風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

中国は国家か?

2023-11-25 20:04:37 | 日々の生活

 今日、久しぶりに神田の古書店街をぶらついて、矢野仁一さん(京都帝国大学名誉教授、1970年没)の本を見つけて衝動買いしてしまった。『大東亜史の構想』(昭和19年、目黒書店)という晩年の作品で、我ながらマニアックで呆れてしまう。

 矢野仁一さんは、かねて『近代支那論』(大正13年、弘文堂書房)で、中国に国境の観念はない、つまり国力が伸長すれば国境も伸長すると主張されて、政治地理学の祖とされるフリードリヒ・ラッツェル(1844~1904年)に近い考えを提示されていて、気になっていた。それが一種の勢力圏の考え方であり、ロシアを見てもわかるように、大陸国家のメンタリティなのだろう。

 あらためてWikipediaで「矢野仁一」を調べてみると、「中国近現代史研究の先駆者の一人であり、戦時期には『中国非国論』を主張して満州国建国を擁護する論陣を張った」とある。なんと大胆なことを・・・とリベラルなことを言う勿れ。中国二千年の歴史を振り返れば、果たして中国は「国」なのか?「地域」なのか?疑問である。近代国民国家の概念を当て嵌めれば、明らかに「国」が継続して来たとは言えず、むしろ「非国」と言われて腑に落ちる。例えば、モンゴル人や満州人が中華の地に「国」を樹立して、それぞれ元朝や清朝を名乗ったのに、日本人が今の華北の地に満州国を樹立して何が違うというのだろうか? 時代が違えば、それが悪いわけではあるまい。勿論、リットン調査団は周知の通りで、彼らはその時の中華民国を(どんなに分裂して国の体を成していなかったにしても)カタチの上で国民党政府の「国」と見做したことだろう。さらに中国共産党は、中華民国の五族共和や満州国の五族協和を真似て、五十五の民族からなる帝国だと強弁し、そうすることで二千年の歴史を遡って中国という「国」がさも連綿と続いて来たかのように装う。しかし学術的には「中国非国論」は十分に成り立ち得る。

 以前、やはり神田の古書店街で、『英国の観た日支関係』(昭和13年、清和書店)という古書を衝動買いして読んだことがある。これは当時のロンドン王室国際問題研究所のレポートを邦訳したもので、私には馴染みのない歴史だったことに些か驚かされた。と言うのは、日支関係が「国民党」と日本の関係だったからだ。今、私たちに馴染みのある戦前・戦中の日支関係は、中国共産党に忖度し、その歴史(正史)を受け容れて、「共産党」と日本の関係に置き換わってしまった。「抗日戦に勝利した」という中国共産党の美しい建国物語が綴られるが、史実は、日本と正面で戦っていたのは飽くまで国民党であって共産党ではなく、共産党は国民党の影に隠れて体力を温存し、日本との戦いで疲弊した国民党が国共内戦に敗れて共産党の世になったのだった。

 もしこのまま台湾が独立してしまうと、国民党政府は中国という国の歴史にならず、結果、中国の歴史は1949年以来74年しかないことになってしまう(国民党政府を含めても1912年から111年にしかならないが)。

 こんなマニアックなことを中国本土でやると、数年前の北海道大学教授のように、今では「反スパイ法」で、確実に拘束されてしまいそうだ。くわばら、くわばら・・・。

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困ったときのパンダ外交

2023-11-19 11:53:28 | 時事放談

 久しぶりに訪米した習近平氏がバイデン大統領および岸田首相と会談した。

 中国共産党支持派と反対派のデモが吹き荒れる(などと書きながら、実際にどの程度なのか報道からは分からないが)サンフランシスコのダウンタウンを避けて郊外で行われた米中首脳会談については、「滞っていた国防当局や軍同士の対話再開で合意した。偶発的な軍事衝突を防ぐ関係安定へ一歩を踏み出したが、台湾や貿易を巡る対立は残ったまま」(一昨日の日経一面)で、さしたる成果はなかった。バイデン大統領としては、テーブルの下ではお互いに足蹴にしながら、テーブルの上では笑顔で握手して友好を演出した構図であろうか。アメリカは政治の季節に入って、足を引っ張られないよう抑制気味で、最低限の目的を達する想定通りの内容なのだろう。

 いや、AP通信によると、習近平氏はパンダを「中米両国民の友好の使者」と表現し、「カリフォルニアの人々の期待に応え、友好関係を深めるために最善を尽くす」と述べたそうだから、世間は嬉しいサプライズと(一部であっても)受け止めたかもしれない(笑)。習近平氏がバイデン大統領と握手した際の作り笑いそのままに、(ぎこちない)微笑み外交ならぬ、困ったときのパンダ外交だ。しかし、スミソニアン国立動物園からパンダを予定より早く引き揚げる嫌がらせをした後の発言だから、マイナスがゼロに戻っただけのことだ。米国で乱用が社会問題化している医療用麻薬フェンタニルにしても、その原料である化学物質が中国で製造されメキシコで合成されてアメリカに流入する、いわば現代版アヘン戦争を放置しているのか煽っているのかしらないが、その嫌がらせをやめるだけのことだろう。軍高官の対話を拒絶したのは中国の方で、それを元に戻すだけのことだ。

