キダ・タローさんがそのように呼ばれていたとは存じ上げなかった。そう名付けられたのは、最高顧問と持ち上げられていた関西の深夜番組「探偵!ナイトスクープ」でのことで、番組出演は1989年以降というから、確かに私が大阪を離れてからのことになる。大阪では知らない人はいない、テレビ番組のテーマ曲やCMソングを数多く手掛けられた作曲家で、ご本人も分からないというその数は5千曲にのぼると言われる。「プロポーズ大作戦」や「ラブアタック!」「ABCヤングリクエスト」などの軽快で親しみやすいテーマ曲や「かに道楽」「551蓬莱」「日清出前一丁」などの瞬間的なノリの良さでは天才的なCMソングは今も耳に残る。そんなキダ・タローさんが一昨日に亡くなった。享年93。
私が、と言うよりもむしろ、今は亡き母が、パート勤めをしていた事務所が勤務時間中でもラジオを流しっ放しという奔放な、と言うべきか、さばけた環境で、キダさんの番組(フレッシュ9時半!キダタローです)でリクエスト葉書が読まれたと言ってはよく自慢していたのを思い出す。
丁寧な関西弁で毒舌を吐くとも評されて、関西人にありがちの、どこまでが本気でどこからが冗談なのか分からない、人を食ったような、いつもユーモアと笑いに溢れた楽しい方だった。
近親者のみで行われた葬儀にも参列したほど親しい仲の円広志さんが、かつて人間関係で悩んだときに長い文章を書いて相談したら、一言、「あまり人に近づかんこっちゃ」と返して来られたらしい。無類の人好きには違いないけれども、その陰にはキダさんなりのご苦労もあったであろうペーソスを感じさせ、回りくどくない簡潔な一言にこそ込められた優しさには、思わずホロリとさせられる。
不思議な存在感のあるお人柄を忍びつつ、合掌。