を読む。ヘロドトス著。岩波文庫。
タイトルから「歴史の教科書」を連想して、読まず嫌いしている人も多いだろう。ワシもその一人だったが、内容はそんなものではない。ペルシア戦争を本筋とする軍記物で、実に生臭い。
イオ、メデイア等、神話上の人物がいきなり出てきて驚かされる。神話と歴史がごちゃまぜになっているのにゃ。「西洋の没落」でシュペングラーが、「古代ギリシア人に歴史はなかった」と言っているのはこのことか。
ペルシア戦争は、単純な「文明の衝突」ではなかったことがわかる。「民主制のギリシアと独裁制のペルシアの戦い」というのは大ウソで、ギリシアにも独裁者は大勢いた。彼らは私利私欲のために、ギリシア側についたり、ペルシア側についたりする。1回目の戦争が始まるのは、ギリシア人のある独裁者に唆されたアテナイ軍が、ペルシアを攻撃したせい。2回目は、アテナイを追放された独裁者が、復権のためにペルシアのクセルクセス王にギリシア征服を進言して、始まる。
戦争が始まってからの人間関係、利害関係も錯綜している。たとえば、サラミスの海戦の英雄テミストクレス。この男は戦争のどさくさに紛れて同じギリシア人に掠奪行為を働き、私腹を肥やしている。そして、10年後にはアテナイから追放され、ペルシアに亡命するのだ。このへんは、歴史の教科書には出てこない暗部だ。
実は戦争に関する記述は半分くらいで、あとはペルシア、エジプト、スキュタイ等の歴史や風俗(フーゾク)に関して書いてある。それらの余談が、楽しい。
「女と申すものは、下着とともに、恥らいの心をも脱ぎ去るものでございます」、という名言で始まる、史上初のピーピング・トムの話。
「ペイシストラトスは新しい妻から子の生れるのを望まず、不自然な仕方でしか夫婦関係をもたなかった」。これがアナルセックスを指しているのは、いうまでもないだろう。
バビロニアの女性は、宗教上の理由で一生に一度、必ず売春をしなければならなかった、という話。
自分が征服した土地に「おま○こマーク」の入った記念碑を残していくエジプトの王様の話。
その他、各地の民族の乱婚や屍姦の実例等々、下ネタがマン載で、まさに「教科書が教えない歴史」、いや、古代の「盛り場情報」だ。古代人はセックスと戦争に明け暮れていた。さっさと産み、さっさと死んだのだ。
「エジプトはナイルの賜物」。「 たまもの」と聞いて、授業中にエッチな連想をしてしまったのを思い出す。あれは間違いではなかった。ヘロドトスは、エロドトスだったのにゃ。