社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「エンバーミング(遺体衛生保全)施術の意思決定に関する調査 佐藤貴之(2012)

2013-12-09 09:59:53 | 心理学
『死の臨床』Vol.35 No.1 2012年6月

 遺族のエンバーミング施術の意思決定過程および心理的安寧に与える効果について、また遺体衛生保全に関わる当事者の関わりが、遺族の意思決定過程に与える影響について検討している。

引用
・エンバーミング施術の効果は、感染防止、遺体の長期保存、遺体の損傷修復、死後硬直の防止、遺体解剖後の体液流れ、腐敗の防止である。
・事故などによって遺体損傷している場合や、長期の闘病生活から故人の容貌が変化してしまった場合、遺族はエンバーミングの修復機能に対して過度に期待を寄せることが調査結果から明らかとなった。その背景には、故人の死に際するやり残しや後悔を極力少なくしようとする遺族心理があると推察する。
・(Engelらによる評価スケールを用いた分析結果より)評価が高いほど、遺族の心理安寧に作用し、悲嘆の軽減が測れるものと考える。(中略)評価が低かった場合は、後悔などの重篤な悲嘆につながる可能性があることが示唆された。
・遺族悲嘆を深刻化させないために、意思決定に際する十分な情報提供と遺族のオーダーの適切な把握ととともに、施術の向上が望まれる。


エンバーミングという馴染みの少ない言葉であるが、年間1万件以上も行われているという。清拭、死化粧、湯灌、エンバーミングなどなど、亡くなった後の選択肢が増えていることを感じる。
技術の向上等で選択肢が増えること自体は問題ではないが、押し売りや自己満足で提供してしまわないか…。
提供者側には時間がないなかでも、遺族の呼吸に合わせた意思決定の過程を踏んで欲しいと願う。
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「ホスピス・緩和ケア病棟の患者-家族間で交わされる思い・言葉について」中里和弘(2013)

2013-05-11 17:48:44 | 心理学
副題:患者-家族が伝え合う「ありがとう」を支えるために
『遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究2』日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団

 終末期に、患者と家族の間で交わされる思い・言葉の実態を明らかにするため、遺族を対象に質問紙調査を実施。日本人特有の「言葉にしなくても思いは通じる」という側面が明らかになった一方で、医療従事者への要望(課題)も浮き彫りとなった。

引用
<調査結果より>
・言葉を交わさなかった遺族でも、8~9割が「気持ちを受け取った/気持ちは伝わった」と回答をしていた。
・家族から患者へ「思いを津与える行為」に影響する心理的要因…「患者に死を意識させるようでいやだった」「あえて言わなくても、お互いに思いは通じ合っていると思っていた」

・医療者は単に家族が患者に言葉を言ったかどうかではなく、それをどのように受け取っているのかに配慮する必要性がある。言葉にしなかった遺族に対して、後悔や辛さを十分に受け止めたうえで、遺族自身が「言葉は伝えられなくても気持ちは伝わった」と思えるよう意味付けられることが重要となる。
・(医療者は)家族が思いを伝えることに不安や抵抗を感じていないか、タイミングや伝え方が分からないと感じていないかをより注意深く観察した上で、必要に応じて患者・家族に両者の思いを繋げられる言葉かけや環境調整をすることが求められる。


家族間の問題には、とかく医療関係者は踏み込みにくさを感じてしまう。それは、日本人特有の感覚なのかもしれない。
相手が亡くなってしまったあとでは、伝えたいことも十分には伝えられない。それが相手に届いているのか、聞こえているのかに関係なく、相手に「伝えた/話した/言った」は大切な行為なのだと思う。

そして、双方の関係性にも違いはあるだろう。長年連れ添った夫婦間、まだ言葉の理解ができない新生児や乳児と親との関係などなど…。
それでも援助者は、少し目を配る(頭の隅にこういった情報を入れておく)だけで、対応が違ってくるであろう。
ちょっとの工夫や、ちょっとの勇気で、救われる家族(遺族)がいると痛感した。
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「グリーフカウンセリング 悲しみを癒すためのハンドブック」大学専任カウンセラー会・訳(1993)

2012-02-14 14:50:20 | 心理学
Worden,Ph.D

以前、洋書で紹介した本の訳版が手に入ったので、再度熟読。
グリーフケア、特にグループカウンセリングについてはとても充実しているためが、訳本は絶版の様子。とても残念。
前回と重複している箇所もあるが、管理人の英語力があやしいため、あえて記載。

引用
・Wordenは、喪失体験に関するものを悲嘆(grief)、喪失後に生じる心理過程を悲哀(morning)と定義している。

・悲哀(=喪失への適応)の四つの課題
課題Ⅰ:喪失の事実を受容する
課題Ⅱ:悲嘆の苦痛を乗り越える
課題Ⅲ:死者のいない環境に適応する
課題Ⅳ:死者を情緒的に再配置し、生活を続ける
---Wordenは、悲哀はこの4つの課題が完了した時におわるとしている。また、「悲嘆反応の完了を占める一つの目安は、死者を苦悩なく思い出せるようになったときである」ともしている。

・パークスらの先行研究を引用し、予測的なアプローチを紹介している。以下の8変数からなる「遺族危機指標」を死後4週間の時点で評定し、いくつかがあれば介入の必要があるとしている。
①小さい子どもたちを抱えている
②低社会階層
③職業-ほとんどない
④怒り-強い
⑤やつれ-強い
⑥自責-強い
⑦現在の人間関係が欠如している
⑧評定者による適応状況の評価-援助を必要とする


