リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠と実践(30)最終回

2023年01月17日 15時50分58秒 | 音楽系
このシリーズの最後に(少し間があいた最後になってしまいましたが)ダブル・フレットについて触れてみます。
トマス・メイスが著した理論書「音楽の記念碑(1676)」の70ページにダブル・フレットに関する記述があります。

「シングル・フレットがベスト」という則註がついていて、記述が始まります。

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最近試してみましたが一本の弦でリュートのフレットを巻く方がずっとよいということが分かりました。その理由は早く、短い弦で巻けるだけでなく、押さえたところから出る音がより鮮明になり、そしてそれは当然そうあるべきであり・・・(以下略)
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はい、メイスもこのように仰っていますが、私としてもシングルフレット一択です。最近どなたの仰ることを鵜呑みにしたか知りませんがダブルフレットを勧めてくる方がいます。そんな時間があったら楽譜の読み方を実践したり曲の練習をした方がいいです。またよくわからないアマチュアの方にそういうことをいうプロの方ももっとお言葉に責任を持つべきです。

とはいうものの、古い時代にはフレットがサワリ音(弦のビビリ音)を出すように調整されたリュート(バズ・リュート)はあったようなので、ずっと前に試したことがありましたが、再度試してみました。

使ったフレットは0.95mmと0.90mm。それらを次のように巻いて音を出してみました。

1)同じゲージを2本
2)0.95をナット側、0.90をブリッジ側
3)0.90をナット側、0.95をブリッジ側

そして2本はできるだけ接近させました。

結果は:
1)はあまりびびりません。2)はびびりません。3)はびびります。

綺麗に楽音としてびびる(日本の琵琶のサワリ音みたいな感じ)ように調整するのはとても難しいです。それに開放弦をどう調整するかという問題もあります。少なくとも今日ほとんどの方が演奏するルネサンス・リュート、バロック・リュートなどの楽器には無用の音です。薩摩琵琶みたいにサワリ音で弾くヴァイスやバッハはキワモノです。

バズサウンドは、一般的に右指で弾くときに弦にあたるビビという音のことですが、(ハープでは結構問題になるようです)一定時間、量以上になるとバズ、ビビリとして認識されます。また、特にバロックリュートみたいに弦の多い楽器で、弦を結んである部分とかペグボックスで弦が重なり合っている所から出てくるビビリ音も英語でいうとバズです。最近はやっている「バズる」もバズ(buzz)から来ているようです。