社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「障害者差別解消法とバリアフリー・ユニバーサルデザイン」飯塚潤一、福井恵(2018)

2023-01-04 10:23:50 | その他

副題:できるところから始める障害学生・教職員支援『大学図書館研究』108号

障害者差別解消法施行に伴い、大学図書館にもその順守義務が生じた。具体的にどのような取り組みが求められ、そして実現可能なのかを大学図書館の取り組みを通して紹介している。法律の説明を丁寧にし、それを読み解きながら実践に落とし込める方法を提示しているため、HOW TO本としても活用できる印象を受けた。

 

引用

・図書館利用に制限があるものは誰か(中略)

 ①入館する、②本を探す、③OPACで蔵書・文献検索、④書棚から書籍を選ぶ、⑤(閲覧席で)本を読む/学習室で勉強する/PCを利用する/AVブースでDVD等を視聴する、⑥本やAV教材等を借りる、⑦図書館司書に相談する、⑧退館する、などのアクセスに対して、相当な制限を受ける状態にある者

・(障壁を減らす取り組みに対して)事業者の人員・財政状況等を踏まえて…

 「当事者を交えて」

 「できることからすぐに始める」

 

 図書館利用というと、段差解消や利用機器の制限というところまでは思いつくが、手に取る情報量にも差が出てくるというところまでは、リアルなものとしての発想が及ばなかった。

 ハード面の解消のみでは解決しにくく、すべての人にとって、まったく障壁のない環境というのは存在しないであろう。だからこそ、人的サービスでカバーできるもの(他機関連携を含む)を活用し、その障壁を少しでも減らしていくことが必要なのだと感じた。

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「障害者支援施設における施設内虐待の予防に向けた一考察」藤江慎二、松永千惠子(2021)

2022-12-31 13:21:43 | 社会福祉学

副題:傷害事件・暴行事件についての裁判調書の事例分析から 

『社会福祉学』第62巻第2号

 

施設内虐待事件の裁判調書をもとに、事件を詳細に分析し、虐待予防について考察を深めている。

日ごろはニュースなどで概要を知ることにとどまっているが、裁判調書は場面を詳細に記録しているため、

その残酷さと身勝手さに、目を覆いたくなった。

 

引用

・(分析結果から)「職員が職員として働き続けられる」ように、「業務をこなすという作業人ではなく、対人援助の専門職として働き続けられる」ように、施設・法人、そして行政機関が職員へのフォロー体制を整えることが必要である。

・(事件の要因・背景を分析した結果として)①施設の人材育成の問題が虐待行為と関連していること、②職員間コミュニケーションの不足が虐待行為の慢性化に影響していたこと、③施設・法人の虐待問題を隠蔽しようとする考え方は職員間に広がり、職員の退職にも影響を及ぼしていたことが明らかになった。

 

 残念なことではあるが、勤務先の特養でも不適切ケアが後を絶たない。その都度、市に報告し、第三者機関の弁護士さんに相談をし、「意識を高めてもらう」という目的で研修をし…。それでも半年過ぎると、同じことが繰り返される。市は事故報告を義務付けるだけではなく、虐待予防のための講師を派遣したり、人員不足の部分について真剣に向き合ってくれないかと、憤りを感じることもある。

 最初から、自分が虐待をする側になると思っている人はいない。本論文でも指摘していたが、「人員不足→未経験であっても充足のためであれば採用→経験者が少ないために教育が行き届かない→燃え尽きて(疲弊して)仕事を辞める→人員不足…」という負のループから抜け出すためには、一組織の情熱だけでは不可能である。今後、介護職の増員が不可避である現実をみると、自治体が本腰を入れないと、どうにもならない域に達してしまうだろうと恐怖すら感じる。

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「小学生を対象とした図書における障害者の扱われ方と障害者理解への影響に関する一考察」岡﨑千紘、石田祥代(2022)

2022-12-29 12:23:26 | その他

『千葉大学教育学部研究紀要』第70巻

小学生のための課題図書を対象に、それらから与えられうる障害者のイメージを検討し、読書による障害者理解の可能性について提示している。

引用

・受容的態度とは、相手を否定も肯定もせずにありのまま受け容れることであるが、これが行為や支援と同視されてしまうということは、「ありのままを受け容れること」もいわば「やってあげる」という意識から生まれることにつながりかねない。

