あの引退会見の翌日と言うべきか、会見が始まって間もなく日付が変わっていたので、その日の午後と言うべきか、イチローがシアトルに戻るフライト(NH178便)は、普段は搭乗口58B番ゲートを使うべきところ、(NH835便と入れ替えて)51番ゲートに変更したと報じられた。全日空関係者は「これまでの活躍に敬意を表し、オペレーションに問題のない範囲内で変更した」と説明したらしいが、「シアトル行き51番ゲート」のサインボードは、なかなか粋なハナムケになったと思う。当日、これらフライトに搭乗された乗客の方々も、微笑ましく受け容れたことだろう。
この週末は、いろいろイチロー特集が組まれたり、足跡を辿る記事があったり、あるいはまた親交のある球界や芸能界の著名人による賛辞が続いたりで、いつまでも興奮冷めやらぬ状況にあった(苦笑)。
私が最も注目していたのは、日曜朝のTBS「サンデーモーニング」スポーツコーナーで球界のご意見番とも言うべき張本勲さんのコメントだったが、いつもの辛口はすっかり影を潜め、らしからぬ(!?)ねぎらいの慈愛に充ち満ちていた(笑)。「もう言い尽くしているからねえ。ないですよ。とにかくご苦労さん、ありがとう。日本プロ野球界の出身者が一時はアメリカ野球界を引きずり回しましたからね。そういうことを言っても過言じゃないからね」で始まり、「もう至れり尽くせり。もう褒めることばっかり。何か欠点を言えといったらホームランが少ないというだけ。それも持ち味だから。どこを探しても欠点はない。走攻守」と締めて、いつもにはない感慨深げな「あっぱれ」を出されたのが印象的だった。
ほかにも球界ゆかりの方々のコメントが多数とりあげられた。「どこに投げても打たれる打者。配球が通用しない。敵ながらあっぱれ」(現役時代も捕手として対戦した中日・伊東ヘッドコーチ)、「一つ言うと百わかるような感性の良さを感じさせる選手だった」(オリックス時代に指導したソフトバンク新井2軍打撃コーチ)、「野球界に、華やかさがなくなっちゃう」(2012年にヤンキースでチームメートだったヤクルト五十嵐)、「もう同じような選手は出てこないのは間違いない」(DeNAラミレス監督)といった、これ以上ない褒め言葉から、「私はたまたま93年に首位打者になったが、翌年からイチローが7年連続。タイトルを獲っておいて良かった、と思います」(西武・辻監督)といった受け狙いのぶっちゃけコメントや、「イチローになってみたい、イチローになって一日野球をしてみたいよな」(阪神・矢野監督)など思わず座布団を差し上げたくなるような笑点的破天荒コメントまで、楽しませてもらった。
海を渡ったアメリカでは、全国紙USA Todayのスポーツ専門サイトFor the winが、事実上の引退試合となった開幕二戦目の名場面ベスト5を選出している。
(1位)「ユウセイ・キクチの涙」――8回の交代シーンで、同僚一人ひとりと抱擁を交わす際、同僚の菊池雄星が号泣した。
(2位)「そしてディー・ゴードンも」――直後、イチローを“師匠”のように慕う後輩内野手も涙した。
(3位)「ケン・グリフィーJr.と抱擁」――8回の交代シーン、マリナーズが生んだ英雄であり元同僚とベンチ内で熱くハグした。
(4位)「球場に轟き渡る喝采」――試合後、グラウンドを去った後に「イチロー」の大コールが球場を包んだ。
(5位)「ウイニングラン」――大コールに応えてグラウンドに姿を現し、場内を一周しファンとの別れを惜しんだ。
何のことはない、前回ブログで触れた日本テレビ・佐藤義朗アナの“4分間の沈黙”のシーンの数々だ。実は、同じ試合を米国で中継したスポーツ専門局ESPNの実況も、サービス監督が交替を告げて、イチローがベンチに向かって歩き始めると、「これがメジャーのフィールドから去る最後の時になる」と言ったのを最後に言葉が途切れ、その後2分38秒の間、イチローがベンチで一人ひとりと抱擁を交わし終わるまで、沈黙していたらしい。言葉は要らない・・・というドラマチックな演出は、何事も大袈裟で褒め上手が文化のアメリカでは珍しいことではないような気がする。
