リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

BWV1003のリュート編曲(14)

2024年02月14日 16時51分16秒 | 音楽系

11小節目から12小節目にかけてのホ短調のカデンツもちょっと形を変えてみました。


自筆譜ではトリルはついていませんが、普通このような場所ではトリルを入れることが多いです。ただホ短調の属和音(シレ♯ファ♯)で楽譜のようなポジションの音型にトリルを入れるのはリュートにとってはとてもやりにくいのです。この和音はどこのポジションに持って行っても楽に弾ける位置がありません。これがホ短調(とかロ短調も)がリュートにとって鬼門となる理由です。

11小節目の3拍目のバスはシで、これは4拍目にも持続していると考えるべきですが、ヴァイオリンだと4拍目もシが持続している感じで聞き取ることができます。というのも今まで出てきバスは短い音ばかりでいわば「点描」型なので、「4拍目もシが続いているつもり」になれるのです。

ところがリュートではバスは長い音価で独立的に弾かれているので、この11小節目の3拍目のバス(シ)を楽譜の額面通り弾いてしまうと、バスのラインが変わってしまう風に聞こえます。バッハのBWV1003の自筆譜はあくまでも「音が持続しない」ヴァイオリンのためのものであり「音が持続する」リュートのためのものではないということです。

解決法は譜例以外にもいくつか考えられますが、いずれの場合でもバスのシが3拍目、4拍目と持続していることが必要です。

なお、譜例の2拍目の上声部に16分休符が書かれていて上部リズムサインの連桁が切れています。これはシベリウスでタブを書くときの問題点です。タブがバス弦のみ(このケースです)のときはシベリウスは完全には対応してくれていません。このまま置いておくしかないかというと、手動でシベリウスが持っているいろんなキャラクターを総動員すればきちんとしたタブに仕上げることが可能です。ただとても手間がかかり、メンドクサイのでやっていないだけです。(笑)