リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

無理な曲を弾く(2)

2024年02月07日 13時54分33秒 | 音楽系

でも別の発表会ではとても筋のいいバッハ演奏に出会うことがありました。こういう演奏を聴くと一筋の光が差したような感じがします。その方に話を伺うと、きちんといい先生について勉強されているとのことでした。

でもギターだけでなくリュートの発表会でもそうですがあまりに無理な曲を演奏するのは何なんでしょうか。BWV998とか997とかプロでも相応の覚悟をして弾くような曲が結構プログラムにあがっています。結果はまぁ大体予想通り。あるいはそれらよりずっと易しいはずのヴァイスのファンタジアやパッサカリアくらいの曲でも途中で空中分解したような演奏を平気でします。いくらなんでももうちょっときちんと勉強して欲しいところです。

以前BWV998のプレリュードをレッスンしてほしいというリュートの方がいらっしゃってレッスンしたことがありましたが、あまりに基礎的なことで出来ていないことが多く、教えるに教えられませんでした。

別のあるギターの方はコンクールでBWV997のプレリュード弾くのでどうしても仕上げたいとおっしゃる。最低でも1年以上はレッスンしないといくらなんでも無理だとお伝えしましたが、どうしてもとおっしゃるので5回ほど思いっきり絞った内容でレッスンをしました。このくらいなら何とかなるのではと思いましたが、申し訳なくも結局5回レッスンをした中でできるようになったことは何もありませんでした。お断りすればよかったと後悔しています。

また別のある方はリュートを始めるにあたってどうしてもバッハを弾きたいので、年も年だから初めからバッハを教えてくれとおっしゃる。いやいやそれはいくらなんでも、ということで最初の1年だけは教本をやっていただきました。その後バッハのチェロ組曲に進み約9年間がんばって1番全曲と2番のプレリュードまで進みました。

しかしながら各曲は仕上がりとはほど遠い状態でテンポを落としてとにかく止まらないで弾けたら合格という感じの苦難の道でした。とても熱心な方で真面目に精進されましたがご病気になられレッスンを中断せざるを得なくなりました。最後のレッスンではこの歳になってリュートバッハを弾くようになるとは思いもしなかった、とても感謝していると仰っていただきました。シンプルで易しい曲で基本を身につけその次にバッハに進んだ方が近道だったような気もしましたが、これはこれでよかったのだと思っています。