リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュート奏法の歴史的根拠(29)

2023年01月03日 21時53分16秒 | 音楽系


この記号の奏法についての説明です。

しかし、これと同じことを低音絃で行った場合、確かに性質は同じであるが、その表現の効果が前者とは全く異なっている。肝心な点は次にある。適切な指で押さえ、それによって絃をあちこちに引っぱることで同じ様なベーブングあるいは「唸り」が起こるようにすることだ。
(バロンの著書の日本語訳「リュート -神々の楽器-」、菊池賞訳より)

なんとなく何をいっているのかピントがはっきりしない文章です。バロンの原著とDouglas Alton Smithの英訳を元に私が意訳してみました。

意訳
低音弦でも同じようなビブラート効果を得ることができる。しかしやり方は最初の方法とは全く異なる。すなわち適切な指で押さえ、その指でもって押さえた弦を前後に引っ張る。そうすることによって同じようなビブラートの音を出すことができる。

前後に=フレットのラインに沿って


要するにエレキのお兄さんがやっているビブラートです。弦を引っ張るのは「あちこち」ではなく、フレットに沿って「前後」(楽器をホールドしている視点からは「上下」)に引っ張るんですよね。そもそも「あちこち」に弦をひっぱるってどういうことをするのでしょうか。「あちこち」はまっすぐ向こうのあちらこちらではなく平面的な広がり方を表すことばです。

まとめ:
バロンによるとビブラートの仕方は2種類。それぞれ♯様の記号と×様の記号で表され、前者はおもに高い音(高い位置のフレットの音用)で、ヴァイオリン奏者がやるようなビブラート、後者は低音域用のビブラートで、エレキ奏者がよく使うようなフレットに沿って弦を上下させて得ることができるビブラート。

まぁ、弦とフレットがある楽器からはそう荒唐無稽な方法が出てくるわけはありません。