週明け11月16日のNY市場の金価格は、小幅上昇で取引を終了した。先週末のパリで発生した同時多発テロ。非人道的襲撃を受けたことから来るショックは大きかったものの、市場はおおむね冷静に反応することになった。事件の詳細が伝えられたのは、株式などNY市場の取引が終了してからのこと。したがって週明けアジアの時間帯の各市場の反応が注目された。事件の性格上、当然ながらリスク・オフ(リスク資産回避)という印象は強く、まず各市場ともにその線での反応となった。アジア市場では株が売られ、為替市場では例えばドル円は円買いの動きが起きることになった。金市場では、いわゆる「有事」という範ちゅうの材料に反応するかたちで買いが見られることになった。この辺りは市場関係者の誰もが、予想するところではある。
アジアの取引時間帯早々から買い優勢で始まった金市場は、短期筋と見られる買いとファンドの売り建ての買戻し(ショートカバー)に水準を切り上げながら進行し、ロンドンの取引時間帯に入る前に1100ドルに接近した。しかし、上昇基調もここまで。その後は取引を開始した欧州金融市場の冷静な反応を横目に静かに売り先行の展開に流れが変わることになった。
いわゆる「有事の金」と呼ばれる上昇相場が短命に終わるのは、過去30年余りの経験則が教えるところ。金市場は初動段階こそ買いで反応するものの、後は時間の経過とともに事態への対応策や他市場の反応を織り込む形で金市場も沈静化という経過をたどることになる。発生した事件や事故の規模や衝撃の大きさにもより持続時間に差はあるが、たどる経過はおおむね同じといえる。やがて事件・事故発生前の環境にそったそれまでの値動きに収れんする。そして次なる動きを注視というパターン。記憶にあるのは、2005年7月7日に発生したロンドンでの同時爆破事件がある。この時は、4~5時間で市場の反応は落ち着くことになった。つまり「有事」を境に金価格のトレンドが変わる例は少ない。
実際に16日の市場の展開も、そのような足取りをたどることになった。NYの早朝に1090ドル台で推移した価格は、通常取引入り以降はロンドンの時間帯に転じた売りが先行する流れの中で静かに値を消す展開(上げ幅を削る展開)に。結局、NYコメックスの通常取引は前日比2.70ドル高の1083.60ドルで終了した。ここからは、再び米利上げ観測に影響を与える経済指標の結果やFRB高官の発言などが材料となりそうだ。また、価格水準の低下にともなったアジアを中心とした実需買いがサポート役となる展開にも変わりはないとみられる。このところのドル建て金価格は、NY市場の7月24日に記録した取引時間中の安値1072.30ドルを維持できるか否かに市場関係者の関心も集まっている。今回の事件は、世界のリスク要因ということで、客観的にはその支えの材料のひとつという捉え方となりそうだ。