・小学校の学級図書や図書室に障害がテーマの図書を配置する場合、以下の事項に注意する必要があると考えられる。

①現代の障害者観に合っている

②児童の読書能力に適している

③心理描写が極端でなく現実に即している

④古い図書の場合、児童が時代背景を理解している

⑤同じ障害をテーマにした図書が身近に複数配置されている

 

パラリンピックがやドラマなどを通して、「障害がある人」「病気を抱えて生きている人」の存在が、以前よりも目に見える存在として登場しているように感じる。

どんな素材であっても、子どもに渡しっぱなしであっては意味がなく、その素材を通して、どう感じ、どう考え、どう向き合いたいかなどを、じっくりと話すことが必要であろう。

その素材づくり、素材選びの責任は大人にあるのだと、責任を感じさせられる論文であった。

 

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「介護職の魅力を発信する効果的な活動についての調査」戸館康秀(2021)『介護福祉士 2021.3 No.26』

2022-12-23 11:45:17 | 社会福祉学

副題:「介護の仕事と社会変化の関係性からの一考察」

 

慢性的な人員不足である介護職について、将来的に就きたいと感じてもらえるような「仕事としての魅力」をいかに伝えるか。

その実践と、実践後に行った調査内容を報告している。

 

引用

・介護職の魅力を発信するためには、社会の変化と学校教育を把握したうえでの「体験活動」が有効的で、多様な介護業務を理解してもらうには、対人援助者としての基本となるコミュニケーションを通じて「感謝の気持ち」を体験してもらうことが効果的であることが明確となった。

 

 乱暴な言い方をしてしまえば、「感謝してもらえるから」「こちらも笑顔になれるから」という仕事としての魅力は、どの職業にもある。そのためそれを「介護職の魅力」のひとつと認識してしまうと、職業としての根幹をなしているもっと大切な部分を伝えきれないと、私は考えている。

「認知症ケア」や「看取りのケア」は、看護職にもあるが、介護職が生活の場としての介護施設や利用者の自宅で提供できる、高い専門性の一つであり、もっともっと大きな声で主張してもよいものだと考える。

 以前は家族介護の延長として、素人に毛が生えた職業とみられていたこともあるが、税金を投入し、薄給ではあるもののそこから給与が発生しているのだから、れっきとした「専門職」なのである。

「資格や経験がなくても、正社員として雇用してもらえて、賞与まで出る。こんなにチャンスがつかみやすい職業はない」と、特養に勤務していている友人が言っていた。きっかけはなんであれ、介護の世界に飛び込んだ人たちが、その沼にはまり、抜け出せないくらいにその職業に惚れ込んでもらえるようにするための策も、同時に取り組んでいくべきことだと考える。

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「動物医療ソーシャルワークと動物看護師」山川伊津子(2020)『Veterinary Nursing 』Vol.25 No.2

2022-12-14 12:04:53 | その他

 とても耳慣れない言葉に興味を持ち、本論文を手にした。日本では聞きなれない分野であるが、米国では学問として成立しており、専門家の育成も行われているとのこと。人間を対象としたいわゆる一般的な「社会福祉」「ソーシャルワーク」に携わっている人、動物に関することに携わっている人、どちらにとっても、とても刺激的な報告であると感じた。

 

引用

・アメリカでは、人と動物の両者に関わるケースを扱う対人援助としてVeterinary Social Work(動物医療ソーシャルワーク、以下VSW)がある。

・アメリカのテネシー大学ノックスビル校では、(中略)VSWの説明として以下のように記載されている。

  ○動物と人の双方が関わる局面での人のニーズに対する支援の提供

・ASW宣誓では下記が謳われている。

  ○人と動物の関係において起こる人のニーズへの対応

・具体的にはVSWを4つの領域に分類している。

 ①動物に関わる悲嘆と死別 ②動物介在介入 ③対人暴力と動物虐待の連動性 ④共感疲労と葛藤のマネジメント

・動物が身近な存在となった現代社会において、人は動物から多くの利益を享受する一方で、双方に関わる問題も様々発生している。これらのケ 

 ースに介入していくのが動物医療ソーシャルワークであり、人と動物のそれぞれの専門職の連携・協働が必要となる。

 

