米朝首脳会談について、成果が乏しかったという声が大半ではあるものの、一部にはそれは予想通りで(とは後出しジャンケンのような苦しさも漂うが)、そもそもそれほど期待できない類いのこと、むしろ北朝鮮がこれまでの「鎖国」政策を転じて国際社会に姿を現したこと、それを引き出した米国もまた政策を転じて首脳会談に応じ、先ずは前に進める一歩を踏み出したことを評価する声も少なからずある。まあそういうことにしておこう。何しろオバマ前大統領がやってきたことを全否定するトランプ大統領だからこそ可能だったことだ。しかも彼はプーチン大統領や習近平国家主席といった権威主義者の方が好きで、どうもウマが合うようだ(苦笑)。
今回の取引のポイントは、北朝鮮による非核化のコミットメントと引き換えに、米国が北朝鮮に体制保証のコミットメントを与えたことにあったと、巷間、伝えられる。この体制保証が何を意味するかは、余り報道されることがない。一般には、曖昧に金王朝支配が続くことを意味するようだが、他者がそこまで踏み込むことは現実問題としては無理筋であり、北朝鮮にしても米国のことをそこまで信用しているとは思えない。ある研究者は、北朝鮮の体制に対する批判をさせないことだと解説されていて、なるほどと思った。かつて自由や法治主義や人権などの西洋的な価値観を自ら体現し、伝道師を任じてきた米国からすれば、北朝鮮の体制批判をしないのは大いなる妥協だ(まあ、最近は中国に対する批判も控えているが、これも中国共産党からクギを刺されている、あるいは頼まれている可能性があるし、トランプ大統領はそもそもビジネス・ライクで西洋的価値といったものには興味がなさそうだ)。北朝鮮が国際社会に復帰するにあたって、国内世論(というものがあれば、の話だが)対策の前提である。
首脳同士の会談で、そのことを確認した意義は大きく、一般に期待されたCVIDといった手順にまで踏み込むのは難しかったのかも知れない。こうした基本的な出発点において、交渉者としてのアメリカが、それ以上の褒美を金正恩委員長に差し出さなかったことは重要だと思う。米韓合同軍事演習を中止したじゃないかと反論されそうだが、いつでも再開できることであり、金正恩委員長の次の一手を引き出すためには先ず自分から、というトランプ大統領一流の取引の一手だろう(勿論、背景には、韓国が安全保障のfree-riderだという根強い不満があるのは間違いない)。中でも、経済協力は中国や韓国や日本が実施すること(加えて、米国の民間企業が応じるかも知れない)と突き放したことは、交渉者として実に正しい。何しろ、核やミサイルの開発は国際犯罪と断じて、国連安保理が制裁を重ねて来たものだ。そんな犯罪者に褒美を与えたら、第二、第三の北朝鮮が現れないとも限らない。第二次世界大戦の悲劇を教訓にして、戦後、人類は営々と核不拡散のための努力を続けてきた。NPTは「(核を)持てる者」の地位を固定化して不平等だと批判する人がいるが、核拡散という悪い方向への流れを食い止めるための現実的な政治の知恵だ。戦後体制の大前提でもあり、テロの時代にあって、テロリストの手に核が渡るリスクを思えば、容易に理解されるところだろう。
金正恩委員長が国際社会に復帰して期待するのは、先ずは国連安保理が課して来た経済制裁が解除されることであり、次に関係国からの投資であろう。とりわけ平壌宣言で経済協力を謳った日本に対する期待は大きい。何故か。
戦後の日本が実施してきた健気な経済協力が、世界中の国から歓迎されるのは、現地の資材や人材を活用し、現地経済に貢献するからだと言われる。それは、資材も人材(犯罪者が多いと言われる)も中国から持ち込み、リターンが期待できそうにないことなどお構いなしに多大な投資をし、高利で貸し付け、返済できなければ港などの99年間の租借を得て、新・植民地主義などと批判される中国のありようと比べれば、一目瞭然だ。それはその通りなのだが、大事なことは、日本に政治的野心がないことを、経済協力(と言うより支援)を受け入れる側がしっかり認識していることだろう。こうした事情は、国際情勢に人一倍敏感な金正恩委員長なら理解しているはずだ。中国に頼れば、これまでの長い悲哀の歴史の延長戦上で、属国化のリスクがある。韓国に頼れば、将来の統一に当たって主導権を握られるリスクがある。その点、日本はニュートラルだ。しかもかつての植民地支配(とは私は認めないが)を批判できる被害者としての立場は今となっては却って有利でもある(日本の世論に対しては)。
ここで、もう一度、事実関係を確認しなければならない。日朝関係に横たわる問題は、拉致、核開発、ミサイル開発(長距離と言うより、中・短距離)の三点セットで、中でも拉致問題は主権侵害の国際犯罪行為である。そんな北朝鮮を甘やかせ、つけ上がらせる謂われはない。そこで、トランプ大統領が褒美を与えなかったように、日本も経済協力というカードを、どのようなタイミングで、いかなる条件のもとで、巧妙に切って見せるかが問題となる。日本は蚊帳の外だとか、置いてきぼりだ、などと自虐的に安倍外交を批判する声が多かったが、全く心配するには及ばない。日本の出番はこれからで、しかも強力なカードが手元にあるのだ。これまでも、朝鮮半島情勢には余り関心がなさそうなトランプ大統領の歓心を買い、なんとか交渉で守るべき立場を理解させ、経済制裁の圧力を弱めることなくCVIDを言い続け(最近は諦め気味だが)、トランプ大統領の中間選挙に向けた成果(と、一応、言っておこう)に繋げたのは、恐らく安倍外交の成果だと思うが、真価が試されるのはこれからだと思う。
