風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

半端な韓国ブランド

2017-06-29 01:11:50 | 時事放談
 韓国文化観光研究院が昨年韓国を訪れた外国人1万2千人を対象にアンケートを行った結果によると、一人当たりの旅行支出は平均1625.3ドル(約18万円)、中東からの旅行客が最も多くて2593.8ドル(約29万円)、2位・中国(2057ドル)、そしてロシア(1783ドル)、シンガポール(1573ドル)、香港(1519ドル)などが上位に入ったらしい。他方、最も少なかったのは日本で、平均の半分のレベルの813.9ドルは、調査対象国で唯一1000ドルを下回ったものだそうだ。早速、聯合ニュース(日本語電子版)は、見出しこそ「財布のひもが最も固いのは日本人」と抑制気味だが、本文では「日本人客が韓国で最も多く購入した品目は、味付け海苔など食料品(63.3%、複数回答)」で「安物買い」と指摘し、「中東からの旅行客が最も太っ腹だった半面、日本人が最も“ケチ”だった」と批判めいた論調だったらしい。どうも韓国人は自らのブランド力を誤解しているし、相変わらず日本人の何たるかを理解していないようだ。因みに、日本に続く“ケチ”は、カナダ(1020.6ドル)、マレーシア(1032.6ドル)、フランス(1054.9ドル)などで、いずれも1000ドルは上回っているが、わざわざ遠くから来てこの程度の出費とは、逆に恐れ入る・・・などと私なんぞは思ってしまう。
 私たち日本人は、韓国に旅行するのが「安くつくもの」と心得ている。場合によっては(と言うより殆どの場合)国内旅行より安いとまで言われる。何しろ一番の隣国であって、観光地は圧倒的に少ないし、食事は日本よりも美味くないし、ろくな土産物もなくて(因みに韓国での外国人の旅行支出の内、免税店での支出が実に3割以上、つまり韓国に旅行しても韓国のものを買っていない・・・)、金を使うわけがない。日本人が買い物をするならシンガポールあたりだろうし、さらに豪華な旅を考えるならヨーロッパというのが日本人の相場観だ。というわけで上記アンケートは納得する(が記事の方は無知も甚だしいのか、しらばっくれているのか)。
 韓国ブランドということでは、日本では、現代自動車にしてもサムスンのスマホにしても、殆ど売れていない・・・と言うより殆ど関心を持たれていないのが実態だと思うが、マレーシアに駐在していた頃、周囲の人に聞いたら、HyundaiやKIAの自動車は、日本車より品質は劣るが(それでもマレーシア国産車よりはマシ)、価格は安い(それでもマレーシア国産車よりは割高)という理由で、売上を伸ばしているらしいこと、つまり韓国ブランドがその程度の位置づけにあることが看て取れた。今も状況は変わらないようだ。
 ところで、昨年7月に地上配備型迎撃システムTHAAD(高高度防衛ミサイル)の在韓米軍配備が決まってから、中国政府は反発して「禁韓令」を連発し、中国のドラマや映画、バラエティー、広告などから韓流スターが排除される動きが拡大しただけでなく、対象は化粧品や旅行にまで及び、韓国で大騒ぎとなったことが報じられた。報復措置を本格させた3月以降は、中国を訪問した韓国人旅行客も激減したと言われる。姫田小夏さんによると、その3月に、消防法などへの違反を理由に中国政府から営業停止の強制処分を下されたロッテマートでは、処分は「1カ月の営業停止」のはずだったが、中国紙「環球網」によると5月末時点で74店舗が休業状態にあり、13店舗が自主休業、12店舗が開店休業状態にあるという。とんだ災難である。中国は、台湾からパナマを奪って国交回復して、台湾に嫌がらせしたように、いけすかないったらありゃしない。
 また、現代自動車とその傘下の起亜自動車にとって、中国市場は販売台数の20~25%を占めるお得意様だったが、お陰で現代自動車の中国での販売台数は、3月に前年同月比44・3%減、4月も同63・5%減と落ち込み、起亜自動車も、3月に同68%減、4月も同68%減と悲惨な状況である。しかし現代自動車の凋落傾向は実は中国だけではなく、米国で単価はトヨタ車のほぼ半分、ディーラーへのインセンティブはトヨタとほぼ同額という無理を重ねても、今年5月の販売台数は前年同月比15・4%の減少となり、昨年5月もそのまた前年同月比10%超の減少だったという話もあるから、ちょっと見過ごせない。
 かつて韓国へは、私の会社ですらも技術供与したことがあったし、その後、アジア金融危機に見舞われて、韓国では一業種一社に集約するという俄かに信じられないほどの大胆な業界再編を断行し、日本を超える輸出大国へと成長したものだったが、日本品質に及ばないまま、中国その他の新興国の追い上げを受けて、狭間にあって苦戦しているようだ。失業率をはじめ経済状況は悪化する一方で、追い討ちをかけるように中国のイジメに遭い、朴前大統領弾劾や日本への従軍慰安婦問題を巡る面当ては、ただでさえ「ハン(恨)」の国に、恨み辛みが蔓延しているといったあたりがどうやら実相なのだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

