岡田監督のときに阪神が優勝した2005年の翌年、ということでよく覚えている。
2006年の秋に、某名門大学野球部の3回生たちに就職活動や社会人生活について教えてやってほしいと、同部のOBである会社の大先輩から頼まれ、講演をしたことがある。2時間くらいあるから自由にやったってくれ、ということだったが、就活や会社の話だけで長時間しゃべっても、彼らも退屈するだろうと思い、後半は野球ネタを取り入れた。
最初に、当時読んだ『マネー・ボール』(マイケル・ルイス著)の話。メジャーリーグの貧乏球団・オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMが、セイバーメトリクスと呼ばれる独自の科学的分析手法を用いて、プレーオフ常連の強豪チームを作り上げていく様子を描いたノンフィクションである。
アスレチックスが打者に対して重要視する要素は、打率ではなく四死球も含めた出塁率。ビーンの定義に基づけば、「アウトにならない確率 ― 打者の投手に対する勝率」である。打率は高いに越したことはないが、高打率の選手はコストがかかるため、打率が多少低くても出塁率の高さを優先して、それほど年俸の高くない選手を獲得する方針をとる。
そこから、出塁率の高さがどのように勝利に結びつくのか、タイガースの金本知憲を例にとって説明した。まず質問。「昨年2005年のセ・リーグの首位打者は誰でしたか?」。「ヤクルトの青木です」、すぐに答えが返ってくる。「そやね。じゃあ、打率2位は?」。ちょっとざわざわとして、何人かが「金本ちゃいますか?」。さすが野球青年たち、正解。青木.344、金本.327。一方、四死球は青木42、金本101と金本の方が圧倒的に多く、結果出塁率は、青木.387、金本.429だった(同年の最高出塁率タイトルは中日・福留の.430)。そして、塁に出る4番金本の後を5番今岡が打ち、今岡が打点王、金本は最多得点をマークし、阪神のリーグ優勝に大きく貢献する。
金本は、2003年に広島から阪神にFA移籍後4番を任され、同年と2005年にチームをリーグ優勝に導く。打率やホームランといった打撃成績での貢献はもちろんのこと、この3年間、四死球の数はセ・リーグトップで、出塁率はずっと4割を上回っている。もちろん期間中、連続フルイニング出場を続けており、この2006年4月に世界記録を達成した。彼が、決して派手な実績だけでなく、体調と体力を維持しながら、地味なところでいかに貢献しているかということを、おこがましくもプロ野球選手を何人も輩出している名門野球部員たちの前でペラペラとしゃべらせてもらった(その後、彼らは『マネー・ボール』を何冊か買って部員たちで回し読みしたらしい)。
その頃から、私の金本に対する評価は一貫して「地味な男」。不動の4番バッター、抜群の存在感、皆からアニキと慕われる人柄、とかく華々しいイメージが前面に出がちだが、それを支える陰の努力やひたむきさをずっと感じてきた。インタビューなどを聞いてても、自分から出張ろうという態度は決してない。そして接するほどに人から慕われ、担ぎ出されるタイプのリーダーなのだ。
関東での最終試合後の挨拶ではヤクルトにユーモアたっぷりの御礼を述べ、甲子園での引退試合後の挨拶ではDeNAや中畑監督をイジって会場を沸かせたが、セレモニーの場を用意してくれた相手に対する感謝の気持ちを金本らしく表している。
引退発表の記者会見では、「今までで一番誇れる記録は何ですか?」という質問に対し、1492試合連続フルイニング出場の世界記録でもなく、2001年に樹立した1002打席連続無併殺打の日本記録を挙げた。「内野安打にならない局面でも、全力で一塁に走ってゲッツーにならなかった。フルイニングよりも誇りに思う」。いかにもアニキらしい地味なこだわりであり、それこそが金本知憲の真骨頂なのだ。
引退試合のスピーチ、締めの言葉は「野球の神様、ありがとうございました」。
