昨日から今日にかけて、トランプ大統領を巡って、ロイターは大忙しだった。
先ずは、John Lloyd氏が「自由主義世界の敵に回ったトランプ大統領」と題するコラムで、お決まりのトランプ大統領批判である。「米ホワイトハウスのオーバルオフィス(大統領執務室)の主たちは、第2次世界大戦以来、自由主義世界のリーダーとしての責任を担ってきた。だが、トランプ氏にはその役割は無理だし、恐らく彼は、そうなりたいと願ったことも決してないだろう」と説き始める。「ヘルシンキで16日に行われた米ロ首脳会談の後、勝ち誇るプーチン大統領の傍らに立ったトランプ大統領のパフォーマンスは、すべての民主主義者にとって恥知らずなものだった」し、「これに先立って行われた欧州訪問では、西側諸国の指導者たちを侮辱し始め、彼らを『敵』と決めつけた」し、もっと遡って「先月カナダで行われた先進7カ国(G7)首脳会議では共同声明への署名を拒み、カナダのトルドー首相に恥をかかせた」し、「英国訪問時にはメイ首相に対して、欧州連合(EU)離脱に向けた自分のアドバイスを聞かなかったと非難」した、といった辺りはまさにその通りで、トランプ大統領らしいヤンチャ振りだ。
実際、クリミア併合によってロシアが追い出されてG7となって久しいが、今回、トランプ大統領はロシア復帰によるG8復活を主張して猛反発を食らい、保護主義的な傾向を強める通商政策でも非難の応酬となって、G7は「6対1」の構図などと言われる始末で、憮然と腕組みするトランプ大統領に詰め寄るメルケル首相と、二人の前で困った表情で立ちすくむ安倍首相という、三者三様の写真が話題になった(後に、トランプ大統領は、メルケル首相の手に自らの手を重ね、周囲も笑顔に包まれる写真を投稿して、フェイク・ニュースの間違いだと主張したが、まあ人たらしのトランプ大統領だから、そういう瞬間もあったであろうことは否定しない)。そんなこんなで、相対的に地盤沈下するG7では決められない、しかしG20では纏まらない、その間の何等かの枠組みが必要だと主張する識者の声もあったが、とりあえず価値観を同じくするG7の枠組みの重要性は変わらないように思う。
閑話休題。ロイター記事に戻ると、「現在、最も重要な問題は、西側諸国がリベラルで民主主義的な価値観をどこまで擁護して、それを提示し続けられるかという点だ」という主張はまさにその通り。しかし「戦後の時期を通じて、何よりもまずリベラルな価値観を守るために選ばれてきた米国大統領その人によって、その価値観の体系が続けさまに攻撃を受けるのを、われわれは目の当たりにしている」と言われると、別にトランプ大統領の肩を持つつもりはないが、歴代アメリカ大統領はそんなに偉かったのか!?と疑義を呈したくなる。私の記憶にある範囲でも、1980年代後半の日米貿易摩擦や、プラザ合意による円切上げや、金融自由化要求などは、日本側の貿易・商慣習に問題なしとしないが、じゃあアメリカはリベラルだったのかというと、それも疑問に思う(今の米中貿易戦争はデジャヴで、所詮は今も昔もアメリカ・ファーストなのだ)。
別のロイター記事は、BRICS首脳会議で習近平国家主席が「国連やWTOといった国際機関やG7が結束して一国主義や保護主義と戦うべきとの考えを表明した」と、名指しこそしないもののトランプ大統領非難を伝えているのは、言わんとするところは分かるものの、そもそも国連では何も決められないほどの意見の対立を招く元凶となり、またWTOの枠組みに取り込まれながら却ってWTOを機能しなくなるに至らしめた張本人の中国に言われる筋合いのものではない。
もう一つ別のロイター記事は、EUのユンケル欧州委員長がトランプ大統領との会談で「中国の貿易慣行を巡る対処で米国を後押ししていく意志を明示した」と伝えることには、全く異論はない。
