昨日、世界保健機関(WHO)がようやく国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言した。
2009年4月の豚インフルに対する緊急事態宣言が最初らしく、話は脱線するが、あの頃のことは鮮明に記憶している。当時、シドニーに駐在していて、6月の帰国を前に、ウルルへの最後の家族旅行の予約をしていた。所詮、冬の北半球のことは他人事のように眺めていたからだが、冬に向かう南半球のオーストラリアにも広がり始めて、焦った。オーストラリアは有袋類などの希少動物が生息する絶海の孤島とは言え、ウルル(エアーズロック)は有名な観光地で、人が集まる。ぎりぎりまで迷った末、人口密度が極端に低いところであることから、移動の機内のみ留意することにして、医療関係者を知人にもつ同僚に洗浄液を分けて貰って、覚悟して出かけたものだ。それはともかく・・・
その後、エボラ出血熱やジカ熱などでも緊急事態宣言が出たが、遠く離れた土地のこと故、日本人には馴染みが薄い。6度目の今回は、お隣の中国が発症源だから、他人事ではない。しかも、フランスのルモンド紙によれば、WHOが22~23日の緊急委員会で緊急事態宣言を見送ったのは、中国代表が「宣言は問題外」だと強く主張し、同調する国も出てきたためで、同紙は「中国の強い反対を受け、政治的配慮が科学論議に勝ったようだ」と評価したと、日経や産経が報じた。エチオピア人のWHO事務局長は、祖国に鉄道建設など多額の投資をしてくれる中国を忖度したのか、まさかこんな緊急事態でも中国お得意のシャープ・パワーが炸裂することになるとは・・・
さらにロイターの29日付の記事「新型肺炎はなぜ広がったか、検査受けられない武漢の実態」を読むと、権威主義国家・中国の国内のガバナンス(ガバメントと言うべきかも知れない)の脆弱性が問題を大きくしているのを感じさせる。ウィルスの遺伝子情報を迅速に解読し、大胆にも過去最大規模の「検疫・隔離作戦」により湖北省の感染地域を封鎖し、感染者の治療のため2カ所に新たな病院を建設中で、感染拡大に対処するため特別委員会を創設するなど、「頭脳」たる共産党中央は強権発動して、それなりに機能しているように見えるが、「末端」たる現地では検査キットや医薬品が不足して検査や治療が遅れ、何より、市長の言動は省政府ひいては国家首脳から厳しく制限されているため、情報管理や住民への対応が後手に回っているという。ロイターは、管理職レベルの市職員は党レベルの上司に問題を持ち込もうというインセンティブが殆ど働かない上、湖北省で新規のウイルス感染例が報告されなかった週は、春節への準備や全国人民代表者会議・中国人民政治協商会議に向けた湖北省内の会議の時期に当たっていたと、中国のお役所仕事の無能ぶりをも批判する。確かに習近平政権で反腐敗運動が始まってからは地方の党職員の間にサボタージュが広がっていると、かねて懸念されていた。アメリカと技術覇権を競うのはいいが、自由・民主主義国家には当たり前のエコ・システム的な発展は見当たらず、公衆衛生などの社会インフラ整備が後れたイビツな国家資本主義社会の弱点が曝け出されたような感じだ。
そればかりではない。
何かとSARS(2002~03年)と比較される今回の新型肺炎だが、SARSの時は、時の中国政府による情報隠匿があったため、広東省で最初の感染者が見つかってからWHOが新型コロナウイルスと断定するまで実に4カ月を要したのに対し、今回は患者発生からおよそ1カ月で新型ウイルスのゲノム情報が世界の科学者に公開されたのは大きな進歩だと言わんばかりである。
もう少し詳しく見ると、武漢で最初の感染者のケースが非公式にネットで伝えられたのは12月8日頃のことだったが、当局は秘匿し続け、中国の官営メディアが初めて報道したのは1月9日のことで、習近平国家主席が突然、登場し、中国発「新型コロナウイルス」に関する発表を行ったのは春節直前の1月20日のことだったという。最初の発生から40日以上が経過していたのを、果たしてよしとするのかどうか。SARSの頃と比較すると、経済規模は格段に大きく、新幹線や高速道路はそこいら中に張り巡らされ、人の移動が格段に多くなったリスクを考慮すべきだろう。武漢市を中心に封鎖に踏み切ったときには、その三週間前から春節の移動が始まっていたために、武漢市の人口1100万人のうち既に500万人が脱出し(他方、300万人が入ってきて、計900万人いる)、日本にも1万人が訪問していたと言う。なんという間の悪さであろう。