 ところが、中国・国営新華社通信は、「バイデン米大統領との会談や米企業家らとの交流を通じ、対米関係の安定化と外資の呼び込みを二つの大きな『成果』として国内向けにアピール」(昨日の時事)したそうだ。米企業家らとの夕食会では、40分近く続いた習氏の演説にはたびたび拍手が上がり、米経済界の重鎮ら約400人から「熱烈」な歓迎を受けたと伝え、バイデン氏が習氏の青年時代の写真に「現在と変わらない」とコメントしたり、習氏が乗る中国車「紅旗」を褒めそやしたりした場面を大きく報道して、厚遇ぶりを強調したそうだ(同)。アメリカのつれない仕打ちに嫌がらせで応じて、その嫌がらせをやめるだけなのに友好を演出して「やっている感」を出しているだけのことだ。

 こうして見ると、かねて景気低迷が伝えられ、バブル崩壊後の「日本化」か? いやそうではない、日本以上に酷い! などと危惧される中国の、夏休みを兼ねた秘密の北戴河会議で、長老の一人から、「これ以上、混乱させてはいけない」と従来にない強い口調の諫言を受けた習近平氏が、別の場で、「(鄧小平、江沢民、胡錦濤という)過去三代が残した問題が、全て(自分に)のしかかって」「(その処理のため、就任してから)10年も頑張ってきた。だが問題は片付かない。これは、私のせいだというのか?」と側近に不満をぶちまけたという、日経・中沢克二氏による舞台裏の解説が真実味を帯びる。

 バイデン政権になって、「(米中)関係を管理する(マネージする)」と言われたのを、これはまさに私が勤務する会社の合弁子会社に対する形容そのものだと、妙に感心したものだ。暴走して問題を起こさない程度に行動をある幅に納まるようにコントロールするもので、バイデン政権は(道を外さない)ガードレールという表現も使った。アメリカは、中国とは価値観や理念が絶望的に相容れないから、そもそも多くを期待しない。それでも、ウクライナ侵略に踏み切ったプーチンのように、独裁権力が昂じて正確な情報が耳に届かない事態を懸念して、せめて習近平氏には直接会って、正確な情報をインプットする必要を感じていたようだ。もっと言うなら、そもそも国家における政治の優越やメディアに対する統制など、基本的な価値観が異なるので、伝える情報がアメリカが望む通りに受け止められるとは限らない認知バイアスの問題もあり得るのだが、そこまでは問うまい。

 日中首脳会談では、再び「戦略的互恵関係」(=懸案で意見が合わなくても決定的な対立を回避し相互利益を目指すオトナの冷めた関係)に言及し、「対話の継続へ前進する姿勢を打ち出した」(昨日の日経一面)そうだ。もってまわった言い方だが、かねて日中関係は米中関係の従属変数と言われた通りに、日本にソッポ向かれても困る中国の実情を表しているのだろう。故・安倍首相(当時)と握手した時の習近平氏の仏頂面は忘れられないが、岸田首相と握手するときの作り笑いもまた忘れられない。分かり易い国である。

 先行きに明るさは見えない。

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遅れて来た11月

2023-11-13 00:20:41 | 日々の生活

 昨日あたりから冬型の気圧配置によって一気に冷え、慣れない身体に寒さが沁みる辛い週末となった。ようやく遅い11月の到来といった感じだ。昨年までは、11月の声を聞けば、ビジネス・スーツの衣替えをするのが常だったが、今年は二週間近く、夏服のままで過ごし、朝夕の通勤客の中には、ちらほら上着なしの若者もいるほどだった。

 今年は記録的な暑さで、国連事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、『地球沸騰化』の時代が到来した(The era of global boiling has arrived.)」と警鐘を鳴らしたことが話題になった。何を大袈裟な、と言おうものなら、きっと欧米の環境活動家から面罵されるのだろう。私はそこに、環境を言いながら人間中心主義的なニオイを嗅ぎ取って、つい胡散臭く思ってしまう。私たち日本人はただ自然を畏敬するが、西洋人にとって自然は神が造ったものであり、その神が死んだと言う人も現れて(言わずと知れたニーチェだ)、その神を人間が引き継いだかのように「神-人間ライン」と自然を対置し、自然を観察対象とするだけでなく介入・征服する対象と見做してさんざん弄んで来て、今頃になって自然が破壊されているとは、昔も今もキリスト教的(ひいてはユダヤ教的)な「神-人間ライン」の相も変らぬ傲慢さが垣間見えて、イカガワシク思うのだ。勿論、地球環境保全に吝かではないし、CO2濃度の上昇が地球温暖化に影響するという予測モデルがノーベル賞を獲るくらいだから、関連がないとは言わないが、地球はそこまでヤワなのか(太陽の影響だってあるだろうに)と拗ねてみたくなるし、自然とともにあった日本人が今、環境後進国などと、西洋人には言われたくないが、まあそれは余談である。

