リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バッハのリュート作品(20)

2007年09月30日 21時37分27秒 | 音楽系
このマタイ受難曲の第57曲目「来たれ、甘き十字架」は、バスのアリアで、少々重い感じの付点リズムに支配された名曲です。昨日書いたように、この曲のオブリガート楽器はヴィオラ・ダ・ガンバですが、ガンバ奏者の話では技術的にすごく難しいとのことです。そりゃそうでしょう、もともとリュートのために書かれたオブリガートですから。ガンバのオブリガートが出てくるのは、長大なマタイ受難曲でこの曲のみです。といって、奏者はこの曲になったら登場して、終わったら引っ込むというのではなく、(別にそうしてもいいかもしれませんが)始めからずっとバスを弾いていて、(リュートの場合だったら、通奏低音です)57曲目になって、いざ、って感じになります。

ヨハネ受難曲の場合は、現在よく演奏する版にリュート・オブリガート付きのアリオーソ(第19曲目)がありますので、こちらの場合はリュート奏者に出番があります。でも、リュートオブリガートじゃないパート譜をどっかで見たことがありますので、別の稿ではチェンバロやオルガンがオブリガートを担当していたわけです。

ヨハネの場合、バスのパートにタスト・ソロの指示があり、(つまり和音が出る楽器で和音を重ねないということですね)弦楽器がヴァイオリンではなく、ヴィオラ・ダ・モーレになっているということは、要するに音が小さくなるような工夫がされているわけです。つまりリュート・シフトをしているということで、この曲がもともとリュートを念頭において作曲されたのではないか、という推測がなりたちます。