リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

年末年始のアレンジ(2)

2023年01月06日 12時31分46秒 | 音楽系
コンサートで弾く予定はないのですが、映画ディア・ハンターのテーマ曲、カヴァティーナもアレンジしてみました。アンコールピース用に前からアレンジしようと思っていた曲です。

映画のサントラではバックのオーケストラ付きギター二重奏で、ジョン・ウィリアムズのソロ用のアレンジが知られていて、ギタリストは皆その編曲を使っているみたいです。

まずジョン・ウィリアムズのアレンジを、サブスクしているScribdから探してきて見てみましたが、二重奏をソロで弾くためにあちこちいろいろ無理をしている感じがしました。編曲はホ長調ですが、このソロ・アレンジはいくつか問題もありました。例えば2小節目、八分音符の3つ目と5つ目のレ♯ですが、それだとここは3度の和音の第2転回形(シロク)になります。ここでこの転回形で使うのはあまりよろしくありません。

サントラを聞いてみますとここは主和音の7th(ミソ♯シレ♯)の第3転回形になっています。つまりジョン・ウィリアムズのアレンジは和音を変えていますし、その使い方もよろしくありません。ジョン・ウィリアムズ・ファンを敵に回したくはありませんので、ひいき目に見てみますと、まぁ、この形(シロク)で使うのは絶対にダメだというわけではありませんが、オリジナルを尊重した方がいいのではないでしょうか。なによりオリジナル通りギターで弾けないわけではありませんし。弾きにくいでしょうけど。要するに弾きやすさを重視して、和音を変えてしまったわけですが、7thや9thを入れるのはいいでしょうが、別の和音を持ってくるのは編曲としてどうなんでしょう。(もちろん和音総入れ替えの換骨奪胎編曲はアリですが、この編曲はそういう方向のものではありません)

オリジナルサントラを聴いてみてください。
オリジナルサントラ
よくわからないという方は0:05 - 0:09のセカンドギターを何度も聴いてギター用の楽譜と音を比較して下さい。

このストリートピアノ弾きさんもちゃんとやってますよ。
ストリートピアノ

もし3度の和音(ホ長調だとソ♯シレ♯)を使うとしたらバスはソ♯です。タンスマンのダンサ・ポンポーザの冒頭はI - iii(主和音-三度)という進行ですが、バスがちゃんとミ、ソ♯となっています。ここの三度は7thが入ってますけど。そういやこれもカヴァティーナつながりですね。(笑)

ということでギターのアレンジをそのままリュートに移せば簡単にアレンジできそうだと考えていましたが、これはちょっと考えが甘かったです。バロック・リュート用のアレンジは手間がかかりましたが、サントラを聞いてアルペジオのパターンをリュートに適した形で構成しました。調も三度下げてハ長調です。これでも結構無理があって、11小節目から15小節目にかけて、バスが5度下へ連続的に転調していくところは、古楽器リュートにはちょっときついところです。リュートにはそんな転調はそもそもありませんから。ここを乗り切るためにちょっと変則的ですが、バスのミ(9コース)をミ♭に調弦することにしました。

41小節目~44小節目で遠い調に転調する箇所は意外とスムーズにいきます。こういう転調はギャラントなリュート曲でときどきあることなので、バロック・リュートでもなんとか行くのでしょう。