 そんな発言があった7月は特に暑かったようで、過去12万年で最も暑い月だった可能性があるようだ(BBC 11月10日付)。世界各地で高温や山火事などの異常気象・災害が続き、私も小さい話ではあるが、帰宅後に窓を開け放てばエアコンの世話にならなくて済んで来たのに、この夏はたまらず数日だけ生まれて初めて(!)エアコンで部屋を冷やしてから寝入るハメになった。実際に東京都心では「猛暑日」(最高気温35度以上)22回、「真夏日」(同30度以上)90回を観測し、どちらも過去最多だったと、日経・春秋が書いた(10月31日付)。その時点で「夏日」(同25度以上)140回は、最多だった昨年に並んでいたが、11月に入ってからも小春日和ならぬ小夏日和!?があって、過去最多となった。先週火曜日には、東京都心の気温は27.5度と、11月の最高気温を100年ぶりに更新する暑さを記録し、朝、駅まで歩くと汗ばむほどだった。

 こうして「夏日」は実に3月から11月まで(断続的にではあるが)続いたことになる。本来、寒い冬と暑い夏を両極端として、その間の移行期間を春や秋と称して、一年をほぼ四等分して、季節の移り変わりを楽しんで来たが、夏がやたらと長くなり、春と秋が短くなって行くような感覚だ・・・などと、人間は悠長なことを言っていられるが、魚はそうは行かない。温度上昇の影響は、恒温動物のヒトより変温動物の魚の方が5~7倍は大きいと言われ、ヒトはアラスカでも赤道直下でも生活するが、魚は生息できる温度帯が限られ、旬がずれて、全国で地魚が変調を来していると、同じ日の日経(迫真・荒波に向かう漁業)は書いた。

 11月は旧暦そのままに「霜月」などと呼ばれるのは、大袈裟ではなく旧暦が一ヶ月ほど先行していた(すなわち新暦で言う12月頃だった)からで、他にも、(10月=「神無月」に出雲大社に出掛けて不在だった)日本各地の八百万の神々が戻って来る「神来月」「神帰月」(かみきづき)、神様に歌や舞を奉納する「神楽月」(かぐらづき)、「雪待月」(ゆきまちつき)などと呼ばれ、「霜月」も「しもつき」ではなく「そうげつ」と読んで、霜と月の光の情緒を表す呼び方もあるようだ。日本人は実に風雅な日本語で表現豊かに季節の変化や気候を語って来た。いつまでも日本人らしく悠長なことを言い続けたい(そして旬の魚を楽しみたい)ものだと心から思う。

 

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追悼・大橋純子さん

2023-11-12 01:45:42 | スポーツ・芸能好き

 大橋純子さんが亡くなった。死因は明かされていないが、5年前に食道がんや乳腺がんが見つかり、その後、復帰されたが、今年3月に食道がんが再発し、治療とリハビリに励んでおられたという。享年73。

 伸びのある歌声が魅力だった。当時は歌謡曲全盛で、松田聖子や中森明菜といった華やかなアイドル歌手が活躍し、目を奪われる一方で、純子さんは「たそがれマイラブ」(1978年)や「シルエット・ロマンス」(1981年)など、しっとりと聴かせる大人の歌い手で、私にとっては、岩崎宏美や、男性では布施明などと並び、歌声に聴き惚れて忘れられない一人である。

 最近、1970年代後半から1980年代にかけて活躍された歌い手が相次いで亡くなっている。先月8日に谷村新司さん(享年74)に続いて、22日にもんたよしのりさん(享年72)が亡くなったときには、かつて「夏女ソニア」(1983年)でデュエットした縁もあって、追悼コメントを出されていたそうだ。私自身も歳をとった証しだし、音楽は好きだが、なんだかんだ言って若かりし頃に聴いた音楽に、今なお惹かれることには驚く(呆れる)ばかりだ。今はレコードやCDがなくても、YouTubeで記憶の底に沈んだ歌声を懐かしい映像とともに蘇らせることも出来て、余計に当時の音楽に回帰している。

 人生100年と言われる時代に、余りに早い死が惜しまれるが、歌声は永遠に生き続ける。素晴らしい感性のままに生きたことを羨ましく思うとともに、それによって私たちの音楽経験を豊かにしてくれたことに感謝し、合掌。

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