まさに「野球の神」は細部に宿っている。
2006年の秋に、某名門大学野球部の3回生たちに就職活動や社会人生活について教えてやってほしいと、同部のOBである会社の大先輩から頼まれ、講演をしたことがある。2時間くらいあるから自由にやったってくれ、ということだったが、就活や会社の話だけで長時間しゃべっても、彼らも退屈するだろうと思い、後半は野球ネタを取り入れた。
最初に、当時読んだ『マネー・ボール』(マイケル・ルイス著)の話。メジャーリーグの貧乏球団・オークランド・アスレチックスのビリー・ビーンGMが、セイバーメトリクスと呼ばれる独自の科学的分析手法を用いて、プレーオフ常連の強豪チームを作り上げていく様子を描いたノンフィクションである。
アスレチックスが打者に対して重要視する要素は、打率ではなく四死球も含めた出塁率。ビーンの定義に基づけば、「アウトにならない確率 ― 打者の投手に対する勝率」である。打率は高いに越したことはないが、高打率の選手はコストがかかるため、打率が多少低くても出塁率の高さを優先して、それほど年俸の高くない選手を獲得する方針をとる。
そこから、出塁率の高さがどのように勝利に結びつくのか、タイガースの金本知憲を例にとって説明した。まず質問。「昨年2005年のセ・リーグの首位打者は誰でしたか?」。「ヤクルトの青木です」、すぐに答えが返ってくる。「そやね。じゃあ、打率2位は?」。ちょっとざわざわとして、何人かが「金本ちゃいますか?」。さすが野球青年たち、正解。青木.344、金本.327。一方、四死球は青木42、金本101と金本の方が圧倒的に多く、結果出塁率は、青木.387、金本.429だった(同年の最高出塁率タイトルは中日・福留の.430)。そして、塁に出る4番金本の後を5番今岡が打ち、今岡が打点王、金本は最多得点をマークし、阪神のリーグ優勝に大きく貢献する。
金本は、2003年に広島から阪神にFA移籍後4番を任され、同年と2005年にチームをリーグ優勝に導く。打率やホームランといった打撃成績での貢献はもちろんのこと、この3年間、四死球の数はセ・リーグトップで、出塁率はずっと4割を上回っている。もちろん期間中、連続フルイニング出場を続けており、この2006年4月に世界記録を達成した。彼が、決して派手な実績だけでなく、体調と体力を維持しながら、地味なところでいかに貢献しているかということを、おこがましくもプロ野球選手を何人も輩出している名門野球部員たちの前でペラペラとしゃべらせてもらった(その後、彼らは『マネー・ボール』を何冊か買って部員たちで回し読みしたらしい)。
その頃から、私の金本に対する評価は一貫して「地味な男」。不動の4番バッター、抜群の存在感、皆からアニキと慕われる人柄、とかく華々しいイメージが前面に出がちだが、それを支える陰の努力やひたむきさをずっと感じてきた。インタビューなどを聞いてても、自分から出張ろうという態度は決してない。そして接するほどに人から慕われ、担ぎ出されるタイプのリーダーなのだ。
関東での最終試合後の挨拶ではヤクルトにユーモアたっぷりの御礼を述べ、甲子園での引退試合後の挨拶ではDeNAや中畑監督をイジって会場を沸かせたが、セレモニーの場を用意してくれた相手に対する感謝の気持ちを金本らしく表している。
引退発表の記者会見では、「今までで一番誇れる記録は何ですか?」という質問に対し、1492試合連続フルイニング出場の世界記録でもなく、2001年に樹立した1002打席連続無併殺打の日本記録を挙げた。「内野安打にならない局面でも、全力で一塁に走ってゲッツーにならなかった。フルイニングよりも誇りに思う」。いかにもアニキらしい地味なこだわりであり、それこそが金本知憲の真骨頂なのだ。
引退試合のスピーチ、締めの言葉は「野球の神様、ありがとうございました」。
まさに「野球の神」は細部に宿っている。