さらに別のロイター記事では、WTO会合で、米国のWTO大使が「貿易破壊的な中国の経済モデル」と題する文書を提出し、「中国は自由貿易や世界貿易システムの忠実な擁護者と繰り返し表現しているが、実際は保護主義や重商主義が世界で最も強力だ」と指摘し、「通商・投資面で国家が主導する中国の手法に伴う害悪は『もはや受忍できない』と訴え、WTOルールの順守を主張するだけでは不十分との認識」を示し、「法律が国家の道具となり、裁判所は共産党の方針に反応する構造」と批判し、「中国では、経済改革は政府や共産党の経済運営完成や、とりわけ国有企業など政府部門の強化を意味する」と主張したのはもっともなところで、それに対して、中国のWTO大使は「中国政府の企業『制御』主張を補強する証拠を示していない」と居直り、ロイターに寄せた声明では「米国が中国を悪者扱いしようとしている」とし、「自国の手を縛ることを狙ったルールを中国が受け入れるという見方は幻想だ」と指摘し、「中国の産業政策は『ガイダンス』との位置付けで、国有企業はそれぞれ損益に責任を負う自立した市場主体」と説明し、「一部産業の生産能力過剰要因は国家でなく、金融危機後の世界需要縮小に伴うものとの認識」を示したというのは、厚かましいし、言い訳がましい。
以上4本のトランプ大統領がらみの記事が僅か12時間の間に出ているのは偶然にしても、なんとも賑々しい。ツイッターでこまめに情報発信し、しかもその言葉遣いは私のような純粋日本人にも分かり易い基礎英語で、時折り口汚く罵るのは、およそ世界の権力の頂点に立つアメリカ大統領らしくないのは事実だ。こうしたトランプ大統領の立ち居振る舞いは問題あるにしても、また、貿易赤字を悪と決めつける理解不足もあるにしても、案外、その主張の多くは必ずしも間違っているとは言えないし、2016年の大統領選挙でトランプ旋風が吹き荒れて戸惑っていた私たちに、いやトランプ氏が大統領となって諸悪の「根源」になるのではなく、トランプ氏の登場は飽くまで「結果」に過ぎないと冷静に分析した人がいたことを思い出すべきだろう。私たちは、アメリカのメディアを引用する日本のメディアの影響を受けて、また、私も会話するアメリカ人と言えば弁護士だったり企業エリートだったりするから、知的な上層部に属する人の見方に影響を受けて、トランプ大統領の支持率が下がらないばかりか上がりつつあることには驚いてしまうが、トランプ大統領は、アメリカ人の総意とまではとても言えないまでも、一定の割合を代弁していることは理解しなければならないのだろう。お騒がせだけれども。
先ずは、John Lloyd氏が「自由主義世界の敵に回ったトランプ大統領」と題するコラムで、お決まりのトランプ大統領批判である。「米ホワイトハウスのオーバルオフィス(大統領執務室)の主たちは、第2次世界大戦以来、自由主義世界のリーダーとしての責任を担ってきた。だが、トランプ氏にはその役割は無理だし、恐らく彼は、そうなりたいと願ったことも決してないだろう」と説き始める。「ヘルシンキで16日に行われた米ロ首脳会談の後、勝ち誇るプーチン大統領の傍らに立ったトランプ大統領のパフォーマンスは、すべての民主主義者にとって恥知らずなものだった」し、「これに先立って行われた欧州訪問では、西側諸国の指導者たちを侮辱し始め、彼らを『敵』と決めつけた」し、もっと遡って「先月カナダで行われた先進7カ国(G7)首脳会議では共同声明への署名を拒み、カナダのトルドー首相に恥をかかせた」し、「英国訪問時にはメイ首相に対して、欧州連合(EU)離脱に向けた自分のアドバイスを聞かなかったと非難」した、といった辺りはまさにその通りで、トランプ大統領らしいヤンチャ振りだ。
実際、クリミア併合によってロシアが追い出されてG7となって久しいが、今回、トランプ大統領はロシア復帰によるG8復活を主張して猛反発を食らい、保護主義的な傾向を強める通商政策でも非難の応酬となって、G7は「6対1」の構図などと言われる始末で、憮然と腕組みするトランプ大統領に詰め寄るメルケル首相と、二人の前で困った表情で立ちすくむ安倍首相という、三者三様の写真が話題になった(後に、トランプ大統領は、メルケル首相の手に自らの手を重ね、周囲も笑顔に包まれる写真を投稿して、フェイク・ニュースの間違いだと主張したが、まあ人たらしのトランプ大統領だから、そういう瞬間もあったであろうことは否定しない)。そんなこんなで、相対的に地盤沈下するG7では決められない、しかしG20では纏まらない、その間の何等かの枠組みが必要だと主張する識者の声もあったが、とりあえず価値観を同じくするG7の枠組みの重要性は変わらないように思う。