100M10秒の壁

2017-06-26 23:35:26 | スポーツ・芸能好き
 藤井聡太四段が、竜王戦決勝トーナメント1回戦で増田康宏四段に勝ち、公式戦で29連勝の新記録を樹立したというニュースが飛び込んで来た。快進撃はいつまで続くのか・・・しかし今日のブログは、この週末に行われた陸上の世界選手権代表選考会を兼ねた日本選手権で、サニブラウンが100Mに続いて200Mも制し、2003年の末続慎吾以来の2冠を成し遂げた快挙についてである。
 快挙と言いつつ、日本人にとって100M10秒の壁は厚い。今回の決勝では10秒0x台が5人もいて期待させたが、雨が降る悪コンディションの中、優勝したサニブラウンは自己記録を塗り替えるも10秒05、桐生祥秀(自己ベスト10秒01)は4位、山県亮太(自己ベスト10秒03)に至っては6位に終わった。伊東浩司が10秒00を出したのは1998年12月のことで、あれから18年が過ぎ、いまなお日本人は(追い風参考を除き)この記録に並ぶことすら出来ていない。
 私は高校時代に陸上部で中・長距離を専門にやっていたので、ついマラソンのデレク・クレイトンの世界最高記録を想いだす。1969年に出した2時間8分33秒6は、実にその後12年間も破られなかった。1981年に同じ豪州のロバート・ド・キャステラが塗り替えたのも僅か15秒だけだった。しかし一度、その記録が破られるや、その後の7年間で3度更新され、男子マラソンは2時間6分台に突入して驚いたものだった。それが今や、ケニアのデニス・キメットが2014年のベルリンで出した2時間2分57秒が歴代最高で、トップ10までは全て2008年以降の記録で、2時間4分15秒以内である。マラソン・シューズの技術革新が飛躍的に進んだせいもあろうし、その間、ケニアやエチオピアの選手が陸上に専念できる環境が整えられてきたせいもあろうが、閾値を超えたときの(もっと言うと、そのものではない、更に先を見据えた)記録更新の勢いは凄まじい。
 他方、日本人初の100M9秒台に最も近いと言われてきた桐生祥秀が10秒01を出したのは4年前、洛南高校3年生のときだった。当時の鮮烈なデビューをつい昨日のことのように思い出すが、その後4年間、足踏みしているのは、もしかしたら10秒の壁に拘っているせいではないかという気がする。その点、サニブラウンの強さは、その若さ(1999年3月生まれの18歳)やガーナ人のお父ちゃんの血もさることながら、目標を9秒58と言ってのける強気な姿勢にあるように思う。10秒の壁は、その先を見据える彼にあっては、あっさり破られるかも知れない。
 世界選手権の100M代表に選ばれたケンブリッジ飛鳥にはジャマイカ人のお父ちゃんの血が流れている。同じく代表に選ばれた飯塚翔太も、ともにリオ五輪の4x100Mリレー・メンバーだった。また桐生より一学年下の多田修平という伏兵が現れて、代表の座を勝ち取ってしまった。彼は、6月10日に行われた日本学生陸上競技個人選手権大会100m準決勝で、追い風4.5mながら9秒94と、日本国内の競技会で日本人選手として初の9秒台を出して話題になったばかりだ(決勝では自己ベスト10秒08)。桐生もうかうかしていられない。
 男子の陰に隠れてしまっているが、女子でも市川華菜が100Mと200Mの二冠を達成した。絶対女王・福島千里の100M8連覇と200M7連覇をそれぞれ阻止する快挙である。福島千里は長らく女子短距離界を引っ張って来たが、明日が29歳の誕生日で、彼女の時代もそろそろ終わるのだろうか。
 月並みだが実力の世界は厳しいものだ。そう思うにつけ、日の出の勢いとはいえ藤井聡太四段の29連勝の凄さは想像を超えている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小林麻央さん

2017-06-24 01:31:00 | 日々の生活
 今更、芸能界や女子アナのことを語る年齢ではないし、個人的にファンというわけでもない。しかしガンであることを公表されたときには驚かされるとともに、それ以降はニュースを見るたびに頑張っているなあくらいには思って来た。その程度のことなのに、今日はなんだかやり切れない。34歳という若さのせいだろうか。明るく健康的な笑顔が心に焼きついて(彼女のブログは見ていないから余計に)とても信じられないせいだろうか。
 海外メディアからも注目され、英BBCが選ぶ世界の人々に感動や影響を与えた「今年の100人の女性」の一人に日本人として初めて選ばれた。そのBBCのウェブサイトへの寄稿で「私が今死んだら、人はどう思うでしょうか。『まだ34歳の若さで、可哀想に』でしょうか。私は、そんなふうには思われたくありません」などと気丈に綴っていたらしいが、可哀想だと思わずにはいられない。不憫で仕方がない。神様はなんと理不尽なんだろうと思わずにはいられない。
 旦那の市川海老蔵さんのことも、歌舞伎のことも、とりたてて思い入れはないのだが、「『愛してる』と言って…そのまま旅立ちました」という彼の言葉には思わず泣けてしまった。妻をもつ夫として、今はデカくなったが小さい子供をもっていた親として、これほど神妙な気持ちになったのは久しぶりだ。
 鼻水をすすりながら、(マラソンを始めてからは付き合い以外に酒を飲む機会がめっきり減ったのに)珍しく酒をちびちびやりながら、何故、こんな気持ちになるのか、自分でも驚きながら、このブログを書いている。私の母もガンだったが、ガン細胞に全てのエネルギーを吸い取られて、最後はガリガリに痩せた手を握りしめていたら、一瞬、握り返したような気がして、さらにニコッと笑ったような気がして、何も言わないまま、静かに息を引き取った、あの瞬間が蘇った。自分だって、いつどうなるか分からないなどと粋がっているが、生への執着は隠しようがない。ネットの記事に見る気丈な彼女のように、私も気丈に最期を過ごすことができるだろうか。あらためて生きることの愛しさを思い知った出来事だった。
 彼女のご冥福をお祈りして、合掌。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