中国4000年の歴史を振り返ると、王朝交代の動乱のたびに人口が激減すると歴史家が紹介するのは、異民族による大量虐殺が行われる大陸の激しい土地柄とともに、支配者を信用しない人民は蜘蛛の子を散らすように四方八方へとさっさと逃げる地続きの大陸的特性によるものだったのではないだろうか。
ここから先は(私の好きな!?)陰謀論である(笑)。1月24日付のワシントン・タイムズは、今回のコロナウイルスの発生源は武漢市にある国立の病源体研究機関(武漢国家生物安全実験室)の可能性があると報じたらしい。ジャーナリストの福島香織さんも、このラボは中国科学院と武漢市の共同建設ということになっているが、実は人民解放軍系の施設とみられ、当初計画で設計を請け負うのはフランスの会社だったところ、最終的に解放軍系の企業が請け負ったもので、2017年2月の英科学誌「ネイチャー」で、米国のバイオ・セイフティ・コンサルタントのティム・トレバン氏が、中国の官僚文化の伝統からみてこのラボは安全ではないと警告していたという。中国当局が新型コロナウイルスを最初に発見したとする海鮮市場からほんの30キロほどの距離にあり、2017年に完成してからは、毒性の強いエボラ出血熱やニパウイルス感染症などのウイルス研究にあたってきたらしく、ワシントン・タイムズによれば、中国の生物(細菌)兵器に詳しいイスラエル軍事情報機関の専門家ダニー・ショハム氏への取材をもとに、(1)同ラボは中国人民解放軍の生物戦争のための兵器開発に関与していた、(2)同ラボは今回のコロナウイルスの研究にも関わっていた可能性が高い、(3)同コロナウイルスが人間への接触で同実験室から外部に流出した可能性がある、などと報じたという(古森義久氏による)。この陰謀論は、私だけでなく誰もが心の奥底に一抹の疑惑として抱いているに違いない(苦笑)
その当否はともかく、日本国政府として、武漢在留邦人の救出を決断するのは早かったが、その後の対応には詰めの甘さが見える。ハンセン病患者隔離で批判を浴びたトラウマがあると指摘する声もあるが、過去に囚われていていいはずはない。折しも監視社会で情報隠匿ばかりか情報統制が強まってきた中国で発生したことで、情報は余りアテにならないと思った方がいい。私たち個人、国家、国際社会がそれぞれの立場で「正しく恐れて」(とは、東日本大震災の際に福島原発で発生した放射線漏れに対して使われた言葉で、私も肝に銘じている言葉)、適切に対処しないと、東京オリンピックどころではなくなってしまうことを恐れる。
2009年4月の豚インフルに対する緊急事態宣言が最初らしく、話は脱線するが、あの頃のことは鮮明に記憶している。当時、シドニーに駐在していて、6月の帰国を前に、ウルルへの最後の家族旅行の予約をしていた。所詮、冬の北半球のことは他人事のように眺めていたからだが、冬に向かう南半球のオーストラリアにも広がり始めて、焦った。オーストラリアは有袋類などの希少動物が生息する絶海の孤島とは言え、ウルル(エアーズロック)は有名な観光地で、人が集まる。ぎりぎりまで迷った末、人口密度が極端に低いところであることから、移動の機内のみ留意することにして、医療関係者を知人にもつ同僚に洗浄液を分けて貰って、覚悟して出かけたものだ。それはともかく・・・
その後、エボラ出血熱やジカ熱などでも緊急事態宣言が出たが、遠く離れた土地のこと故、日本人には馴染みが薄い。6度目の今回は、お隣の中国が発症源だから、他人事ではない。しかも、フランスのルモンド紙によれば、WHOが22~23日の緊急委員会で緊急事態宣言を見送ったのは、中国代表が「宣言は問題外」だと強く主張し、同調する国も出てきたためで、同紙は「中国の強い反対を受け、政治的配慮が科学論議に勝ったようだ」と評価したと、日経や産経が報じた。エチオピア人のWHO事務局長は、祖国に鉄道建設など多額の投資をしてくれる中国を忖度したのか、まさかこんな緊急事態でも中国お得意のシャープ・パワーが炸裂することになるとは・・・
さらにロイターの29日付の記事「新型肺炎はなぜ広がったか、検査受けられない武漢の実態」を読むと、権威主義国家・中国の国内のガバナンス(ガバメントと言うべきかも知れない)の脆弱性が問題を大きくしているのを感じさせる。ウィルスの遺伝子情報を迅速に解読し、大胆にも過去最大規模の「検疫・隔離作戦」により湖北省の感染地域を封鎖し、感染者の治療のため2カ所に新たな病院を建設中で、感染拡大に対処するため特別委員会を創設するなど、「頭脳」たる共産党中央は強権発動して、それなりに機能しているように見えるが、「末端」たる現地では検査キットや医薬品が不足して検査や治療が遅れ、何より、市長の言動は省政府ひいては国家首脳から厳しく制限されているため、情報管理や住民への対応が後手に回っているという。