最近、固有名詞は現地語読みするのが習いのようなので、Wikipediaにあるように「ヴェストファーレン」と呼ぶのが正しいのだろうが、英語読み(あるいはラテン語読みとも)で「ウェストファリア」体制とは、ご存知の通り、三十年戦争(1618年~48年)の講和条約によってもたらされた近代ヨーロッパの主権国家体制のことである。もっともこの戦争を境にすんなり中世から近代に移行したわけではなく、王権神授が完全否定されるには、150年以上後のナポレオンを待たなければならないが(彼がローマ教皇の手によらず自らと妻ジョセフィーヌに戴冠する有名な絵が残されている)、今、我々が国際連合をはじめとして念頭にある「国家における領土権、領土内の法的主権および主権国家による相互内政不可侵の原理が確立され、近代外交および現代国際法の根本原則が確立された」(Wikipedia)画期となるものである。
何故こんな教科書的なことをくどくどと書くのかと言うと、東アジアは近代西欧起源のウェストファリア体制が今なお妥当しない、別の秩序観に支配された不思議な空間だということを言いたいがためである。
一つは韓国だ。今日で、韓国最高裁が徴用工訴訟で新日鉄住金(現・日本製鉄)に賠償を命じた確定判決から1年になるが、韓国の国務調整室長は国会政務委員会であらためて「紛争の調停(日本が提案した第三国による仲裁委員会による)には応じない」と述べて、近代国際法(ウィーン条約)を無視する姿勢を続けている。釜山では「左派系団体が日本総領事館付近の歩道を『抗日通り』と名付け、徴用工像がある近くの公園で警察ともみ合った末、『抗日通り』の看板を園内に設置した」(産経)そうだ。市民の暴挙・・・駐韓米国大使公邸乱入事件もそうだし、慰安婦像や徴用工像の設置などと同様、ウィーン条約違反(公館の威厳の侵害等に関わる問題)を止めることが出来ないという意味において、韓国の政治は相変わらず弱いし、韓国市民社会は国際法遵守を受け入れるまでまだ成熟していないようだ。品目別の貿易統計によると、不買運動に興じる韓国向けの9月のビール輸出額は前年同月比で実に99・9%減(!)だったそうで、この理不尽さには溜め息しか出ない(苦笑)
もう一つは中国だ。かつて(2010年のARF:ASEAN地域フォーラムで)、時の温家宝首相は「我々は大国である。しかしあなた方は小国である」「これは現実である。中国の国益を軽視すべきではない」などと恫喝し、言わば「小国は大国に従え」みたいなことを暗示して、周囲をびっくりさせたことがあった。最近、中国の研究院出身の大学教授たちと飲む機会があったときにも、酔った勢いで、小国には外交上の発言権などない、というようなことを平気で主張されていた。ご存知の通り国連総会ではどんな小国であろうと大国アメリカと同じ一票の重みをもつ、という事実とは矛盾する。こうして、鄧小平が唱えた「韜光養晦」(爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術の謂い)の意味がはっきりするであろう。ぶっちゃけた話、実力がない内はどうせ影響力がないのだから大人しくしていようぜ、ということだ。また、一帯一路の裏の目的もはっきりするであろう。意識が高いアジアの国々から賛同を得るのは簡単ではないが、50ヶ国を超えるアフリカや30ヶ国を超えるラテンアメリカから、お金で釣って20票や30票を掻き集めることはそれほど難しいことではない、ということだ。かつて(戦前のことになるが)矢野仁一・京都帝国大学教授は、中国には国境の観念がなく、実力に応じて延び縮みし、支配可能な領域を自らの領土と考える、というようなことを仰っていた。南シナ海や東シナ海への海洋進出を見れば、その観念が変わっていないことはよく分かる。つまり中国はウェストファリア体制を受け入れることはなく、昔ながらの華夷秩序観のもとに依然あるということだろう。
こうして、世界広しと言えども、日本ほど不思議な戦略環境にある国はない。東アジア(韓国と中国)は、一見、近代的に見えて、その実、中世(もっと言うと古代王朝世界)を生きているのであり、日本の対外政策上の苦悩はまさにここにあるように思う。
何故こんな教科書的なことをくどくどと書くのかと言うと、東アジアは近代西欧起源のウェストファリア体制が今なお妥当しない、別の秩序観に支配された不思議な空間だということを言いたいがためである。
一つは韓国だ。今日で、韓国最高裁が徴用工訴訟で新日鉄住金(現・日本製鉄)に賠償を命じた確定判決から1年になるが、韓国の国務調整室長は国会政務委員会であらためて「紛争の調停(日本が提案した第三国による仲裁委員会による)には応じない」と述べて、近代国際法(ウィーン条約)を無視する姿勢を続けている。釜山では「左派系団体が日本総領事館付近の歩道を『抗日通り』と名付け、徴用工像がある近くの公園で警察ともみ合った末、『抗日通り』の看板を園内に設置した」(産経)そうだ。市民の暴挙・・・駐韓米国大使公邸乱入事件もそうだし、慰安婦像や徴用工像の設置などと同様、ウィーン条約違反(公館の威厳の侵害等に関わる問題)を止めることが出来ないという意味において、韓国の政治は相変わらず弱いし、韓国市民社会は国際法遵守を受け入れるまでまだ成熟していないようだ。品目別の貿易統計によると、不買運動に興じる韓国向けの9月のビール輸出額は前年同月比で実に99・9%減(!)だったそうで、この理不尽さには溜め息しか出ない(苦笑)
もう一つは中国だ。かつて(2010年のARF:ASEAN地域フォーラムで)、時の温家宝首相は「我々は大国である。しかしあなた方は小国である」「これは現実である。中国の国益を軽視すべきではない」などと恫喝し、言わば「小国は大国に従え」みたいなことを暗示して、周囲をびっくりさせたことがあった。最近、中国の研究院出身の大学教授たちと飲む機会があったときにも、酔った勢いで、小国には外交上の発言権などない、というようなことを平気で主張されていた。ご存知の通り国連総会ではどんな小国であろうと大国アメリカと同じ一票の重みをもつ、という事実とは矛盾する。こうして、鄧小平が唱えた「韜光養晦」(爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術の謂い)の意味がはっきりするであろう。ぶっちゃけた話、実力がない内はどうせ影響力がないのだから大人しくしていようぜ、ということだ。また、一帯一路の裏の目的もはっきりするであろう。意識が高いアジアの国々から賛同を得るのは簡単ではないが、50ヶ国を超えるアフリカや30ヶ国を超えるラテンアメリカから、お金で釣って20票や30票を掻き集めることはそれほど難しいことではない、ということだ。かつて(戦前のことになるが)矢野仁一・京都帝国大学教授は、中国には国境の観念がなく、実力に応じて延び縮みし、支配可能な領域を自らの領土と考える、というようなことを仰っていた。南シナ海や東シナ海への海洋進出を見れば、その観念が変わっていないことはよく分かる。つまり中国はウェストファリア体制を受け入れることはなく、昔ながらの華夷秩序観のもとに依然あるということだろう。
こうして、世界広しと言えども、日本ほど不思議な戦略環境にある国はない。東アジア(韓国と中国)は、一見、近代的に見えて、その実、中世(もっと言うと古代王朝世界)を生きているのであり、日本の対外政策上の苦悩はまさにここにあるように思う。