驚異の28連勝

2017-06-22 00:48:16 | 日々の生活
 それにしてもスゴイ中学生がいたものである。言わずもがな、最年少プロ棋士・藤井聡太四段のことで、昨年12月のデビュー以来、負け知らずの28連勝を飾り、神谷広志八段(現在56歳)がかれこれ30年前の1986~87年度につくった歴代1位の連勝記録に並び、将棋の世界では珍しく号外が出た。あの羽生善治三冠をして「(神谷広志八段の偉大な記録に並ぶとは)驚嘆の一語に尽きる」とまで言わしめた。そんな周囲のフィーバー振りは歯牙にもかけず、実に淡々と、という印象で、勝負に徹している。
 最近、大人顔負けの中学生の活躍が目覚ましい。サッカーの久保建英くんは2001年6月4日生まれの16歳で、昨年、中学3年生ながらFC東京U-18に飛び級で昇格し、日本クラブユースサッカー選手権では飛び級で出場して、大会史上初となる中学生の得点王に輝いた(その後、U-19に史上最年少で選出されてアルゼンチン代表との親善試合でU-19代表デビューを果たし、今年ドイツ遠征のU-20日本代表メンバーに選出されて参加、2017 FIFA U-20ワールドカップに挑むU-20日本代表にも飛び級で選出されて初戦途中出場した)。男子卓球の張本智和くんは2003年6月27日生まれで間もなく14歳の中学2年生ながら、この前の世界卓球選手権では、史上最年少の13歳6ヶ月で日本代表に選出され、2回戦で水谷隼さんを破り、ベスト8入りは13歳では史上初めてだった。女子卓球の伊藤美誠ちゃん(2000年10月21日生まれ)や平野美宇ちゃん(2000年4月14日生まれ)に至っては上の二人よりもトウが立っているなどと言っては怒られちゃうが、まだ花も恥じらう17歳(なんて形容は死語か)、その活躍については言うまでもない。
 さて、その藤井聡太四段は、2002年7月19日生まれで、まだ14歳である。9・11同時多発テロの時に何をしていたか・・・などと話題にすることがたまにあるが、その時、彼はまだ生まれていない。ヘタすりゃ私の孫と言ってもおかしくない年齢である。だいたい中学三年生と言えば世間知らずの洟垂れ小僧で、私なんぞは星新一やシャーロック・ホームズに夢中になり、(ちょっと生意気ながらも)狐狸庵先生(遠藤周作さん)のエッセイに興じて、「ぐうたらに生きるには・・・」との命題を掲げて日夜、必死に模索していた。呑気なものである。
 将棋について、好奇心だけは旺盛な小学生の頃、安売りの駒を買って来て遊んでいたが、体系的な勉強まで進まなかったので、もとより何も言えない。しかし彼のインタビューの受け応えは落ち着いていて、とても14歳とは思えない、老成した雰囲気すら漂わせている。「28連勝のタイ記録に並んだ率直な気持ち」を問われて、「ここまで連勝できるとは思わなかった。運がよかった」と言い、「28局振り返って印象に残る対局」を問われて、「途中で苦しんだのは数多かった。ここまで連勝できたのは本当に幸運だった」と答える謙虚さ。「神谷広志八段の記録に並んで、次に向けて」と問われて、「次局も記録は意識せず、普段通りの心境で臨めたら」と答え、「連勝する中で日本中が大騒ぎです」と問われて、「注目して頂けるというのは本当に有難い。ただ、今自分がすべきことはもっと将棋が強くなること。一喜一憂せず日々がんばっていきたい」と答える冷静さ。「棋士として中学3年生で先はまだ長い。今後はどんな棋士になりたい?」と問われて、「本当に今回幸運にも28連勝という結果を残すことができた。まだまだ実力が足りないと思っているので、そういったところを直してもっと強くなれるよう精進したいです」と答え、「28連勝の先、あこがれのタイトルへの思い」を問われて、「ただタイトル獲得には更に棋力をつけることが必要なことには変わりないと思うので、まずは実力をつけるべく頑張りたいと思います」と答える飽くなき向上心。更に、「デビュー戦で対局した加藤一二三九段が昨日引退した」と水を向けられると、「僕自身、大きなものを学ばせてもらった。迫力のある対局姿がみれないと思うと一抹の寂しさを感じます」と答える・・・「一抹の寂しさ」なんて中学三年生が使う言葉だろうか!?
 前回のブログで取り上げた松山英樹も30年ぶりに記録を塗り替えて、30年かそれ以上に一人の逸材だろうと思うが、天才は確かにいて、藤井聡太四段も、30年と言わず、それこそ底知れぬポテンシャルを持つ。私たち凡人は同時代に生まれ合わせて、そんな天才たちの生態に興味をもつ。下世話ながらも、なんと愉しいことだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

松山英樹の快挙

2017-06-20 01:20:16 | スポーツ・芸能好き
 男子ゴルフの四大メジャー第二戦・全米オープン最終日、6打差の14位からスタートした松山英樹は8バーディー2ボギーの66と猛チャージをかけ、通算12アンダーの276で2位に入った。1980年の同選手権での青木功さんに並ぶメジャーでの日本勢最高順位だそうである。
 そして何よりも試合後に発表された最新の世界ランキングで自己最高となる2位に浮上し、中嶋常幸さんが1987年に記録した日本人最高位(4位)を30年振りに更新した。
 海外を転戦しているせいかお腹の周りも貫録が出て来たのは気になるが、如何にも勝負師の、しかし爽やかな良い顔になって来たと思う。私がゴルフを始めた学生時代以来、絶対的な存在として君臨してきた青木さんや中島さんに並びあるいは凌駕する若者が出て来たのは一大事であり、私自身ここ数年、ゴルフを断っているだけに、余計にそそられるものがある(笑) それにしても最近はテニスといい卓球といい、球を操る競技で日本人選手が世界の檜舞台で活躍する姿が目立つようになって来たのは喜ばしい限りだ。
 残りのメジャーである、7月20日から始まる全英オープン選手権@ロイヤルバークデールGC(英サウスポート)と、8月10日から始まる全米プロ選手権@クウェイルホロー・クラブ(米ノースカロライナ州シャーロット)が俄然、楽しみになって来た。日本人のメジャー制覇という夢がいよいよ叶うだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