ロイターは、管理職レベルの市職員は党レベルの上司に問題を持ち込もうというインセンティブが殆ど働かない上、湖北省で新規のウイルス感染例が報告されなかった週は、春節への準備や全国人民代表者会議・中国人民政治協商会議に向けた湖北省内の会議の時期に当たっていたと、中国のお役所仕事の無能ぶりをも批判する。確かに習近平政権で反腐敗運動が始まってからは地方の党職員の間にサボタージュが広がっていると、かねて懸念されていた。アメリカと技術覇権を競うのはいいが、自由・民主主義国家には当たり前のエコ・システム的な発展は見当たらず、公衆衛生などの社会インフラ整備が後れたイビツな国家資本主義社会の弱点が曝け出されたような感じだ。
そればかりではない。
何かとSARS(2002~03年)と比較される今回の新型肺炎だが、SARSの時は、時の中国政府による情報隠匿があったため、広東省で最初の感染者が見つかってからWHOが新型コロナウイルスと断定するまで実に4カ月を要したのに対し、今回は患者発生からおよそ1カ月で新型ウイルスのゲノム情報が世界の科学者に公開されたのは大きな進歩だと言わんばかりである。
もう少し詳しく見ると、武漢で最初の感染者のケースが非公式にネットで伝えられたのは12月8日頃のことだったが、当局は秘匿し続け、中国の官営メディアが初めて報道したのは1月9日のことで、習近平国家主席が突然、登場し、中国発「新型コロナウイルス」に関する発表を行ったのは春節直前の1月20日のことだったという。最初の発生から40日以上が経過していたのを、果たしてよしとするのかどうか。SARSの頃と比較すると、経済規模は格段に大きく、新幹線や高速道路はそこいら中に張り巡らされ、人の移動が格段に多くなったリスクを考慮すべきだろう。武漢市を中心に封鎖に踏み切ったときには、その三週間前から春節の移動が始まっていたために、武漢市の人口1100万人のうち既に500万人が脱出し(他方、300万人が入ってきて、計900万人いる)、日本にも1万人が訪問していたと言う。なんという間の悪さであろう。
中国4000年の歴史を振り返ると、王朝交代の動乱のたびに人口が激減すると歴史家が紹介するのは、異民族による大量虐殺が行われる大陸の激しい土地柄とともに、支配者を信用しない人民は蜘蛛の子を散らすように四方八方へとさっさと逃げる地続きの大陸的特性によるものだったのではないだろうか。
ここから先は(私の好きな!?)陰謀論である(笑)。1月24日付のワシントン・タイムズは、今回のコロナウイルスの発生源は武漢市にある国立の病源体研究機関(武漢国家生物安全実験室)の可能性があると報じたらしい。ジャーナリストの福島香織さんも、このラボは中国科学院と武漢市の共同建設ということになっているが、実は人民解放軍系の施設とみられ、当初計画で設計を請け負うのはフランスの会社だったところ、最終的に解放軍系の企業が請け負ったもので、2017年2月の英科学誌「ネイチャー」で、米国のバイオ・セイフティ・コンサルタントのティム・トレバン氏が、中国の官僚文化の伝統からみてこのラボは安全ではないと警告していたという。中国当局が新型コロナウイルスを最初に発見したとする海鮮市場からほんの30キロほどの距離にあり、2017年に完成してからは、毒性の強いエボラ出血熱やニパウイルス感染症などのウイルス研究にあたってきたらしく、ワシントン・タイムズによれば、中国の生物(細菌)兵器に詳しいイスラエル軍事情報機関の専門家ダニー・ショハム氏への取材をもとに、(1)同ラボは中国人民解放軍の生物戦争のための兵器開発に関与していた、(2)同ラボは今回のコロナウイルスの研究にも関わっていた可能性が高い、(3)同コロナウイルスが人間への接触で同実験室から外部に流出した可能性がある、などと報じたという(古森義久氏による)。この陰謀論は、私だけでなく誰もが心の奥底に一抹の疑惑として抱いているに違いない(苦笑)
その当否はともかく、日本国政府として、武漢在留邦人の救出を決断するのは早かったが、その後の対応には詰めの甘さが見える。ハンセン病患者隔離で批判を浴びたトラウマがあると指摘する声もあるが、過去に囚われていていいはずはない。折しも監視社会で情報隠匿ばかりか情報統制が強まってきた中国で発生したことで、情報は余りアテにならないと思った方がいい。私たち個人、国家、国際社会がそれぞれの立場で「正しく恐れて」(とは、東日本大震災の際に福島原発で発生した放射線漏れに対して使われた言葉で、私も肝に銘じている言葉)、適切に対処しないと、東京オリンピックどころではなくなってしまうことを恐れる。