今年は読売巨人軍創設90周年の節目で、3日の「長嶋茂雄DAY」に続き、今日のソフトバンクとの交流戦は「王貞治DAY」と銘打ってセレモニーが行われた。
かつて全国的にテレビ放映された巨人は、子供たちに全国的な人気があり、「巨人・大鵬・卵焼き」という御三家の一角を占めた。私がその言葉を知ったのは後年のことだが、大鵬が32度目の優勝を飾ったときの新聞の切り抜きを大事にとっていたし、大阪に住んでいたが巨人ファンだった。と言うと不思議がられるが、巨人の人気は全国区だったのだ。小学生の頃、クラスメイトと草野球チームを作って、週休一日の当時の大事な日曜日も毎週、練習に明け暮れて、リトルリーグ相手に連戦連勝を誇ったものだが、メンバーは巨人ファンと阪神ファンに二分されていた。当時の大阪はそんな感じだった。そして毎朝、卵焼きを食べさせられて、食傷気味だった。
長嶋さんの引退試合はリアルタイムで見たし、その少し前に、阪神・村山実さんの引退試合を甲子園まで見に行って、マイクロバスで引き揚げるONを間近に見て感動したのが忘れられないが、年齢的には長嶋さんより王さんに馴染みがあった。
その巨人の第28代4番を務めた王さんが、第89代4番を務める岡本和真について、「素晴らしいですよ、ジャイアンツの4番で6年連続30本以上打つっていうのは。今の野球は僕らの時のものより複雑になっているし、難しいですよ、この時代に打つのは」「ホームランバッターとしての資質というかそういうのもあるし、気持ちも前に向かっている。あとは結果をもっと追い求めてほしいですね。『ホームラン王を絶対取るんだ』って気持ちで、『負けないんだ』っていう気持ちでね。そうすると、自分を追い込んでいってもっと練習もやるし、もっと緻密に考えられるようになる」などと語ったそうだ。確かに、ムーミンのようにおっとり(ぼんやり?)しているように見えて、ガツガツしない大物振りは大好きだが、記録への秘めたる執念は足りないように見える。
先日、江川さんの完投型ピッチングについてブログに書いたように、5回か6回投げれば先発の役目を果たしたことになる分業制の今と当時とは単純に比べられない。それでも王さんは同時代で傑出していて、4年目から19年連続で30本以上を放って、圧倒的だった。国内だけでなく日米野球でも、1970年のジャイアンツ戦では1試合2ホーマーを放った後は敬遠されたし、74年に来日したメッツにはハンク・アーロンがいて、王さんとの本塁打競争を10-9で制した後に、「サダハル・オーはメジャーでも十分通用する」と絶賛したものだった。まだ貧しくて娯楽が乏しかったあの当時、などステレオタイプな言い草だが、圧倒的なヒーローがいて、手が届かないにしても、未来への限りない夢があった。
翻って、現在の4番・岡本は、その前後を打つ3・5番が丸や坂本ではないことが多く、軽量級のため際どく攻められやすいのは気の毒だし、そうなると精神的な負担も大きいだろうし、実際に見えないところでは苦悩を爆発させているとも聞く。期待が大きいだけに物足りない。あの頃は、長嶋さんだけでなく、高田さんや土井さんや黒江さんや柴田さんもいて、堀内さんの200勝に典型的に見られるように、メンバーが揃った強いチームでは記録が出やすいのは事実だ。今やピッチャーはいつも全力で立ち向かって来る。それでも未来を夢見る子供たちがいて、その一球一球の勝負を息を凝らして見守っているのだ。その重責を、岡本には軽々と果たして欲しいものだと思う。