もり蕎麦、かけ蕎麦

2017-06-18 13:34:09 | 時事放談
 最近はすっかりテレビを見なくなったので、ニュースのインパクトは専ら新聞紙の占有スペースや見出しの大小に頼るばかりなのだが(しかし紙は日経、補完する電子版は産経なので、かなり偏っているが 苦笑)、国会では「森」友学園に続いて「加計」学園の獣医学部新設問題でひとしきり盛りあがり、その通常国会が予定通りに閉会して、野党の憤懣やるかたないようだ。
 「もり」「かけ」問題が、所謂「政治とカネ」の問題ではないとすれば、安倍首相の知人だからという理由で便宜が図られたかどうかという(あるいは便宜を図られるために政治に近づいたのかどうかよく分からないが)脇の甘さは措いておいて、文科省の前・事務次官なる人物が今頃になって登場し、内閣府を通した政治の圧力、所謂「総理のご意向」によって、(公正・公平であるべき)行政のあり方が大きく捻じ曲げられたと告発した点が、「かけ」が「もり」とも違うところのようだ。「面従腹背」を座右の銘と公言するような人物を、私はとても信用できないが、それも措いておく。
 お陰で、受験のとき以来さほど馴染みがない単語の一つ「忖度」が俄かに脚光を浴びて、私のオフィスでも打合せの時にことさらに「忖度すると…」などと強調しては遊んでいるが、日本の社会では(日本の社会と言わず)ごく一般的な行動様式であろう。もっとも組織と言えども必ずしも一枚岩ではないのもまた一般的で、とりわけ日本最高峰の大学をご卒業あそばされたプライドの高い方々が(その分、国士としてのプライドも高いと信じたいが)牛耳る縦割り行政においては、むしろ「(総理を含む)大臣のご意向」のみならず「事務次官の~」といったハッタリが常態だと聞く。裏を返せば、虎の威を借りなければ動かないわけで、既得権益を守る勢力が根強いことは、安倍政権が4年以上経過しても成長戦略において目ぼしい成果を挙げていないことを思えば容易に想像できる。今回のケースで言えば、昭和41年の北里大学以降、50年にわたり、何度陳情を受けても、日本の大学に獣医学部が新設されて来なかったのは、質の確保も言われる通り必要だが、平成22年に宮崎県で発生した口蹄疫に対し、愛媛県の港に検疫態勢を取って四国への上陸を阻止したときほど獣医師が欲しかったことはないと回想する前・愛媛県知事の話を聞くにつけ、とても尋常とは思えない。それを、今回に限って、政治が行政を歪めたなどとは片腹痛いと、私なんぞはつい毒づきたくなる。おまけに国家戦略特区に絡む話だから、許認可権限をもつ文科省の思い通りに行かなかったところもあったのかも知れず、単なる恨み辛みに過ぎないのではないかと勘繰ってしまう。
 そもそも政治主導は1990年代以降、高度成長や冷戦構造が終焉しグローバル競争に晒されても一向に改革が進まず閉塞感に見舞われた政治・経済情勢の中で取り組まれてきた政治・行政改革の一つの大きな成果であり、2009年に政権交代を果たした民主党でも声高に叫ばれていたのが思い出される。
 メディア同士の立ち位置の違いから来る怨嗟の罵り会いに口を挟むつもりはないが、昨日の産経抄(電子版)が、かつて(平成22年9月)、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりする事件があったときの他メディアの反応を引用していて興味深い。当時の民主党の菅直人内閣は海保が即日公開する予定だった衝突映像を隠蔽したため、海上保安官だった一色正春氏が義憤にかられ、映像をインターネットに流したとき、朝日社説は「政府や国会の意思に反することであり、許されない」と言い、毎日社説は「国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた『倒閣運動』でもある」と決め付けたという。それに引き換え、「菅内閣の『ご意向』に反する公務員はけしからんと説いた新聞が、今では文書を漏らした職員を英雄扱いして持ち上げている」(6月17日 産経電子版)と皮肉っている。
 「反安倍が社是」「安倍首相の葬儀はウチで出す」などと豪語する朝日新聞などのご都合主義に、今さら目くじらを立てるのも大人げないとは思うが、そうした「曇りガラス」によって、この問題の本質になかなか迫れないもどかしさと違和感は、やはり一言、言っておきたい。ついでながら、元官僚の高橋洋一氏によると、獣医師側の既得権をもつ麻生太郎氏らの政治勢力と、それを打ち破ろうとする安倍首相らの政治闘争の側面もあるというからややこしい(更に「反安倍」という意味では、2015年6月の閣議決定の際の担当大臣でもある石破茂氏も絡んでいるらしい)。野党はマスコミに乗じて国会で追及したわけだが、その野党にこの話を持ち込んだのは、高橋氏によると、自民党内の反安倍勢力だという。そのことの真偽のほどはよく分からないが、こうした政党内や政党間の足の引っ張り合いは世の常である程度は仕方ないにしても、いつも政局化する国会論議に対する不満は募る。いい加減、与野党の不毛な水掛け論はやめて、英国のように行政の逸脱を監視する第三者機関のような仕組みでも議論すればよいと思うのだが、そうなると野党もまた当事者となりかねないことから躊躇するのか、所詮は同じ穴のムジナなのかと、これまたゲスの勘繰りをしてしまう。
 「安倍一強」なる言葉は野党やメディアがつけた「レッテル」の一つで、少しでも驕っているように見えれば攻撃されて、安倍首相としても甚だ迷惑なのだろうが、責任の多くは、「安倍一強」を許す野党のだらしなさにあると私は思うし、世論調査もそれを裏付けている。政治家の皆様には、「安倍一強」の世論調査に一喜一憂することなく、従い足の引っ張り合いもたまにはいいが、いつもいがみ合うのではなく、また安倍外交の成果に、あるいは表面的な失業率低下や求人倍率や株価の上昇でアベノミクス「がんばってます」感が醸し出されていることに、満足することなく、本丸である規制改革で本質的な成果を出して、日本の力強い成長に道筋をつけて欲しいものである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