閑話休題。ロイター記事に戻ると、「現在、最も重要な問題は、西側諸国がリベラルで民主主義的な価値観をどこまで擁護して、それを提示し続けられるかという点だ」という主張はまさにその通り。しかし「戦後の時期を通じて、何よりもまずリベラルな価値観を守るために選ばれてきた米国大統領その人によって、その価値観の体系が続けさまに攻撃を受けるのを、われわれは目の当たりにしている」と言われると、別にトランプ大統領の肩を持つつもりはないが、歴代アメリカ大統領はそんなに偉かったのか!?と疑義を呈したくなる。私の記憶にある範囲でも、1980年代後半の日米貿易摩擦や、プラザ合意による円切上げや、金融自由化要求などは、日本側の貿易・商慣習に問題なしとしないが、じゃあアメリカはリベラルだったのかというと、それも疑問に思う(今の米中貿易戦争はデジャヴで、所詮は今も昔もアメリカ・ファーストなのだ)。
別のロイター記事は、BRICS首脳会議で習近平国家主席が「国連やWTOといった国際機関やG7が結束して一国主義や保護主義と戦うべきとの考えを表明した」と、名指しこそしないもののトランプ大統領非難を伝えているのは、言わんとするところは分かるものの、そもそも国連では何も決められないほどの意見の対立を招く元凶となり、またWTOの枠組みに取り込まれながら却ってWTOを機能しなくなるに至らしめた張本人の中国に言われる筋合いのものではない。
もう一つ別のロイター記事は、EUのユンケル欧州委員長がトランプ大統領との会談で「中国の貿易慣行を巡る対処で米国を後押ししていく意志を明示した」と伝えることには、全く異論はない。
さらに別のロイター記事では、WTO会合で、米国のWTO大使が「貿易破壊的な中国の経済モデル」と題する文書を提出し、「中国は自由貿易や世界貿易システムの忠実な擁護者と繰り返し表現しているが、実際は保護主義や重商主義が世界で最も強力だ」と指摘し、「通商・投資面で国家が主導する中国の手法に伴う害悪は『もはや受忍できない』と訴え、WTOルールの順守を主張するだけでは不十分との認識」を示し、「法律が国家の道具となり、裁判所は共産党の方針に反応する構造」と批判し、「中国では、経済改革は政府や共産党の経済運営完成や、とりわけ国有企業など政府部門の強化を意味する」と主張したのはもっともなところで、それに対して、中国のWTO大使は「中国政府の企業『制御』主張を補強する証拠を示していない」と居直り、ロイターに寄せた声明では「米国が中国を悪者扱いしようとしている」とし、「自国の手を縛ることを狙ったルールを中国が受け入れるという見方は幻想だ」と指摘し、「中国の産業政策は『ガイダンス』との位置付けで、国有企業はそれぞれ損益に責任を負う自立した市場主体」と説明し、「一部産業の生産能力過剰要因は国家でなく、金融危機後の世界需要縮小に伴うものとの認識」を示したというのは、厚かましいし、言い訳がましい。
以上4本のトランプ大統領がらみの記事が僅か12時間の間に出ているのは偶然にしても、なんとも賑々しい。ツイッターでこまめに情報発信し、しかもその言葉遣いは私のような純粋日本人にも分かり易い基礎英語で、時折り口汚く罵るのは、およそ世界の権力の頂点に立つアメリカ大統領らしくないのは事実だ。こうしたトランプ大統領の立ち居振る舞いは問題あるにしても、また、貿易赤字を悪と決めつける理解不足もあるにしても、案外、その主張の多くは必ずしも間違っているとは言えないし、2016年の大統領選挙でトランプ旋風が吹き荒れて戸惑っていた私たちに、いやトランプ氏が大統領となって諸悪の「根源」になるのではなく、トランプ氏の登場は飽くまで「結果」に過ぎないと冷静に分析した人がいたことを思い出すべきだろう。私たちは、アメリカのメディアを引用する日本のメディアの影響を受けて、また、私も会話するアメリカ人と言えば弁護士だったり企業エリートだったりするから、知的な上層部に属する人の見方に影響を受けて、トランプ大統領の支持率が下がらないばかりか上がりつつあることには驚いてしまうが、トランプ大統領は、アメリカ人の総意とまではとても言えないまでも、一定の割合を代弁していることは理解しなければならないのだろう。お騒がせだけれども。