の党幹部に対し、ソ連崩壊の原因について語ったそうです。曰く、「ソ連は何故崩壊したのか。ソ連共産党は何故下野してしまったのか。重要な原因の一つは、理想、信念の動揺だ。最後には、一夜の間に、城に掲げている大王の旗を変えてしまった。この教訓は我々にとって深刻だ。」「ソ連の歴史や党の歴史を全面否定し、レーニンもスターリンも否定し、全てを否定し尽くし、歴史の虚無主義に陥り、思想も混乱し、(中央や地方の)各レベルの党組織は何もしなかった。」ちょっと長くなりますが、更に引用します。「我々(中国共産党)はどのようにして『党が軍を指導する』(という大原則)を少しの動揺もなく堅持していくのか。それこそが、ソ連崩壊から汲み取る教訓だ。ソ連軍は非政治化して党から離れ、国家の軍隊となり、ソ連共産党は武装解除せざるを得なくなった。ゴルバチョフは党の危機の渦中にあって、一党独裁体制維持のために必要な武力装置を用いることが出来ず、最後に一言『ソ連共産党を解散する』と宣言した。ソ連共産党は中国共産党よりも(全人口に対する)党員の比率が高いのに、解党に抵抗する者は一人もいなかった。」
習近平氏は、ソ連崩壊の原因が現在の中国にも通じると強調したようです。そして党幹部に対し思想的な堅固さを要求するとともに、軍に対して党への忠誠を求めるなど、共産党一党独裁体制に対する強い危機感を滲ませていたと言います。
果たしてこうした状況がどこまで切迫しているのでしょうか。中国が内部に多くの矛盾を抱え崩壊の危機にあることは、いろいろなところでいろいろな人が語って来ましたし、私も四半世紀にわたって期待し続けて来ましたが、中国共産党は意外にしぶとく、期待は悉く裏切られて来ました。しかし、今回の全人代であらためて驚かされたのは、国防費が25年連続で二桁増(当初予算比)を記録したのはともかくとして、国内の治安維持に充てる公共安全予算が二年連続で国防費を上回ったという事実です。勿論、国防費に開発費や装備購入費が含まれず、実態は公表額の二倍から三倍あるとされますが、純粋に人にかける費用で比べてみれば、国防と同じくらい国内治安に手がかかり、政権に対する国内の脅威が大きいかを物語ります。そんな国が長くもつとは思えません。現に中国共産党の幹部は、子弟をアメリカをはじめとする外国に留学させ、財産を海外に逃がし始めているようです(それは、どうやら北朝鮮の党幹部も同様らしい)。
少なくとも、こうした内部のアキレス腱を抱える限り、弱腰と言われないよう、外に対して強硬に出て来ることは避けられません。こうした相手だからこそ、コミュニケーションを密に、うまく危機管理して欲しいものです。