再びフランスでは

2017-06-12 23:11:38 | 時事放談
 昨日、フランス国民議会(下院、定数577)選挙の第一回投票が行われ、マクロン大統領の新党「共和国前進」陣営が最終的に全体の7割以上に相当する415~455議席を獲得して大勝する勢いだと伝えられている。これもまた「想定外」だと言っては失礼かと思っていたら、フランスの主要メディアも「政治的魔術」「百年に一度の政界地殻変動」と報じたというから、まったく近頃の選挙は予測不可能な状況が続くものだ。
 G7サミットで無難にデビューし、閣僚人事でも「30代を3人起用する一方で、社会党の重鎮ルドリアン外相、中道政党の党首のバイル法相など重要閣僚に手練れを配置。既成政治を『壊す』だけではない姿勢は、有権者を安心」(産経)させるなど手堅い手腕を発揮し、現在、支持率60%を誇るマクロン大統領は、なかなかシタタカに選挙戦術を練ったようだ。再び産経(電子版)から抜粋すると、「共和国前進」の公認候補は、「一般公募で1万9千人から選抜」され、「元パイロット、女性闘牛士、数学者など顔ぶれは様々」で、「平均年齢は46歳」(対する現職平均60歳)、「女性が半数を占め」、「議員経験のない市民が半数を占める」という新鮮さが、既成政党に不満を持つ有権者に受けたというが、実際、フランスでも日本と同様、「党公認は現職優先。若手は地方議員や秘書として出馬の機会を待つしかない」ところ、マクロン大統領は「若手に救いの手を差し伸べ」、他方、「大政党で出世の順番待ちをしていた若手が新党結成に飛びついた」結果、ルモンド紙によると、「政治経験が皆無なのは候補者の3割程度」だったという。天晴れ、と思う。
 G7と言えば、トランプ大統領の対応がよほど腹に据えかねたのだろう、メルケル首相は28日、「欧州が他国を完全に頼れる時代は幾分過ぎた。欧州人は運命を自身の手に委ねなければならない」と発言し、「他国=アメリカ」を意味するのは明らかだったことから、とりわけアメリカのメディアや外交専門家の間で物議を醸した。そもそもトランプ大統領が25日に、欧州連合のトゥスク大統領とユンケル欧州委員長とブリュッセルで会談した際、貿易問題に関連して「ドイツは悪い、とても悪い」と批判したことへの意趣返しの側面もあり(因みに、大人げないトランプ大統領は30日、ツイッターで「アメリカにとり非常に悪い」などと再びドイツの対米黒字などを批判し、泥仕合を演じた)、また、9月のドイツ連邦議会(下院)選挙を見据えた戦術の一環との見方もあった。こうして見ると、メルケル首相の先の発言は、フランス国民へのメッセージにもなり、マクロン大統領への強烈な援護射撃にもなったことは間違いない。
 それにしてもトランプ大統領は単にお騒がせなだけではなく、入社以来5年の駐在を含めて10年以上も米国ビジネスに携わって偉大なるアメリカと仰ぎ見て来た私にとって、僭越ながら、不見識を撒き散らす大統領を選んだアメリカ国民になり代わり、私自身が恥ずかしく思うほどだ。この混乱は、一体、いつまで続くのか(溜息)と、フランス国民もきっと他人事ながらも呆れているに違いない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北朝鮮という難題(下)

2017-06-08 00:00:21 | 時事放談
 巨人が球団ワースト記録の12連敗を喫したとか、一橋大学の学園祭で予定されていた百田尚樹氏の講演会が左翼と思しき団体の圧力で中止になったとか、他にもロンドン橋テロやカタール断交など、気になることはいろいろあるが、とりあえず今日まで北朝鮮ネタを続ける。
 北朝鮮を牽制するために日本海に展開していた原子力空母カール・ビンソンとロナルド・レーガンの二隻は、三日間の共同訓練を終えて日本海を離れてしまったらしい。ロナルド・レーガンは横須賀が母港なので、引き続き沖縄東方海域で海自と訓練を続けるというが、カール・ビンソンは米国(母港サンディエゴ)に帰還したという。なんと拍子抜けな・・・と思うのは私だけだろうか。
 3日の日経電子版は、5月にノルウェーのオスロで北朝鮮高官と非公式に接触した米外交専門家スザンヌ・ディマジオ氏(米シンクタンク「ニューアメリカ」で北朝鮮やイランを担当)の話として、北朝鮮は対話を模索していると報じた。同氏はワシントンで2日に開かれた討論会で、北朝鮮に対し制裁や軍事力の誇示など「圧力一辺倒のアプローチは危険」と指摘し、北朝鮮高官が「正しい状況下ならば米国との対話に応じる」と語ったと紹介し、「対話による解決を探る積極外交が必要だ」と強調したという。まあ正論だろう。
 今日の産経電子版は、5月31日~6月1日にスウェーデンのストックホルムで開かれた国際会議で、北朝鮮の政府当局者が米国の朝鮮半島情勢の専門家に「非核化を前提とした対話には応じられない」との考えを伝えていたことを報じている。会議に出席したテリー博士(米シンクタンク「バウアーグループ・アジア」の専門家)によると、北朝鮮当局者は、平和条約の締結や和平の枠組みに関する対話であれば応じる姿勢を示したものの、「米国が軍事行動を取れば、北朝鮮は戦争をする用意がある」と米側を牽制し「核放棄は交渉のテーブルに載っていない」と強調したという。
 さすがの北朝鮮も、まさか米国を相手に戦争するほど愚かではないから、何等かの対話を望んでいることは間違いなく、同時に、飽くまで米国に届く核弾頭と弾道ミサイルの開発にしがみつき、これを交渉カードとしないことには、まともに米国に相手にされないであろうことも承知している、ということだろう。
 今朝の日経は、「中ロ、北朝鮮支援を継続」と題して、中国税関総署の統計をもとに経済調査会社CEICが纏めたデータによると、中国が北朝鮮から4月に輸入した鉄鉱石は前年同月比4.4倍、1月以降4ヶ月連続で4倍を超えていること、しかし鉄鉱石の輸入額は石炭の1割前後と規模が小さいので、4月の全体の輸入額は前年同月比41%減となり、中国政府は「国連制裁決議を全面的に履行しいる」と主張したと報じた。相変わらずの言行(一部)不一致で、胸を張って言うようなことではない。習近平国家主席がトランプ大統領から半ば脅しを受けて協力要請されたのは4月6日の夜のことで、それすらも反故にしていることになる。他方、ロシア政府の公式統計によると、今年1~3月の露朝間の貿易額は前年同期比85%増、エネルギー関連のロシアからの輸出は133%増となり、何のことはない、中国が北朝鮮からの石炭輸入を止めた間隙を縫ってロシアがせっせと北朝鮮との貿易を拡大している構図であることも報じられた。プーチン大統領はなかなか大した男だと思う。2日にサンクトペテルブルクで開催された経済フォーラムで「小国は独立や安全、主権を守るためには核兵器保有以外に方法がないと思っている」と述べて北朝鮮を擁護したというから、見事に言行一致、しかしNPT等の国際合意は完全無視で、軍事大国(経済小国)ロシアの面目躍如と言えようか。どうも中国は(金持ちだからというわけではないが)小賢しくて信用ならないが、プーチンは(貧乏のくせして大国ぶって)憎たらしいが憎み切れない孤高なところがある。
 こうして北朝鮮情勢は膠着し、先行き不透明な状況は変わらない。となれば、いざというときには自衛するしかない。というわけで最後に(やや自棄気味に)ある雑誌に掲載されていたあるお医者さんの「北朝鮮ミサイル襲来、生きるためにすべきこと」と題するコラムから引用する。

