Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

たとえ立場がかわっても

2012年07月04日 | 那覇、沖縄
 沖縄の大学に勤めた13年の間、ぼくは夕刻時に、この椅子に座って菓子パンをかじり、缶コーヒーをすすりながら、自分の研究室のあった音楽棟をどれだけぼんやりと眺めただろう?時には西の空が、パソコンの中で人工的に作られた写真のように真っ赤に染まっていたこともあったし、音楽棟の壁が雨で見たこともないような不思議な模様を描いていたこともあった。でも、僕はいつもため息ばかりついていたと思う。授業のこと、学生指導のこと、会議での発言のこと、いつも「これでよかったんだろうか」と自問自答しながら。
 土曜日、授業のために訪れた沖縄の大学で、3ヶ月ぶりにこの長椅子に腰掛けてみた。少々、雑草が伸びすぎだよ。たぶん昨年までだったら、「これじゃ七夕コンサートでバリのガムランが野外で演奏できないから、事務に言って草刈をしてもらわないと」と思ったに違いない。今はただぼんやり眺めるだけ。
 立場が変わった自分。もう、ここは自分の所属する大学ではない。だから、以前のように、この大学での体験から無数に湧き出してくる「あれこれ」に自問自答する必要がなくなった。だから「楽チン」のはずだった。ちょっぴりノスタルジーにひたりながら、ぼんやり時間を過ごすことができる場所だと思ってここに腰掛けたのだ。
 でも座ってみると何も変わっていなかった。この光景はぼくを「自問自答」に駆り立てるのだ。いや、そんなはずはない。これはほんの一時の「間違い」なんだ。そんな気持ちすぐに消えるって。でも、時間とともにそんな恐ろしいほどの「あれこれ」が、あらゆる場所から私に向かって問いかけてくる。「ところで、それでよかったのかい?」
 まるで夢から覚めたように、ぼくは立ち上がった。「これは幻なんだ。過去の記憶がまだぼくを支配しているにすぎないんだ。」何もなかった。何もなかったんだよ。座らなきゃよかった。腰掛けなきゃよかった……。