プーチンと金正恩が接近している。困った悪の枢軸である(苦笑)。それで、金正恩が得意なのには相違ないだろう。コロナ禍やウクライナ戦争で、世界の注目を浴びることが出来ず、干上がっていたのだ。
近づいたのはプーチンだった。ウクライナ戦争が重荷になりつつあっても、自らの威信を保つために、おいそれと戦争をやめられないプーチンは、片や、独裁者なのにまともに国家経営も出来ないのかと馬鹿にしているかどうかは知らないが、貧しい中で核とミサイルの開発に余念がない北朝鮮を、都合の良い兵器廠代りにしようとしている。
犯罪以外にまともな稼ぎがない金王朝の三代目には願ったり叶ったりだろう。かつては偽ドル札の印刷や麻薬の栽培に手を染め、(北朝鮮が制裁対象であることを知らない)アフリカの一部の国への武器輸出や軍事サービスの提供を行い、今は暗号資産の盗掘や(国連安保理から禁止されている)労働者派遣など(どうやら日本のアニメ制作の下請けまでしていたことが報道された)で、どうにか食い繋いでいる。貧しいせいではあるが、旧・ソ連時代の兵器を後生大事に持ち続けた甲斐があった。同じく旧・ソ連時代の兵器に頼るロシア軍には、恐らく部品の互換性もあり、使い勝手が良いはずだ。
しかし、提供された武器・弾薬の半分ほどは使いものにならないほど、品質が劣悪だったらしい。プーチンからは足元を見られることだろう。冷戦期の同盟時代を記憶する人民は、見返りにプーチンから食料援助を期待するようだが、新たな相互援助の「同盟」(プーチンはついぞこの言葉を口にしないし、国連憲章やそれぞれの国内法の手続きに従い、との留保がついている)関係の下で、三代目は自前技術だけでは突破出来ない衛星や先端兵器の技術の提供を受けることを期待するようだか、どうなることやら。相変わらず、三代目と人民との間の意識のギャップは如何ともし難い。
何しろ、法的には今なお朝鮮半島で戦争中という危機を偽装することでしか国家をまとめ切れないのだ(もっと言うと、金王朝の成り立ちも甚だ怪しく、存在自体が偽装まみれだ)。三代目にとっては「貧者の兵器」である核やミサイル以外に、韓国との間で比較優位はなく、結果、お隣の独裁者である中国共産党がその統治の正統性の源とする社会の安全や経済成長を、真似できない三代目は、声高らかに米韓との緊張を演出し、核やミサイル開発の成功を宣伝しないことには、統治の正統性を担保出来ないのだ。そんな茶番をいつまで続けるのかと、冷めた目線を送る我々との間の意識のギャップもまた如何ともし難い。
かの喜劇の名優チャールズ・チャップリンは、「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」(Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.)と言った。至言であろう。人民には、かつて満州に跋扈した匪賊のような統治能力の乏しい王朝の下で気の毒でならないが、世界の目には、かつてトランプ前大統領と交渉決裂したように統治の保全に汲々として現実を顧みず誇大妄想する三代目の北朝鮮の、現代にあってなお孤立した秘密国家ぶりにも、よく当て嵌まる。もっとも、北朝鮮の置かれた地政学的な難しさと歴史的現実には同情するから、さしずめ三代目はそんな厳しい現実に翻弄される深窓の令嬢といった趣きであろうか(その得意満面の裏側を想像するならば…)。