(前略)
 日本を射程に捉えるスカッドやノドンの平均誤差半径(CEP:Circular Error Probability、円内に着弾する確率が50%になる大きさの円の半径)は、ジェーン年鑑によれば1~3キロメートルで、防衛白書では特定の施設をピンポイントで狙う能力はないと評価しているらしい(但しその精度は改善している可能性ある)。1~3キロと言えば地下鉄の駅にして、1つから2つ分ぐらいはずれる、ということになる(防衛関係者)。
(中略)
 まず知っておくべきは「ミサイルそのものでダメージを負うのではなく、ミサイルに搭載された爆弾が爆発することでダメージを負う」(防衛の専門家)ということだとか。爆発物による人体へのダメージのことを「爆傷」といい、これは一次~四次に分類され、
 一次爆傷:爆発した瞬間の衝撃波により鼓膜や肺、眼球が破れる
 二次爆傷:爆発物の破片やガラスなどが銃弾より速いスピードで飛んできて致命傷になることも
 三次爆傷:爆風で吹っ飛ばされた後に頭を打つなどして負うダメージ
 四次爆傷:その他(やけどや落ちてきた瓦礫のダメージ、煙や粉塵を吸い込むことで起きるダメージ、有毒ガスなど)
 (「MCLS-CBRNEテキスト」一般社団法人日本集団災害医学会監修 ぱーそん書房を基に著者が編集)
 この内、一次~三次爆傷を先ずは避けるために、建物に入ったり地下に入ったりすることが良さそうで、ガラスの近くは危険、しかし四次爆傷で、爆発により自分のいる建物が崩壊などしたら逃げようがないし、有毒ガスなども避けられないかもしれない。但し、「北朝鮮がサリンなどの化学物質をミサイルの弾頭に安定的に搭載する能力を保持していることは疑問」(防衛関係者)らしい。
(中略)
 もし近くに着弾して怪我を負っても、諦めずに119番通報せよと言う。ミサイル攻撃で「都市機能が全てマヒしてしまうところまではいかない」(防衛関係者)からで、仮に数百発来たとしても都市は壊滅しないと見られている。東京であれば病院はたくさんあるし、爆傷患者を受け入れられる3次指定救急救命センターを持つ病院はいくつもあるという。ダメでも近隣の県からヘリを飛ばして搬送するという方法も。そしてこのお医者さんのもしもの時のアドバイスは、
 1. 出血した場合、そこを強く手で押さえて止血する(圧迫止血)
 2. 何かが体に深く刺さってしまった場合は、それを抜かない(抜くと大出血し死亡する危険がある)
(後略)

 お役に立てれば幸い・・・(と言いつつ、実のところお役にたつ機会がないのが幸いなのだが)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北朝鮮という難題(中)

