Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

音をたてるな

2009年04月19日 | 家・わたくしごと
音を立てるな。
 お前の一挙一動に音をたててはならぬ。こうしてお前が包装紙の裏に文字を綴るそのペン先の微小な音にすら細心の注意を払い、ペン先に集中するのだ。
音を立てるな。
 おまえの発する音は、安らかに寝息をたてる者までも、現実に引き戻していしまうことになるのだ。
音を立てるな。
 口を窄ませ、鼻腔を大きく開いてはならぬがごとく細く息をせよ。そしておまえの存在する位置すらも感づかれてはならぬ。



扉の向こう側から

2009年04月19日 | 家・わたくしごと
 病棟の病室と廊下を仕切る扉には縦に長いガラスがはめ込まれていて、廊下からナースが、病人が横たわる部屋の内部を覗き込めるように工夫が施されている。私は病人と二人きりで部屋の中にいるのがいたたまれなくなり、廊下に出て扉の向こう側がからガラス越しに病人を見つめるのではない。この場所に立つと、私はあたかも、広角レンズを通して被写体のすべてを冷静に見つめているようなそんな気分になれるからである。
 部屋の中にいてわからなかったもの、それは部分ではなく全体を見つめること。今、私は眠り続ける病人の姿をガラスのファインダーを通して見つめる。廊下に流れる心臓の脈打つ機械のパルス音に聞き耳をたてながら、私は決してシャッターを押すことなく、ただファインダーから「全体」を見つめ続ける。



街の中の樹海

2009年04月19日 | 家・わたくしごと
 住み慣れた街にも必ずエアーポケットが存在する。それは常に存在する場所ではなく、ある時、目の前に忽然と現れ、人間の感覚を混乱と恐怖に陥れる。私は、そんな樹海に入り込んだ人々の幾人かが、不幸にももはやその中から永遠に抜け出せなくなってしまったことを確信する。
 樹海の中に投げ出された人間は冷静さを失い、不安と戦いながら至極当然のように出口を探し求めるだろう。そして結果的に方向を失った人間にとっては、出口と信じる方向に向かうわけだ。
 冷静に対処せよ!今、私は何をすべきなのかを。走り出すより前に考えよ。そして運よく戻ろうとする現実の世界が目の前に見えたときこそ、その樹海と現実世界の境界に巧妙に仕掛けられたトラップにかからぬように眼をしっかりと見開くのだ!



東京の春

2009年04月19日 | 東京
 病院から外へ一歩出ると、そこにはまぎれもない、私にとって懐かしい東京の郊外の春を身体いっぱいに浴びることができた。
 東京の春、それは暖かな陽の光や、その熱で温まった土のにおい、むず痒く感じる目や鼻の不思議な感覚、そして肌に感じる微風のぬくもりなど、あらゆる感覚を刺激するのだ。
 僕は喜びのあまり、そんな空気に触れた瞬間に思い切り走り出したいという衝動を抑えた。私がこの世に生を受けた大好きなこの季節の、こんな日、こんな時間に私は東京に呼びよせてくれた運命を、僕は心から感謝の気持ちで受け入れようと思うのだ。