本ブログで紹介した以外にも、カウンセリングの10原則やグループカウンセリングの運用方法、ノーマル/複雑な悲嘆について等、勉強になることが多い。

日本の研究者が書いているグリーフケアの本/論文でも引用されていることが多く、実践のみならず学問的にも秀でている書であるのだと思う。

グリーフカウンセリング―悲しみを癒すためのハンドブック
クリエーター情報なし
川島書店
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「緩和ケアチームが求める心理士の役割に関する研究-フォーカスグループインタビューを用いて-」

2011-11-14 11:37:10 | 心理学
岩満優美、平井啓、大庭章ら 「Palliative Care Research 2009;4(2)」

緩和ケアチームの医師と看護師は、心理士に何を求めるか。インタビュー調査を通してまとめている。
心理士に対してのみならず、医師や看護師、そしてソーシャルワーカーに対しても他職種が求めているであろう事項もあり、緩和ケアチームの多職種連携を理解する上で役に立つと感じた。

引用
心理士に求めるもの⇒医療者へのサポート(医療者の心のケア)、遺族への心理的支援、心理士として得意な心理療法を1つは持つこと
心理士に望まないもの⇒独自に情報管理すること、自分の能力の限界を示さないこと


情報の共有、他職種への橋渡し…これは心理士のみならず、多くの職種に求められるものであろう。そしてまた、緩和ケアチーム以外のケアチームにおいても求められるものである。
心理士は「心理療法」「カウンセリング」といった武器があると思っていたが、現場では試行錯誤の連続であることが伺える。

遺族への心理的支援を求められているということは、やはり緩和ケア病棟の看護師だけでは、その支援は不十分であるということか?
曖昧であることの裏返しで、様々な可能性と求められる役割のある職種である。ソーシャルワーカーとの役割分担はどうなっているのか?も気になるところである。
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「死別から共存への心理学 スピリチュアル・ペインとケア・カウンセリング」品川博二・赤水誓子(2005)

2010-12-15 10:37:54 | 心理学
 臨床心理士による書物。
ケア・カウンセリングという観点から、遺された人への支援について紹介している。学術的な論点よりも、筆者自身が実践で学び得たものを、論として組み立て紹介している印象が強い。

引用
「ケア・カウンセリング」とは?…看護者・介護者らをはじめ広くケアリングの臨床に携わる者が、援助者・被援助者の両者に「肯定的で相互的な人間関係」を構築するために活用するカウンセリングの理論と技術である。

スピリチュアル・ペインとは?…「今、ここで」のリアルな関係のなかでこの「相手の痛み」を感じ取ることである。(中略)相手を推論や分析で対象化し、能動的に把握することではない。それは受動的な「訪れ」としか言いようのない、自己の内側から沸き起こるパッション(苦痛)である。肉体によって分けられる自他の境界を超えて、「相手の痛み」が「我が痛み」として融合的に感知される、この関係的な体験様式をスピリチュアルと表現しているのである。

故人と残された方々との、「生と死を越えた関わり」の再構築に向かって、グリーフ・ワークは実践されるのである。



スピリチュアルペインは、未だ定義が確立されていないという状況のなかで、多方面の領域からの議論は大変意義深いと考える。臨床心理士である筆者は、スピリチュアルペインは、ひとが相手の痛みを感じることによって初めて生じるものだ、と説いている。これは私にとってはとても新鮮な考え方である一方、咀嚼しきれない解釈でもある。

ひとは一人では生きておらず、親族や近隣のひと、そして援助者と呼ばれる社会資源とともに生活をしている。しかし例えば、そのひとが長く単身生活をしていて、実は生き別れた子供がいたとして、「最期に会いたい」と切望している…でも会えない状況にある。これが私の理解では、すでにスピリチュアルペインになるのだが、筆者の解釈に照合すると、「こどもが生き別れた親を憎んでいる。もしくは会いたいと思っている。と、死にゆくひとが感じ取っている」ところまでいくとスピリチュアルペインになるようだ。

スピリチュアルは、やはり奥深い…。


死別から共存への心理学―スピリチュアル・ペインとケア・カウンセリング
品川 博二,赤水 誓子
関西看護出版


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「わが国のがん医療現場の心理士による研究の展望」 兒玉憲一、栗田智未、品川由佳、中岡千幸

2010-06-13 04:49:47 | 心理学
『広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要』第7巻 2008

がん医療の現場で働く心理士(臨床心理士、心理職)は、どのような研究をどのような目的や方法で行っているか…について研究している。研究内容についての研究という、おもしろい見方の論文である。

心理士による研究論文のレビューとして捉えれば、他職種にとっても読みやすく、「心理職とはなんぞや?」を知るための手がかりとなる。

2008年末現在、がん医療に携わっている心理士は全国で300名以上と予測されている。

引用
「エンドオブライフケアにおいて、心理学的介入が必要な時期」
①発症前 ②病気の診断と治療開始 ③病気の進行と死にゆく過程 ④患者の死と離別

「心理学者の主な業務」
①心理学的アセスメント ②患者・家族のための心理学的介入 ③医療チームメンバーのコンサルテーション及びサポート ④グリーフセラピー ⑤研修プログラムの開発と評価


筆者も指摘しているが、どの職種も患者・家族の「心理的サポート」には興味を持ち、また担っていると認識している。それゆえに、「心理職」と名乗り専門特化していくには、相当なスキルと知識が求められるであろう。ソーシャルワーカー同様、専門性を見出し、位置づけていくことの難しさを感じた。

また前回紹介した佐藤氏の論文に、看取りを経験した職員への支援の必要性が指摘されていた。職員へのサポートは、間接的ではあるが、質の高いサービス提供に貢献できると言えよう。この部分での心理士さんの本領発揮を期待できれば、嬉しい。


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