人たらしの安倍元総理と違って、人付き合いが余り得意そうには見えない石破総理がトランプ大統領と上手く付き合って行けるのか、今風の言い方をすればケミストリーが合うのか、多くの日本国民が固唾を飲んで見守った(と思う)日米首脳会談だったが、トランプ大統領が気持ち悪いくらいに好意的に迎えてくれて、徹底的に予行演習した甲斐もあったのか、「まずまずの滑り出し」(朝日新聞)となったようだ。
ケミストリーということで言えば、石破さんの最大の武器は、日本人には珍しいプロテスタントで、トランプ氏と同じ長老派に属することだろう(舛添要一さんからの請け売り)。知人の自衛隊の元幹部が石破さんと懇意なので、訪米の際には是非、宗教的行事を演出してはどうかと提案したことがある。アメリカは当然、石破さんの周辺は調べ尽くしてトランプさんにインプットしているだろうから、トランプさんが気持ち悪いくらいに好意を見せたのはそのあたりの事情によるのかもしれない。
また、米国が仮に日本からの輸入品に対して関税を引き上げた場合に報復措置をとるかどうか尋ねられた石破さんは、「『仮定のご質問にはお答えをいたしかねます』というのが日本の定番の国会答弁でございます」と回答を避け、日本の記者の反応は冷淡だったが、米国の記者はジョークと受け止めて大きな笑いが起たそうだ。トランプ氏も「名答だ。ワオ!彼はよく分かっているね」と石破氏の回答を気に入っていた(毎日新聞)という。用意周到の賜物だろう。
他方で、椅子のひじ掛けに左ひじを置いたままトランプ大統領の握手に応じて、お行儀がよろしくないと、またしてもケチがついた。確かに、威風堂々の政治家然とした、というのが染みついているのだろう、海外慣れしておらず、洗練されているとは言えない、不器用なほどに勿体を付けた石破さんの立ち居振る舞いは、日本ではともかくとして、海外では(海外の、と言うより中国人民の目を気にする)習近平くらいしか見当たらず、世間の常識から外れているように見える。
贈り物に、このあたりの性格が表れているように思う。石破さんは地元・鳥取市に本社がある「人形のはなふさ」の兜飾り「亜麻色縅満天金星兜」(16万8千円也)を選んだ。安倍さんが金色のゴルフクラブを贈呈したのとは対照的だ。石破さんには伝統的な政治家らしい格式ばったものを感じのに対して、安倍さんにはフランクでプラクティカルで、トランプさんのような奇人変人の懐にも飛び込む、ある種の奔放さを感じる。しかし、それは飽くまでスタイルの違いに過ぎない。
また、かつての宿敵・安倍さんのレガシーに頼ってばかりと揶揄する声や、共同記者会見の後にトランプ大統領が握手もせずに立ち去ったのを不安視する声もあがった。実際に、安倍昭恵さんの電撃訪問には絶大なる効果があっただろうし、天皇陛下の祝電は、国賓として来日した方への当然のご挨拶だったのかもしれないが、やはり共和国にとって皇紀2685年になんなんとする皇室の威光はハンパではないだろう。この際、使えるものは立っている親だろうがなんだろうが使って、日本の力を総動員し、この難局・・・ヨーロッパで軍事大国が仕掛けた戦争が続き、中東で権力の空白が懸念され、東アジアでパワーバランスが崩れつつある・・・を乗り切り、何かと日本の政治家やメディアが異常に気にする日米関係のみならず、地域の、ひいては世界の秩序を守るために、石破総理のご活躍に期待したいと思う。