北朝鮮情勢では誰もが現状維持を望んでいる、という話でしたが、台湾も似たような微妙なバランスの上にあるようです。旧聞に属しますが、台湾総統選で、僅差ではあるものの(実際には予想を上回る80万票差で)、親中派で現職の国民党・馬英九総統が再選を果たし、世界的な「政治の季節」の第一幕は先ずは穏当に明けたと言うべきでしょう。
日本では余り報道されなかったように思いますが、このたびの台湾総統選は中国の伝統的なメディアやソーシャル・メディアでも相当話題をさらったようです。日本やアメリカの言わば他人事と違って、中華民族という同朋としての親しさがあるから、余計に関心を寄せているようです。中には、大陸の民主化は、台湾に共鳴して「台湾化」という形で出てくるかもしれないとまで論評する北京在住ジャーナリストもいましたが、そこまで行くと希望的観測に過ぎないでしょう。それでも16日のNY Times電子版は、冒頭で、勝者は馬英九氏だけではない、微かではあるものの紛れもない民主化要求の声も勝者であって、大陸で確実に勢いを増しつつあると、期待を込めて述べていました。そして、台湾で如何にスムーズに投票が行われたか、敗れた蔡英文候補は実に素直に負けを認め、勝った馬英九氏は雨に濡れながら誰からも傘をさしかけられることなく勝利宣言をした姿に、大陸の政治や政治家とは違うもの(一種の民主的な成熟)を認めて驚かされたという中国人の声を拾っていました。勿論、賞賛の声ばかりではなく、底が浅くて騒々しくて暴力的であることを思い知らされただけという落胆の声も紹介していました。しかし、そこはアメリカの新聞で、最後に、最も巷間を賑わした解説はジョークだったとして、変わりそうにない中国を皮肉っていました。曰く、ある台湾人が「朝、投票に行くと、夜には結果が分かるんだ」と、大陸の知人に自慢すると、大陸の知人は「遅れているな」とやり返します。「僕らは、明日の朝、投票しなければならなかったとしても、今晩の内に結果が分かるんだから。」
馬氏の勝因の一つに、総統選と立法院(国会)選挙を「同日選」にしたことを挙げる声があります。台湾・立法院の選挙では、日本とほぼ同じ小選挙区比例代表並立制が採用されているため、地方組織が重要な役割を担いますが、今回は同日選となったことで、総統選においても、地方組織が盤石な国民党の側に有効に機能したというわけです。とりわけ票の売買が公然の秘密で行われている立法院選挙と総統選が重なったことで、総統選でも票の売買が行われ、地方組織と選挙資金に勝る国民党に有利だったと言われます。また、1月ばという春節前の時期を選んだことも重要なポイントだったと主張する声もあります。台湾北部や周辺地域に出稼ぎに出ている台湾南部の低所得層は、春節前の繁忙期に休みを取れませんが、この南部こそ民進党の票田でした。それに引き換え、日本でも報じられた通り、大陸で経済活動に従事する台湾人(台商)は100万人規模と言われていますが、親中派の現職に投票するためにわざわざ帰国した人の数は実に20万人に達したそうです。これには中国も、帰国便の増発や値下げをするという形で、間接的にではありますが選挙に介入(と言って言い過ぎなら側面支援)しました。それだけではなく、中国に投資している台湾企業のトップが選挙前に公然と馬総統支持を表明したのは、中国による脅し(と言って言い過ぎなら根回し)が広範に行われたからだと言われます。
こうして総統選の投票結果は、不可逆的な結びつきを強める中台経済の現実を肯定する結果となりました。輸出依存度が対GDP比6割を越える台湾経済にとって、輸出の4割を占める中国との関係が最重要であることは、もはや論を俟ちません。実際に、行政院大陸委員会が昨年9月に実施した世論調査でも、「現状維持」を支持する回答が75%に達したそうです。台湾の人々はもはや「独立」でも「統一」でもなく、「現状維持」を望んでいるようです。
そう言えば、前回の総統選(2008年)で、李登輝から陳水扁へと続いた本土化(台湾化)の流れが潰えて、国民党・馬英九氏が当選した時、長らく独立運動に身を投じて来た金美齢さんは台湾を捨て(本人は台湾に捨てられたと言って)、日本に帰化されたものでした。どうやら金美齢さんの予想通りに事は運んでいるのか。いやいや、実は、人々の心まではまだ雪解けしていないところが、なかなか一筋縄では行かないところです。昨年、台湾の教育関係団体が高校生から大学生・専門学校生までを対象に実施した調査では、今なお89%の若者が、最も非友好的な国として嫌ったのは中国だったそうです。中国の覇権主義は、ウィグルやチベットやモンゴルに加えて、朝鮮半島だけでなく、更には台湾をも呑み込むのか。日本の安全保障に係る重大な問題だけに、台湾との関係は大事にしたいものです。
