やはり5月CPI(消費者物価指数)の上振れが、ここまでの押し目買い成功体験を覆すことになったようだ。株の信用取引残高(Margin Debt)が3月、4月の下げの割には減り方が少なく、投げが出ていないのは明らかで、ここまでの押し目買いの成功体験が依然として幅を利かせているのだろうと思い眺めてきた。
具体的には2月8352憶ドル、3月7996憶ドル、4月7729憶ドルと減り方が緩やかだった。5月はさすがに減少幅が拡大したと思うのだが、発表が最終週なので実態は不明。ちなみにピークは21年10月で9358憶ドルだった。当時はいわゆるFAANG+Tが日本含め世界のカネを集めて大騒ぎ状態だった。背後にインフレは一時的としてハト派スタンスの維持を公言するFRBが控えていた。
わずか8カ月前だが、それも今や昔。3月の25bp(0.25%)、5月の50bpとタカ派的スタンスに転換した方針を受け、30年固定の住宅ローン金利は昨年末の3.1%から5月中旬には約13年ぶりの高水準となる5.3%まで上昇し、住宅需要を冷し始めている。もちろん冷えないと困るわけで、それがFRBのインフレ抑制の手段なのだから。
同じように信用貸付の金利も5月FOMC直後に切り上げられた。各社一律ではないが、米証券チャールズ・シュワブン場合、ベース金利が7.25%で借入額により上乗せ金利が決まる。2万5000ドル未満の小口に適用されるのは1.825%乗せて9.075%となっている。言うまでもなく結構な負担ということになる。今週のFRBの利上げで、ベース金利も上がると思われる。
インフレピークアウト観測は、今回のCPIの上振れで霧消することになったが、正直言って単月のデータでは何とも言えないが、今回の結果が想定通り市場心理暗転の引き金を引いたのは間違いなかろう。こうなるとMargin call(追証)の発生ということになる。信用残の整理も進むことになる。もっとも、株価の下げと言っても、多くの機関投資家が指標にするS&P500種は直近高値からの下げが20%を超える「弱気相場入り」には至っていないわけで、今週その段階に至ると見られるが、まだその段階にすぎない。ここで切り返せば、やはり押し目買いが成功だったとなるが、そうは環境(インフレ)が許さない。いずれにしても「引き潮の時間帯」なのだから。
〇5月CPI以上の衝撃 ミシガン大学6月消費者信頼感指数
もうひとつCPIとは別に注目されたのが、同じ10日発表された6月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)の歴史的水準への低下だった。 5月の確報値58.4から8.2ポイント低下し50.2と過去最低を記録した(データが遡れる1952年以降で最低を更新)。ガソリン価格の急騰でインフレへの警戒感がさらに高まったとされる。過去70年のデータ上ではあるが、1970年代および80年代のオイルショックや、同時多発テロ、ITバブル崩壊、リーマンショック、新型コロナ禍でも見られなかった水準への消費者心理の悪化が見られていることになる。
さらに注目されたのが、調査項目の予想インフレ率の上昇だった。3%程度で安定して推移していた5年先の予想インフレ率(期待インフレ率)が今回0.3ポイント上昇し3.3%に高まっていた。08年6月以来の高水準となるが、消費者の物価観が上向くことは(期待インフレ率の上昇)、賃金と物価の循環的な上昇につながる重要要因であり、FRBがもっとも警戒するものでもある。1年先の物価見通しは0.1ポイント上昇し5.4%になったが、それよりも中期的な見通しが0.3ポイントも切り上がったことがFRBには脅威だろう。高インフレ定着の兆しともとれるものだから。 5月初めのFOMCにてFRBが大きくインフレ抑制に向け強い引き締め策に転じたことを宣言し見通しも示したが(フォワードガイダンス)、消費者のインフレマインドは沈静化せず、むしろ高まっていることを表す。
市場の一部に、FRB75bpの利上げ観測が浮上したが、ミシガンの結果を受けたものと思われる。