米ドルの値下がりが続いている。このように書くと、はて?17日のNY時間の取引でドル円相場は8月1日以来となる150円台に入るドル高(円安)で、同日に0.25%の連続利下げを決めた欧州中銀(ECB)の動きもあり、対ユーロでもドルは上昇している中で、なぜドルは下がっているのかと思われるだろう。ドルの値下がりは、対ゴールド(金)でのこと。17日のNY市場では、1トロイオンスのゴールドを取得するのに一時2712.70ドル必要になった。2カ月前は2500ドルほど用意すれば十分だった。
足元で起きている金(ゴールド)の上昇を的確に表すならば、こうした捉え方がふさわしいと思う。新興国中央銀行が外貨準備のポートフォリオの見直しにあたり、ゴールドの比率を上げているのは、いまや広く知られている。ここに来て、遅ればせながら欧米機関投資家の中でも資産の一部をゴールドへ転換する動きが進んでいる。一方、すでに取得済みの各種投資ファンドならびに一般個人を含む投資家は、ここまでの歴史的な上昇で含み益が膨らむ、いわば退蔵することの成功体験の積み重ねによる強固な先高観から、価値の上がったゴールドを手放そうとしない。リサイクルと呼ばれる金製品などの売り戻しも、価格上昇との相関性が大きく落ちている。一方、鉱山生産は価格展開を見ながら短期で増減できるほどの柔軟な産業ではないゆえに、供給に大きな変化は見られない。かくして現物需給はかつてなく締まった状態が続き、水準切り上げが早くなってる。少なくとも過去40年余りの間、見られなかった状況が金市場に生まれている。
前置きはともかく、10月17日のNY金価格は3営業日続伸し、3週間ぶりに最高値を更新した。前日同様に主要通貨に対しドルが上昇し、この日は米長期金利も上昇する中にもかかわらず、買い優勢の流れが続いた。通常取引は、前日比16.20ドル高の2707.50ドルで終了。9月26日の2694.90ドルを上抜き終値ベースでの最高値更新となる。同様に一時2712.70ドルドルは取引時間中(ザラバ)の高値更新となる。
この日発表された小売売上高が予想を上回り、消費の堅調さを示唆する結果となったが、それをもってしても米連邦準備理事会(FRB)による緩やかな利下げは継続される見通しに変わりはない。1回あたりの利下げ幅や利下げ回数を減らすことはあれ、利下げサイクルは続く。
むしろ約3週間後に迫る大統領選挙が懸念材料だ。両候補とも支持率は拮抗し接戦が続いている。
思えば24年年初、世界の地政学リスク分析で知られる米ユーラシア・グループ(イアン・ブレナー代表)は、年初のレポートでこう指摘した。前文から抜粋すると、「前例のないほど機能不全に陥った米国の選挙は、世界の安全保障、安定、経済の見通しに多大な影響を与えるだろう」、「勝敗はほんの一握りの激戦州の数万人の有権者によって決定される。負けた側はその結果を不当なものと考え、受け入れようとしないだろう」と書いた。米政治の分断は、近いところでは12月22日に期限を切ったつなぎ予算はじめ、25年度予算の成立を阻害し、債務上限の切り上げなど米政治機能を名実ともに低下させるだろう。債務上限は最終的には切り上げられると高をくくる見方があり、確かにそうだろう。しかし、ギリギリの攻防こそが問題だ。大手格付け会社は、手ぐすね引いて米国債の格下げ発表を準備している。
足元のNY金の上昇だが、ヘッジ需要が押し上げている。この時間も高値更新中。
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