そのアメリカのメジャー関係者のコメントで揮っていたのは、マリナーズ入団時の監督だったルー・ピネラ氏で、徹底した準備や圧倒的な走・攻・守の能力を称賛しつつ、「イチローは野球という競技のアンバサダー(大使)だ。ずっとその役割を担ってきた」と語っていた。張本さんは、もっとあけすけに「興業的には大成功」と、やや皮肉を込めてコメントされていたように、コマーシャリズムの国アメリカにありがちなことではあるが、同時にアメリカは実力があれば国籍を問わず率直に敬意を表する国でもあって、今回の興業は、イチローへのリスペクト、日本の野球ファンへのサービスから、イチローをどういう形で見送るのがベストなのか考えた末のものでもあったように思う。なにしろ世界で最も野球好きなのはアメリカと日本だという連帯意識がある。投手では野茂が、野手ではイチローが、その後、続々と日本のトップ選手がアメリカに渡って腕試しする先鞭をつけたという意味で、商業的に嬉しいだけでなく、野球の本家・アメリカにとってこれほど名誉なことはなく、そんな野球で結ばれた特別な関係にある日・米の間のアンバサダー(大使)と呼ぶのは至言だろう。本来、野球ではなくクリケットの国イギリスでも、公共放送BBC電子版ニュースやガーディアン紙でイチロー引退が報道されたのは、本家アメリカを超えるイチローの実力に喝采を送るとともに、ある意味でちょっと羨ましい日米関係をやっかんでいるようにも見える。
これほど様々なコメントや反応が拾われるのは、ツイッターやインスタグラムが普及した時代ゆえであろう。
マリナーズの公式インスタグラムには、イチローが試合後のロッカールームで、チームメートに対し引退を報告するシーンと思しき画像が公開された。イチローの背後から、真剣な表情のチームメートを捉えた絶妙のショットで、どんな話をしているのか、晴れがましくも万感の思いが籠る、大写しの背番号51が、何よりも雄弁に物語っているようだった。
さらに菊池雄星のインスタグラムには、ほろっとした。イチローの現役ラストゲームで奇しくもメジャー・デビューを果たし、4回2/3で降板して初勝利とはならなかったものの、二人にとって運命めいた試合は、彼にとって想い出深い試合になったことだろう。インスタグラムに掲載されたのは、東京ドームの通路を、何やら話しながら歩く背番号51と18の2ショットだった。試合後の会見でイチローへの思いを問われて、ぎゅっと唇を固く結び、涙をこらえるように上を向きながら、1分間の沈黙の末、「幸せな時間でした」「キャンプからこの日まで、イチローさんは『日本でプレーできることはギフト』とおっしゃいましたが、僕にとってはイチローさんとプレーできた時間というのが、最後のギフトでした」と、なかなかナイスな言葉を絞り出したものだったが、インスタグラムにも「イチローさんとプレーした時間は大切な宝物になりました。マウンドから見るライトの景色をずっと忘れません」と再びナイスなコメントを添えていた。
菊池雄星というピッチャーは、これまで余り気にかけていなかったが、是非、イチローの思いを繋いで、マリナーズで頑張って欲しいと思わせるほどの、座布団二枚の名セリフだった。
この週末は、いろいろイチロー特集が組まれたり、足跡を辿る記事があったり、あるいはまた親交のある球界や芸能界の著名人による賛辞が続いたりで、いつまでも興奮冷めやらぬ状況にあった(苦笑)。
私が最も注目していたのは、日曜朝のTBS「サンデーモーニング」スポーツコーナーで球界のご意見番とも言うべき張本勲さんのコメントだったが、いつもの辛口はすっかり影を潜め、らしからぬ(!?)ねぎらいの慈愛に充ち満ちていた(笑)。「もう言い尽くしているからねえ。ないですよ。とにかくご苦労さん、ありがとう。日本プロ野球界の出身者が一時はアメリカ野球界を引きずり回しましたからね。そういうことを言っても過言じゃないからね」で始まり、「もう至れり尽くせり。もう褒めることばっかり。何か欠点を言えといったらホームランが少ないというだけ。それも持ち味だから。どこを探しても欠点はない。走攻守」と締めて、いつもにはない感慨深げな「あっぱれ」を出されたのが印象的だった。
ほかにも球界ゆかりの方々のコメントが多数とりあげられた。「どこに投げても打たれる打者。配球が通用しない。敵ながらあっぱれ」(現役時代も捕手として対戦した中日・伊東ヘッドコーチ)、「一つ言うと百わかるような感性の良さを感じさせる選手だった」(オリックス時代に指導したソフトバンク新井2軍打撃コーチ)、「野球界に、華やかさがなくなっちゃう」(2012年にヤンキースでチームメートだったヤクルト五十嵐)、「もう同じような選手は出てこないのは間違いない」(DeNAラミレス監督)といった、これ以上ない褒め言葉から、「私はたまたま93年に首位打者になったが、翌年からイチローが7年連続。タイトルを獲っておいて良かった、と思います」(西武・辻監督)といった受け狙いのぶっちゃけコメントや、「イチローになってみたい、イチローになって一日野球をしてみたいよな」(阪神・矢野監督)など思わず座布団を差し上げたくなるような笑点的破天荒コメントまで、楽しませてもらった。