今回の取引のポイントは、北朝鮮による非核化のコミットメントと引き換えに、米国が北朝鮮に体制保証のコミットメントを与えたことにあったと、巷間、伝えられる。この体制保証が何を意味するかは、余り報道されることがない。一般には、曖昧に金王朝支配が続くことを意味するようだが、他者がそこまで踏み込むことは現実問題としては無理筋であり、北朝鮮にしても米国のことをそこまで信用しているとは思えない。ある研究者は、北朝鮮の体制に対する批判をさせないことだと解説されていて、なるほどと思った。かつて自由や法治主義や人権などの西洋的な価値観を自ら体現し、伝道師を任じてきた米国からすれば、北朝鮮の体制批判をしないのは大いなる妥協だ(まあ、最近は中国に対する批判も控えているが、これも中国共産党からクギを刺されている、あるいは頼まれている可能性があるし、トランプ大統領はそもそもビジネス・ライクで西洋的価値といったものには興味がなさそうだ)。北朝鮮が国際社会に復帰するにあたって、国内世論(というものがあれば、の話だが)対策の前提である。
首脳同士の会談で、そのことを確認した意義は大きく、一般に期待されたCVIDといった手順にまで踏み込むのは難しかったのかも知れない。こうした基本的な出発点において、交渉者としてのアメリカが、それ以上の褒美を金正恩委員長に差し出さなかったことは重要だと思う。米韓合同軍事演習を中止したじゃないかと反論されそうだが、いつでも再開できることであり、金正恩委員長の次の一手を引き出すためには先ず自分から、というトランプ大統領一流の取引の一手だろう(勿論、背景には、韓国が安全保障のfree-riderだという根強い不満があるのは間違いない)。中でも、経済協力は中国や韓国や日本が実施すること(加えて、米国の民間企業が応じるかも知れない)と突き放したことは、交渉者として実に正しい。何しろ、核やミサイルの開発は国際犯罪と断じて、国連安保理が制裁を重ねて来たものだ。そんな犯罪者に褒美を与えたら、第二、第三の北朝鮮が現れないとも限らない。第二次世界大戦の悲劇を教訓にして、戦後、人類は営々と核不拡散のための努力を続けてきた。NPTは「(核を)持てる者」の地位を固定化して不平等だと批判する人がいるが、核拡散という悪い方向への流れを食い止めるための現実的な政治の知恵だ。戦後体制の大前提でもあり、テロの時代にあって、テロリストの手に核が渡るリスクを思えば、容易に理解されるところだろう。
金正恩委員長が国際社会に復帰して期待するのは、先ずは国連安保理が課して来た経済制裁が解除されることであり、次に関係国からの投資であろう。とりわけ平壌宣言で経済協力を謳った日本に対する期待は大きい。何故か。
戦後の日本が実施してきた健気な経済協力が、世界中の国から歓迎されるのは、現地の資材や人材を活用し、現地経済に貢献するからだと言われる。それは、資材も人材(犯罪者が多いと言われる)も中国から持ち込み、リターンが期待できそうにないことなどお構いなしに多大な投資をし、高利で貸し付け、返済できなければ港などの99年間の租借を得て、新・植民地主義などと批判される中国のありようと比べれば、一目瞭然だ。それはその通りなのだが、大事なことは、日本に政治的野心がないことを、経済協力(と言うより支援)を受け入れる側がしっかり認識していることだろう。こうした事情は、国際情勢に人一倍敏感な金正恩委員長なら理解しているはずだ。中国に頼れば、これまでの長い悲哀の歴史の延長戦上で、属国化のリスクがある。韓国に頼れば、将来の統一に当たって主導権を握られるリスクがある。その点、日本はニュートラルだ。しかもかつての植民地支配(とは私は認めないが)を批判できる被害者としての立場は今となっては却って有利でもある(日本の世論に対しては)。
ここで、もう一度、事実関係を確認しなければならない。日朝関係に横たわる問題は、拉致、核開発、ミサイル開発(長距離と言うより、中・短距離)の三点セットで、中でも拉致問題は主権侵害の国際犯罪行為である。そんな北朝鮮を甘やかせ、つけ上がらせる謂われはない。そこで、トランプ大統領が褒美を与えなかったように、日本も経済協力というカードを、どのようなタイミングで、いかなる条件のもとで、巧妙に切って見せるかが問題となる。日本は蚊帳の外だとか、置いてきぼりだ、などと自虐的に安倍外交を批判する声が多かったが、全く心配するには及ばない。日本の出番はこれからで、しかも強力なカードが手元にあるのだ。これまでも、朝鮮半島情勢には余り関心がなさそうなトランプ大統領の歓心を買い、なんとか交渉で守るべき立場を理解させ、経済制裁の圧力を弱めることなくCVIDを言い続け(最近は諦め気味だが)、トランプ大統領の中間選挙に向けた成果(と、一応、言っておこう)に繋げたのは、恐らく安倍外交の成果だと思うが、真価が試されるのはこれからだと思う。