リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

プレリュード・フーガ・アレグロのヘ長調編曲(3)

2022年03月17日 11時04分58秒 | 音楽系
ホピー(ホプキンソン・スミス)のレッスンを受けているとき、

「この楽譜、イタリアの出版社から今度出るんだけど、今生徒でバロック・リュートに取り組んでいるのはショージだけだから一部差し上げましょう」

ということで996の楽譜を頂きました。編曲はヘ短調でした。まぁ彼はこの調で録音しているので当然楽譜も同じ調です。

「私はこの曲は嬰ヘ短調がいいと思っているんですけどね」

なんて無礼にも楽譜をくれた師匠の編曲にケチをつけてしまいました。

これは私の「1音上コンセプト」に基づくもので、996はオリジナルがホ短調ですから1音上の嬰ヘ短調ということになるわけです。

「おー、でもその調ってうまくいくのかい?」
「多分行くと思います。ラ、レの開放弦が使えるし、1,4コースのファ(ナチュラル)は、嬰ヘ短調の導音であるミのシャープとして使えます」
「なるほど・・・」

実はエラそうにコンセプトをぶち上げたのですが、一部を嬰ヘ短調に直してみたものの全曲編曲するには至りませんでした。

ところが昨年の春頃にエバンジェリーナ・マスカルディというイタリア人女性リュート奏者がYouTubeに上げた996は嬰ヘ短調で演奏しているのです。この調を使って弾いている人はいなかったので、このときはひょっとして私の「1音上コンセプト」と同じ考えで、これは先にやられたかと思いましたが、どうもそうではなかったみたいです。

エバジェリーナはここ20年来頭角を表してきた実力派で、ホピーがスコラ・カントルム退官した後の後継者として最も有力な候補と目されていました。私も彼女なら間違いないと思っていたのですが、いろいろ事情があったんでしょう、実際はユリアン・ベールがホピーのあとを継いでいます。

プレリュード・フーガ・アレグロのヘ長調編曲(2)

2022年03月17日 11時04分58秒 | 音楽系
このヘ長調版、実は私がバッハ作品を演奏するにあたって、「1音上」の調で全て演奏してはどうなのかという統一コンセプトの一環なのです。2013年のリサイタルで、995番をト短調からイ短調で演奏したのもその流れです。

これは当時のリュート奏者たちのピッチがかなり低くバッハの使っていたピッチより1音低かったのでは、という私の仮説に基づいています。

例えば997番はハ短調、998は変ホ長調、999はハ短調、ヨハネ受難曲のアリオーソのリュートパートも変ホ長調、これらの調は別にリュートで稀な調というわけではありませんが、揃いも揃ってちょっと響きにくい系の調がならんでいます。よく見てみると全て1音上はバロック・リュートに都合のいい調ばかりです。

これはもしや、と思った訳です。リュート奏者のピッチが低めだったのは1,2コースの弦が切れにくくなるようにするということだったと考えました。リュート奏者的なニ短調調弦はバッハにはハ短調調弦の楽器に聞こえていたというのが私の仮説です。でもこう考えたら全ての曲がすいすいと演奏できるようになるかというとそういうわけではないところが難しいところです。