 専門職を確固たるものにしていこうと、さまざまな業務に「ソーシャルワーク」や「認定●●」といった言葉をつけ、資格化をはかろうとする施策が多いように思う。この動物医療ソーシャルワークもそのひとつなのでは?と、疑いを持ちながら読み進めた。しかし読むことでその疑いは薄れ、筆者が指摘しているように、超高齢社会を迎える日本において、今後はより明確化されるべき分野であることも分かった。動物との接し方で見えてくる人間の多面性を理解し、支援に結び付けていくためには、こういった学問があるのだと新しい知見を得ることができ、とても嬉しい気持ちにさせられた。

 

 

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「保育所が備えるソーシャルワークの連携機能-効果的な連携の構築に向けてー」飯塚美穂子(2021)

2022-12-09 18:55:35 | 社会福祉学

『社会福祉学評論』第22号 2021

 

 保育所が備えるソーシャルワークの連携機能の活用の実態と課題について、インタビュー調査を通じて明らかにし、考察を深めている。

参考文献、引用文献ともに、古いものを扱っていることは気になるが、保育の質を問われている昨今、保育所を多面的に理解することに大変役に立つ。

 

引用

・乳幼児とその家族に日々向き合う保育所においては、子どもを守り、家庭で生じる様々な課題の解決を図るためのソーシャルワーク実践がよりいっそう不可欠になってきている。

・(インタビュー調査回答より)「保育所だけで見守るつもりはないし、抱えきれる問題ではない。親子が卒園するまでに、卒園した後も見守ってくれる場所とかルートを作りたい」

・保護者との距離が近い存在であるからこそ生じる困難さもあるという『保育所の限界の認知』を踏まえた<適切な役割分担>が求められている。

 

 保育所に通う子供たちは、一日のうちの半分近くを園で過ごす。中には、起きてすぐに園に行き、寝る直前まで園で過ごす子供もいる。子供にとっての居場所である保育所で、痛ましい事故や事件が続いている。保育士は多忙であるが、薄給である。それが現実である。そして求められることも多く、学びきれないくらいに深い専門領域であると感じている。

 保育所の機能が適切に運営されるためには、保育所単体ではなく、関係機関や地域の支えも重要である。保育所・保育士を支えていくことは、地域が子供たちの健やかなる成長を支えることに直結する。

 そんなことを考えさせられる論文であった。

 

 

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スピン/spin

2022-11-16 14:44:55 | その他

電子書籍がメジャーとなりつつあるいま、

紙にこだわった新雑誌が創刊された。

 

夕刊のめくっていくと、本書が紹介されており、

編集長のインタビュー記事が載っていた。

編集長は中学時代の同級生。

なんと!すごい!の思いから、本書を手にとった。

 

編集長は中学時代、

端はよれよれ、マーカー引きまくりのボロボロの「出る単」(英単語集)をいつもめくっていた。

とても物知りで、勤勉で、世話焼きで、そんな彼が手掛けた雑誌なら、

面白くないわけがない。

卒業後、一度も会ってはいないが、

ほんの一時期でも、

おなじ空間で過ごした人が頑張っていることを知り、

なんだかうれしくて、ほっこりとした。

 

 

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「ソーシャルワーカーのミカタ」芦沢茂喜・山岸倫子(2022)生活書院

2022-10-27 14:46:59 | 社会福祉学

副題:対話を通してともに「解」を探す旅の軌跡

「ソーシャルワーク」とは何か。「ソーシャルワーカー」とは何者か?について、今回は筆者らが指導する側に立ち、

問いている。

多くの文献を踏まえ、そしてたくさんの経験をもとに綴られているが、堅苦しい「専門書」にはとどまっていない。

専門家を目指す人たちが、「専門家ってなんだろう」と立ち止まったときに、とてもチカラになると感じた。

 

その事柄を抱えていて、困っているのは誰か?抱えている本人なのか。

それとも本人を解決の方向に導けずに、オロオロとしている専門家としての自分なのか?

そしてその解決の方向とは何か?

 

本書では、「専門職」と認識している(認識されたい)ことによって焦点がぼやけ、

誰のための支援なのか、誰が主軸なのかが二の次になってしまうループについて、触れられている。

社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、介護支援専門員、保育士…

多くの資格が存在し、支援者がゴマンといるような錯覚に陥られてる昨今ではあるが、

「支援」、「ソーシャルワーク」の根本は何なのか?

