社会福祉士×ちょっと図書館司書の関心ごと~参考文献覚え書き

対人援助の実践、人材育成、図書館学を中心に気まぐれに書物をあさり、覚え書きをかねて投稿中~

「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」 佐々涼子(2012) 集英社

2015-08-01 08:19:03 | その他
 外国で亡くなった日本人、日本で亡くなった外国人はどのように母国に帰るのか。
国際霊柩送還の専門会社である「エアハース・インターナショナル」への取材をもとにした、遺体搬送のノンフィクション。

引用
・国際霊柩送還とは、海外で亡くなった日本人の遺体や遺骨を日本に搬送し、日本で亡くなった外国人の遺体や遺骨を祖国に送り届けることである。
・国際霊柩送還の仕事とは、遺族がきちんと亡くなった人に向き合って存分に泣くことができるように、最後にたった一度の「さよなら」を言うための機会を用意する仕事なのだ。
・葬儀は悲嘆を入れるための「器」だ。自らの力では向かい合うことができない悲嘆に向き合わせてくれるためのしくみなのだ。


テレビでなんとなく観ていた、飛行機から降ろされる「棺」の中のことを考えたことがなかった。
しかしよく考えてみれば、死後何日も経っているご遺体のすべてが、「きれいなまま」「適切なエンバーミングを受けた状態で」帰ってきているとは限らない。
本書では、壮絶なご遺体の様態とそれを「安心してご家族と会えるような」状態にケアしていく様子が描かれている。

ご遺体を見ずに過ごすことで、人はその死を受け入れるタイミングを失い悲嘆がより強くなるということは、よく知られている。どんなに時間がかかっても、たとえどんな状態であっても、その「身体」を見るまでは「死」であることは受け入れられない。
そのことに真摯に向き合い、業務を遂行しているのだと感じた。

「科学の発達した世の中だ。生命の失われた体をただのたんぱく質のかたまりだと済ませてしまうこともできるだろう。しかし我々はいくら科学が進歩しようとも、遺体に執着し続け、亡き人に対する想いを手放すことはない。その説明のつかない想いが、人間を人間たらしめる感情なのだと思う」…という筆者の言葉が印象に強く残った。

エンジェルフライト 国際霊柩送還士 (集英社文庫)
クリエーター情報なし
集英社
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