2017-06-06 01:34:57 | 時事放談
 前回のブログで、「この10年もの間、私たちは北朝鮮に時間を与え過ぎてしまった」と書いた。確かに、「戦略的忍耐」の美名のもと、事実上、問題を店晒しにしておきながら、トランプ氏への引き継ぎに当たって「北朝鮮が安全保障上の最大の懸念」などと伝えたオバマ前・大統領の罪は重い。もっと言えば、1994年に米朝交渉が決裂しかけたとき、当時のクリントン元・大統領が武力行使に踏み切っていれば、事態はとうに変わっていたに違いない。否、「戦争にチャンスを与えよ」(文春新書)のルトワック氏に言わせれば、そもそも朝鮮戦争を休戦協定でお茶を濁して、きっちり終わらせなかったのが悪い、ということになろう。冷戦崩壊とともに東・西ドイツはさっさと統一し、キューバですらも2年前に米国との間で国交正常化したというのに、南・北朝鮮は60年このかた、地球上で唯一とも言える冷戦時代の遺物そのままに冷凍保存されている。
 それは偏に誰もが「現状維持(status quo)」を望むからに他ならないのは、これまでこのブログで何度か述べて来た通りだ。とりわけ今、トランプ大統領が軍事的に北朝鮮を威嚇しつつも、単なる見かけ倒しで、その実、中国の影響力に期待して全て中国に「お・ま・か・せ」にしている通り、中国こそが北朝鮮の生殺与奪の権利を握るキー・プレイヤーでありながら、結局、北朝鮮を生き永らえさせている。
 実際、中国がその気になれば、なんとでもなるに違いない。北朝鮮の外貨収入源の半分を占める石炭の輸入を禁止し、極め付けは石油の供給を停止することで、北朝鮮は干上がってしまう。しかし北朝鮮が崩壊する寸前の断末魔を、あるいは崩壊した末の混乱を、誰も想像したくはないだろう。
 そうなると、中国にとって、200万人を超える朝鮮族がいる東北地方の延辺朝鮮族自治州の問題が切実だと言われる。モンゴルやチベットが自治区であるのに対し、人口が多く地域も広い朝鮮族は、自治区を求めても北京が応じることはなく、自治州のまま自治度も低いまま放置されて来た。そんな彼らが分離独立を主張して朝鮮半島と一つになろうとするのを懸念し、中国は朝鮮半島に単一政権ができるのを望まないと言われる。もし朝鮮族が不安定化すれば、モンゴルやチベットやウイグルにも波及し、辺境情勢が大いに不安定になりかねないからだ。それは統一朝鮮が実現して韓国に主導されるとしても(その可能性が大いに高いわけだが)、あるいは北朝鮮が崩壊して朝鮮半島に韓国だけが生き延びるとしても、いずれにしても困りものだ。中国が北朝鮮を守るのは、金正恩を守るという意味ではなく、朝鮮半島に単一政権ができて韓国ひいては在韓米軍と接するのを避けるための緩衝地帯として期待するがためである。北朝鮮を守るのに金正恩が障害になると判断すれば、中国は首をすげ替えるに吝かでなく、そのために金正男を温存していたと言われる。いずれにしても、中国にとって北朝鮮は失うことが許されない中華帝国の一部なのであり、その生存の保証人なのである。
 その北朝鮮が、常に中国に圧迫され言わば属国として虐げられて来た苦い歴史から脱却し、新たな生存戦略として期待するのが、米国というパートナーの存在だ。北朝鮮が核開発に邁進するのは、米国に対等のパートナーとして認めてもらい、平和条約締結に向けた交渉のテーブルについて貰いたいからに他ならない。しかし米国としては、統治体制の維持を目的とする北朝鮮が核開発を手放すとは考えられないため、相手にはなり得ない。中国としては、そんな北朝鮮の核開発を止め、核を除去して、中国の核の傘を提供して自らの勢力圏として温存するのが理想であり、それをトランプ大統領の圧力を借りて実現できるとすれば好都合だ。恐らく、中国はその程度にしか考えていないのではないだろうか。
 もし仮に統一朝鮮が北朝鮮ひいては中国主導で実現すれば、東アジアから米国のプレゼンスがなくなることを意味し、東アジアでの中国の台頭を封じ込めたい米国にとって、そして何より安全が脅かされる日本にとっては、悲劇だ。それこそ日清・日露戦争前夜の危険きわまりない安全保障環境に舞い戻ってしまう。
 ニューズウィーク日本版6・6号は、「トランプの『取引』が中国を増長させる」と題する記事で、トランプ政権では「政府部内にアジア問題を担当するプロがいない」、「特に深刻なのが国務省と国防総省で、アジア関連の主要なポストは今も『がら空き』だ」と伝えている。トランプ大統領が、北朝鮮問題で鍵を握る中国に丸投げしているように見えてしまうのは、どうもそのせいだろうと思ったりする。
 そんなこんなで辛うじてトランプ大統領のディールに期待しつつも、先行きはまだまだ不透明だ。
 サイバーセキュリティーの専門家で米国家安全保障局(NSA)の元首席監察官ジョエル・ブレナー氏は、世界各地で先月発生した大規模サイバー攻撃について「北朝鮮による外貨獲得が目的」との見方を示したものの、実際には僅かな資金しか得られず殆ど失敗だったと断定する一方、「北朝鮮のサイバー攻撃の能力は急速に上昇している」と警鐘を鳴らし、「彼らは無視されることが耐えられない。あの国を動かしている若者(金正恩)は狂っている。彼のやり方は破壊的で幼児的、病的だ。戦略がない。3歳児と同じで注目を集めたいのだ」と述べた。米国のヘイリー国連大使は以前、テレビのインタビューで、核・ミサイル開発で暴走を続ける金正恩を「パラノイア(偏執狂)状態だ」と非難した。ジョン・マケイン米上院議員はかつて金正恩を「クレイジーな肥満児」とこき下ろした。世界の主だった指導者と会って言葉を交わすこともなく、引き籠って、周囲の軍人さんが痩せているのとは対照的に不気味にぶくぶく肥るばかりの金正恩委員長を、果たして世界は御し続けることが出来るだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北朝鮮という難題(上)