本書はそれをふんわりと、そしてガツンと投げかけている。そんな印象を受けた。

 

 

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「身寄りのない独居高齢者の身元保証問題に対する医療ソーシャルワーカーの望ましい支援とは」富田幸典、谷川和昭(2022)

2022-10-18 14:01:16 | 社会福祉学

副題:兵庫県・岡山県の実態調査より

『関西福祉大学研究紀要 第25巻』

 

医療機関に従事するソーシャルワーカーに対し、質問紙調査を実施し、支援の在り方を整理、分析している。

目新しい知見は見受けられないが、現場で奮闘しているソーシャルワーカーが直面している課題を、丁寧に整理している。

今後、確実に増加していくであろう身寄りのない独居高齢者への対策を検討するうえで、参考になると感じた。

 

引用

身寄りのない独居高齢者の身元保証問題に対する医療ソーシャルワーカーの望ましい支援については、①成年後見制度、生活保護制度などの活用を図る、②地域の協力を得て、多職種多機関連携の要となる、③本人への説明と信頼関係の構築を図る

 

20年以上前の話になる。在宅療養支援診療所に勤務していたころ、90代の独居女性に対し、自宅での看取り支援をしたことがある。看取りといっても、唯一の家族は80代の妹さんで、同居ではなかった。「家」でこのまま死んでいきたいという本人の思いを、ただ叶えようとしただけである。住んでいたアパートは、築50年以上がたった木造アパートで、隣に大家さんの家があった。アパートには本人しか住んでいなかったため、本人が亡くなったらアパートを閉じる予定であった。生活保護を受けていたため、死後の手続きはケースワーカーさんが妹さんと一緒に行うことで合意が得られ、家で亡くなることは大家さんが了承してくれた。了承してくれるどころか、食事を運んでくれ、安否確認をしてくれ、強力なサポーターであった。そんなこんなで無事に?「家」で亡くなることができたが、これはなによりも、地域の力があったからだと痛感している。一人でも「独居で死にそうな人を、このまま家に置いておくなんて!」と反対したら、きっと実現はしなかったであろう。

これからの日本は、きっとこういう方が増えていく。どう支えていくのか、支援者にも本人にも、準備と覚悟が必要だと考える。

 

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「社会福祉法人の地域貢献活動に関する検討‐大都市の高齢者施設に焦点化して‐」大洞菜穂美(2019)

2022-10-06 10:58:12 | 社会福祉学

『十文字女子学園大学紀要』Vol.50

 社会福祉法人が行っている地域貢献活動について、その促進要因と阻害要因をインタビュー調査を通して明らかにしている。税制上の優遇を受けている社会福祉法人は、地域貢献を行うことを一つの責務とされている。その実態について、分かりやすく報告されている。

 

引用

・(調査結果より:調査対象の)すべての法人で地域貢献活動を行っていた。内容について大きく分けると、「地域交流を目的とした活動」「認知症カフェ、認知症サポーター養成講座講師」「地域からの要望や協力で行っている事業」「法人独自事業」となった。

・「法人独自事業」とは、ランチ交流会や体操教室、栄養教室、就労審など、いずれも職員が自分たちになにができるのか、またどんな地域課題があるか検討したうえで行われている。

・(活動への阻害要因)①社会福祉法人本部の地域貢献活動に対する意識格差がある、②理事に対する理念の具体化及び啓発の機会がない、③社会福祉法人のミッションについて認識が乏しい

 

新型コロナウイルスが流行し、福祉施設が地域とつながる機会が激減している。そして、家族とすら手を取り合えない福祉施設入所者も少なくない現状は、異常という言葉では表現できないくらいである。

社会福祉法人は地域に根差し、地域に貢献し、地域の人とともに生きていく…こういった類の理念を掲げている組織は、とても多い印象を受ける。私の勤務先も然、である。しかしながら、予算や人手ややる気や…いろいろなものが足かせになり、結局のところ、「新しくできた、あそこの建物はなんだ?」と思わせる、対象となってしまったのである。

法人本部は施設とは異なる行政区にあり、経営者集団は親族で構成されている。似通った環境で生活をしていた人たちが、おかしな共通の認識で、組織としての成長の幅を狭くしているのではないか?と思わされることが多々ある。組織の内側に皆が集中するのではなく、外の世界に目を向けてほしい。この論文を読み、痛切に感じている。

コメント (2)
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