前週末に続き米国株の下げが続いた。といっても、NY時間外のアジアの午後辺りから米株インデックス先物の下げ幅が拡大しており、下げ幅、下げ率がどの程度になるかが関心事だった。このところ注目しているS&P500種は報じられているように高値から下げが20%を超え、ベアマーケット入りすることになった。先週末の米5月のCPI(消費者物価指数)に加え、昨日取り上げたミシガン大学の消費者信頼感指数のインフレ予想の高まりが、FRBをさらに強硬姿勢を強めさせるとの解釈が、市場全般をさらに揺さぶった。「CPIショック Day2」というイメージだが、理由があった。
どちらかというと普段はマイナーなレポートで注目度が低いが、NY連銀の消費者調査が発表され、米消費者の1年先のインフレ期待が前月から0.3%ポイント上昇し6.6%となったと報告された。もちろん調査項目は他にもあるが、いまは予想インフレ率が旬のデータとなる。3年先のインフレ期待は横ばいの3.9%だった。2営業日連続で消費者のインフレマインドの高まりが示されたわけだ。
インフレの加速に加え、FRBが恐れるインフレマインドの高まり。金融市場から商品市場まで横断的に値動きが大きくなり、この日はNY金までその渦に巻き込まれることになった。
このところ株式市場を中心に、インフレのピークアウトに対する期待が高まり、それを前提に組まれていた取引(ポジション)を一斉に巻き戻す(解消する)動きが加速した。その過程で生まれる値動きが、派生的に新たな値動きを生むことになる。
FRBが利上げペースを加速させるとの見方から、先行きの価格下落を読み米国債に幅広く売りが広がり、利回りは短期から長期債まで押しなべて急騰した。米10年債利回りは3.3%台に上昇する一方で、対ユーロを中心にドルが買われ、ドル指数(DXY)は5月13日に付けていた高値を上抜き、105.078と2002年12月以来の高値で終了。こうなるとさすがに金も強烈な逆風に抗しきれず水準を切り下げた。NYの通常取引に入り節目の1850ドルを割れると下げは加速。結局、通常取引は1831.80ドルで終了した。前週末の上げ幅をすべて失った。時間外取引もさらに売られ1820.20ドルで終了ということに。
数年ぶりの水準への米債利回りの上昇、20年ぶりの高水準のドル指数に、ファンドのロボットトレードが断続的に売りを出したと思われる。 さらに年初来でプラス圏を維持するNY金には、他資産の清算に伴う資金確保の売りも出たとみられる。いわゆる流動性の高さ(換金のしやすさ)から市場が極度に不安定化した際に金はキャッシュアウト(現金演出)の対象となることがある。ただしこの種類の売りは一巡するのも早く、早晩落ち着くものと思われる。
本日から始まる米連邦公開市場委員会(FOMC)では、50bp(0.5%)の利上げ実施が織り込み済みだが、繰り返すがインフレ加速に加え、開催直前になり明らかになった一般のインフレマインドの高まりが政策判断に影を落とすことになりそうだ。
注目されたのは、13日の現地時間夕刻に米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)が、同紙のFEDウォッチャーとして知られる記者(Nick Timiraos)による署名記事にて「予想を上回る75bpの利上げで市場を驚かせることを検討する可能性が高い」と報じたこと。 インフレマインドの上昇に対応したFRBの行動を読んだものだが、一般的には直前に発表された指標を判断材料にすることは稀とされる。ただし、かかる状況下では、そんなことは言っていられないだろう。予想インフレ率上昇の結果を受けた分析記事だが、事前取材でFRB高官が「経済が予想していた通りに推移するかどうかで(利上げ)見通しは変わってくる」と述べていたとされる。「市場を驚かせる」という表現は、まさにインフレマインドを沈静化させるためのサプライズを演出するということのようだ。
しかし、いきなり75bpの利上げ発表では、株価の急落などさらなる混乱は避けられないだろう。 ちなみにWSJ紙は前日まで75bpの利上げ見通しには否定的な見方だったとされる。そこで、この報道はFRBによるリークではないかとの憶測が生まれる。実際にWSJ報道を受け、ゴールドマン・サックスのチーフ・エコノミストは見通しを修正した。6、7月ともに50bpでなく75bpの利上げを実施し、早々に政策金利を2.5%の水準に切り上げた上で、9月に50bpの利上げをするとした。
インフレマインドの上昇を抑えるショック療法といえるが、75bp利上げは十分あるシナリオと思う。さてどうなるか。面白くなってきた。