海を渡ったアメリカでは、全国紙USA Todayのスポーツ専門サイトFor the winが、事実上の引退試合となった開幕二戦目の名場面ベスト5を選出している。
(1位)「ユウセイ・キクチの涙」――8回の交代シーンで、同僚一人ひとりと抱擁を交わす際、同僚の菊池雄星が号泣した。
(2位)「そしてディー・ゴードンも」――直後、イチローを“師匠”のように慕う後輩内野手も涙した。
(3位)「ケン・グリフィーJr.と抱擁」――8回の交代シーン、マリナーズが生んだ英雄であり元同僚とベンチ内で熱くハグした。
(4位)「球場に轟き渡る喝采」――試合後、グラウンドを去った後に「イチロー」の大コールが球場を包んだ。
(5位)「ウイニングラン」――大コールに応えてグラウンドに姿を現し、場内を一周しファンとの別れを惜しんだ。
何のことはない、前回ブログで触れた日本テレビ・佐藤義朗アナの“4分間の沈黙”のシーンの数々だ。実は、同じ試合を米国で中継したスポーツ専門局ESPNの実況も、サービス監督が交替を告げて、イチローがベンチに向かって歩き始めると、「これがメジャーのフィールドから去る最後の時になる」と言ったのを最後に言葉が途切れ、その後2分38秒の間、イチローがベンチで一人ひとりと抱擁を交わし終わるまで、沈黙していたらしい。言葉は要らない・・・というドラマチックな演出は、何事も大袈裟で褒め上手が文化のアメリカでは珍しいことではないような気がする。
そのアメリカのメジャー関係者のコメントで揮っていたのは、マリナーズ入団時の監督だったルー・ピネラ氏で、徹底した準備や圧倒的な走・攻・守の能力を称賛しつつ、「イチローは野球という競技のアンバサダー(大使)だ。ずっとその役割を担ってきた」と語っていた。張本さんは、もっとあけすけに「興業的には大成功」と、やや皮肉を込めてコメントされていたように、コマーシャリズムの国アメリカにありがちなことではあるが、同時にアメリカは実力があれば国籍を問わず率直に敬意を表する国でもあって、今回の興業は、イチローへのリスペクト、日本の野球ファンへのサービスから、イチローをどういう形で見送るのがベストなのか考えた末のものでもあったように思う。なにしろ世界で最も野球好きなのはアメリカと日本だという連帯意識がある。投手では野茂が、野手ではイチローが、その後、続々と日本のトップ選手がアメリカに渡って腕試しする先鞭をつけたという意味で、商業的に嬉しいだけでなく、野球の本家・アメリカにとってこれほど名誉なことはなく、そんな野球で結ばれた特別な関係にある日・米の間のアンバサダー(大使)と呼ぶのは至言だろう。本来、野球ではなくクリケットの国イギリスでも、公共放送BBC電子版ニュースやガーディアン紙でイチロー引退が報道されたのは、本家アメリカを超えるイチローの実力に喝采を送るとともに、ある意味でちょっと羨ましい日米関係をやっかんでいるようにも見える。
これほど様々なコメントや反応が拾われるのは、ツイッターやインスタグラムが普及した時代ゆえであろう。
マリナーズの公式インスタグラムには、イチローが試合後のロッカールームで、チームメートに対し引退を報告するシーンと思しき画像が公開された。イチローの背後から、真剣な表情のチームメートを捉えた絶妙のショットで、どんな話をしているのか、晴れがましくも万感の思いが籠る、大写しの背番号51が、何よりも雄弁に物語っているようだった。
さらに菊池雄星のインスタグラムには、ほろっとした。イチローの現役ラストゲームで奇しくもメジャー・デビューを果たし、4回2/3で降板して初勝利とはならなかったものの、二人にとって運命めいた試合は、彼にとって想い出深い試合になったことだろう。インスタグラムに掲載されたのは、東京ドームの通路を、何やら話しながら歩く背番号51と18の2ショットだった。試合後の会見でイチローへの思いを問われて、ぎゅっと唇を固く結び、涙をこらえるように上を向きながら、1分間の沈黙の末、「幸せな時間でした」「キャンプからこの日まで、イチローさんは『日本でプレーできることはギフト』とおっしゃいましたが、僕にとってはイチローさんとプレーできた時間というのが、最後のギフトでした」と、なかなかナイスな言葉を絞り出したものだったが、インスタグラムにも「イチローさんとプレーした時間は大切な宝物になりました。マウンドから見るライトの景色をずっと忘れません」と再びナイスなコメントを添えていた。
菊池雄星というピッチャーは、これまで余り気にかけていなかったが、是非、イチローの思いを繋いで、マリナーズで頑張って欲しいと思わせるほどの、座布団二枚の名セリフだった。