「誰かの安全のために、別の誰かの命や尊厳が犠牲にされるような社会はもうごめんだ」そういった思いをベースに、
自身の私的経験/支援者としての実践経験、そして排除と抑圧、平等・不平等などに関する理論を論じている。
筆者は学者であるが、難解なものではなく、平たいことばで、社会の構造を分析し指摘している。
引用
・今日の女の生=労働をめぐる状況を見てみると、一方では、高所得キャリア女性の「活躍」が喧伝され、他方では、シングルマザーや単身女性の貧困や低賃金が社会問題化されている。しまいには、両者の格差を示す「女女格差」(橘木俊詔)という言葉まで生まれ、その階級的分断は深まるばかりにみえる。しかし政府は、女性の「活躍」を声高に謳いながら、不思議なことに、そうした女性間の格差や分断・貧困にはほとんど言及せず、またその対策も用意しないままである。
・(路上生活者を排除し、街全体をクリーン=治安を良くする動き…「街の再生」)←管理者注書き
「街の再生」は、かつての寿町(注:横浜市にある地域)のドヤ街や黄金町(注:横浜市のある地域)の青線地帯にあった喧騒や「いかがわしさ」、街に染み付いていた人間の生=労働の臭いを払拭し、そうして街の地理や歴史を消去し、書き換えることに貢献するだろう。果てに待っているのは、フラットでクリーンな「安心・安全な街」である。(中略)臭いたつ人の生そのものより、無臭の美が欲望される。そこに現れる「美」とは一体何だろう。
本文中では、誰のための、何のための…こうした問いが幾度となく繰り返されている。
一般市民と言われる層への問い、国への問い、自身への問い…いろんな問いに、悩み・怒り・惑いながらも分析をし、道を探している印象を受けた。
民主主義とはなにか?フェミニズムとはなにか?という堅苦しい書物ではない。
ただ、「自分は一体何者だ?」という究極の問いを突きつけられ、とても考えさせられた。