日本では余り報道されなかったように思いますが、このたびの台湾総統選は中国の伝統的なメディアやソーシャル・メディアでも相当話題をさらったようです。日本やアメリカの言わば他人事と違って、中華民族という同朋としての親しさがあるから、余計に関心を寄せているようです。中には、大陸の民主化は、台湾に共鳴して「台湾化」という形で出てくるかもしれないとまで論評する北京在住ジャーナリストもいましたが、そこまで行くと希望的観測に過ぎないでしょう。それでも16日のNY Times電子版は、冒頭で、勝者は馬英九氏だけではない、微かではあるものの紛れもない民主化要求の声も勝者であって、大陸で確実に勢いを増しつつあると、期待を込めて述べていました。そして、台湾で如何にスムーズに投票が行われたか、敗れた蔡英文候補は実に素直に負けを認め、勝った馬英九氏は雨に濡れながら誰からも傘をさしかけられることなく勝利宣言をした姿に、大陸の政治や政治家とは違うもの(一種の民主的な成熟)を認めて驚かされたという中国人の声を拾っていました。勿論、賞賛の声ばかりではなく、底が浅くて騒々しくて暴力的であることを思い知らされただけという落胆の声も紹介していました。しかし、そこはアメリカの新聞で、最後に、最も巷間を賑わした解説はジョークだったとして、変わりそうにない中国を皮肉っていました。曰く、ある台湾人が「朝、投票に行くと、夜には結果が分かるんだ」と、大陸の知人に自慢すると、大陸の知人は「遅れているな」とやり返します。「僕らは、明日の朝、投票しなければならなかったとしても、今晩の内に結果が分かるんだから。」
馬氏の勝因の一つに、総統選と立法院(国会)選挙を「同日選」にしたことを挙げる声があります。台湾・立法院の選挙では、日本とほぼ同じ小選挙区比例代表並立制が採用されているため、地方組織が重要な役割を担いますが、今回は同日選となったことで、総統選においても、地方組織が盤石な国民党の側に有効に機能したというわけです。とりわけ票の売買が公然の秘密で行われている立法院選挙と総統選が重なったことで、総統選でも票の売買が行われ、地方組織と選挙資金に勝る国民党に有利だったと言われます。また、1月ばという春節前の時期を選んだことも重要なポイントだったと主張する声もあります。台湾北部や周辺地域に出稼ぎに出ている台湾南部の低所得層は、春節前の繁忙期に休みを取れませんが、この南部こそ民進党の票田でした。それに引き換え、日本でも報じられた通り、大陸で経済活動に従事する台湾人(台商)は100万人規模と言われていますが、親中派の現職に投票するためにわざわざ帰国した人の数は実に20万人に達したそうです。これには中国も、帰国便の増発や値下げをするという形で、間接的にではありますが選挙に介入(と言って言い過ぎなら側面支援)しました。それだけではなく、中国に投資している台湾企業のトップが選挙前に公然と馬総統支持を表明したのは、中国による脅し(と言って言い過ぎなら根回し)が広範に行われたからだと言われます。
こうして総統選の投票結果は、不可逆的な結びつきを強める中台経済の現実を肯定する結果となりました。輸出依存度が対GDP比6割を越える台湾経済にとって、輸出の4割を占める中国との関係が最重要であることは、もはや論を俟ちません。実際に、行政院大陸委員会が昨年9月に実施した世論調査でも、「現状維持」を支持する回答が75%に達したそうです。台湾の人々はもはや「独立」でも「統一」でもなく、「現状維持」を望んでいるようです。
そう言えば、前回の総統選(2008年)で、李登輝から陳水扁へと続いた本土化(台湾化)の流れが潰えて、国民党・馬英九氏が当選した時、長らく独立運動に身を投じて来た金美齢さんは台湾を捨て(本人は台湾に捨てられたと言って)、日本に帰化されたものでした。どうやら金美齢さんの予想通りに事は運んでいるのか。いやいや、実は、人々の心まではまだ雪解けしていないところが、なかなか一筋縄では行かないところです。昨年、台湾の教育関係団体が高校生から大学生・専門学校生までを対象に実施した調査では、今なお89%の若者が、最も非友好的な国として嫌ったのは中国だったそうです。中国の覇権主義は、ウィグルやチベットやモンゴルに加えて、朝鮮半島だけでなく、更には台湾をも呑み込むのか。日本の安全保障に係る重大な問題だけに、台湾との関係は大事にしたいものです。