2017-06-03 22:43:43 | 時事放談
 「核ミサイル実験に成功 正確に目標へ誘導」
 「核、率先不使用を宣言」
 「解説 意外に早い小型化」
 「“実戦段階”にはいる 米の見方 日本などへの影響重視」
 「危険な実験に強く抗議 外務省の非公式見解」
 これらは、およそ半世紀前の1966年10月28日付、産経新聞朝刊1面記事の見出しだそうだ。主役は従い北朝鮮ではなくて中国である。北京放送を通じ「自国の国土において誘導ミサイル核兵器の実験に成功した。誘導ミサイルの飛行は正常であった。核弾頭は予定の距離で正確に目標に命中し、核爆発を実現した。実験の成功はわが国の科学技術と国防力が毛沢東思想の輝かしい光を浴びて、さらに早いテンポで発展したことを示している」とも発表・・・まるでデジャヴだ。
 この10年もの間、私たちは北朝鮮に時間を与え過ぎてしまった。そのツケを今、払わされようとしている。米シンクタンク・核脅威削減評議会(NTI)によると、北朝鮮は、金日成主席時代の1984~94年に15回、金正日総書記体制下の2011年12月までは16回のミサイル発射実験を実施したが、金正恩体制下では僅か5年余りで既に70回を超え、今年に入ってからでも、まだ半年経たないのに既に9回(12発)だ。この事実は重い。
 これまで北朝鮮は、防衛大学校の倉田秀也教授の言葉を借りれば、「『核先制不使用』を宣言して、核戦争を挑む意思がないことを明らかにしつつ、その核戦力を専ら米国の核による第1撃を抑止する第2撃として使用する核態勢」をとるものであり、その核戦力は「核戦争を戦い抜く能力ではなく、人口稠密な大都市に着弾できるなど、米国に第1撃を躊躇わせる最小限のもの」でよいので、こうした核抑止態勢は一般に「最小限抑止」と呼ばれてきた。ところが3月6日の中距離弾道ミサイル「スカッドER」連射以来、北朝鮮が目指す抑止態勢は「最小限抑止」にとどまらないことが装備面から明らかになった。朝鮮中央通信が、「スカッドER」(射程約1000キロ)連射は朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊による「日本駐屯米帝侵略軍基地(複数)」への攻撃を念頭に置いたことを明らかにしているように、「スカッドER」が東海岸から発射された場合、佐世保や岩国など、朝鮮戦争で国連軍派兵の拠点となった基地を収めるのは、昨年成功させた「ムスダン」(射程約4000キロ)がアンダーセン米空軍基地を擁するグアム島を射程に収めるのと同様で、これらは「もはや米国に第1撃を躊躇わせる第2撃のための弾道ミサイルではなく、朝鮮半島で戦端が開かれたとき、米軍による来援や、空爆のため在日米軍、アンダーセン米空軍基地の使用を阻止するための装備と考えなければならない」という。こうした軍事作戦に組み込まれた核ミサイルは、「最小限抑止」とは異なり、第1撃を受ける以前に使用される可能性をも孕むもので、「スカッドER」連射を報じた朝鮮中央通信が、「実験」ではなく一貫して「訓練」と呼び、「核戦弾頭取扱い順序と迅速な作戦遂行能力を判定・検閲するために進行した」と報じたことも、この文脈から理解されるべきだと、倉田教授は言う。久しく米中及び日韓が手を拱いている間に、北朝鮮の脅威が新たなレベルにあがったと安倍首相が非難し焦るのも、このあたりにあるのだろう。
 その後も、北朝鮮の挑発は止まらず、5月9日の韓国大統領選挙が北朝鮮の期待する通りの結果に終ったのを見届けると、今週まで三週続けてミサイルを発射し、どうやら上の見立てを裏付ける。
 先ず5月14日の弾道ミサイルは新型中長距離の「火星12」で、北朝鮮の朝鮮中央通信によれば、北西部の亀城付近から発射され日本海に落下した。「周辺国の安全を考慮して最大高角で発射した」として、高度は2,111.5キロに達し、787キロ飛行した後、公海上の目標水域に正確に着弾して、大気圏再突入時の弾頭部の誘導性能や起爆システムの正確性が実証されたと主張している。日本政府もほぼ垂直に近い高角度で飛距離を抑える「ロフテッド軌道」で打ち上げたと見ており、この場合、落下速度が速く迎撃が難しいとされ、30~45度の通常角度で発射した場合は4000~5000キロの射程を有するとの分析もある。この日は、北京で開催された経済圏構想「一帯一路」の国際会議初日に当たり、対北圧力を強めるトランプ米政権に加え、中韓を牽制する狙いもあると言われた。
 続いて21日の弾道ミサイルは、2月に発射された「北極星2」(米軍呼称「KN15」)の性能をさらに高めたとみられ、約500キロ飛行して日本海に落下した。発射地点は4月29日に失敗したときの平安南道北倉付近らしい。「北極星2」は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星1」(米軍呼称「KN11」)を地上配備型に改良したもので、液体燃料に比べ発射準備に時間がかからない固体燃料を導入しており、道路以外も走行できる無限軌道型の移動式発射台に搭載して、どこからでも発射できるため、発射の兆候を捉えにくい。また弾頭部のコントロールの正確さも弾頭部に備えたカメラ映像で確認され、「戦闘環境での適応の可能性が十分に検証された」といい、実験に立ち会った金正恩委員長は、「北極星2」型の実戦配備を承認、量産化を指示したという。射程2千キロ以上とされ、射程内にある日本全土への脅威がさらに高まった。このミサイル発射は、既に朝鮮半島付近に展開中の別の空母カール・ビンソンと合流するべく、米軍横須賀基地を拠点とする原子力空母ロナルド・レーガンが朝鮮半島付近に向かっていると報じられる中で強行された。ここでミサイル発射を押しとどめれば、圧力に屈したとの印象を与えかねないし、逆にこのタイミングで発射すれば、国威発揚に繋がると見ているフシがあると報じられた。
 そして29日の弾道ミサイルは、東部元山付近から発射され、東方向に約6分間飛行し、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。短距離弾道ミサイル「スカッド」の一種と見られ、推定約450キロを飛行し、日本のEEZ内に敢えて着弾させたのは、命中精度を誇示し、いつでも在日米軍基地を攻撃できると威嚇する意図があると見られたものだが、実際に北朝鮮の朝鮮中央通信は、新開発した精密誘導システムを導入した弾道ミサイルの発射実験に「成功」したと発表し、7メートルの誤差で目標点に命中したと主張した。このときは、27日に閉幕した先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が北朝鮮を「新たな段階の脅威」と指摘するなど核・ミサイル開発に対する国際社会の圧力が強まる中での発射で、「圧迫は通用しない」と印象づける狙いがあると報じられた。
 国連安全保障理事会は昨日、北朝鮮の企業・団体・個人を資産凍結や渡航禁止の制裁対象に追加する決議案を全会一致で採択した。北朝鮮への制裁決議採択は7回目だが、国際社会にとっては無力感、手詰まり感が漂う・・・
 と、思うのは私たちだけで、北朝鮮情勢が緊迫して以降、安倍首相は「安保法制も、集団的自衛権も、やっておいてよかった。シナリオ通り」などと、却って元気になったと伝えられたものだ。国会で野党は緊迫感もなく森友学園や加計学園のスキャンダルにうつつを抜かし、二重の意味で、内閣支持率が下がらないのを助けているのは事実だろう。「外患」の効果はスゴイとか、「神風」ならぬ「北風」がまた吹いた、などと官邸では言われているらしい。確かに実際に核弾頭が小型化され大陸間弾道ミサイルに搭載されて発射されるのは数年先のことで、それすら今どき現実的とは思えないのは事実であり(さりとて北朝鮮が暴発するリスクは依然あると思うのだが)、中国あたりは、日本が北朝鮮情勢が緊迫するのを国防強化に利用している、などといつも陰口を叩き・・・与・野党ともに、また米・中ともに、一体どこまで真剣なのか猿芝居なのか、なかなか理解に苦しむところではある。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする