入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’21年「夏」(5)

2021年06月05日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 いい天気になった。守屋山の向こうに、アルプスの白い山並みがくっきりと見えている。昼近くになって気温は19度、このままだと20度まで上がるかも分からない。土曜日とあって、林道を行く人の姿が目に付く。あの人たちは皆テイ沢を下ってきたのだろう。

 今、露天風呂に新しい水を張っている。漏水は完全に止まりはしなくとも、とにかく一度湯を沸かし、今年初めての入浴を何がなんでも強行しなければ気が収まらない。
 約1ヶ月半、露天風呂の水漏れ対策にはかなりの手間をかけ、水を張ってはおが屑や米糠を投入し、水の入れ替えだけでも10回くらいやっただろう。そして、効果は期待できないと知りつつもシリコンを注入し、一昨日で1週間待った。その上でまた水を張り、米糠を水に溶かし、怪しい場所に流し込んでおいた。
 


 今朝見た時には、水位は2センチくらいしか下がっていなかった。これなら合格と言っても良いのだが、問題はこの後で、一度糠で汚れた水を入れ替えなければならず、その後、新しい水に換えた時にどうなるか、決して楽観はできない。水を落とす際に、隙間に詰まって漏れを防いでいた糠が一緒に流れ出てしまう可能性があるからだ。
 で、新しい水を入れ替えたら漏れは止まったかというと、やはり止まってはいなかった。いなかったが、風呂に入っている間に水位が極端に下がってしまうようなことはないと判断し、それで、風呂釜のスイッチを入れた。
 久しぶりに聞く灯油の燃える音。それを快く聞きつつも、最終段階は薪で沸かしたかったが、そこまでは過ぎた願いと思い止まった。薪で沸かすと、湯がとろけるような柔らかさに変わるのだ。
 風呂が沸くまでの間には種平小屋夫妻が久しぶりに訪ねてくれたり、他にも見学者などが来てその対応などしていたから気が紛れた。水が冷たく、浴槽も4、5人は入れる大きさだから、湧くまでに1時間以上かかるのは仕方ない。

 いやー、参りました。水のせいだと思うけれど、多くの人の評価通り本当に暖まるあの湯は。まさに「延命 星見の湯」の名に恥ずかしくない。今回は灯油で沸かしただけだが、それにしては刺すようなきつさはなく、湯は柔らかで心地よく、すっかり満足した。漏水も今の程度なら許容の範囲と言ってもいいだろう。
 
 あの風呂に浸かり、天の川銀河の流れや、あまたの星の煌きを眺め、無窮の遠(おち)に思いを巡らせる、そういう贅沢な時を、どうやら今年もまた堪能できそうだ。安堵。
 本日はこの辺で、明日は沈黙します。


 
 
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     ’21年「夏」(4)

2021年06月04日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 今年も、クリンソウの大群落は見られなかった。やはり、鹿にやられてしまっていた。殆どが根元から齧られ、いまいましいことには花の付いた茎が近くに捨てられていた。試食したが口に合わなかったのかも知れないが、それが分かったら、もうあの群落を荒らすのは止めてもいいはずなのに、後からあとから好奇心の強い腹をすかした鹿共が現れるようだ、あの森には。
 流れに沿って少し歩くと、モミの倒木のまた一段と増えた湿地帯には、瀬の流れがちょっとした澱んだ場所をつくり、その傍らを囲むようにクリンソウが咲いていた。大群落は見事ではあるが、この花は誰にも知られずこんなふうにそっと咲いているのがいかにも相応しいと思って帰ってきた。
 今年はこの牧区にも牛を出すことになりそうだが、そうなればあれだけ増えた倒木をどう処理したらよいのかと考え込んでしまう。一昨日も、落葉松の大木を処理し、倒木は立木よりも場合によっては厄介だということを痛感したばかりだった。何もしないで放置して、牛の好きにさせるのが一番容易な方法であるのだが、さてどうしたものか。
 写真に写っている倒木の根は3,4年経つ。表土の薄い大地は成長の進んだ巨木を支えることができないからだが、これからもこういうことは続いていくだろう。そしてこの先もずっと人の手が入らなければ、自然は自らの力だけで森を、少しづつ新しい別の姿に変えていくはずだ。すでに、あの倒木の根もそうなりつつある。



 クリンソウやコナシの花に気を執られていたら、この花のことをうっかり忘れていた。ミヤマザクラである。きょう北門を過ぎて少し来たら、雨に濡れて樹々の葉が重たく茂る緑の中、あまり目立たずに白い花を咲かせていた。以前にこの花の名前を間違えて、指摘され訂正したことがあった。今度は気を付け図鑑で確認しようとしたが分からず、Ume氏の手まで煩わせた。バラ科ミヤマザクラ、何故見付けられないのだろう。

 驚いたことに、今気が付いた。また鹿が囲い罠の中に入っている。3,4頭だろうか。本日はこの辺で。
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     ’21年「夏」(3)

2021年06月03日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 天気の崩れるのが1日延びた。きょうは薄曇りながらも雨は明日になるようで、芝平からの未舗装路はもちろん、峠からの痛んだ山道のことが気になる。道路の陥没した場所にはようやく注意喚起の目印などが置かれたが、その修理が行われるようになるのはいつのことになるのか。中でも、芝平の集落を過ぎた未舗装路の大崩れの辺りは特に酷く、バネがへたった軽トラで行くのはいつ車が動かなくなるかと気を揉んでいる。
 昨日用事で富士見に降りたら、道路の補修をしている人々の姿があった。富士見の町民にしたら、入笠へ来る人ならすべてがあの規制が行われている山岳道路など使わずに、ゴンドラを利用して欲しいと思うだろう。それでも道路の側溝を浚ったり、崩落個所の土留めを行うなど保守も行っていて、言っては何だが驚いたり、感心もした。

 152号線、通称杖突街道を長藤で別れ小豆坂トンネルを抜けると、山室川の谷の向こうにそれほど広くないY君の田圃がある。Y君は「馬耕」と言って、いまだに機械に頼らず馬を使って農業を実践している。先日帰りに、Y君夫婦が昔ながらの手で田植えをやっているところを目にした。近くの畔には二人の子供だろう、草の上に敷いたゴザの上でいい子で遊んでいて、それも含めて懐かしい風景を見たような気がした。
 さすがに馬耕という職業柄、田植えも田植え機など使わず、泥田の中で腰を曲げて長く根気の要る作業を続けなければならなず、その姿からも、愚直に生きようとする二人の気持ちが伝わってきた。
 今朝来る時に見たら、とっくに終わっていていいはずの田植えが、半分ほど済んだだけで中断している。どうしたことかと不思議に思ったが、まあ大丈夫だろう。Y君は粘り強く、奥さんはしっかり者だ。
 二人にとっては見知らぬ土地だったはず、それが山深いあの土地に根を降し、古民家を改造し、可愛い子供を二人ももうけた。農業のやり方は古くも、新しい生き方だ。今度見掛けたら、久しぶりに声を掛けてみよう。

 風が冷たい。山小屋に3泊したO谷さんご一行も、先程帰っていった。楽しみにしていたコナシの開花には少し早かったが、それでも4日間天候に恵まれて昨日は駒ケ根、伊那の里にも下り、酒蔵などを巡ることもできたようだ。
 COVID-19のため営業は縮小せざるを得ず、今後も細々とやっていくしかないのだが、しかしこれが静かな牧の山小屋、キャンプ場にはより相応しいとも思っている。本日はこの辺で。


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     ’21年「夏」(2)

2021年06月02日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 コナシの花の咲くのを心待ちにしている人たちがいる。大体は6月の10日ごろと聞くが、早い年は6月に入ると早々に咲き出すこともある。確か昨年がそうだった。すでに「池の平」辺りまでは開花が始まっているから、もうすぐ100㍍ほどの標高差をこの花の季節が上ってくる。

 きょうのUme氏の空撮写真はつい先日、鹿嶺高原で撮影したもので、白岩岳、そしてさらに遠くに権兵衛山らしきや当牧場も写っているように見える。肝心な入笠山は権兵衛山の陰に隠れてしまっているが、実際この山は標高からしても、富士見側から見る以外には人気ばかりで実力を伴わないあの人のように、周囲を代表できるような山ではない気がする。
 この山道は、中間点になる半対(はんずい)峠まではほぼ緩やかな防火帯の中を快適に進む。防火帯とは山火事の延焼を防ぐために設けられている空き地で、これがずっと尾根の上に続いている。半対から先も尾根を行くが林の中であったり、森の中であったりと、それまでの比較的単純な歩行に対して、幾分変化が加わってくる。
 かつて2回ばかり「入笠トレッキング」と銘打って、伊那市が主催してこの山道を市民が歩く催しが行われた。小黒川林道の入り口である南門からは12.5㌔、1㌔ごとに標識が立てられ、当時80歳近くでこれに参加した北原のお師匠の話では結構参加者もいたという。残念なことにどういう理由か、打ち切りとなってしまった。
 これには参加しなかったが、個人で6時間ほどをかけて往復したことがある。帰路は高原から判然としない獣道に入りいつの間にか未知の林道に出て、結局は予想した通り西谷林道の橋へ出た。山腹に食い込む谷を幾度も巻くことになり、大分余計な距離を歩いた。それ以後も半対までは何度も行っているが、それから先は、再訪する機会がないままになっている。

「トレッキング(trekking)」という言葉は旅は旅でも本来は「辛い」、「苦しい」、「難儀」といった意味合いが込められているはずだが、いつの間にかこの語の方がハイカラだと思うのか「ハイキング」の代わりに使われるようになってしまった。以前にも呟いた記憶があるが、もしいつか同じ企画が再開されたなら、この名称も再考してしてもらえたら有難い。できれば片仮名語など止めにして。

 平澤真希さんの自然を舞台にしたピアノ演奏第4弾がようやくできたそうです。Uチューブで見ることができますので、「平澤真希」、「ネイチャーピアノ」、「小鳥と花の谷で」で検索してみてください。本日はこの辺で。





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     ’21年「夏」(1)

2021年06月01日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 まき場の朝、昨夜は上に泊まった。きょうも申し分のないいい天気で、日が昇るにつれて鳥の声が賑やかさを増す。郭公、ホトトギス、その他の鳥は鳴き声を聞くだけにして声の主は諦める。それにしても、木霊のようによく響く。そろそろ里とはオサラバして、山の暮らしに移る時が来たようだ。
 
 単独のTさんは大分前、5時ごろに出発した。きょうはテイ沢からヒルデエラ(大阿原)、そして古道石堂越えを堂平(どうだいら)まで行き、いったんここへ戻り、それから芝平に下る予定だという。60歳を過ぎているということだが健脚で、昨日は法華道を登り、半対(はんずい)峠まで行き、帰りは小黒川の川床を歩き、そこも延喜式に登場する石堂越えの一部ということで、10世紀の昔年を偲んだようだ。
 常連のO谷さんご一行も、夜は気温が下がったので野外での宴を小屋に変えて、いつもながら豪華絢爛な料理を楽しみ、味わい、静かに更けていく山の第一夜を皆さん満喫できたようだった。



 第1牧区へ行く作業道の脇にあるコナシの開花が始まった。邪魔だから切ってしまおうと何度も思ったが、そうしないで良かった。今に、きょうのUme氏の空撮写真の見える帯状のコナシが、白い花の帯に変わり、そしてそのころには、いよいよ牛が上がってくる。早かった。
 1ヶ月半前はまだ雪が残っていた。山はようやく冬の眠りから覚めようとしていたころだった。それが、もう6月、山は笑い、緑滴る季節が来て、この独り言もきょうから題名を「夏」にした。
 本日はこの辺で。


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